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「関係者譲歩」の補償金制度プランに利用者軽視の声、私的録音録画小委


「私的録音録画小委員会」第16回会合
 私的録音録画補償金制度の抜本的な見直しを図るために、文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」の第16回会合が、17日に行なわれた。前回の会合では文化庁が、デジタル著作権保護(DRM)技術の発達と普及に伴い、将来的に補償金制度を廃止する方針を表明。これに対して今回の会合では、当面の間、補償金制度での対応を検討する私的録音録画の範囲を示す資料が配付されたが、一部の委員からは利用者の利便性を軽視しているの非難も寄せられた。

 この資料ではまず、コピーしても品質の劣化がないデジタル録音録画については、DRMが施されていたとしても、DRM採用の経緯やDRMの内容が様々であるため、一律に権利者への補償の必要性がなくなるとは言い切れないと指摘。その上で、将来的に補償金制度を縮小する方針を示しているが、「無料デジタル放送からの録画」と「音楽CDからの録音」については、当面補償金制度によって、権利者が被る経済的不利益を補うことを検討するとした。

 無料デジタル放送からの録画に補償金が必要な理由としては、新たな著作権保護ルール「ダビング10」(録画した1番組を9回までコピー可能、10回目でムーブ)が、権利者の要請によって採用されたものではないことのほか、無料放送は他の放送に比べて公共性が高いことから、録画番組を1回までコピーできる「コピーワンス」という方法を選択することが事実上できない特殊性があるとしている。また、無料放送であることから権利者と利用者との契約による対応が行なえないことも挙げている。音楽CDからの録音については、一部のメディアにSCMS(Serial Copy Management System)という著作権保護技術が施されているが、それ以外は基本的に録音が自由であるためとしている。

 その一方で、音楽CDや無料デジタル放送以外からの私的録音録画については、DRMの環境下で、権利者が利用者との契約により経済的利益を確保できる場合は、契約モデルに移行すべきと提案した。契約モデルに移行する分野については、権利者に無許諾で私的複製を可能とする著作権法第30条の適用範囲外となる。その際には、利用者の利便性を確保したり、利用者が大きな不利益を被らないようにすることが前提で、これに対応可能な音楽配信事業などから、段階的に30条から除外していくべきとした。


空転する小委員会も「テーブルについて話をする素地ができあがった」

 私的録音録画に対する補償の必要性をめぐってはこれまで、補償金制度の維持・拡大を求める権利者、補償金制度ではなく著作権保護技術と契約ベースで補償すべきと主張するメーカー、補償金制度廃止を含めた見直しを求める消費者サイドで意見が対立していた。今回配布された資料は、小委員会の上部組織である文化審議会著作権分科会に提出する報告書をまとめるための骨子。文化庁著作権課の川瀬真氏によれば、「DRM環境下でも補償金は必要」と主張していた権利者が歩み寄るなど、関係各位が譲歩した「非常にドラスティックな案」としている。

 これに対して、ITビジネスの研究機関であるイプシ・マーケティング研究所代表取締役社長の野原佐和子氏は、「利用者の利便性確保が非常に薄い」と苦言を呈し、著作権者とメーカーだけで調整したような印象を受けると述べた。今後は、利用者の利便性確保が重要であるということを前提にした上で、著作権保護技術と補償金制度の関係を調整してもらいたいと訴えた。

 消費者団体である主婦連合会副常任委員の河村真紀子氏も、補償金制度の対象とする分野については、複製回数を無制限にするなどの利便性確保を求めた。さらに、無料デジタル放送からの録画に関しては「(有償の)音楽CDと無料のデジタル放送に対する補償金を一律に考えることには抵抗感を感じる」と批判。ダビング10についても「権利者の意思が反映されていないと言うが、極端な話、厳しめの意見を言っておけば、『自分(権利者)が譲歩したのだから補償金が必要』ということになりかねない」と不満を漏らした。なお、ジャーナリストの津田大介氏は今回、欠席だった。

 小委員会では当初、1月中に報告書をとりまとめ、2月までに著作権分科会に提出する予定だった。しかし、今回の会合で主査を務める東京大学教授の中山信弘氏が「これで一応テーブルに付いて話をする素地ができあがったのでは」と話したように、報告書の提出は延期されることとなった。1月23日に開催される次回の小委員会では今期の議論のとりまとめを行ない、それ以降は今回の資料をもとに、“iPod課金”をはじめとした補償金制度の対象機器・記録媒体の範囲などが議論される見込みだ。


関連情報

URL
  私的録音録画小委員会(第16回)の開催について
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/kaisai/08010707.htm

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「20XX年、DRMの普及で補償金は廃止」文化庁がビジョン提示(2007/12/20)


( 増田 覚 )
2008/01/17 19:43

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