読めば身に付くネットリテラシー

なくならないSNSなどの詐欺広告、本当に問うべきは「犯罪者が平然と広告インフラを使えてしまう構造」

市民参加型の通報プラットフォーム「ストップ詐欺広告」の狙いとは

「ストップ詐欺広告」のベータ版が3月に公開されました

 有名人になりすまして投資を促す詐欺広告については、本連載などでこれまでも繰り返し取り上げてきましたが、そうした怪しいネット広告の通報プラットフォーム「ストップ詐欺広告」のベータ版が公開されました。今回は、同プラットフォームの「市民参加型」の取り組みの狙いについて紹介します。

 本連載ではいつも、詐欺広告の事例や対策など、読者の皆さんが自衛するための方法を紹介していますが、そもそもの問題は、犯罪者が平然と広告インフラを使えてしまう構造にあります。具体的には、不十分な対策しかできていない広告プラットフォーム事業者や、実効性のある規制を行えていない政府です。「ストップ詐欺広告」は、こうした構造の改善を目指すものです。

有名人なりすまし詐欺広告の根絶へ、「DD2030」による新プロジェクト

 3月19日、「デジタル民主主義2030(DD2030)」が記者会見を開き、新プロジェクト「Project Coreloop」を発表しました。登壇したのは、DD2030代表の鈴木健氏と、「市民熟議」の設計と学術的評価を担う慶應義塾大学の駒村圭吾教授です。

 その中で、市民参加型の通報プラットフォーム「ストップ詐欺広告」ベータ版の公開と、5月以降に予定される市民熟議の実施計画が明らかにされました。市民が詐欺広告を見つけて通報し、そのデータを社会で共有、さらに熟議を通じて制度改正や運用改善につなげるという試みです。

 その発想の背景にあるのが、台湾の先行事例です。台湾でも著名人の写真や実名を悪用した詐欺広告が深刻化しましたが、対策は一足飛びに成功したわけではありません。2023年には広告主の身元確認を義務化する制度改正が行われたものの、Metaが技術的困難を理由に実効的な対応を取らず、十分な効果は得られませんでした。

 転機となったのが、2024年の市民熟議です。447人の市民が参加し、85%以上がプラットフォーム規制強化に合意しました。その合意形成を土台に、台湾ではわずか4カ月で詐欺犯罪防止法が成立しました。これにより、プラットフォーム事業者は当局から通知を受けたら24時間以内に詐欺広告を削除することなどが定められ、違反に対する罰金も定められました。

 実効性が十分であるか疑問を呈する向きもあるようですが、Metaも台湾では詐欺広告対策を取らずにはいられなくなっており、一定の効果はあったとみていいでしょう。このように、法整備だけを急ぐのではなく、まず被害の実態を社会で共有し、多くの市民の納得を得ることで、対策の意義も共有され、その後の運用に関しても関心が持たれ、本当に意味のある対策になるのだと考えられます。

日本では年間1274億円に達した「SNS型投資詐欺」の被害

 日本では「SNS型投資詐欺」が大きな被害を出しています。警察庁は、2025年のSNS型投資詐欺の被害額が1274億円に達し、前年比で約46%増加したと発表しました。認知件数は9538件で、1人あたりの平均被害額は約1300万円です。

 そうした詐欺の入り口として問題視されているのが、バナー広告やSNS広告です。有名人の顔写真や実名を無断で使い、投資話へ誘導し、LINEなどの外部チャネルで信頼を築いたうえで送金を迫ります。送金手段は振込型が約7割、暗号資産送信型が約2割となっています。

 この問題は単純ではありません。東南アジア拠点の犯罪集団、広告を流し続けるプラットフォーム、そして、追いつかない規制などが複雑に絡み合っています。ロイターの報道では、Metaは2024年売上の約10%が詐欺や禁止商品の広告由来だと内部試算していたとされます。

 被害が減らないのは、詐欺広告の全体像が見えにくいからです。どのプラットフォームで、どの有名人が、どの規模で悪用されているのか。その実態が可視化されなければ、規制も議論も前に進みません。

有名人の画像を悪用した広告が氾濫しています(画像は、2024年4月12日付記事『有名人の画像を悪用した広告が氾濫中、LINEで連絡すると投資詐欺に誘導されるケースも』より)

台湾の成功モデルを日本で動かす「Project Coreloop」

 そこでDD2030が立ち上げたのが、Project Coreloopです。DD2030は、2025年1月に発足したコミュニティで、「一人ひとりの声が政治・行政に届き、合意形成と政策反映につながる社会」を2030年までに実現することを目標に掲げています。現在はSlackに1500人以上が参加し、テクノロジー、法制度、市民参加のあり方を横断して議論しています。

 賛同者には、教育経済学者の中室牧子氏、投資家の谷家衛氏、ジャーナリストの田原総一朗氏、長野智子氏、そして台湾のDXを推進したオードリー・タン氏らが名を連ねています。

 鈴木健氏は記者会見で、2016年以降のアメリカで社会の分断や政治的暴力を目の当たりにしてきた経験を踏まえ、日本でも同じ危機が静かに進んでいると語りました。

 Project Coreloopは、市民の声を集めるだけで終わりではありません。行政や企業だけでは解決しにくい課題を通じて、市民参加の手法を社会実装しようとしています。

怪しいネット広告を見かけたら通報を

 その第1弾が「ストップ詐欺広告」です。利用者は、見つけた詐欺広告のスクリーンショットやURLを投稿できます。詐欺広告は表示されてもすぐに消えるため、あとから追うのが難しいので、市民がその場で記録し、共有することが重要なのです。

 先行公開から1週間で100件超の通報が集まり、本記事執筆時点では692件となっています。そのうち、Metaが運営する2つのプラットフォームのものは、194件がInstagram、166件がFacebookでした。投稿された情報を見ると、さまざまな有名人がなりすまし被害に遭っていることが分かります。

詐欺広告を見つけたら誰でも通報することができます

 今後は、AIによる機能拡張も構想されています。通報された広告の自動分析や詐欺類型の構造化、適切な審査先への一次振り分け、市民の通報を待たない24時間365日のプロアクティブ監視などです。これまで追い切れていなかった問題に対し、市民参加とAIを組み合わせて対抗しようというわけです。

みんなの力で詐欺広告をなくそう

 この取り組みの狙いは、通報を受けるだけにとどまりません。通報が積み上がれば、それは単なる被害報告ではなく、法規制やプラットフォーム責任を議論するためのエビデンスになります。広告主の本人確認の義務化や削除対応の透明化を求めるうえでも、実態の裏付けは欠かせません。

 さらに、DD2030は5月以降、無作為抽出による300~400人規模の市民熟議を実施する計画です。慶應義塾大学の水谷瑛嗣郎准教授や京都大学の曽我部真裕教授ら、憲法・メディア法・情報法の専門家が中立公平な資料作成に協力します。詐欺広告の実態、プラットフォームの責任、表現の自由との関係など、難しい論点を市民が判断できるかたちに整理し、合意形成につなげる考えです。

 詐欺対策としてユーザーひとりひとりの自衛が大切なのはもちろんですが、構造的な対策も同時に行うべきであり、現状だと、広告プラットフォーム各社の対策が実質的に働いていない状況にあることが大きな問題だと言えます。

 だからこそ、市民が事実を集め、社会で共有し、必要なルールを議論することが重要です。怪しい広告を見つけたらスクリーンショットとURLを通報する。その行為の積み重ねが、制度を動かす力になります。ぜひ、みなさんの力を合わせて、詐欺広告をなくしましょう。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。