趣味のインターネット地図ウォッチ

第190回

BLEや音波が実現する“マイクロロケーション”ほか

ジオだらけの視点で6月11日〜13日の幕張メッセをレポート

セミナーは展示会場の傍で行われた

BLEや音波が実現する“マイクロロケーション”

 位置情報ビジネスをテーマにした展示会&セミナーイベント「ロケーションビジネスジャパン(LBJ)2014」が6月11日から13日までの3日間、千葉市の幕張メッセで開催された。位置情報や地図に関連した、さまざまなセミナーが開催されたこのイベントについてレポートしたい。

 今年のLBJでキーワードの1つとなったのは“マイクロロケーション”だ。音波やBLE(Bluetooth Low Energy)など新しい測位技術が登場し、よりピンポイントな位置情報を入手できるようになったことで、さまざまな新しいサービスが生まれている。基調講演では、そのようなマイクロロケーションを活用した来店ポイントサービス「スマポ」を展開する株式会社スポットライトの代表取締役社長・柴田陽氏が、「マイクロ・ロケーションサービスが実店舗に与えるインパクト」と題して講演を行った。

株式会社スポットライト代表取締役社長の柴田陽氏

 スマポは、音波を利用した専用デバイスを店舗に設置し、来店客がスマートフォンのアプリを立ち上げてチェックイン操作をするとポイントがもらえるサービスで、2011年9月に開始した。2013年10月には楽天に買収されて完全子会社となり、スマポと同様の仕組みを使ったソリューション「楽天チェック」を並行して提供している。柴田氏は、ユーザーの位置情報をピンポイントに把握できるマイクロロケーションは位置情報サービスの変化点であると述べた上で、その理由として、「ユーザーが何を目的に行動しているかが分かる、つまりユーザーの“欲求”が推測可能になる」「iBeaconが正式ライセンスを提供開始するなど、プラットフォームがマイクロロケーションを推進している」「ハードウェア中心からソフトウェア主導への転換が起きており、テクノロジーそのものをハードやソフトとして販売するのではなく、テクノロジーを活用したサービスでマネタイズすることが必要である」という3点を挙げた。

マイクロロケーションが位置情報サービスの変化点である理由

 その上で、米国の来店ポイントサービス「shopkick」において、対象商品の付近を通ると本人限定の割引クーポンをプッシュ配信するサービスを実験的に行っていることや、ドラッグストア「Walgreens」において、店内に入ると自動的に屋内マップモードになるといった事例を挙げて、マイクロロケーションの主戦場は来店ポイントなど集客ツールとしての活用から、集客した後の店内で商品を検討・購入するという“店内体験”へと移りつつあると語った。その上で、「小売業はコモディティ化していると言われて久しいですが、そのようなコモディティ化に対抗するためには、マイクロロケーションなどのテクノロジーを生かして店内体験の差別化を図ることだと考えています」と語った。

 マイクロロケーションに関連したセミナーとしてはこのほか、「利用者の位置を知る」と題したセミナーにおいて、事例として株式会社NTTドコモの音波による測位と、株式会社アプリックスによるビーコンを利用したソリューションが紹介された。

 NTTドコモの斎藤剛氏(スマートライフ推進部ビジネス基盤推進室)は音波を使うメリットとして、「タブレットを含めて、スマートデバイスのほとんどにマイクが付いているので、OSや機種に関係なくソリューションを展開できることに加えて、音波のアナログ信号は解析されにくく、独自のセキュリティを実装できるのも特徴です。また、音波は壁を越えないので、『この部屋でチェックインができるようにしたいけど、外に出たらチェックインさせたくない』という場合にきっちりとエリアを分けることができます」と語った。

音波方式の特徴

 NTTドコモは音波を利用して、店に立ち寄ると来店ポイントがもらえる「ショッぷらっと」というソリューションを展開しているが、それとは別に、音波によるチェックインだけを切り出して提供するソリューション「Air Stamp」も2014年3月に開始した。斎藤氏は今回、その導入事例としてJR東日本が提供するスマートフォン向け情報配信アプリ「JR東日本アプリ」を紹介した。同アプリのコンテンツの1つ「山手線トレインネット」では、山手線車両内に設置された音波装置によって、乗客に乗車率や車内温度などの情報をリアルタイムに提供している。

「Air Stamp」の事例として紹介された「JR東日本アプリ」

 「鉄道の場合は、車両ごとに空間を作れるというのが意外と重要な要素で、雑音に対して強く、混雑状況に影響を受けない音波によるチェックインが有効です。今後はコンサートなど、もう少し大きなエリアでの利用も検討しています。音波に興味を持つのは、『位置情報サービスを作ってみたけど、思いのほかエリアが安定しない』という悩みをお持ちの方が多いです。ただし、音波を使ったチェックインを使う場合は、事前にアプリを立ち上げる必要があるので、この点を解決するためBLEなどほかの技術と組み合わせることも検討しています。」

