趣味のインターネット地図ウォッチ
第189回
格安SIMで地図好きに新たな愉しみ、SIMフリーのGPSトラッカー発売
音声通話にも対応している「TR-313J」(技適マーク付き)
(2014/6/12 06:00)
技適マークの付いたSIMフリーのGPSトラッカー
GPSで位置情報を取得して、携帯電話網を使ってスマートフォンなどに送信できる「GPSトラッカー」と呼ばれる製品は、ソフトバンクモバイルの「みまもりGPS」や、auの「あんしんGPS」など、国内の携帯電話キャリアが提供しているものはあるが、MVNOが利用可能なSIMフリーの製品は珍しい。並行輸入品などが売られているケースもあるが、日本の技適マークを取得しておらず、正式には使用できないものが多かった。
株式会社ジーアイサプライが6月2日に発売した「TR-313J」は、日本の技適マークを取得した3G対応GPSトラッカーである。価格は2万4948円(税込)。SIMフリーのため、NTTドコモの3G通信網を利用したMVNO各社の低価格SIMを利用することが可能で、手持ちのSIMを流用して使用するなど、自由度の高い運用が可能だ。
また、GPSトラッカーとしては珍しく、音声通話に対応しているのも特徴だ。日本通信(b-mobile)の「スマホ通話SIMフリーData」などの音声通話付きのSIMを使うことにより、通話機能を利用できる。ただし普通の携帯電話とは異なり、TR-313J側から発信できるのはあらかじめ登録した番号1カ所のみに限られる。もちろん音声通話のない普通の低価格SIMも利用可能だが、その場合はGPSトラッカーとしての機能だけ利用可能で、音声通話は利用できない。
このほか、SMSに対応したSIMを使った場合は、3Gによるインターネット通信だけでなくSMSの送受信も可能。スマートフォンからSMSでコマンドを送って操作することもできる。
SMSによるコマンド送信で位置情報の取得が可能
TR-313J本体のサイズは68×46×18mm、重量は64gと、軽量・コンパクト。バッテリーは内蔵リチウムポリマーバッテリー(800mAh)で、ユーザーによる交換はできない。パッケージには本体のほかに専用クレードルおよびUSBケーブル、ケース、ストラップが付属する。
本体の設定はWindowsソフト「ezTool」にて行う。PCと接続する際は、クレードルをPCに接続し、そこに本体を乗せて電源ボタンを押すと電源ランプが赤く点滅し、PCに認識される。その状態でezToolを起動すると、TR-313Jを認識してさまざまな設定を変えられる。
設定項目は、トラッカー名やタイムゾーンなどの基本情報のほか、SOSボタンを長押しした際にSMSを送信する電話番号を2件登録できる。また、音声通話付きSIMの場合はSOSボタンを長押しすると電話をかけることが可能で、この通話機能のオン/オフの項目も用意されている。そのほか、GPSトラッカーの初期化や、通信事業者などの初期設定もezTool上で行う。通信事業者はDTI、b-mobile、IIJの3社があらかじめ登録されているほか、ユーザー定義で自由に設定することも可能だ。
また、TR-313JはスマートフォンからSMSを使って「ir」というコマンドを送信することにより、位置情報を取得することが可能だ。ezTtool上で、折り返しSMSを送り返す先の電話番号や、コマンド送信の際のパスワードなども設定できる。さらに、TR-313Jから自動的に位置情報を送信(レポート送信)する間隔も3~86400秒(24時間)まで設定できる。設定が完了したら「設定書込」ボタンを押すと設定を書き込める。
なお、SMSで「ir」コマンドを送ると位置情報がSMSで送られてきて、これをタップするとGoogle マップのウェブ版にアクセスし、そこで位置が表示される。後述する「ezFinder」を使わなくても、SMSだけで位置情報を確認することだけは可能だ。
トラッカーの管理には無料のウェブアプリを利用
TR-313Jの位置を確認したり、付加機能を使ったりするには、「ezFinder」というクラウドサービスを使う。ezFinderはPC用ウェブ版のほかにスマートフォン/タブレット用ウェブ版も用意されている。ezFinder自体はジーアイサプライが開発したものではなく、サードパーティー製のクラウドサービスだ。有償版も用意されているが、GPSトラッカー10台までなら無償で使用できる。
