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IPマルチキャスト放送の是非を著作権関連団体や放送事業者が議論


 文化庁は5日、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(法制小委)の2006年第2回会合を開催した。議事はIPマルチキャスト放送に関するもので、著作権関連団体や放送事業者など関係者からのヒアリングが中心に行なわれた。


「IPマルチキャスト放送はインターネットではない」とNTT

会場の模様
 関係者からのヒアリングに先立ち、NTTグループが同グループのサービスを例にとってIPマルチキャスト放送の仕組みを説明。IPマルチキャストでは衛星から受け取った放送をIPの信号フォーマットに変換した上で、NTT収容局ビルへ送出。ユーザー宅へは最寄りの収容局から映像を配信することで、常に映像を流し続ける放送形式ではサーバー型と比べてネットワーク負荷が軽減できるとした。

 仕組みはIPをベースだが、インターネットとは独立したクローズドなネットワークである点も強調。STBで視聴するために番組をキャプチャできるソフトなども利用できず、セキュリティ対策も講じられているとし、帯域制御が困難なインターネット経由での映像配信と比較して映像クオリティも担保しやすいとした。

 また、「これは意外と知られていないが」と前置いた上で、「通常は東京タワーから放送されている番組も、県を越えて各地域に送る際にはNTTコミュニケーションズの専用ネットワークを利用している」と指摘。「各地方局では独自の番組やCMなどそれぞれの編成を行なった上で、改めて電波で放送している」と補足した上で、「放送でも光ファイバでも、送るための信号方式が違うだけで、番組はすべてMPEG-2 TSという共通のフォーマット。車で言えば荷台の形が違うようなもので、映像本編だけでなくデータ放送や電子番組情報などの付随情報も形を一切変えずに配信できる」とのメリットを主張した。


コンテンツ流通の活性化に期待。再送信は地域性の確保を求める

 ヒアリングに出席したのは日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター(CPRA)、日本レコード協会、日本放送協会(NHK)と日本民間放送連盟(民放連)、日本ケーブルテレビ連盟の6事業者。このうち著作権関連団体は、「コンテンツ流通の活性化につながる」と、IPマルチキャスト放送に対しては積極的。一方、NHKと民放連などの放送事業者は「難視聴対策における地上デジタルの補完措置」との位置付けから「CATVの再送信と同様、地域限定性や内容の同一性の確保が必要」と主張した。

 IPマルチキャスト放送を著作権法上の有線放送と同等に扱うかという点に関しては「自主制作や個人放送など、権利者の権利行使が困難になる自体も想定される(日本レコード協会)」といった考えから、「コンテンツ流通の促進は契約の円滑化などで行なうべきで、権利者の権利を引き下げて行なうべきではない」との意見が大半。CPRAは「有線放送での同時再送信は難視聴対策ということで実演家の権利が制限されているが、IPマルチキャストもCATVも難視聴対策の範囲を超える付加価値が備わっている」と指摘、「有線放送として定義するならば、実演家の権利制限も抜本的に見直しすべき」と主張した。

 さらにCPRAは「現状の法律の下にコンテンツ流通を促進できるよう、権利処理の集中管理体制を日本レコード協会と構築しており、これが整備されれば法改正は必要ない」と説明。「一任型の処理を望まない主演級の俳優やアーティストも存在するが」と断った上で、「そもそも二次利用としての対価が考慮されていない放送局のビジネスモデルが問題」と指摘。「権利を弱めるよりもマルチユースを前提としたシステム構築こそがコンテンツ活用につながる」との考えを示した。

 放送事業者からは「二次利用が最初からできるようにすればいいとは言うが、現実問題として放送前に番組の評価を定めることが難しく、一括で処理しようとなると最も評価が高かった利用料に高止まりしてしまう。二次利用は努力していくが、どの程度完璧にできるかはわからない」との意見が見られた。これに対してCRPAは「評価が事前にわからないというのは映画も同じ」と指摘、「ビジネスモデルや契約システムを整備すべき」と述べた。


「再送信以外の有料サービスも検討すべき」との意見も

 技術的には全国へ配信できるIPマルチキャスト放送に対して地域性を求める理由を構成員が質問すると、日本ケーブルテレビ連盟は「(地域性は)放送法上の問題であり、法律が変われば地域性への考えも変わるだろう」とコメント。「行政単位での地域メディアとしてスタートしたCATVだが、現在は広域でも放送も可能。ただし、同一再送信は放送との関係から県域内と定められており、それに従っているまで」と説明した。

 技術説明を行なったNTTは、IPマルチキャストに対する考えを求められると「技術はいくらでも高度化するが、日本のコンテンツの中で一般国民が見たいのはやはり現行の地上放送であり、まずは関係各社のご理解をいただいた上で地上放送の再送信を優先的に行なう」とコメント。また、「基幹放送の再送信だけでは対価は発生せず、設備利用料程度しかユーザーに請求できない。双方向サービスやサーバー型放送など有料化のビジネスモデルも必要ではないか」との考えを示した。


関連情報

URL
  著作権分科会法制問題小委員会の開催について
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/kaisai/06032302.htm

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( 甲斐祐樹 )
2006/04/05 15:46

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