地図と位置情報

マニアックなバスロケが岡山・宇野バスで稼働中、回送車両の位置や前方車窓まで表示

「第2回 交通ジオメディアサミット」講演レポート<その1>

「第2回 交通ジオメディアサミット」の会場となった東京大学駒場第2キャンパスのコンベンションホール

 “IT×公共交通”をテーマとしたカンファレンス「第2回 交通ジオメディアサミット」(主催:東京大学生産技術研究所瀬崎研究室、東京大学空間情報科学研究センター)が19日、東京大学駒場第2キャンパスのコンベンションホールにて開催された。今回のメインテーマは「スマートフォンが作り出すモビリティを考える」。セッションテーマも幅広く、「新しいモビリティ」「地図と行動」「交通データ分析」「モビリティの可視化とアプリケーション」「バスデータの世界」など、多岐にわたる講演やライトニングトーク(ショートプレゼン)が行われた。この中から特に注目された講演の模様を、今回と次回の2回に分けて紹介する。

 なお、「交通ジオメディアサミット」は、位置情報サービスをテーマとしたイベント「ジオメディアサミット」のスピンオフとして開催されているイベントだ。ジオメディアサミットは2008年より続いており、「オープン」「中立」「交流重視」という方針を掲げている。交通ジオメディアサミットもこの方針通り、公共交通とかかわりのあるエンジニアや交通事業者、自治体、研究者など、ITと交通という異なる分野の関係者が、セッション間の休憩時間やイベント後の懇親会で活発に交流を深めていた。

バスの走行位置だけでなく、車載カメラで道路の状況も確認できるバスロケシステム

 「バスデータの世界」セッションでは、フリーのダイヤ編成支援システム「その筋屋」を提供するSujiya Systems代表の高野孝一氏が登壇した。岡山県の宇野自動車株式会社(宇野バス)と協同でバスのシステムを開発している高野氏は、最初に宇野バスに導入したバスロケーション(バスロケ)システムを紹介。同システムは、市販の安価なタブレットをバスの車載器として使用したバスロケシステムで、バスの位置をリアルタイムに確認できることに加えて、バス停を通過した時刻も正確に把握できる。

Sujiya Systems代表の高野孝一氏

 車載タブレット用プログラムは独自に開発したもので、開発言語はDelphi。緯度・経度や速度を1秒ごとに記録し、GPSによる位置情報をWi-Fiで本社に送信する。送信間隔は15秒/30秒/60秒の設定が可能だ。宇野バスの事務所では、バスロケ用のサーバーとディスプレイを設置し、バスの車外・車内の写真も確認できる。また、乗客から「バスが来ない」といったクレームが来た場合でも、バスの通過時間と速度などを1秒単位で調べて対応できる。バスロケで得られた情報は次期ダイヤ改正にも役立てられる。

タブレットをバスの車内に設置
事務所に大型ディスプレイを設置

 バスロケ情報を一般の乗客がウェブで確認することも可能で、現在の道路の混雑状況を写真で見ることもできる。利用者向けサイト「バスまだ」において、1)一般的なバスロケ表示の「時刻表タイプ」、2)運行中のバスの位置を地図上で直接見られる「地図タイプ」、3)遅延が発生しているバスが分かりやすい「一覧タイプ」、4)車両ナンバーを地図上で見ることができ、回送車両まで表示される「マニアタイプ」――の4種類が提供されている。

 「地図タイプ」には背景地図に国土地理院の地図を使用し、地図上のカメラのアイコンをクリックすると現在の前方車窓を見ることができる。また、すべての通過停留所を地図で確認することも可能だ。「マニアタイプ」は、事務所内のモニター内容をそのまま表示するもので、回送中のバスや車庫で待機しているバスも表示される。

4種類のバスロケ情報を提供する「バスまだ」
「時刻表タイプ」
「地図タイプ」
地図上のアイコンをクリックすると、車載カメラからの映像を見られる
「一覧タイプ」
回送中のバスの状況も見られる「マニアタイプ」

ダイヤ編成支援システム「その筋屋」と連携、スジ上からもバスロケデータ参照可能

 バスロケに必要な運行データには、独自のダイヤ編成支援システム「その筋屋」を使用している。このシステムはバスロケシステムと連携しており、ダイヤ編成用の地図機能をそのままバスロケのシステムに利用している。計画ダイヤと実際の運行データとの比較を簡単に行うことが可能で、バスロケで得られた位置情報と写真は、ダイヤのスジ上からもすばやく確認できる。Google Earthなど外部サービス用のデータの出力も可能だ。

 「私はこれまで趣味のゲーム作りなどを通じてさまざまな技術を得ました。そこで、自分が作る最後のダイヤ編成支援システムも、趣味の延長として楽しく、自由に作ることに決めました」と語る高野氏は、バス事業者のオープンデータ化の支援のため、その筋屋のフリーウェア版を無償で提供している。

「その筋屋」のダイヤ作成画面
複数の経由がある場合は候補が表示されるので、そこから選択できる
時刻表との連携表示も可能で、バス停ごとに待機時間を設定できる

 高野氏は最後に、「宇野バスではバスロケデータをオープン化しており、これを使った非公式アプリが登場したほか、岡山市が設置したバス時刻表や、デジタルサイネージにも活用されています。Google マップのGTFSリアルタイム(※)にも全国で初めて対応し、バスの遅延情報に合わせた検索を行えます」と語った。

 今回紹介されたバスロケシステムは非売品だが、岡山県内の下電バスでも使われているという。

※GTFSリアルタイム:公共交通機関が運行車両に関するリアルタイムの最新情報をアプリケーションデベロッパーに提供できるようにするためのフィードの仕様/GTFS(General Transit Feed Specification)の拡張版(Google Developers「GTFSリアルタイムとは」より)

標準バス時刻フォーマットのGTFS形式にも出力できる

標準的なバス情報フォーマットが決定

 今回のイベントをプロデュースした東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅氏は、第1回の交通ジオメディアサミットでは「バスデータが集まらない」という課題が議論になったが、それを解決するために目指すべきなのはオープンデータの推進であると語った。米国の交通事業者のウェブサイトを見ると、時刻表データがダウンロード可能となっている場合が多く、交通事業者がデータを整備して自由に使えるように公開しているという

東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅氏

 さらに、2017年3月に国土交通省が「標準的なバス情報フォーマット」として、GTFSに日本独自の項目などを加えた形式を定め、バスデータをどのように表現するべきかを詳解したマニュアルを整備したことを紹介した上で、宇野バスをはじめ、石川県の「のみバス」や福岡県の「マリンクス」など、全国のバス事業者の間でGTFSによる公共交通データ公開の取り組みが始まっていると語った。

 GTFSによるバスデータの公開が進むことで、Google マップなどいつも使っているツールでコミュニティバス情報にアクセスが可能となったり、世界の公共交通リアルタイム運行状況を集めたサービス「TRAVIC」など、海外のサービスにおいて日本のバス情報を利用可能となったりと、可能性が広がるという。

 伊藤氏は締めくくりとして、「交通ジオメディアサミットのように、交通とITの両方を考えるイベントというのはなかなかないので、このような場で議論することで、日本の交通をもっと良くしていく動きにつながればいいと思っています」と語った。

本連載「地図と位置情報」では、INTERNET Watchの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」からの派生シリーズとして、暮らしやビジネスあるいは災害対策をはじめとした公共サービスなどにおけるGISや位置情報技術の利活用事例、それらを支えるGPS/GNSSやビーコン、Wi-Fi、音波や地磁気による測位技術の最新動向など、「地図と位置情報」をテーマにした記事を不定期掲載でお届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。