山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
楽天中国版「楽酷天」、ヤフー&淘宝網に続き中国から撤退 ほか
~2012年4月
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
●楽天中国版「楽酷天」、Yahoo!Japan&淘宝網に続き中国から撤退
楽天中国版こと「楽酷天」が20日に突然のサービス終了を発表、27日にサイトは閉鎖となった。今春にYahoo!Japanと淘宝網(TAOBAO)の提携による、中国のモノが日本で買える「Yahoo!チャイナモール」と日本のモノが中国で買える「淘日本」がサービス終了したばかり。
中国検索市場でトップシェアの「百度(Baidu)」と提携を結び、2010年10月にサービスインした楽酷天だが、わずか1年半でオンラインショッピングサイトを閉じた。(もっとも、まだ中国国内に旅行予約サイトや開発企業はあり中国から撤退したわけではない)。
過去にオンラインショッピング市場に参入して失敗した苦い経験を持つ百度だが、検索ポータルとしては圧倒的なシェアを占める。その百度が、百度サイト内で楽酷天へ誘導するようにしたものの、勢いがあったのは最初だけで、後は低空飛行となった。立ち上げ時はキャンペーン的に誘導をかけたものの、その後は百度にアクセスしても楽酷天を捜すのは難しい状態となり、ユーザーが楽酷天の存在に気づくきっかけがまるでなかった。
5月を過ぎてからもさまざまなニュースメディアやネットユーザーが楽酷天の閉鎖に関する分析を発表しているが、その多くが「日本人で固める日本式経営の結果、中国のニーズにマッチするサービスを提供できず、ユーザーを掴むことも利用したユーザーを掴み続けることもできなかった」と分析している。
終了した楽酷天のページ |
●中国税関、海外製品輸入販売の取り締まりを強化。iPhone流通に影響
楽酷天や淘日本だけではなく、他の輸入ショップもまた輸入代行業が難しくなっており、多くの輸入代行ショップや国際宅配業者が事業見直しに追い込まれている。新政策により、3月末から海外小包も中国の税関を通さなくてはならないというルールに変更されたためだ。
これまでも仕入れのための輸入は税金を払う必要があったのだが、そのチェック体制は厳しくなかった。中小ショップが淘日本や楽酷天を圧倒する価格競争力があったのは、関税を払わず個人輸入したものを販売していたというのがひとつの理由である。
また、税関の厳格化は納税だけに納まらず、手続きに関しても厳格化された。関税を払わないと中国に商品を持ち込めなくなるという税関の対処に、輸入商品を扱う店は「関税代で商品価格が高騰してしまう」と悲鳴をあげており、多くのショップが閉店しているようだ。
もっとも今回の規制には、関税を一切払わず、商品をあまりに多く輸入してきた業者に当局が業を煮やしたという背景もある。たとえば、香港向けのApple製品を販売することで知られるショップ「藍優数碼」は、中国未発売の最新製品を利用したいというニーズを背景に、去年1年間でiPhoneやiPadなどを十数万台輸入販売している。
3~4月にかけて行われた税関のチェック強化により、当局はタブレットやスマートフォンなど4800台、200万元(3000万円弱)を超える現金を押収したという。おかげで中国本土でのApple製品などの相場価格が上昇する中、個人輸入販売業者も対抗策として、子供や体が不自由な人までありとあらゆる人を動員して、税関チェックを合法的にくぐりぬけようとしている。
「2011年上半期 中国EC市場データレポート(2011年(上)中国電子商務市場数据監測報告)」によれば、2011年の上半期での輸入商品に限ったEC市場規模は206億元(約2620億円)に達し、2012年には年間480億元(約6100億円)規模に達すると見られている。
外国向けApple製品を入れようとする運び屋と税関の争いは激しくなっている |
●中国外交部定例会見での「中国のネットは自由だ」のコメントにネット利用者ら反発
中国外交部は「中国のネット利用者は十分自由を享有している」とコメントし、多くのネットユーザーが注目し話題とした。
話題となったコメントは4月5日の定例会見( http://www.fmprc.gov.cn/chn/gxh/tyb/fyrbt/jzhsl/t920505.htm )で飛び出した。記者の「一部の報道では、中国の多くのサイトが国際的ハッカーの攻撃を受けている。ハッカーは「インターネットの自由を促進しろ」と訴えている。これについてどう思うか?」という質問に対する、外交部スポークスマンの回答だ。
