趣味のインターネット地図ウォッチ

第152回

国土地理院「電子国土Web.NEXT」開発担当者インタビュー

等高線だけのレイヤーも今後リリースを検討

 官公庁や地方自治体などのウェブサイトによく使われている国土地理院の「電子国土Webシステム」。この電子国土Webシステムの次世代版として2012年9月に試験公開されたのが「電子国土Web.NEXT」だ。今年、正式サービスが予定されているこの電子国土Web.NEXTとは、これまでの電子国土と比べてどんな点が進化しているのだろうか。同システムの開発を担当する国土地理院の小菅豊氏(地理空間情報部課長)と佐藤壮紀氏(地理空間情報部ウェブシステム係長)に話をうかがった。

小菅豊氏(左)と佐藤壮紀氏(右)

コンセプトが変化してきた電子国土

 国土地理院が電子国土Webシステムを最初に公開したのは2003年のこと。しかし「電子国土」のキーワード自体が登場したのは、その数年前にさかのぼる。電子国土とはそもそもどんなコンセプトとして提唱されたのだろうか。

 「地理空間情報をインターネットを通じていつでもどこでも利用できて、そしてみんなで情報を共有し合える。そのような社会を作り出そう――という構想を国土地理院が提唱したのが2000年くらいですね。これを実際にどうやって実現しようかと考えた時に、まず国土地理院がシステムを作ろうということになり、それで生まれたのが電子国土Webシステムです。そして最初に取り組んだのは、ウェブ地形図とそれを利用したウェブサイトを作ることができるAPIのインターネットへの公開でした。」(佐藤氏)

 当初の目的は「いつでもどこでも誰でもがインターネットを使って地理空間情報を共有できる」ことだったが、登場してから9年間が過ぎた今、そのコンセプトはいろいろな面で変わってきているという。

 「ここ数年でGoogle マップをはじめとしたさまざまな民間のウェブ地図サービスやAPIが次々に登場したことで、国土地理院が提唱した電子国土の概念が民間ベースで徐々に実現してきました。当然ながら民間でできることは民間でやっていただくほうがいいわけで、それならば国土地理院は民間ではできない部分を特色として出そうというのが最近の目的になってきています。」(佐藤氏)

 民間の地図サービスが成熟するにつれて、「電子国土Web」が目指した世界は次第に当たり前となっていった。そこで、今は提供する地理空間情報に国土地理院ならではの付加価値を付けていこうという方向へシフトしているという。

 「具体的には、地方自治体や国にとってより使いやすいサービスとすることにしました。当院で作っている地図は公共の財産ですが、一般の人が便利に使おうと思ったらその上にランドマークの情報が必要になってきます。ただ、公共サービスということで、特定の民間事業者さんの注記だけを載せることができません。」(小菅氏)

 「だから『今日の飲み会はどこに行こう』と居酒屋を探すとか、そういう目的には使いづらい地図だと思います。そういう目的のための地図は民間の事業者さんへお任せしたほうがいいと思うんですね。一方で、自治体や国などランドマークを入れない共通地図を必要としている組織には、国土地理院の地図が大いに役立つだろうと。そういう方向へ向いたのがここ3年くらいの流れですね。」(佐藤氏)

電子国土ポータル
これまでの電子国土Webシステム
新しい電子国土Webシステム(電子国土Web.NEXT)

地図レイヤーが充実し、UIも使いやすく

 ターゲットを官公庁や地方自治体へと広げる一方で、従来の電子国土Webシステムにはユーザーからのさまざまな要望が寄せられていた。一般ユーザーが直接意見をメールなどで送ってくる場合もあれば、自治体への説明会などの場で問題点を指摘されることもあった。そのような声を受けて検討を開始したのが、「電子国土Web.NEXT」と呼ばれる新しい電子国土Webシステムへのリニューアルだ。

 「電子国土Webシステムはもともと何もお手本がない状態から作られたものなので、その後に登場した一般の地図サイトと比べるとUIや見た目がちょっと特殊で、長い間、そのインターフェイスに引っ張られているところがありました。」(小菅氏)

 「一方で民間の地図サービスが数多く登場し、今やユーザーの多くが電子国土よりも民間の地図サービスを使っています。そのような民間の地図サービスを使っている人でも、すんなりと国土地理院の地図が使えるように、という思いからインターフェイスを改良しようということになりました。」(佐藤氏)

