電子情報技術産業協会(JEITA)は10日、私的録音録画補償金制度に対する見解を説明する会見を開き、「著作権保護技術でコピーがコントロールされているものに補償金は不要」という従来からの主張を改めて示した。また、携帯音楽プレーヤーに補償金を課金する、いわゆる“iPod課金”についても「合理性はない」として、合意しない姿勢を見せた。
地上デジタル放送の新録画ルール「ダビング10」開始の前提条件となっていた、「クリエイターへの適正な対価の還元」を実現する方法については、「なぜ補償金に限定されるのか」と権利者側に疑問を提示。その一方で、北米コンテンツ産業を参考とする、契約と技術を組み合わせるビジネスモデルを構築することで、権利者とメーカーが「Win-Winのモデル」を実現できると主張した。
● 著作権保護技術が施された著作物は「当然補償は不要」
JEITAで著作権専門委員会委員長を務める亀井正博氏は、著作権保護技術が施されている著作物について、「いわば契約により法的に複製を許諾・制限しているのに等しい状況」で、当然ながら補償は不要であると主張した。
さらに、「技術的保護手段に該当する著作権保護技術を回避して複製した場合、私的使用のための複製とは認められず、著作権侵害に該当する」(著作権第30条1項2号)と示した上で、著作権保護技術を利用していること自体が、著作権者が権利行使しているのと同じであると付け加えた。
● 補償金制度の縮小の道筋が明らかでない理由
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JEITA著作権専門委員会委員長の亀井正博氏
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将来的に補償金制度を縮小・廃止することを前提に、当面は暫定的に補償金制度を継続する方針が盛り込まれた「文化庁案」についてJEITAでは、「縮小の道筋が明らかではない」と懸念を示している。その理由について亀井氏は、1)著作権保護技術と補償の関係についての整理が不分明であること、2)対象となる機器に関して、縮小が確実なものとなっていないこと――の2つを挙げた。
1)については、文化庁案において、「権利者の要請による著作権保護技術が施されている場合は補償は不要」と記載されていているが、それ以外については補償の余地があると表現されていると指摘。「権利者の要請」については、「いかなる場合に成就する条件であるのか明確に書かれていない」と不明瞭な点を示した上で、「単に技術仕様の策定に参加していれば満足する条件でないことも明らか」と説明した。
「すなわち、技術仕様策定の場において、複製数などについて権利者が立場を明確にしない場合や、表明した複製数と異なる結論となった場合には、権利者の要請があったとは考えられないとの一般則が導かれる。JEITAとしては、著作権保護技術と補償の要否を検討するにあたっては、技術仕様を策定する経緯がいかなるものであろうとも、複製回数を制約する環境に著作物が提供される事実をもって、補償の必要性はないと考えている。」
2)については、文化庁案において、パソコンなどの録音録画を主な用途としない汎用機器、携帯電話などの録音録画機能を付属機能として組み込んだ機器についても、「現状では補償金対象とすべきではない」となっている点を指摘。これまで権利者が、パソコンなどの汎用機器を補償金対象とすべきと主張してきたことを挙げ、「現状では」という表現を根拠に、今後も権利者が同じ主張を繰り返すのは容易に想像されると話した。
● HDD内蔵レコーダーや携帯音楽プレーヤーへの補償金は不要
また、HDD内蔵レコーダーや携帯音楽プレーヤーを補償金対象とすべきではないと主張する理由については、「これらの機器は、タイムシフト、プレイスシフト、あるいは契約によって提供される著作物の録音録画に用いられることから、補償金の対象とする合理性はない」と説明した。
さらに、HDD内蔵レコーダーや携帯音楽プレーヤーの利用目的の7割以上は、補償を不要とする複製に用いられているとする、JEITAが実施したユーザーアンケートの内容を引き合いに出し、補償の対象と認めるべきではないと強調した。
この点については文化庁が、「一人の利用者が行う私的録音録画の全体に着目すれば、経済的不利益を生じさせていることについておおむね共通理解がある」と指摘。HDD内蔵レコダーや携帯音楽プレーヤーを補償金対象とすることについて理解を示している。
しかし、これに対して亀井氏は、「一人の利用者が行う私的録音録画の全体に着目すると、全く複製を行わない者もいるということになり、全体に着目すれば経済的不利益を生じさせているとは断言できない」と述べ、文化庁の見解に難色を示した。
