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会見では、「公開質問状」に対するJEITAの対応について、権利者側から批判が噴出した
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音楽や映像などの権利者団体で構成される「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」(以下、権利者会議)は17日、コピーワンス緩和と補償金制度に関する問題について共同記者会見を開催した。権利者会議では、「私的録音録画に対する補償は不要」と主張する、家電メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)に対して、その真意を問いただすために公開質問状を送っていたが、回答期限までに返信しなかったJEITAの対応を不誠実と批判。会見では、「コピーワンス緩和をご破算にするつもりはないが、補償金制度の決着が付かない限りは凍結されるべき」との考えを示し、改めて公開の場での議論を求めた。
公開質問状で権利者側は、地上デジタル放送のコピー制御方式を従来の「コピーワンス」から「ダビング10」に緩和するにあたっては、「私的録画補償金制度」が前提であると主張。JEITAが、「クリエイターへの適正な対価の還元が早急に措置されることが必要」という前提条件に合意していたことを指摘するとともに、現在では私的録画に関するクリエイターへの還元制度は私的録画補償金以外には存在しないとして、JEITAが補償金制度を否定することは、「コピーワンスの緩和に関する合意を破棄されるものと理解してよろしいですか」などと質問していた。
この公開質問状をめぐっては、JEITAの著作権専門委員会で委員長を務める亀井正博氏が、回答期限とされていた12月7日に弊誌のインタビューに応じ、「正式な審議の場があるのに、場外(公開質問状)でやりあうというのはどうでしょうか」とコメント。私的録画補償金制度について議論する文化庁の私的録音録画小委員会以外の場では、JEITAの見解を示す意志がない旨を示していた。これに対して権利者会議は、「取材記事でJEITA担当者が、公開質問状をプロレスの『場外乱闘』になぞらえ、回答する気がない旨の発言をされたことは極めて遺憾で、憤りを禁じえない」とJEITAの対応を批判し、「場外」ではなく「公開」の場で質問をするために公開質問状を送ったと説明した。
なお、権利者会議によれば、回答期限を過ぎた12月12日にJEITA会長の町田勝彦氏から書簡が届いたという。それによれば、11月28日に開催される私的録音録画小委員会の席上でJEITAの見解を示すはずだったが発言の機会を逸したため、12月18日に開催される小委員会の席上で、何らかの発言をするとの記述があったというが、実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は「明日の発言ですべてが解決するとは思っていないが、まずはJEITAの考えを聞いて、今後の話し合いの材料にしていきたい」と語った。
● コピーワンス緩和問題と補償金制度の議論は同じ場で議論すべき
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実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏
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会見で椎名氏は、「これまで、総務省は『コピーワンス緩和問題』を、文化庁は『私的録音録画補償金制度』を検討する場として、それぞれが分担して公開の議論をしてきた。しかし、コピーワンス緩和問題と私的録音録画補償金制度の議論は、不可分の関わりを持つものである」と主張。弊誌記事においてJEITAが、コピーワンス問題については総務省、補償金問題については文化庁で議論すべきと語ったことについて、「社会的制度として同じ背景のもとで同じ場で議論されるべきものである」と反論した。
また、JEITAが地上デジタル放送にコピー制御が施される環境下での私的録画については権利者の経済的不利益は発生せず、権利者への対価の還元の必要性を否定する一方で、弊誌記事では「放送事業者が広告収入からの契約により、権利者に還元すべき」と述べていると指摘。「このような矛盾した主張ひとつとっても、結局JEITAは、私的複製に利用される機器を販売して大きな収益をあげながら、権利者への対価の負担責任を回避するためだけに言を左右している」として、JEITAの社会的責任に照らしても誠に残念であると批判した。
さらに弊誌記事において、中間答申策定時点でJEITAの考えを主張してもよかったのではという質問に対して、コピーワンス緩和が議論された情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通等に関する検討委員会」では、JEITAがメンバーに含まれていないと答えた点については、「確かに出席しているのは日立や東芝、ソニーの方だが、『地上デジタル放送のコンテンツ保護に関するJEITA提案の骨子』や『コピーワンス等著作権保護の見直しに関するJEITA意見』などが委員会では提出されている」として、矛盾点を示した。
● 日本映画製作者連盟の華頂氏「先に場外に出たのはJEITA」
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日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏
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日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎氏
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会見ではこのほか、日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏が、「JEITAは場外乱闘はできないと言うが、一方的に自分たちの主張をホームページに掲載するなど、先に場外に出たのはJEITAの方」として、JEITAの対応に苦言を呈した。弊誌記事でJEITAの亀井氏が公開質問状に回答する意志がないと答えた後に、町田会長から権利者側に書簡が届いたことについては、JEITAの意思疎通が図れていないことの証拠と非難。「この一連の流れは場外乱闘というより、かく乱、試合放棄ではないかとも思う。18日にはリングに戻って、会議の席上で発言したいということなので注目したい」と述べた。
さらに華頂氏は、松下電器産業が発売するHDD内蔵ブルーレイレコーダの「デジタル生まれ、映画育ち」という新聞広告のキャッチコピーを引き合いに出し、「そのメーカーの宣伝部の人は、文化振興はソフトとハードの両輪であることを理解している」と評価する一方、私的録画補償金を否定するJEITAに対しては「ソフトをないがしろにしている」と批判した。「映画はブルーレイの育ての親ということなので、ブルーレイが補償金の対象機器の基金の仲間入りして親孝行してもらいたい」(華頂氏)。
「創作者が自らを尊敬して保護しろというのはおこがましいとの考え方もあると思うが、日本あるいは世界全体から見て、文化に対する思いというのは絶対必要」と語るのは、作曲家で日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎氏。小六氏は、このような意見を私的録音録画小委員会で述べてきたものの、「JEITAは話し合いが足りないとして、議論を(私的録音録画補償金制度の廃止を含めた)前提条件に戻している」と批判。何のためにこれまでの小委員会で議論を重ねてきたのかと嘆いた。
日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫氏は、「平成4年に始まった私的録音録画補償金制度は、消費者、メーカー、権利者の先輩方が知恵を絞った結果、バランスの取れた制度。利用者は拘束のないかたちで私的複製ができ、メーカーも私的複製を行なうハードを世の中に提供する。それによって権利者への補償ができる」との考えを披露。コンテンツ大国の実現のためには、メーカー側が提供するハードと、権利者側が提供するソフトは両輪であるとして、JEITAからはこの視点を前提とした前向きな話を聞きたいと呼びかけた。
● 性善説に基づいた制度設計では「権利者側があまりにも辛い」
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日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫氏
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コピーワンス緩和や私的録音録画補償金制度に関する問題では、ユーザーが悪いことをするという「性悪説」に基づいた制度設計が進められているのではないかという声も挙がった。この点については菅原氏が、「現実的には、P2P、動画共有サイト、携帯電話における違法サイトなどで(権利者に対する)侵害行為がある。こうした状況を踏まえると、権利者だけが性善説というのはあまりにも辛い。ガチガチに規制するということではないが、一定の秩序の中で自由に複製ができるという視点が必要だと思う」と胸の内を明かした。
さらに、私的録音録画小委員会は、制度の廃止の見直しを含めた抜本的な見直しを図るという主旨で開催されているにもかかわらず、権利者側が、コピーワンスの緩和にあたって私的録画補償金が前提であると主張していることについて、「補償金制度を人質に取っているのでは」という指摘もあった。
この点について椎名氏は、「権利者としては、コピーワンス緩和にあたって補償金制度が前提となるなら、これくらいまではいける(コピー回数を増やせる)と発言しただけ。こうした意見を踏まえて検討委員会が中間答申を出したにすぎない」と述べ、補償金制度を人質に議論を進めたわけではないと否定した。
また、私的録音録画補償金制度によってコンテンツの私的複製が可能となることについては、一定の範囲でコピーを行なえる利用者や、複製機器や記録媒体を販売するメーカーにとってメリットがあると指摘。「補償金制度に対するネガティブイメージが先行しているから、権利者団体がお金をきちんと分配していないなどと言われるが、そういう色眼鏡は外してもらいたい」(椎名氏)。補償金制度をめぐってはJEITAと権利者で対立しているが、「局限化する議論の中で、もう少し冷静な判断があるはず」として、メーカーに対して、補償金制度を社会的インフラとして認めてもらうよう期待していると呼びかけた。
このほか、弊誌記事でJEITAの亀井氏が、公開質問状に答えるということは、私的録音録画小委員会に参加している消費者の代表を無視することになると発言した点について椎名氏は、公開質問状ではメーカーと権利者の主張の齟齬について質問しているだけと指摘。「消費者を置き去りにするというのはものすごく根拠のないアバンギャルドな発言」と話した。
関連情報
■URL
JASRAC
http://www.jasrac.or.jp/
JEITA
http://www.jeita.or.jp/
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( 増田 覚 )
2007/12/17 20:30
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