 現在、国土地理院のサイトでは従来の電子国土Webと、新しく公開された電子国土Web.NEXTの両方が掲載されている。2つを使い比べてみると違いは歴然だ。最も大きく異なるのはレイヤーの切り替えが容易になったこと。地図画面の右上の[地図]ボタンをクリックするとレイヤーの選択画面が表示されて、ここでさまざまな地図を選べる。

さまざまな種類の地図が選択可能

 地図の種類もかなり増えて、従来の標準地図に加えて「彩色地図」や「モノトーン地図」、「白地図」などが加わった。モノトーン地図とは地図の色調を白黒にしたもので、背景地図として使いやすいものとなっている。

 「モノトーン地図と白地図は、地図をメインに使うのではなく、地図上に何かを表示させて報告書やプレゼンデータなどに挿入したりする用途を想定しました。以前から要望が多かったのですが、今回ようやく導入できましたね。」(佐藤氏)

 彩色地図とは、標準地図の色使いや表現、表示項目を見直したもので、「電子地形図25000」とも呼ばれている。1/25000レベルおよび1/2500レベルを基準として、そのほかの縮尺レベルについても同じ色調に合わせたものだ。

 「従来は1/25000、1/5万、1/20万、1/100万、1/300万の各縮尺で色使いが異なっていました。ある縮尺では高速道路が赤色なのに、別の縮尺に切り替えると緑になってしまうということがあったのです。最初は国土地理院の刊行物を見てもらおうという発想だったために、もとになっている地形図の図式のままウェブで提供していたんですね。刊行物をウェブで提供するという意味では正しいのかもしれませんが、ウェブ地図サービスとして使う人にしてみれば、要は見やすければいいわけですから、すべての縮尺で色使いを統一したものを『彩色地図』として用意することにしました。」(佐藤氏)

 ほかにも「色別標高図」や1/500万地図の英語版など、さまざまなレイヤーが用意されている。また、地図だけでなく航空写真も閲覧可能で、1974〜78年、1979〜83年、1984〜87年、1988〜90年、2007年〜など年代別の写真が見られるほか、東日本大震災の被災後写真も用意されている。

 「今後は等高線だけのレイヤーのリリースも検討しています。航空写真に載せることを前提にしたもので、写真の上に等高線を重ねることでいろいろと便利になるのではないかと思います。」(小菅)

標準地図
彩色地図
モノトーン地図
白地図
色別標高図
1/500万地図の英語版
航空写真

震災がきっかけで生まれた「標高がわかるWeb地図」

 レイヤー切替方法の改善や新レイヤー追加のほかにも、右クリックにより緯度・経度などの地点データが表示できるようになった点や、全画面表示機能、中心の十字線の表示切替など、細かい点でいろいろと改良が図られている。

 さらに、KMLデータを読み込んで地図上で見られる機能も追加した。左メニューのタブで「作図」を選ぶとKMLファイルを読み込むための「ファイルを選択」ボタンが表示される。従来は独自形式のXMLだったが、それに対応しているソフトウェアは少なく、汎用性の高いKMLが利用できるようになったことで利便性が大きく向上した。また、ホイールによるスクロールのパフォーマンスも向上したという。

 「パフォーマンスの向上はサーバーを増強したわけではなく、FOSS4G(地理空間情報分野のオープンソースソフトウェア)でいいツールが増えたことや、JavaScriptの処理が速くなったことなど、ソフトウェアの改良によるところが大きいです。あと、地図データの形式も一般的な仕様にして、GIS開発会社さんがシステムを作りやすくしました。事業者さんがシステムを作りやすくなれば、最終的に一般の国民の方や地方公共団体の方々に対していいものを提供できるようになるからです。」(佐藤氏)

 地図データの形式を変更したのは2012年7月。それ以来、スマートフォン向けアプリやデスクトップ向けGISソフトなどで国土地理院の地図を使いたいという要望が急激に増えてきているという。

 「UIの変更はエンドユーザー向け、地図データ変更については事業者向けの取り組みです。UIもシステムも両方とも良くすることが必要なので、それならば両方一緒にリニューアルして、最終的にエンドユーザーへ良いものを提供できるようにしたいという方針で改良しました。電子国土のポータルサイトには昔から要望を送るためのフォームを目立つ場所に設置しているのですが、そこに寄せられた意見を読んで、改良が必要な要素を積み重ねていったわけです。」(小菅氏)

