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今回認定されたスーパークリエータの1人である松村郁生氏(京都大学大学院情報学研究科)
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同じく井上恭輔氏(津山工業高等専門学校)
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情報処理推進機構(IPA)は15日、2006年上期に採択した「未踏ソフトウェア創造事業」において、15名の「天才プログラマー/スーパークリエータ」を認定した。
未踏ソフトウェア創造事業は、ソフトウェア関連分野における天才的な人材の発掘・育成を目的に、IPAが2000年度から実施しているもの。2002年度からは28歳未満を対象としたユース部門も開始。これまでに680テーマの案件で1,112名の人材を発掘し、このうち146名がスーパークリエータとして認定された。この中には、SoftEtherを開発した登大遊氏(2003年度ユース採択)、Lunascapeの近藤秀和氏(2003年度、2004年度上期採択)らも含まれる。このように成果がすでに事業化された事例のほか、未踏ソフトウェア事業での採択をきっかけにGoogleやはてな、サイボウズ・ラボなどへ就職する事例も出てきているという。
IPAでは今回、2006年上期における採択案件52件の中から、「エンドユーザ主導軽量セマンティックWebサービスプラットフォーム」の松村郁生氏(京都大学大学院情報学研究科)、「ふんいきロギング -あの日あの時あの感じ-」の伊藤冬子氏(同志社大学大学院工学研究科)と天白進也氏(同)、「誰かを感じるウェブコミュニケーション -ブラウジングコミュニケータ『Antwave』の開発-」の井上恭輔氏(津山工業高等専門学校)、「ブックマーク連携型検索エンジン『netPlant』の開発」の大澤昇平氏(福島工業高等専門学校)ら15名がスーパークリエータとして認定された。
IPAでは今後、スーパークリエータが国際的に活躍できるような環境の整備も進めていくという。具体的には、国際展示会への出展支援や海外ベンチャーキャピタリストとのマッチングなどの海外支援展開や、9月頃をめどに第1回「未踏フォーラム(仮称)」も開催する。また、今夏をめどに開発者のデータベース「未踏iPedia(仮称)」も立ち上げ、開発者や製品の情報を提供していく予定だ。
● パッチワーク感覚でWebサービスを合成できる「PatchService」
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「PatchService」によるWebサービスの合成画面
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ISBNコード検索のパッチ例
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15日に開かれた記者発表会には、今回認定されたスーパークリエータから「エンドユーザ主導軽量セマンティックWebサービスプラットフォーム」の松村郁生氏と、「誰かを感じるウェブコミュニケーション -ブラウジングコミュニケータ『Antwave』の開発-」の井上恭輔氏が出席してプレゼンテーションを行なった。
松村氏の開発した「PatchService」は、「各種Webサービスを、(Web開発者ではなく)エンドユーザーの手で合成させるアプローチ」(松村氏)。具体的には、まず、インターネットで公開されているWeb APIを“パッチ”としてカプセル化して登録。それら登録されたパッチ間のデータの入出力の流れをマウスドラッグで視覚的に接続していくことで、新たなWebサービスとして合成できる。これらの機能はすべてWebアプリケーションで提供され、ブラウザ上で実行できる。
例えば、台風の経路情報のKMLデータを取得してGoogle Maps上に表示するサービスや、書籍のISBNコードを入力することでAmazon.comのレビューや複数の図書館の蔵書の検索が行なえるサービスを合成することなどが可能だ。松村氏によれば、データの流れを指定していく方法では確かに合成できるサービスは限られるものの、消費者の活動を支援することを目的とすれば、かなりのサービスをカバーできるとしている。6月末までにベータ版を公開する予定だ。
● 他のユーザーの存在を感じられるブラウザ「Antwave」
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「Antwave」のウィンドウ。右下に表示しているのが「エクストラリンク」
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「エクストラリンク」の機能
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井上氏の「Antwave」は、Webブラウジングにおいて“他人の存在”を感じることができるコミュニケーションツール。Antwaveのウィンドウには、通常のタブブラウザのようにWebページを表示する横に、Antwaveのユーザーが辿ったリンクの遷移を動的にマッピングした「エクストラリンク」を表示する。エクストラリンクでは、他のユーザーが閲覧したWebページと、その遷移が線で表示されるが、井上氏はこれをインターネット上の“けもの道”と表現する。このけもの道は統計処理により線の太さが変わるため、これを辿ることで関連性の高いサイトやトレンド、他のユーザーが進んだページなどを視覚的に見ることができ、「人についていったら何か面白いことがあるかもしれない」(井上氏)といったWebブラウジングも可能だとしている。
エクストラリンクで表示されている各Webページのタイトルの横には、そこを訪れているユーザーのアバター画像も表示され、そのユーザーのプロフィールを参照したり、SkypeやAntwaveに内蔵したメッセンジャーを使って話しかけることができる。閲覧しているニュースについて井戸端会議を行なったり、ショッピングサイトで商品について他のユーザーと相談することなどが可能だ。また、自分が頻繁に訪れるサイトで、同じような趣味を持つ他のユーザーとの「運命の出会い」も期待できるとしている。
このほかAntwaveには、複数のユーザーでWebブラウジングを共有する「あいのりブラウザ」機能を備える。共有しているユーザーのアバターが表示しているページ上にマウスカーソルとして表示され、文字サイズやスクロール位置、フォームへの文字入力まで完全に同期できる。画面内にフリーハンドやスタンプで書き込みを行なって、注目すべきポイントなどを指摘することも可能だ。井上氏は、「ユーザー同士の情報の“共有”ではなく、ユーザー同士が“共存”するネット世界」が、Antwaveの目指すものだとしている。
関連情報
■URL
ニュースリリース
http://www.ipa.go.jp/about/press/20070515.html
未踏ソフトウェア創造事業
http://www.ipa.go.jp/jinzai/esp/index.html
PatchService
http://www.patchservice.net/
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( 永沢 茂 )
2007/05/15 18:46
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