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「基本問題小委員会」第1回会合
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著作権制度の根本的なあり方を議論する文化審議会著作権分科会の「基本問題小委員会」第1回会合が20日に開かれた。参加メンバーの半数以上が権利者で占められる同小委員会では、著作権制度の議論では権利者が軽視されているといった意見が多数上がったほか、日本版フェアユース規定については導入に慎重な議論を求める声も上がった。
同小委員会は、昨年度まで開かれていた「私的録音録画小委員会」で扱っていた補償金制度、同じく「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」で議論されていた著作権保護期間延長など、これまでに結論が出なかった問題の“そもそも論”を議論することが狙い。これらの制度がなぜ必要なのかという点について、「文化政策の見地から大所高所の議論をしてもらう」(文化庁)という。
同小委員会の参加メンバーは、日本レコード協会(RIAJ)会長の石坂敬一氏、日本音楽著作権協会(JASRAC)理事のいではく氏、日本文藝家協会副理事長の三田誠広氏など、権利者側の委員が大半を占めている。私的録音録画小委員会に参加していたITジャーナリストの津田大介氏や、同小委員会で補償金制度に反対していた電子情報技術産業協会(JEITA)の委員らは選出されていない。
基本問題小委員会の人選について文化庁長官官房の著作権課課長の山下和茂氏は、「もともと著作権分科会のメンバーを選出するという話になっていたため、今回のようなメンバー構成となった」と説明。また、補償金制度の問題については「この場では利害調整ではなく、大所高所の議論を進める」としたが、「必要があれば、機器メーカーの意見を反映できるような委員を追加することもあると個人的には思っている」と話した。
● 権利者軽視の議論では100年でも結論は出ない
20日に開かれた第1回会合では、学習院大学法学部教授の野村豊弘氏が主査に選任された。その後、各委員が「基本問題小委員会」で取り扱うべき検討課題に関して意見を述べた。
JASRACのいではく氏は、「権利者を尊重すべき」という前提で議論を展開すべきとコメント。また、補償金制度の結論が出ない理由については、「人のものを黙って取ったり使ってはいけないという、人間の基本的なところが尊重されていない」ためと指摘。「無から有を生み出す労力を無視して、利便性を求める議論だけをしても結論は100年たっても出ない」として、権利者側が尊重されていないと批判した。
さらにいで氏は、過去の著作権分科会で主婦連合会常任委員の河村真紀子氏が、「自家用車で聞くために、消費者はもう1枚同じCDを買うのか」と疑問を投げかけたことを取り上げ、「当然だと思う」と説明した。「家にあるコーヒーを車で飲みたければ、持ち出すか外で買えば良いのと同じ。車で聞きたければCDを持って行くか、それがいやならもう1枚買えば良い。CDの自宅内でのコピーは認められてはいるが、コピーを持ち出すのは『基本的に全面OK』ではない。自宅内で使うものは仕方がないから認めるという程度。そういうことがきちんと理解されず、既得権のように当たり前になるのは非常に危険だ。」
いで氏はこのほか、著作権保護期間の延長問題についても、利用者の利便性ではなく権利者の意見を尊重して決めるべきだと持論を展開した。「利用者側が保護期間を50年間にするという権利はどこにあるのか。著作物を生み出した権利者が言うのであれば話はわかるが、そのへんのことが無視されて、ただ単に権利者側と利用者側が意見を言い合っても、100年たっても解決しない」。
● 補償金を支払うことが「リスペクトの証」はおかしい
一方、補償金制度に批判的な立場である主婦連合会の河村氏は、自宅内で違法ではなくプライベートに行う私的録音録画では、権利者に損害は生じないという持論を展開。「消費者はお金を払ってCDやDVDを買っているにもかかわらず、家の中でプライベートにするダビング行為に対して『リスペクトしていない』と言われ続けている」と述べ、消費者の理解を得るには、「リスペクトしていない」という部分を論理的に説明すべきだと訴えた。
さらに河村氏は、消費者の大半が補償金が課金されていることを知らずに、ダビング用のメディアや録音録画機器を購入していることがおかしいと指摘。権利者側が「リスペクト」を求めるのであれば、まずは補償金が課金されていることを広く消費者に広報すべきだと語った。