 ユーザーからの要望により生まれたサービスの1つに、地図上を右クリックすることでその地点の標高を調べられるサービス「標高がわかるWeb地図」がある。このサービスは、東日本大震災以降に、津波や浸水への心配から各地の標高に関する問い合わせが国土地理院に多く寄せられたことがきっかけで開発された。以前は従来の電子国土Webを使った独自サイトとして提供していたが、今では電子国土Web.NEXTの一機能にもなり、電子国土Web.NEXTの地図画面上を右クリックすると緯度・経度とともにその地点の標高が表示されるようになった。

左メニューのボタンでKMLファイルを読み込める
KMLファイルを読み込むと地図上に軌跡が描かれる
電子国土Webの地図データを利用したiPhoneアプリ「Field Access」
標高がわかるWeb地図
電子国土Web.NEXTでは右クリックで緯度・経度や標高を表示可能

利用規約の整備で地図データを安心して利用可能に

 国土地理院では、このようなユーザーからの要望を踏まえて電子国土基本図や地形図の今後のあり方を検討するため、これまで4回にわたって「電子国土基本図のあり方検討会」を開催しており、今年度中に第5回が開催される。電子国土Web.NEXTについては第5回の検討会を経てさらに改良を加えて、最終的な形として2013年10月を目標に正式スタートする予定だ。

 それでは今後、電子国土Web.NEXTがどのように進化していくのだろうか。その方向性について聞いてみた。

 「一番大事なのは、国土地理院が持っているものを国民のみなさんに向けてどんどん出していくことです。地図や標高データ、航空写真など国土地理院がもともと持っているデータを出しています。国土地理院には、当院が保有する資料を閲覧できる部屋があるのですが、ここまでいちいち来ていただくのも大変でしょうから、インターネット上で図書館のように見られるようにしたいですね。すでにさまざまなものを公開していますが、土地条件図などすでに公開しているものを電子国土Web.NEXT上で簡単に見られるようにすることも必要だと考えています。これから少しでも便利になるようにしていきたいですね。」(小菅氏)

 「データを公開していくことも大切ですが、それを安心して利用していただけるように環境も整えたいと思います。例えばデータの利用規約については2011年に整備をしたのですが、利用のやり方についての一定の基準を示すことにより、安心してお使いいただけるようになったのではないかと思います。仕事で報告書に地図画面を掲載する場合、著作権の問題で民間の地図サービスでは難しい場合もありますが、そのような時こそ電子国土の地図を役立てていただきたいですね。」(佐藤氏)

 例えば電子国土Webの地図をデザインに使ってTシャツやノベルティグッズを作り、それを販売したいと思った場合、国土地理院の許可を得ずに行っても構わないという。国土地理院の地図は測量の基図になるものなので、その精度を壊さずに使用することが原則ではあるが、イラスト的に使う分にはこの原則は適用されず、自由に加工できる。

 最後に、ユーザーに対して一言コメントを求めたところ、「とにかくどんどん使っていただいて、要望を出していただきたいです」(佐藤氏)という答が返ってきた。

 「我々だけでやっているとどうしても視野が狭くなることもありますので、外からの意見は積極的に聞いて取り入れていきたいと考えています。せっかくシステムを作っても、使っていただかないことには意味がありませんからね。」(佐藤氏)

 「予算の関係ですぐには実現できないこともありますが、少しの投資効果でいいものができる場合もあるので、要望はあればあるほどありがたいです。」(小菅氏)

 「電子国土基本図のあり方検討会」の資料を見ると、ユーザーから寄せられた要望の中に「デジタル地図は過去の記録を保存できず、変化が比較できない。常に現在のみを志向していることを危ぐしている」という指摘もあった。これを受けて、国土地理院では今後、電子国土基本図のデータや画像データを1年ごとに保管し、提供できるようにすると回答している。

 過去の地図データを保存してユーザーが簡単に閲覧できるようにする取り組みは一般の地図サイトでもあまり行われていないものであり、実現すれば資料価値として高いものになるだろう。このようなユーザーからの要望に積極的に応えていく姿勢が実を結び、電子国土Web.NEXTの使いやすさにつながったのかもしれない。10月の正式スタートに向けて電子国土Web.NEXTが今後どれくらい完成度が高まるのか実に楽しみだ。

電子国土Webの利用規約
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片岡 義明

地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅−デジタル地図に残す自分だけの鉄道記−」がインプレスジャパンから発売中。