著作権保護期間や過去の著作物の利用円滑化などについて論議している文化審議会著作権分科会の「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」が27日、2008年度の第5回会合を開催した。
第5回の会合では、新たなコンテンツを生み出していくという文化創造のサイクルに対して、保護期間の延長はどのような影響を与えるかという点について、音楽出版社やアニメ産業、ネットビジネスといった観点から、現状の説明と意見表明が行われた。
● コンテンツ事業者の立場からは、保護期間の延長を望む意見
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「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」第5回会合
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音楽出版社協会会長の朝妻一郎氏は、日本が知的財産立国を目指す以上は、国際社会での主要な競争相手である米国やEUなどと対等な立場に立つための最低限のルールとして、保護期間は世界標準である70年に延長すべきだと訴えた。
また、「音楽出版社は、音楽をできるだけ多く、広く使われるようにプロモートすることが役割。音楽出版社はそれによって利益を得ている」と説明。「忘れられた作品でも、その時代に合っていると思えば、アレンジを変え、歌手を変え、適切なメディアを選んで送り出す。そうした立場から言えば、音楽出版社が存在する音楽の分野では、保護期間が長いほど作品が使われる可能性が高まる」として、保護期間の延長が過去の作品の利用にもつながると主張した。
小学館キャラクター事業センターの久保雅一氏は、アニメ産業の状況を説明。日本のアニメは海外展開がビジネスを支えており、海外では10年前の作品が大きな売上をあげるなど、今後はさらに過去の作品が生き続け、大きな財産となってくるとした。
また、コンテンツ制作を継続していくためには、若いクリエイターを育て続けていく必要があるとして、そうした観点からもアニメ産業では、著作権の保護期間は欧米並みの70年に延長されることを期待している声が大きいと説明した。
● 「お金を払う消費者が馬鹿にされる構造を変えることが重要」ドワンゴ川上氏
一方、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏は、「ネットにおける著作権問題で最も大きいのは違法コピーの問題で、この問題をどうにかしないことにはコンテンツで利益はあげられない。保護期間は50年でも70年でも関係ない」と主張。「ただ、関係ないと言ってしまうと、それで話が終わってしまうので」として、ネット時代においてコテンツビジネスをどのように確立していくべきかという意見を述べた。
川上氏は、CDやiPod、携帯電話、PCなど、同じコンテンツを複数のデバイスで利用するといった利用形態の多様化が進んでいる一方で、「中高生などにヒアリングすると、そもそもコンテンツにお金を払うという意識がない」という現状があると説明した。
こうした状況が生じている根本的な要因として川上氏は「お金を払う消費者が馬鹿にされる構造」が問題だと指摘。「DRMは不便をお金で買っているようなもの。熱心なユーザーほど便利なコピーフリーのデータを一生懸命探してくる」として、こうした構造が変わらない限りは、コンテンツにお金を払うユーザーは育っていかず、コンテンツ産業全体がしぼんでいくと主張した。
川上氏はネット時代にコンテンツで利益をあげるための方法としては広告収入が考えられるが、現在の広告収入はページビューでの換算となっているため、それだけで収益をあげるのは難しいと説明。こうした状況を変えるためのアイディアとしては、やはりコンテンツ自体が課金対象となることが重要だとして、「コピーに対して課金するのではなく、サーバー上の権利に課金する」という方法が有効ではないかとした。
方法としては、ユーザーに対してサーバー上の権利を販売し、一度権利を購入したコンテンツはPCや携帯電話など複数のフォーマットで利用できるという形にすることで、ユーザーのコンテンツ所有感や購入意欲を増すことができるのではないかと説明。中国でもネットゲームはビジネスとして成り立っているように、サーバー上の権利を販売するという形が有効だとした。
川上氏は、ネット時代はコンテンツの利用フォーマットを増やすことがコンテンツの価値を高めることにつながると説明。コンテンツの利用拡大の方法としては、二次創作も非常に重要な要素で、MADのような従来のパッケージビジネスを侵害しない個人の二次創作については、積極的に権利を認めるべきだと主張した。
また、ユーザーの意識については、8月25日にニコニコ動画で実施したアンケートの結果を紹介。「一般には若い世代ほどモラルが低いと思われているが、アンケートの結果はむしろ逆で、MADを作るときのルールについて訪ねた質問では、『著作権者に事前に許可をとってからでないと作ってはいけない』という回答が10代ほど割合が高かった」として、こうしたユーザーに対して、コンテンツにお金を払うための環境を整えていくことが重要だと述べた。
著作権保護期間を延長すべきかという点については、現時点でも委員の間で意見が分かれている。秋には小委員会としての中間報告がまとめられる予定だが、出席した委員からは、「保護期間を延長すべきかというテーマだけを議論しても結論は出ないのではないか。クリエイターをどのように保護していくべきかといった、他の議論とパッケージとして施策を考えなければいけないのではないか」(日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏)といった意見が挙がるなど、現時点では引き続き議論が継続される見通しとなっている。
関連情報
■URL
審議会情報(文化審議会)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/index.htm
ニコ割アンケート「MADについて」
http://www.nicovideo.jp/static/enquete/r/20080825.html
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・ 著作物の保護期間や利用円滑化を今期も継続審議、著作権分科会小委(2008/03/14)
( 三柳英樹 )
2008/08/28 11:12
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