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権利者17団体、コンテンツ利用時の事前許諾省く新法案に反論


 過去のテレビ番組などのデジタルコンテンツをネット上で再利用しやすくするための「デジタル・コンテンツ流通促進法」が政府の経済財政諮問会議で提言されたことを受け、日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本文藝家協会など著作権関連17団体からなる「著作権問題を考える創作者団体協議会」は16日、「著作者にとって大きな損失である」などとする緊急声明文を発表した。この声明文は、17日に文化庁に提出される予定だ。


コンテンツの安易な流通を招く議論よりも著作権制度の充実を

 デジタル・コンテンツ流通促進法は、2月27日に開かれた経済財政諮問会議で、経団連会長の御手洗冨士夫氏ら4人が提言したもの。ネット上のデジタルコンテンツを流通する際、権利者からの事前許諾を必要とする現行の著作権法に替わり、新たな法制やシステムを2年以内に整備すべきとしている。この提言では、現行制度は手続きのコストが見合わず、デジタルコンテンツの流通を妨げていると指摘している。

 これに対して、著作権問題を考える創作者団体協議会が16日に発表した声明文では、「昨今のコンテンツ流通促進の議論では、単にコンテンツの安易な流通を叫んでいるものも多い」として、著作権制度を軽視する憂慮すべき方向にあると主張。デジタルコンテンツの創造や流通を図るためには、現行の著作権制度を充実させるための地道な努力が求められると訴えている。

 また、同協議会では、作品情報や権利者情報のデータベースの整備に取り組んでおり、各分野の団体のデータベースを包括したポータルサイトの構築を進めていることを紹介。こうしたポータルサイトが整備されることによって、利用者は簡単に作品情報や権利者情報、利用手続きなどを検索できるなどとしている。


米国著作権法を理想とする一部の人は「フェアユース」を勘違いしている

著作権問題を考える創作者団体協議会の議長を務める作家の三田誠広氏
 経済財政諮問会議で提言された「デジタル・コンテンツ流通促進法」について、著作権問題を考える創作者団体協議会の議長を務める作家の三田誠広氏は、「これを文字通り読むと、デジタルコンテンツに関してはとりあえず自由に使って、後で著作者に補償金を支払う法律を作るということ。このような法律ができてしまうと、せっかく我々が育ててきた著作権法が骨抜きになる」と述べ、緊急声明文を発表した背景を説明した。

 続けて「ここからは私見」と前置きした上で、「政府や経団連の中には、日本の著作権法が厳しすぎるという思いこみがある。それらの人の多くは、米国著作権法の『フェアユース(公正利用)』という考え方に賛同しているが、(フェアユースであれば)ネット関連のコンテンツを自由に使えると誤解している」と訴えた。

 三田氏によれば、米国著作権法のフェアユースには、公共性があり著作者に損失を与えないという場合には、著作物を許可なく使用しても著作権侵害にはあたらないという考え方がある。しかし米国では、フェアユースに該当すると判断して著作物を無断使用した場合、著作者が利用者を訴えた後、利用者に多額の賠償金の支払いを命じる判決が数多く出ているという。

 「このような判例が積み重なっていることから、米国では利用者が事前に著作者団体と交渉する『事前示談』を行なうことが多い。フェアユースは、膨大な判例と事前示談の積み重ねがあって成立している。しかし日本では、フェアユースの概念がひとり歩きして、新たな法律の中に盛り込まれようとしているが、これは権利者にとって多大な損害。」

 さらに三田氏は、著作者への事前許諾を不要とするデジタル・コンテンツ流通促進法は、ベルヌ条約やWIPO著作権条約などの国際的な著作権保護の枠組みに適合しなくなる恐れがあると指摘する。「経団連の方の中には、世界的な条約について十分な知識を持っていない人もいるのではと危惧している」(三田氏)。声明文では、「いやしくも商慣行を無視し、国際的な摩擦を惹起する可能性がある議論は慎むべき」との考えが示されている。


権利者情報のポータルサイト構築は「十分可能」

JASRAC常任理事の加藤衛氏
 このほか、同協議会の一員で、実演家著作権隣接センターの椎名和夫運営委員は、「知的財産に関する取引は、著作物に限らず、権利者が利用者に許諾を行なうプロセスがある。(新たな法律を作ることで)商取引に重要な役割を果たす許諾権を制限するということは、行政が現状の商取引に介入して、特定の利用者側に便宜を図ることとしか思えない」として、デジタル・コンテンツ流通促進法の考え方について批判した。

 なお、質疑応答では、同協議会が構築を進めている、作品情報や権利者情報を検索できるポータルサイトについて、「事実上不可能では」という質問が寄せられた。

 これに対してJASRACの加藤衛常任理事は、「JASRACではすでに準備ができていて、他団体でも相当急ぎつつある。ポータルサイトで公開するのは、作品情報や権利者情報などで、許諾条件に関する情報は公開しない。そこまでのポータルサイトであれば、構築は十分可能。許諾条件を含むデータベースについては、各団体が作ればいいこと」と答えた。


関連情報

URL
  日本音楽著作権協会(JASRAC)
  http://www.jasrac.or.jp/

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( 増田 覚 )
2007/05/17 17:04

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