清水理史の「イニシャルB」
RDXや充実サポートでコダワリの信頼性を実現
イメーション「Data Appliance T5R」
(2012/12/4 06:00)
イメーション株式会社の「Data Appliance T5R」は、5台のHDDを搭載するエンタープライズ向けの高品質NASだ。リムーバブルストレージの「RDX」を搭載するなど、他社製品には見られない数々の特徴を備える。その実力を検証してみた。
「コストパフォーマンス」について考えさせられる
やはり、かけるべきところに、しっかりとコストがかけられた製品は安心感が違う。
イメーションから発売されている5ベイのタワー型NAS「Data Appliance T5R(以下T5R)」を実際に使ってみて、そう実感させられた。
「利用」が中心のクラウドの世界が一般化した影響もあるが、最近では、NASなどの製品を選ぶ際の判断基準としても、容量やパフォーマンスに対する価格、つまりコストパフォーマンスの高さに重きが置かれる傾向が見られるようになってきた。しかし、日々のメンテナンスなどが欠かせないNASの場合、やはり長期的なコストを無視するわけにはいかない。
せっかくNASを導入したとしても、故障による稼働率の低下が問題になったり、データを保護するために別途バックアップ用装置や2台目のNASを購入するなどということになってしまっては意味が無い。であれば、はじめから長期的な運用管理、メンテナンスにしっかりと対応できる製品を選んでおく方が効率的というわけだ。
イメーションのT5Rは、まさにこのような考え方を具現化したような製品だ。5台のHDDによるRAID構成に加え、本体底部にカートリッジ式のバックアップ用ストレージ「RDX」を装着可能となっており、NASのデータを簡単にバックアップ可能となっている。このほか、二重のバックアップ、ハードウェアそのものの信頼性強化、サポートの充実など、信頼性を確保するための工夫が幾重にも用意されている。
クラウドの普及で、注意が行き届かなくなりつつある運用管理やメンテナンスの重要性に、あらためて気づかせてくれた製品と言えそうだ。
高性能CPUやエンタープライズ向けHDDを搭載
それでは、実際の製品について見ていこう。まずは外観だが、本体は高さ254×幅188×奥行き243mmのサイズとなるタワー型のNASだ。5ベイとなるうえ、さらにHDDベイの下にRDXを搭載するため、若干、高さがあるが、幅は一般的なNASと大差無いので、さほど置き場所には困らないだろう。
フロントには、CPU温度やファンの回転数などの情報を表示したり、IPアドレスなどの設定が可能な小型ディスプレイ(OCP)、USB2.0ポート×1が搭載されており、付属のキーを使ってカバーを開けると5台のHDDが装着されたベイが姿を現す。
今回試用したモデルは1TB×5(2TB×5のモデルもある)だったが、Western Digitalのエンタープライズ向けHDD「WD RE4シリーズ(WD1003FBYX)」が搭載されていた。
低価格のNASの場合、自分でHDDを装着するキットの場合が多く、コスト重視でコンシューマー向けのHDDを選んでしまいがちだが、本製品に搭載されるWD REシリーズは、MTBF120万時間、RAID用TLER機能の搭載(Time-limited error recovery)など、高い信頼が確保されている。
HDDを搭載するカートリッジの作りもしっかりとしている。スチール製のフレームのサイドに樹脂製のレールが取り付けられているのだが、このおかげで、驚くほどスムーズにHDDカートリッジがベイに吸い込まれていく。HDDカートリッジも、装着時にレバーを閉めたときに、すき間が空かないように緩衝材が貼り付けられている。
おかげで、HDDがカッチリと装着され、低価格NASに見られるようなカチャカチャとしたチープな感覚がまったくない。おそらくWD REシリーズそのものの特性も影響していると思われるが、起動後もHDDを5台回転させているとは思えないほど、振動や嫌な音とは無縁だ。
こういった目に見えない部分の作り込みの高さは、まるで高級車を扱っているかのようで、個人的には非常に心に響く。やはりコストがかかっている製品は、ひと味違う。
さて、注目のRDXだが、本体下部にスロットが用意されている。今回、試用した製品には、1.5TBのカートリッジが同梱されていたが、320GB/500GB/1TBもラインナップしており、記録する容量によって使い分けることができる。
中身はSATAの2.5インチHDDだが、衝撃に対する耐性が確保されていたり(1メートル落下で900G)、ホコリなどから保護できるように工夫されている。
装着は簡単で、スロットにカートリッジを差し込んでいけば良い。これまた精度が高く、奥まで滑り込ませると、さほど力を入れなくても、カチッという音がして、しっかりと装着される。取り外すときも、ボタンを押せば、自動的にゆっくりとイジェクトされるので、引き抜くだけだ。このあたりの完成度も非常に高いという印象だ。
一方、背面だが、こちらはシンプルで、1000BASE-TのLANポート×2、USB3.0ポート×2、USB2.0ポート×2、eSATA×1、VGA出力×1、電源コネクタが用意されており、冷却用の9cmファン1基が搭載されている。
エンタープライズ向けのNASは、静音性にあまり配慮されていない傾向があるが、本製品は動作音も静かで、電源投入直後こそファンが高速回転して大きな音が出るが、起動が完了してからは低回転に切り替わるため、非常に静かだ。無音というわけにはいかず、耳を近づければ低くファンの音が聞こえるが、「エンタープライズ向けNAS=うるさい」という固定概念で使うと拍子抜けするほど静かだ。
電源オンですぐに利用可能
設定も苦労しないだろう。初期設定は、フロントのディスプレイでIPアドレスを確認し、ブラウザからアクセスするだけと簡単にできる。