● ダビング10「対価の還元」を補償金に限定するな、契約処理が可能
ダビング10開始にあたっての前提条件となっていた「クリエイターへの適正な対価の還元」の方法については、補償金以外で対応できるという従来の主張を改めて示した。その上で、1)なぜ還元方法が補償金制度に限定されるのか、2)著作物などの流通過程で契約処理ができるはず、3)そのような努力はなされているのか――などと、権利者側に疑問を提示した。
さらに、6月27日に総務省情報通信審議会で示された第5次中間答申で、補償金以外の側面から「対価の還元」を検討することが盛り込まれたことを挙げ、「JEITAとしても検討が深まることを期待している」と話した。
「対価の還元」の方法としては、北米のコンテンツ産業を参考とし、契約と技術による解決により対価が還元されるビジネスモデルの構築を推進することで、権利者とメーカーが「Win-Winのモデル」を実現できると主張した。
「北米のコンテンツ産業の隆盛を目の当たりにして、それが補償金制度によってではなく、資本主義社会のルールである、契約によってもたらされていることに思いをいたす必要がある。例えば、北米のコンテンツホルダーを中心としたビジネスモデルにおいては、コンテンツホルダーの要望を受け、メーカーがコンテンツ保護技術を開発・提案・導入し、コンテンツホルダーに対価が還元されるビジネスモデルが構築された事実がある。北米モデルは、消費者、権利者、メーカーが皆ハッピーになれると考えている。」
● 音楽CDを録音源とする補償金も「権利者の重大な経済的不利益次第」
このほか、音楽CDを録音源とする場合の補償金については「検討の余地がある」としたが、「補償の要否を決するには、録音によって権利者に重大な経済的不利益が生じているかどうかを吟味する必要がある」と指摘した。
つまり、自ら購入した音楽CDをプレイスシフトして再生したり、音楽配信サービスからダウンロードした音楽を再生することを主目的として録音する場合には、重大な経済的不利益は生じないことから、補償の必要性はないとの考えを示した。
また、レンタルCDについても、「著作権保護技術のコントロールが及んでいない場合でも、権利者、レンタル事業者、利用者間の契約によって、複製への対価を徴収できるはず」との主張を語った。
● 「JEITA会員企業は一枚岩」
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JEITA常務理事の長谷川英一氏
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なお、補償金問題をめぐるJEITAと権利者側の主張は、現在も平行線をたどっている。JEITAの主張については、権利者側が「(JEITAは)文化庁案に沿って真摯に努力すると発言しつつも、(その後)補償金制度の縮小・廃止に向けた道筋が見えないなど、これまでの議論を振り出しに戻すような発言に終始している」と批判。10日に開かれた私的録音録画小委員会でも、一部の委員からは「JEITAの主張は2年前から変わっていない」との非難が浴びせられた。
JEITAが補償金制度に対して難色を示し続ける理由について亀井氏は、「JEITAの論点が議論されないまま放置されている。技術的保護手段と私的複製の関係についても、研究されていない。補償金は、複製によって生じた損失を補てんする考え方だが、対価の還元の方法はそれ以外にもある」と説明。将来的には、補償金制度の縮小・廃止を前提としつつ、コンテンツが消費されることで、権利者が収益を得られる仕組みを実現したい、と改めて主張を繰り返した。
また、権利者側が、JEITAには補償金問題に一定の理解を示すメーカーもいると指摘。JEITA内の意思統一が図れていないとも批判している。この点についてJEITA常務理事の長谷川英一氏は、「JEITAはワンボイス。内部で議論はあったが、一枚岩で対応している」と結束をアピールした。
また、関係者の合意が図れず、次回の私的録音録画小委員会の開催のめどが立っていない点については、「次のスタートはここというのを文化庁に示してもらいたい。関係者には、『もっと新しいことを考えて欲しい』と言っている」と話した。
関連情報
■URL
JEITA
http://www.jeita.or.jp/japanese/
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( 増田 覚 )
2008/07/11 12:50
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