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「多分、儲からない」ヤフー井上社長がネットバンキング事業のビジョン


 ヤフーは8日、インターネットニュース記者を招いた懇談会を開催し、井上雅博代表取締役社長兼CEOらがインターネットバンキング事業に対する同社のスタンスを語った。また、新規サービスを展開するにあたっては個人情報保護などセキュリティ面のプロセスをいかに重要視しているかを説明し、ブログやSNSなど新規市場への進出に遅れがちな事情の一端も打ち明けた。


ヤフーが銀行業に興味を持つ理由は?

井上雅博代表取締役社長兼CEO
 ヤフーは2005年1月、あおぞら銀行とインターネット専業銀行を立ち上げることで合意し、2006年春のサービス開始を目指していたが、2月23日になって提携を解消した。ただし、インターネットバンキングに進出する方針に変わりはなく、井上社長によれば「多分、他行と組んでやることになる」という。

 井上社長は「ヤフーが銀行の業務に興味を持っているのは、Eコマースのマーケットが拡大すれば、物の流れとお金の流れが必ず必要になるから」と説明する。このうち「インターネットでのお金の流れ」の方を手がけようとしているわけだ。今後、有料のコンテンツやサービスが増えてくれば「そこにもお金の流れが生まれる。Eコマースとコンテンツをより密接に結び付けていくことができれば、Eコマースやコンテンツのマーケットそのものをもっと大きくできる」。

 しかも、同社が想定しているのは、コンシューマがサービスやコンテンツの代金を支払うだけでなく、インターネットバンキングの口座でコンシューマがお金を受け取ることにも活用できるような仕組みだと説明する。「アフィリエイトや、オークションでも売り手はお金を受け取る側になる。お金を支払う方と受け取る方で、いろいろなビジネスチャンスが生まれる。そこの利便性を高められるという点に興味がある」という。

 一方、銀行業というビジネスについて井上社長は「銀行そのものは、お金を貸し出さないと儲からない。決済だけでは利益率はそれほど高くない」と指摘。これに対して、決済機能を中心に見据えたインターネットバンキングは「それだけでは多分、儲からないから、事業機会としてはそんなに面白くない」と言い切る。

 井上社長の発言から判断する限り、ヤフーにとってのインターネットバンキング事業自体は、現在のオークションやリスティング事業などと並ぶ新たな収益の柱として展開しようとしているわけではないようだ。競合する大手ポータルが金融部門で収益の多くを上げている点についても、そのようなビジネスを展開する考えはないとして「ヤフーは“インターネット企業”としてがんばります」とコメントした。

 なお、あおぞら銀行との提携解消の理由については、儲からない決済サービスという方向性で同行と意見が食い違ったわけではないらしく、井上社長によれば「スピード感がね……。そんなに時間がかかるんだったら違うことをやらせて、ということ」だという。


ベータ版といえどもセキュリティ抜きで新規サービス開始はあり得ない

喜多埜裕明取締役COO兼事業推進本部長

大蘿淳司PS本部長兼マーケティング部長
 ヤフーは2月28日にSNS「Yahoo! 360°」のベータ版を公開し、3月5日時点ですでに登録数が1万人を突破したというが、SNS市場への参入に遅れをとったのは否めない。井上社長によれば、こういった新規サービスの開始が遅くなってしまう背景には、同社が提供しているサービスの種類が多いために新規サービスになかなか手が回らないということのほか、「セキュリティで開発プロセスそのものが昔に比べて時間がかかるようになっている」ことも挙げられるという。

 ヤフーでは、ソフトバンクBBにおけるYahoo! BBの顧客情報漏洩事件があってからセキュリティ意識が高まったという。現在は新規サービスを企画する段階で「最初、セキュリティから考えてしまうところが正直ある」(大蘿淳司PS本部長兼マーケティング部長)。これは技術者だけでなく、企画者の段階でもセキュリティが検討項目に含まれており、企画者が暴走できないような仕組みになっているとしている。

 具体的には、セキュリティに関するルール(枠組み)を設けており、新規サービスを開始しようとする場合は、設備や情報の取り扱いなどに関して、その枠の中に収まることが求められる。

 新規サービスを企画するにあたっては、まず各事業部の中にいるセキュリティ担当者や事業部長らとセキュリティ面を厳しく検討するが、ルールからはどうしてもはみ出ざるを得ない場合には、次に社内の「セキュリティ委員会」に相談することになる。

 この委員会は、各事業部から選任されたセキュリティ委員によって構成されており、「彼らはセキュリティ守ることが仕事。(相談を受けると)ああしろこうしろと言って、なるべくセキュリティのルールの枠の中に閉じこめるためのアイディアを出す」(井上社長)。それでも事情によっては枠に収まらない場合もあり、そういった企画は最終的に経営会議に上がり、ルールの枠の中でセキュリティ保護ができない理由や予防策を示した上で、一定の期間、許可を求めるというプロセスがある。

 このルールについては詳細は明らかにしなかったものの、本当に危ない状況にあって困るというレベルではなく、もっと細かい、気にしなくてもいいと思われるようなことまで、万一の可能性を考慮しているという。「一般的にあるような外部に対してセキュリティが心配です、というようなレベルではまず間違いなく通らない。社内の特定の権限を与えられた人が、悪意を持って情報を売るために盗み出そうとした時に、監査と監査の間を狙うわずかな可能性が残っているというような、非常に細かいレベル」(井上社長)だという。


 また、「Yahoo!ニュース」「Yahoo!ファイナンス」などの従来からの“ヘッドコンテンツ”を利用してもらうにはIDは必要ないが、“テールコンテンツ”やCGM(Comsumer Generated Media)を扱うようなこれからのサービスでは「個人の名前までは取得しなくてもIDは絡んでくる。IDは個人情報ではからセキュリティを無視していいという話にはならない。そこで(サービス開始までに)時間がかかってしまう面はある」(喜多埜裕明取締役COO兼事業推進本部長)。井上社長も「特に個人情報が関わるようなサービスでは、ベータ版であってもアルファ版であっても(セキュリティを抜きで開始すようなことは)全く許されない」と強調する。


通信と放送の融合よりも重要なのは「オンラインとオフラインの融合」

 このほか懇談会では、検索事業においてローカル検索を重要視していることも井上社長は強調した。「今、みんなが放送と通信の融合で大騒ぎしているが、もっと重要なのはオンラインとオフラインの融合。または、なんらかの形で接点を持つこと」。リアルとバーチャルが結び付くということになれば、地域やロケーションという要素が有用になるとして、地図会社のアルプス社の事業を譲り受けた意図をあらためて説明した。

 また、米国では検索キーワード連動型広告が頭打ちになっているという状況に対しては、井上社長は「日本はだいたい2年遅れ。今は引き続き好調に伸びている」とコメントした。米国では大手のナショナルクライアントからの需要が一段落したが、日本では小規模の広告主が増加するとともに、大規模なナショナルクライアントが購入し始めている段階だという。井上社長は「ここはYahoo! JAPANの得意なところだが、この状況を米国がどう乗り切るのか、あるいは乗り切れないのかというところを見て、2年後に備える(笑)」と述べた。


関連情報

URL
  Yahoo! JAPAN
  http://www.yahoo.co.jp/

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( 永沢 茂 )
2006/03/09 12:36

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