HDDが標準搭載されているおかげで、一般的なNASキットで必要なRAID構成の儀式も必要ない。標準でRAID6でHDDが構成済みとなっており、「Public」や「Download」、「VIDEO」など、一般的によく利用される共有フォルダーも標準で作成済みとなっている。プロトコルも、CIFS、FTP、NFS、AFP、WebDAVが標準で有効になっており、電源ONですぐに利用できる。
また、ネットワークの設定も標準で、2つのポートが「バランス-ALB(Adaptive Load Balancing)」で設定済みとなっており、冗長性が確保された状態で、すぐに利用することができる。こういった設定も、通常のNASでは後から自分で行なう必要があるが、標準で有効になっているあたりに、コダワリを感じるところだ。
もちろん、ユーザーを追加したり、プラグインとして提供されているDLNA Server機能を有効にするなど、必要最低限の設定や用途ごとのカスタマイズは必要だが、ここまで標準設定で至れり尽くせりなNASというのも珍しい。利用者のスキルレベルがあまり高くなくても、一定の信頼性を確保できるのは大きなメリットと言えるだろう。
設定画面については、設定項目が多いため、どこにどの設定があるのかを把握するまでに若干の慣れは必要だが、オーソドックスなWeb設定構成でありながら、デバイスのステータス確認画面で、本体グラフィックを利用した直感的な操作が可能など、使いやすさも工夫されている。
そこかしこに見られる誤訳と思われる日本語のクオリティに、若干、萎えてしまうこともあるが、総じて、使いやすさのレベルも高い印象だ。
RDXバックアップやDropboxバックアップを設定する
続いて、実際にT5Rならではの機能を使って見よう。まずは、RDXを利用したバックアップだ。T5Rでは、バックアップと名の付く機能が多数用意されており、スナップショットバックアップ、リモートバックアップ、ローカルバックアップ、Amazon S3、タイムマシンバックアップ、iSCSIへのバックアップ、DropBox、OpenStack Object Storage、RDXバックアップ、Grand Cloud、RDXスパニング、CTC Cloud(2013年初頭サービスイン予定)などが利用できる。
バックアップ機能が充実しているぶん、複数のバックアップの種類が混在しており若干わかりにくいが、RDXを利用する場合は、「RDXバックアップ」を選択する。
外付けのRDXユニットも利用可能なため、バックアップデバイスとしてUSBなどの候補も表示されるが、「内蔵RDX」を選択し、バックアップ方法として「コピー」、「同期」などを選択、スケジュールとして一定時間感覚、日時、週次と時刻を設定すれば完了だ。
あとは、バックアップ時間に合わせて、本体前面にRDXカートリッジをセットしておけば、自動的にバックアップが実行される。複数のカートリッジを曜日ごとに使い分けるなどすれば、履歴を確保しながら、バックアップを実行できる。基本的にSATA HDDとなるため、バックアップ速度も高速だ。
もちろん、RDXと他のバックアップを併用することも可能だ。たとえば、DropBoxを利用すると、ユーザーごとのホームフォルダにある特定のフォルダのデータをDropboxにアップロードすることができる。この設定は、ユーザー自身が設定画面にログインし、自分のアカウントを利用して設定することが可能となっている。このため、ユーザー自身が、どのフォルダをバックアップするのか、いつバックアップするのかを自由に設定できる。
残念ながら、DropboxのWebアップロードと同じしくみを利用しているため、350MB以上のファイルをアップロードできない制限があるうえ、同期ではなくアップロードとなるため、ファイルをリネームした場合などはリネーム前のファイルも残る仕様となる。このあたりは、使う時に注意するといいだろう。
このほか、同社では、シマンテックの「Symantec System Recovery 2011」を利用したソリューションも推奨している。既存のサーバーにSymantec System Recovery 2011を導入し、バックアップ先としてT5Rを設定することで、1TBのバックアップを2時間43分(同社調べ)にてバックアップできるとしている。通常のファイルベースのバックアップソフト+エントリー向けのNASに比べて6倍速いバックアップが可能とのことなので、既存サーバーのバックアップ用としての導入も検討してみるといいだろう。
価格は高いが安心も一緒に買える
以上、イメーションの「Data Appliance T5R」を実際に使ってみたが、非常によく作り込まれたNASという印象だ。パフォーマンスも以下のように、実用十分な速度を実現できている。
価格は参考価格で30万円と非常に高価だが、RDXによるバックアップ環境が標準で含まれていることを考慮すれば、さほど価格的なデメリットは感じない。むしろ、エンタープライズ向けのHDDの採用、細部にまでこだわった作りの良さ、標準設定ですぐに使える手軽さなどを考慮すると、妥当な価格とも言える。
なお本製品は、標準保証で3年間の交換品先出しサービス(バックセンド)となっているが、この保証期間はオプションで2年間延長可能なうえ、有償で24時間365日コール受付、当日オンサイト対応のサポートサービス(1/3/5年)を付けることもできる。
年中無休のコールで当日オンサイト対応というサポートは、コンシューマー向けNASでは到底考えられない。交換品先出しサービスなども含め、法人向け製品ならではの業務継続性を重視した手厚いサポートと言える。
幾重にも用意されたトラブル防止のための工夫、万が一の場合のRDXによるバックアップの安心、そして手厚いサポートと、まさに安心を買うことができるNASと言って良いだろう。