清水理史の「イニシャルB」
速度重視派も駆動時間重視派もこれなら満足 4x4だけじゃないUQ「Speed Wi-Fi NEXT WX01」
(2015/4/20 06:00)
UQコミュニケーションズから、最大220Mbpsに対応するモバイルルーター「Speed Wi-Fi NEXT WX01(以下、WX01)」が発売された。220Mbpsの実現方法として4x4 MIMOを採用しているのが特徴だが、実は4x4 MIMOを使わない省電力モードとBluetooth接続の組み合わせが強烈で、バッテリー駆動時間を飛躍的に向上させることができる製品だ。
速度だけがコダワリじゃない
「220Mbpsじゃなくてもいいじゃん」。
いきなりで申し訳ないが、一通りWX01を使ってみて思い浮かんだのは、こんな感想だ。
勘違いしないでほしいが、決してネガティブな意見ではない。実際、WX01の最大の特徴でもある220Mbpsの通信は速い。
先行して発売されたファーウェイ製のW01が、CAによる40MHz幅化で220Mbpsを実現しているのに対して、今回採り上げたNECプラットフォームズ製のWX01は、使用帯域は20MHz幅のままで、MIMOを従来の2ストリーム(2x2)から4ストリーム(4x4)に変更することで、110Mbps×2の220Mbpsを実現している。
この方式のメリットは対応エリアで、CA方式が栃木県の一部から始まって徐々に全国展開されている予定となっているのに対して、4x4 MIMOは既存のほとんどのWiMAX2+エリアで利用可能となっている。
実際の速度は、エリアや時間帯に左右されるため、一概には言えないが、自宅では50Mbps、外出先などでも20Mbps~30Mbpsの速度で通信できており、まったく不満を感じることはない。インターネット上の情報によると、もっと高速な結果も得られているようだが、モバイル通信で50Mbpsを実現できていれば十分と言える。
しかしながら、むしろ個人的に感心したのは、この4x4 MIMOをあえて使わない省電力モードとBluetoothによる組み合わせだ。
WiMAX系のモバイルルーターのバッテリー駆動時間は、これまで「ファーウェイ>NECプラットフォームズ」という関係が成り立っていた。今回のW01とWX01も、同じで、カタログスペック上はW01が480分(8時間)、WX01が400分(220Mbps時)となっている。
しかし今回のWX01では、これを設定次第では逆転することが可能となり、実測で10時間以上の動作も確認することができた。
これは想像にすぎないが、おそらく、開発担当者の中に、バッテリー駆動時間で何とかファーウェイを上回りたいという思いがあったのではないだろうか。もちろん、速度は犠牲になってしまってはいるが、それをいろいろな工夫によって、何とか実現したことに個人的には大きな拍手を送りたい。
地味と言っては失礼かもしれないが、こういった細かな努力の跡が感じられる製品というのは、開発者の思いがそのまま感じられるようで、個人的には非常に好みだ。
サイズは少し大きめ
それでは、製品を見ていこう。まずはサイズだが、幅109×高さ66×奥行き9mmとなっており、モバイルルーターとしては少し大きめのサイズに感じられる。
従来モデルのNAD11が幅109×高さ65×幅8.2mmだったので、高さと奥行きが少し拡張されている。デザイン的にもエッジに向かって湾曲されるような処理がなくなり、直線的に構成されたエッジの立ったデザインとなった影響で、スリムな感じが薄れているのだろう。
とは言え、ライバルとなるファーウェイのW01のサイズが120mm×59×10mmなので、体積で比べると実はW01よりもWX01の方が小さいことになる。また重量も、W01の113gに比べて97gと軽い。横長のデザインのおかげでスリムな印象があるW01に比べて、縦方向にサイズ感があるので、一見、不利に見えるが、実はコンパクトさという点ではWX01が上ということになる。
デザイン上の特徴としては、ボタン類の配置が改善されたことだ。従来のNAD11は、前面の液晶に対してボタンが側面に配置されていたため、画面を見ながらだとボタンを確認できなかったが、今回は前面の液晶下に「SET」、「SELECT」、「電源」の3つのボタンが配置されるようになった。
モバイルルーターの場合、初期設定と接続の時くらいしか画面を見ながら操作することはないが、先にも少し触れた通り、今回の製品は省電力モードへの切り替えや接続方法をBluetoothに変更することによって、バッテリー駆動時間を延ばすことができる。
こういった設定変更が1日のうちに何度かあり得ることを考えると、この配置変更は非常に理にかなっていると言えそうだ。
背面のカバーは、取り外しが可能となっており、開けると2500mAhのバッテリーとSIMスロットが姿を現す。今のところバッテリーは個別に販売されていないようだが、いざというときに交換可能になっていることは心強い。こういった点もW01との違いと言えそうだ。
2.4GHzの144Mbpsではもったいない
使い勝手は良好だ。本体前面の画面を見ながら、WPSもしくは「らくらく無線スタート」による設定を開始すれば、スマートフォンやPCなどを簡単に接続することができる。また、QRコードによる設定にも対応しており、スマートフォン向けのアプリ「らくらくQRスタート」を利用することで、同梱されたQRコードを読み取ることで設定することもできる。