BLEビーコンの課題はセキュリティ

 一方、株式会社アプリックスの今井環氏(DeepEmbeddedエバンジェリスト)は、BLEを使ったビーコン技術について解説した。「BLEを利用したビーコンは消費電力が小さく、電池交換なしで数年間稼働できるため、電源工事が不要となるのが特徴です。また、プッシュ通知が受けられるのも特徴で、NFCで必要となるタッチ操作や『かざす』動作などのユーザーアクションが不要です。設置方法や設定により、移動方向が分かるのも特徴で、例えば店の入口で客が入ってきたのか出て行くのかが分かるので、『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』などピンポイントな情報を通知できます。さらに、距離に応じて使い分けることが可能で、店の外・商品棚の前・レジ横と3段階の切り分けが可能です」。

BLEビーコンはプッシュ通知が可能

 低消費電力かつ小型という特徴を生かして、従来とは異なる使い方も考えられるという。「紙のように薄いビーコンも作ることが可能で、ポスターなどに張り付けることで、従来のような絶対的な位置情報ではなく、『ポスターの前にいる』などの新たな位置情報も簡単に作り出せます。さらに、設置ではなく紙媒体に張って配布したり、ペンダント型にして身に付けて『パーソナルロケーション』として使ったりする方法も可能です。このほか、センサー付きビーコンを使ってリアル世界でのユーザー行動をライフログとしてネットへつなげるなど、面白いビジネスの使い方が可能です」。

ポスターなどに張り付けて新たな位置情報を作り出せる

 このようなさまざまなメリットを持ったBLEビーコンだが、セキュリティの面で課題もある。「すでに指摘され始めている脆弱性として、なりすましや不正アクセスの問題があります。来店していないのに来店ポイントを増やすことができたり、買った人しかもらえない特典を入手できたりしてしまうとなると、なかなかビジネスでは使えません。私どもが提供する『MyBeacon』では、通信するデータ自体を暗号化する仕組みを持っていますので、そのような仕組みと、どのような位置測位の方法が最適なのかを見極めていく必要があると思います」。

準天頂衛星の4機体制をシミュレートできるツール「GNSS View」

 別のセミナーでは、音波やBLEと並んで新しい測位技術として注目されている、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)を使った測位について、株式会社ジオプランの本多紀夫氏(RTLSセールスマネージャー)による講演も行われた。タグから発信した電波を天井などに取り付けたセンサーが受信することにより、受信角度や到達時間差で測位する技術で、広範囲かつ測位精度が数十センチ程度の高精度測位を行える。日本では2014年1月1日にUWBの周波数帯域の規制緩和があり、利用可能となったばかりだ。「UWBはコスト的には高いですが、自動車の工場などで高い測位精度が求められる場合などには有効な測位システムになります。高価なためコンシューマー用途には向きませんが、例えば無線LAN測位など、別の測位技術のチューニングに利用するなどの用途も考えられます」。

規制緩和により日本でもUWB測位が利用可能に
UWB測位の仕組み

 測位技術関連のセミナーとしてはこのほか、「準天頂衛星システム利活用によるビジネス展開へ向けて」と題した講演も行われた。このセミナーでは、内閣府宇宙戦略室の田村栄一氏が、準天頂衛星の経緯について解説した上で、「2018年にはGPS衛星の世代交代が進むことに加えて、準天頂衛星も4機体制となるとともに、二周波による測位が普及し、精度がかなり向上します。そのような時代に向けて、高精度な測位で活用できる高精度な基盤地図や、二周波に対応した受信機、アプリなどの開発が必要となります」として協力を呼び掛けた。

2018年からは測位環境が大きく変化

 さらに、日本電気株式会社の神藤英俊氏(準天頂衛星利用推進室)は、準天頂衛星の運営を担う会社として設立された準天頂衛星サービス株式会社(QSS)が展開するさまざまな取り組みを紹介。「準天頂衛星アプリコンテスト」や、シンポジウム/アイデアソンの開催などに加えて、「準天頂衛星システム利用者会(QSUS)」の紹介も行った。QSUSは準天頂衛星に関心のある個人なら誰でも入会することが可能で、最新情報の入手や会員向けのイベント、会員同士の情報交換、実証実験への応募などを行う組織として、入会を呼び掛けた。また、6月9日に提供開始したばかりの衛星測位ツール「GNSS View」も紹介。同ツールは、米国のGPS衛星や、すでに打ち上げられている「みちびき」だけでなく、これから打ち上げが予定されている4機を含めた準天頂衛星の位置もシミュレートできるツールで、ウェブアプリとして提供されるほか、iPhone/Androidアプリの提供も予定されている。