「そもそも、消費者が税金のように補償金を支払うことが『リスペクトの証』と言うのはおかしい。『補償金制度が文化を支える』という言い方にも疑問がある。薄く広く、こっそり知らない間に消費者からお金を徴収する制度を続けることこそが『文化を支える』と言うことから離れて、『基本問題小委員会』ではもっと大きな見地から議論をしていきたい。」
● 日本版フェアユース導入には反対意見
日本民間放送連盟専務理事の玉川寿夫氏は、コンテンツの流通促進に関する議論について、権利者をないがしろにして利用者に立脚しているように思えると指摘。基本問題小委員会では、補償金制度の廃止ではなく、存続・拡大を踏まえた補償金制度の本質から議論すべきだと訴えた。
「著作権法の目的は文化の発展。権利保護と利用のバランスが崩れれば、文化の発展を先細りさせてしまう。それを象徴的に表しているのが補償金制度だ。補償金制度が開始されて以降、録音録画は多様化して利用者のメリットも増えている。利用者と権利者のバランスをとる唯一の方法は補償金制度だが、ブルーレイの政令指定も進展が見られず権利者の利益が損なわれているだけだ。」
「基本問題小委員会」で議論される予定の日本版フェアユースの問題については、日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏が、「日本を裁判社会に持って行く強い覚悟がなければ危険」として、導入の有無には慎重な検討を要請した。
「米国のように懲罰的にきちんと賠償金を取れるのであれば成り立つが、日本では、権利者が侵害されたからと言って、大手を相手に訴訟したら心労で胃に穴が空いてしまう。日本には個人の権利者が多数いる。かたや利用する側の多くは会社で、法務部や顧問弁護士もいる。たとえ権利者が裁判で勝っても少額のお金しかもらえず、裁判費にも満たないだろう。」
日本版フェアユース導入については日本文藝家協会の三田氏も、Googleがフェアユースを引き合いにして図書館の蔵書のデジタル化を進めたことについて、フェアユースを導入することによって「著作権そのものが骨抜きになる」として反対意見を次のように述べた。
「Googleが図書館の蔵書をデジタル化した問題で、日本の出版業界は大混乱に陥っている。米国内では作家らが訴訟して和解が成立したが、これは実質的に権利者に損害を与えることをGoogleが認めたということ。にもかかわらず、Googleは(フェアユースということで)謝罪をせず、和解に応じてデジタル化を進めている。これはヨーロッパでも大問題になっていて、『フェアユースは極めてアンフェア』という認識が広まっている。こうした時期に日本版フェアユースを議論するのは、世界的に見てもとんちんかんだ。」
● 常套句や決まり文句を使わず、ステレオタイプな考え捨てた議論を
著作権関連施策を検討するにあたっては、法制度で対応するだけでなく、税制財政面からのアプローチも有効ではないかと語ったのは、慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏。「著作権法を変えるには時間がかかったり、議論が膠着するケースが大半。それであれば、法制度から対応するのではなく、マーケットや文化をどうやって具体的に作っていくのかと考え、それらを税制財政からどう支援するかなど実体面からのアプローチもあると思う」。
このほか、弁護士の宮川美津子氏は「これまでの議論は、名前や立場を聞いただけで発言が見えてしまっていた。基本問題小委員会では、『デジタル機器が発達すると権利者が損害を受ける」といった常套句や決まり文句を使わず、ステレオタイプな考え方を捨てて議論してもらいたい」と呼びかけた。
なお、第1回会合では今後の検討課題を議論することがテーマとして掲げられていたが、いで氏からは「この小委員会の目的を明確にしてもらいたい」という厳しい指摘も。「日本の著作権社会をどうすべきかという総論を扱うのであれば、我々(権利者)ではなく評論家を呼んだ方が良いのでは」(いで氏)という意見に対して文化庁の事務局では、「委員の意見を踏まえながら考えていきたいというのが正直なところ。今年中に特定の課題について結論を出せというのは現時点ではない」と歯切れの悪い回答をする一幕も見られた。
関連情報
■URL
基本問題小委員会(第1回)の開催について
http://www.bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2009/chosaku_syoui_090410html.html
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・ 補償金制度“そもそも論”を議論する「基本問題小委員会」設置(2009/03/25)
( 増田 覚 )
2009/04/20 22:15
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