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ドライバーが欲しいのは「渋滞情報」よりも「空き道情報」


 渋滞している道の情報がわかっても、迂回先の状況がわからなければ、ドライバーは迂回するのを躊躇する。ドライバーが欲しているのは、「渋滞情報」よりも「空き道情報」だ――。野村総合研究所(NRI)が26日に開催した報道関係者向けのセミナーで、同社経営ITイノベーションセンター主席コンサルタントの佐藤英夫氏が交通情報サービスについて講演し、「空き道情報」を実現する方法として「プローブ情報」の可能性を指摘。NRIグループのユビークリンクが提供しているサービス「全力案内!」をアピールした。


VICSで渋滞状況がわかるのは、道路の約8%

野村総合研究所経営ITイノベーションセンター主席コンサルタントの佐藤英夫氏

VICSがカバーしている道路の距離
 「プローブ(probe)」とは、外科で使われる「探り針」や動物の「触覚」といった意味で、この呼び方は日本と米国のサービスで用いられるものだという。欧州で使われる「FCD(Floating Car Data Collection)」というほうがイメージしやすいかもしれない。車両や携帯電話を移動するセンサーとして利用し、そこから収集される軌跡データをもとにして渋滞などの情報を算出・提供する仕組みだ。センサーが道路に固定されているのではなく、車両側にあるという点でVICSと性格が大きく異なる。

 一方、VICSのセンサーが設置され、渋滞情報などの対象となっている道路の距離は約7万kmと公表されている。ナビゲーションの対象となる幅5.5m以上の道路は全国に約83万kmあるというから、VICSで渋滞状況がわかるのは約8%の区間に過ぎない。

 会員誌の「VICSニュース」2006年7月号によると、東京・大阪・名古屋地区のVICSユーザー134人へのアンケート調査の結果、渋滞回避をやめる要因として最も多かったのは、迂回先の「渋滞状況がわからない場合」で55.2%(「たぶん迂回をやめる」35.8%、「迂回をやめる」19.4%の合計)だった。「信号の多い道路の場合」の41.1%や、「走行距離が長い場合」の33.6%などを上回った。

 これらのことから佐藤氏は、VICSが対象としていない多くの道路についての交通情報を補足して提供することの必要性を挙げ、その手段としてのプローブ情報の有用性を強調する。


「空き道」のことなら、タクシーが得意

日本で提供中のプローブ情報サービス
 佐藤氏によると、日本では現在、ホンダ、日産、トヨタ、パイオニアがカーナビ向けに、ユビークリンクが携帯電話ナビ向けにプローブ情報を用いた交通情報を提供している。ホンダ、日産、トヨタ、パイオニアのサービスでは、それぞれ自社製品のユーザーの車両からデータを収集し、交通情報として加工して自社製品ユーザーへと配信している。対象路線の延長距離はいずれも約33万km以上で、VICSよりも長い。

 一方、ユビークリンクの「全力案内!」という携帯電話向けサービスでは、サービス利用者自身のGPS携帯電話のほか、タクシー車両からもデータを集めている点が特徴だ。都市部では24時間、タクシーが細い道までくまなく走っており、しかもタクシードライバーは渋滞を避けて走行する傾向があることから、「空き道」の情報を得るには最適なのだという。

 タクシー事業者各社がすでに保有している配車システムから、ユビークリンクの専用サーバーにデータを集め、客待ちや停止中などの不要なデータを削除したのち、地図上に車両の奇跡をマッピングすることで、走行速度や渋滞状況を算出する。対象路線の延長距離は約83万km。

 データの情報源となっているタクシーは現在、全国の大都市部で26社・7000台ある。タクシーの平均走行距離は1日あたり250kmだとしており、これに7000台をかけた距離のデータが1日に蓄積される計算になる。ユビークリンクでは年内に1万3000台にまで増やし、新潟や静岡などの政令指定都市もカバーする予定だ。


プローブ情報サービスの仕組み 車両の位置をマッピングしたもの。青い点が動いている車両、赤が停車している車両

順調に走行している道路を示した状態 混雑・渋滞している場所を表示した状態

プローブ情報も使えば、VICSだけよりも走行時間短縮

 NRIが実施した走行調査によると、プローブ情報による時間短縮効果が平均で19%との結果が出たという。4月下旬、東京都品川区東品川と荒川区東日暮里間の約15kmにおいて、1)幹線道路を使った固定経路、2)VICSを利用した携帯ナビ大手サービス2社による最適経路、3)VICSとプローブ情報に基づいた「全力案内!」による最適経路――の3種類について、同時に走行し、計11回計測した。

 それによると、1)の固定経路では平均54.5分かかったのに対し、2)のVICSによる最適経路では2.2分(4%)短縮、3)のプローブ情報では10.3分(19%)短縮された。このほか、日産が行なったテストでも、プローブでは平均20%の時間短縮効果があるとの結果が出ているという。

 さらにNRIの実験では、ナビが算出した所要時間(到着予想時刻)の誤差が、2)では平均11.4分だったのに対し、3)では4.7分となり、正確性が向上することもわかった。


プローブ情報の普及には「10年以上かかる」

ユビークリンク代表取締役社長の増田有孝氏
 このように、一見メリットばかりのように見えるプローブ情報だが、普及するにはもちろん課題もある。

 佐藤氏によると、最も早く2003年に「インターナビ・プレミアムクラブ」でサービスを開始したホンダでも、現状、利用は50万台だとしており、年間10万台程度のペースでしか拡大していないという。これは、対応するカーナビが通常のVICSだけのものより数万円高いためだ。

 一方、1996年にサービスを開始したVICSは、対応カーナビの累積台数が2007年12月末で2040万台に到達。カーナビ全体の累積台数が2800万台と考えられることから、約7割に装着されていると推測される。

 「VICSは、今ではみなさん無料という認識で利用していると思うが、ここまで普及するのに10年かかった。プローブ対応カーナビはどうしても価格が高いため、ユーザーが効果を認識しないと利用されない。VICS並みに普及するには10年以上かかると思う。日産が全車に設定したことで、どれだけ伸びるかにかかっている。」

 また、共通化も今後、課題になってくると思われる。国からはデータフォーマットをなるべく統一しようという声もあがっているようだが、現状は、各社のサービスはそれぞれ閉じたサービスになっている。これは、プローブ情報自体をサービスの「売り文句」に掲げ、顧客の囲い込み戦略として位置づけているためだという。サービス事業者側からは共通化のニーズはまだ強くない模様だ。

 なお、ユビークリンク代表取締役社長の増田有孝氏によると、2007年10月に開始した「全力案内!」は、2008年5月末時点で利用者は16万人に達しているという。月額210円という料金と、携帯電話向けということで、車種を問わず利用できるメリットがあるとアピール。実際、VICS搭載カーナビの補助として利用しているユーザーも多いと説明した。


関連情報

URL
  野村総合研究所
  http://www.nri.co.jp/
  ホンダ「インターナビ・プレミアムクラブ」
  http://www.premium-club.jp/
  日産「カーウイングス」
  http://www.nissan-carwings.com/
  トヨタ「G-BOOK mX」
  http://g-book.com/pc/whats_G-BOOK_mX/
  パイオニア「エアーナビ」
  http://pioneer.jp/carrozzeria/airnavi/
  ユビークリンク「全力案内!」
  http://www.z-an.com/

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( 永沢 茂 )
2008/06/27 20:29

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