利用するにあたっては、TR-313JのIMEIやシリアル番号、SIMカード電話番号の登録が必要。基本機能としては、GPSトラッカーの現在位置を地図上で確認することができる。背景地図にはGoogle マップだけでなく、OSM(OpenStreetMap)やMicrosoftのBingも選択可能だ。GPSトラッカーの緯度・経度やレポート(位置情報の送信)時刻、方位、速度、バッテリー残量、測位モードなどをレポートごとに表示できるほか、レポート間隔ごとの位置情報をつなげてルートとして表示することも可能で、その日の移動履歴をレポート時刻ごとに表示できる。
さらに、GPSトラッカーのSOSボタンを押すと、地図上にSOSマークを緊急表示し、ブザー音で緊急を知らせることもできる。エリアやライン、ランドマークなどを地図上に登録することも可能だ。
このほかに有償機能として、過去1カ月の履歴の閲覧(無償版ではその日の履歴しか見られない)や、項目ごとに履歴をまとめたレポートの作成機能などが利用可能となる。また、地図上でジオフェンスを作成して、エリアに入ったり出たりした時にSMSやメールを送信する機能も利用可能だ。ジオフェンスの形状は、円形だけでなく、ポリゴン(点をつないだ多角形)や、ルートで指定することもできる。
実際に筆者が使っている「スマホ通話SIMフリーData」を入れて試してみたが、SIMを入れてezToolで設定するだけですぐに使えるようになった。音声通話も問題なく利用可能で、音質もなかなか良好だ。SOSボタンを押して現在位置を緊急送信したり、SMSを送って位置情報を取得したりする操作についても問題なく利用できた。
ezFinderは多機能でUIも独特だが、慣れるのにそれほど時間はかからなかった。ウェブアプリなのでソフトをインストールする必要もなく、WindowsやMacなどプラットフォームを選ばず利用できるのは便利だ。ただし端末の設定ソフトであるezToolについては、Windows版しか用意されていないのが少々残念である。
それではログを見てみよう。レポートの間隔を3秒に設定して、都心で自転車に乗りながらログを取ってみた。精度については、ビルの谷間などで軌跡がブレるものの、子供の見守りや動態管理ソリューションなどに使う分には、ほとんど問題ない精度だと思われる。
低コストかつ幅広い用途で使えるGPSトラッカー
今回のレビューで使用した「スマホ通話SIMフリーData」は、基本料金だけだと通信速度が最大200kbpsと低速だが、それでも問題なく利用できた。位置情報として送信されるデータは動画や音声などに比べるとかなり小さいので、おそらくもっと低速でも大丈夫だと思われる。格安SIMの基本料金だけで十分に運用可能という意味では、格安SIMを持つ地図好きにとって、TR-313Jは便利かつ遊べるガジェットとして、最適な活用法のひとつと言えるだろう。
ezFinderは無償版でも10台まで利用可能なので、フードデリバリーやポスティング、ルートセールス、保守点検など、小規模の業務にも低コストで導入できる。一方、個人が使う場合には、子供や高齢者の見守り用途にも有用だ。携帯電話キャリアのGPSトラッカーには通話機能は付いていないが、TR-313JならばSOSボタンの長押しで即座に音声通話を利用できる。SOSボタンと電源ボタンだけのシンプルなUIなので、携帯電話の使い方が分からない子供にも使いこなせるだろう。このほか、3Gの通話圏内であれば登山などにも利用可能で、定期的に位置を送信するように設定しておけば、TR-313Jを持って山に入る人の位置情報を家族が把握するといった使い方ができる。SOSボタンを押せば通話することも可能なので、道迷いなどの緊急時にも役立つと思う。
ちなみに販売元のジーアイサプライは、GPSのオンラインショップ「GPSDGPS」や測量機器のオンラインショップ「GIShop」を運営している企業で、GPS搭載ランニングウォッチ「Pianta」などのオリジナル製品も提供している。Transystemなど海外製GPSロガーの日本総販売代理店でもあり、GPS機器に対する技術的なノウハウはかなり豊富だ。TR-313Jは台湾のGlobalSatの製品だが、日本で販売するにあたっては、ジーアイサプライの手によって細かい部分で仕様変更や調整が図られたという。
現在、SIMフリーのGPSトラッカーとして日本での使用が正式に認められているのは、おそらくこのTR-313Jだけと思われる。音声通話にも対応して自由度が高く、幅広い使い方が可能なこの製品は、中小規模の動態管理ソリューションに使うGPSトラッカーとしては最適だと思う。個人用として見ると少々高めに思えるかもしれないが、子供や高齢者の見守り、自動車や自転車の盗難対策、アウトドアにおける遭難対策など、幅広い用途に使える機器として注目だ。