準天頂衛星アプリコンテストを実施
GNSS View
QSSのブースには準天頂衛星の軌道を示した模型が展示

位置情報サービスの過去・現在・未来を俯瞰

 位置情報を使ったサービスやアプリに関するセミナーとしては、「利用者視点で見る位置情報ビジネスの過去・現在と最新動向」と題した講演が開催された。ここではコミュニティクリエイター/ライターの鈴木まなみ氏が、これまでの位置情報サービスの歩みと現状について語った。この中で鈴木氏は、Foursquareのアプリがチェックイン機能を別アプリ「swarm」に切り離したことなどを例に挙げて、「コンシューマー向けサービスに限って言えば、もはや位置情報は“主語”ではなく“手段”となっています。ただ、手段としては重要なので、Google NowやFacebookのアプリなどのように、形を変えて利用されているのが現状です」と分析。その上で、位置情報をうまく使えばビジネスにプラスになる事例として、既存サービスに位置情報を生かしている「ウェザーニュース」や「yelp」、新しい付加価値を生み出したタクシー配車サービス「Uber」など、位置情報をうまく利用している事例を挙げて、「位置情報は特別なものでではなく、当たり前のものになる」と結論付けた。

鈴木まなみ氏
位置情報をうまく使っている事例

 さらに、ディズニーが実験中のデジタルリストバンド「マジックバンド」に対してソーシャルメディアでのコメントを調査したところ、80%が肯定的で、否定的な人は2%という結果となったことを紹介し、限られたコンテキストならば自分の位置情報を把握されることに対して抵抗感は少なく、「このような体験が今後は一般的な生活に広がっていくと思います」と今後を予想した。さらに、ウェアラブル機器や車載器、IT家電などのプラットフォームや、iBeaconなど技術の進化により、より位置情報の重要性は増すと分析。以前はユーザーに受け入れられなかった技術も、進化することで良くなる可能性もあり、今後は位置情報とさまざまなサービスを掛け合わせることが重要であると語った。

 次に、位置連動プッシュ通知ソリューション「popinfo」などを提供している株式会社アイリッジの取締役・黒瀬翼氏が登壇。位置情報ビジネスの最新動向として、OS主導のサービスがより目立つと語った。その上で、“Apple的トレンド”としてiBeaconやモーションセンサー、“Android的トレンド”としてGoogle Nowの進化やGoogle Glassとの連携などを挙げた。さらにApple的トレンドの中で黒瀬氏は、iOS8のロック画面の左下に飲食店チェーンなどのアイコンが位置情報に応じてリコメンド表示される新機能を紹介した。アイコンをタップするとその店のアプリが起動する仕組みになっており、「この機能は広告にはならないと思いますが、このアイコンを出すことによって、まだまだOSの主導の展開は続くと思います」と語った。

iOS8の新機能

 続いて、ITジャーナリストの湯川鶴章氏が「位置情報系ビジネスの未来。本当のビッグウェーブはこれから」と題した講演を実施。湯川氏は、時間を正確に刻むことができる「時計」が生まれたことによってさまざまなビジネスが生まれたように、位置情報によって空間を刻むことができるようになってくると、今まで成立していなかったいろいろなビジネスがこれから長い時間をかけて生まれるだろうと予測。デジタルのデータが空間を変えていく、というのがこれから起こる究極の未来であると語った。

 さらに、Googleは一見、脈絡もなくいろいろな企業を買収しているように見えるが、「空間を刻む」「人工知能でロボットを動かす」というビジョンを持っており、屋外ではストリートビューカー、屋内では「Project Tango」により3Dスキャンデータを取得し、そこに人工知能を持ったロボットや自動走行車などを投入しようと考えていると分析した。一方、Appleは得意分野に絞って取り組んでおり、今後は医療(ヘルスケア)、自動車、家電の分野に注力するという。そのような動きを踏まえた上で、空間が細かく正確に刻まれるようになった時に、自分のビジネスがどう変わるか、位置情報と人工知能を使って何ができるのかを今からいろいろと“妄想”しておくことが重要だと語った。