外交部スポークスマンは、「まず中国のインターネットは解放されている、インターネットユーザーは充分自由を享受している。中国は短時間に5億人のネットユーザーと3億人のブロガー、ミニブロガーが誕生している。これは中国のインターネットの吸引力とオープン性を示すのには充分といえる。次に中国政府は法に従いネットを管理している。最後に、報道されている国際的ハッカーの攻撃について言えば、中国は常にハッカー攻撃の被害者である」と回答。このコメントに多くのネットユーザーが反発している。
中国のネットは自由だとする公式発言 | 「中国のネットは自由」という意見に微博(weibo)では疑問のつぶやきも |
●個人情報売買業者を一斉摘発
公安部は20の省市で個人情報を販売する「不法業者」を一斉に摘発した。2000人弱を逮捕した。最近個人情報の保護が叫ばれつつあり、「不法業者」と称しているが、まだ個人情報保護法はまだできていない段階での捕物劇となった。しかし中国のニュースサイトによればこの公安部の行動をネットユーザーは喜んでいるという。
個人情報犯罪取り締まりをアピールするニュース |
●SnapDishが中国を代表するSNS「人人網」と提携
料理写真を加工してつながるソーシャル写真iPhoneアプリ「SnapDish」 (※ http://internet.watch.impress.co.jp/docs/release/20110530_449424.html ) が中国の2大SNSサイトのひとつ「人人網」と提携したことを発表した。2大SNSサイトのもうひとつのサイトは「開心網」というが、こちらは日本のベンダーではDeNAが提携している。SNS人気は微博と呼ばれるミニブログの後塵を拝しているが、ゲームや実用系などスマートフォン向けコンテンツで人気復興を目指している。過去に農場育成ゲームがヒットしたことがあり、アプリが人気になれば相乗効果でSNS人気は戻る可能性がある。
●著作権法改正に音楽家などが「待った!」
中国国家版権局から「中華人民共和国著作権法」(意見募集稿)が3月末に発表された。それに対する意見募集が4月末まで行われ、波紋を呼んでいる。この草案では既存の著作権法から様々な点が改正されているが、全体的に著作権保護が強化されている。たとえば、百度mp3捜索などで行われる「海賊版ファイルへのリンクの自動生成」も違法となる。
音楽家の間では「音楽の著作権は発売後3カ月で他の音楽家が利用することができる」という点が争点となっている。中国のベンチャー企業が新サービスを出せば、著名サイトが同じサイトを出してユーザーを全部囲い込んでしまい、ベンチャー企業を潰すという悪習があることは当連載で何度か紹介しているが、同様に無名の歌手の曲を、著名な歌手が使って全部自分のものにしてしまうのではないかとの危惧があるのだ。
時には法よりも国家権力が強くなり、中国独自のネット検閲もあるため、どこまで機能するかは不明だが、中国が認めるコンテンツにおける民間同士での著作権絡みの裁判では有用であろう。「上に政策あり、下に対策あり」の中国でどこまで漏れなく著作権の保護が機能するかも注意すべき点のひとつだ。
改正著作権法の話題は音楽業界からの不安の声ばかり |
●2大動画サイト「優酷」「土豆」合併後、早くも動画コンテンツの相場が下がる
前回の記事で取り上げた、犬猿の2大動画サイト「優酷網」「土豆網」の合併。これにより版権価格が下がるのでは? と書いたが、早くも版権価格には下落傾向が見られる。ある人気テレビドラマのネット独占配信権は100万元(1300万円弱)とも言われていたが、現在40万元(500万円強)まで下落。また動画サイトのパーティ内においても、参加者の中で配信権価格が2分の1~10分の1程度下落したと話題になっている。
優酷網と土豆網の合併で落ち着いたようにも思えるが、急激に人気を高めつつある動画サイトはいくつかあり、やがてまた配信権を巡ってコンテンツ価格が上がるかもしれない。
●アパレル系ECサイト大手、温家宝首相を勝手に起用した広告で非難
アパレル系ECサイト大手の「凡客誠品(Vancl)」が、温家宝首相を勝手に起用した広告を出すという事件があり、「凡客広告門事件」と称され話題となっている。同サイトの広告は奇抜で、芸能人や、ときにはスティーブジョブズ氏も使うなど、注目を集めていた。しかし、国を代表する政治家を採用するのは度が過ぎたようで、メディアばかりかユーザーからも「命知らずだろ」と批判を受けている。勝手に中国のリーダーを利用することは「広告法」に違反するが、どういう行政処罰を受けるかネットユーザーは固唾を呑んで見守っている。
温家宝首相を使ったvanclの広告 |
関連情報
2012/5/9 06:00
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