湯川鶴章氏
未来を思い描いて妄想しておくことが重要

「ジオメディアサミット」は新たなステージへ

 コンシューマー向け位置情報サービス関連のセミナーとしてはもう1つ、「CODE for JAPAN」代表理事の関治之氏がチェアを務めて、「地域課題の解決に活用される位置情報」と題した講演が行われた。CODE for JAPANとは、地域課題をモノ作りやソフトウェア開発などにより解決することを目指す各地のコミュニティを支援するプラットフォームで、勉強会やマッピングパーティー、アイデアソン、ハッカソンなどのさまざまなイベントを開催している。位置情報関連の活動としてはマッピングパーティーも行っており、実際に街を巡ってOpenStreetMap(OSM)や位置情報連動Wikiシステム「LocalWiki」などに情報を落とすなどの活動をしている。

「CODE for JAPAN」の関治之氏

 CODE for JAPANの活動紹介に続いて、「FixMyStreet Japan」プロジェクトの代表兼開発者である川人隆央氏が取り組みを紹介した。FixMyStreetはウェブサイトに「道路に穴が空いている」「高速の壁に落書きがある」「街灯が消えている」といった街の課題を市民が投稿し、それが自治体に報告される仕組みで、2007年に英国で始まった。「街の問題を見つけても、役所のどこに連絡したらいいのか分かりにくい」「連絡窓口の開いている時間が限られる」「問題が発生した場所や状況を伝えにくい」といった課題を解決することを目指している。日本では2012年に札幌から始まり、現在は120市区町村から約750件のレポートが寄せられているという。

「FixMyStreet Japan」の川人隆央氏

 同プロジェクトは、これまで愛知県半田市や大阪府大阪市などで実証実験が行われてきた。実証実験では、投稿されてから3時間で道路の穴の補修が完了したという事例や、不法投棄ゴミの位置情報が金曜日にレポートされて、翌週の月曜日にはゴミが撤去されたといった事例があったという。「FixMyStreet Japanはユーザー登録や投稿が自由で誰もが参加しやすく、費用負担が少ないというメリットがありますが、不適切な投稿が公開される可能性もあります。我々としては行政側でもなく、市民側でもなく、中立を目指しており、基本的にはすべて公開する方向で取り組んでおり、『公務員だけじゃない。いつでも誰でも自分の町を良くできる』をキャッチコピーに活動しています」。

「FixMyStreet」の仕組み

 位置情報サービス関連としては、CODE for JAPANと同じく関治之氏が代表を務める位置情報サービスをテーマにしたイベント「ジオメディアサミット(GMS)」の“大ライトニングトーク(ショートプレゼンテーション)大会”も開催。その締めくくりとして関氏は、「“ジオメディア業界を盛り上げること”を目的に始まったGMSですが、最近はジオ的なモノが世界に溢れたことで、業界の境目はなくなってきており、わざわざ“ジオメディア業界”と言わなくていいのではないかと考えています。ただし、ジオ的なメディアが世の中を変えていくことには変わりはなく、新たな目的をみんなで考えていく必要があると思っています。」と語った上で、「世代交代も必要」ということでGMSの代表を辞める意向を明らかにした。2008年から年2回のペースで実施され、当連載でも何度かレポートしてきたGMSだが、ここに来て新たなステージに移りつつあるようだ。

代表辞任を発表した関氏

OSMコミュニティと連携してビジネスを展開する「MapBox」

 このほか、OSM関連のセミナーとして、マップコンシェルジュ株式会社/オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパンの古橋大地氏が、「OSMで一番ビジネスでうまくいっている会社」として米MapBox社の事例を紹介した。「MapBoxはOSMの地図データを使ってGoogle Mapsライクな使いやすいAPIをGoogleよりも安価に提供している企業で、そのAPIはFoursquareやEvernote、Mozillaなどのメジャーな企業に使われ始めています。MapboxはAPIを提供するだけではなく、地図を各企業に合ったデザインにアレンジしながら提供しているのが特徴です。従来はGoogle Mapsのような衛星画像のレイヤーがなかったことが弱点でしたが、Digital Globeと連携して今年から衛星画像レイヤーを提供開始しました」。

 MapBoxはこれにともなって、Digital Globeの商用衛星画像をOSMのコミュニティがある程度のレベルまでトレースして地図作成に役立てられるように許諾も取ったという。「MapBoxは自分たちがお金儲けをするだけではなく、その一部をきちんとOSMのコミュニティに還しながら、コミュニティと一緒にビジネスをするというやり方をしています」。

MapBoxとDigital Globeが連携

 BLEや音波など新たな技術により、屋内でのマイクロロケーションが注目を集めた今年のLBJ2014。このような技術が進化する中で、コンシューマー向けのさまざまなサービスやアプリには位置情報技術が使われるのが珍しくなくなり、着実に根付いていることが実感できた。同時に、ビジネス用途での位置情報活用も着実に事例が増えており、今後の進化が期待される。このような位置情報関連の最新のトレンドや、数多くの具体的な事例を見渡すことができた3日間となった。

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。