端末の設定画面も、PCからはもちろんのこと、スマートフォン向けのページも用意されており、外出先などでの設定変更にも柔軟に対応できる。
また、「NEC WiMAX 2+ TOOL」アプリを利用することで、スマートフォンから通信状況やバッテリー残量を確認したり、遠隔操作で休止、休止からの復帰をコントロールすることもできる。こういった使いやすさの工夫は、これまで先行してきただけあって、やはりレベルが高い。
ちなみに、無線LANの設定は標準では2.4GHz帯を使う設定となっている。カタログスペック上は最大300MbpsのIEEE 802.11nに対応しているとされているが、筆者が試したところ最大で144Mbpsでの接続にとどまった。設定画面に帯域幅の設定項目が見当たらないが、「現在の状態」から見るとチャネルが1つしか表示されないので、20MHz幅で接続されていると推測できる。おそらく40MHzと20MHzの自動選択となっており、通常は20MHzが優先されるのだろう。
前述したように、本製品は4x4 MIMOによる最大220Mbpsの通信に対応している。もちろん220Mbpsと言っても実効速度は100Mbps以下となる可能性が高いが、2.4GHzで20MHz幅の144Mbpsでは、スペック上でも無線LANがボトルネックになってしまう。
できれば、5GHz帯に切り替えてIEEE 802.11ac(最大433Mbps)で接続することを推奨したい。5GHz帯を有効にすると、前面の画面からボタンを使って「2.4GHz」、「5GHz(屋外)」、「5GHz(屋内)」を選択できるようになる。
なお、「5GHz(屋外)」を選択すると、DFSによる探索が有効になり、起動時や切り替え時に、気象レーダーなど同じ周波数帯を使うシステムとの干渉がないチャネルが探索されるようになる。
DFSによる探索を無効にしたいなら「5GHz(屋内)」を選択する必要があるが、このW52/W53の周波数帯は、電波法で屋外での利用が認められていないので、持ち歩く可能性がある場合は選択しないように注意しよう。
最大で10時間の連続通信も可能
気になるパフォーマンスだが、通信速度に関しては、筆者宅での計測で下り58.78Mbps、上り7.9Mbpsとなった。従来のWiMAX2+に比べるとやはり高速で、4x4のメリットが出ていることは確実だ。
ただし、この値はIEEE 802.11acの433Mbps接続時で、2.4GHzでの接続では、下り19.66Mbpsになってしまった。前述したように無線側がボトルネックになっている可能性が高い。
正直、220Mbps対応ということで、100Mbpsとは言わないまでも、60~70Mbpsくらいは期待していたところだが、電波の状況や混雑度合いに左右されやすいモバイル通信では、そうもいかない。とは言え、50Mbps越えを実際に目にできたので、速度としては十分と言えそうだ。
続いて、注目のバッテリー駆動時間を調べてみた。冒頭でも触れた通り、WX01には省電力モードという設定が用意されている。これは、標準では4x4 MIMOの220Mbps対応となっているWiMAX2+のモードを、2x2 MIMOの110Mbps対応に変更し、さらに無線LANの通信速度も抑える(72Mbps)ことで、消費電力を抑えるモードだ。
また、PCやスマートフォンの接続にBluetoothも利用できる。開発元のNECプラットフォームズはLTE向けにBluetooth接続可能な「AtermMR03LN」という製品をラインナップしているが、これと同じ機能となる。従来のNAD11もBluetoothに対応していたが、こちらは端末のリモートウェイクアップに利用するのみで、データ通信には利用できなかった。
さて、動作モード、および接続方式を変更しながら、バッテリー駆動時間を調べてみた結果が以下の通りだ。PCを接続し、一定時間おきにPingとHTTP GETを繰り返すバッチファイルをバッテリーが切れるまで繰り返し実行した。なお、今回のテストでは無線LAN接続には2.4GHz帯を利用している。
接続方式 | 動作モード | 動作時間 | 開始時間 | 終了時間 |
WiFi(2.4GHz) | ハイパフォーマンス | 6:24 | 9:00 | 15:24 |
Bluetooth | ハイパフォーマンス | 7:59 | 17:56 | 1:55 |
WiFi(2.4GHz) | 省電力 | 8:02 | 8:52 | 16:54 |
Bluetooth | 省電力 | 10:38 | 19:36 | 6:14 |
W01 | (参考) | 8:40 | - | - |
標準の状態、つまり220Mbps+無線LAN接続の場合、バッテリー駆動時間は6時間24分となり、カタログスペックの400分を若干下回る結果となった。やはり、少々、物足りない印象だ。
しかし、モードはそのまま接続をBluetoothに変更すると7時間59分になったほか、接続は無線LANのままモードを省電力モードにすると8時間2分となり、1.5時間ほどバッテリー駆動時間を延ばすことができた。
さらに両方を組み合わせたBluetooth+省電力モードでは、10時間38分と、大幅に動作時間が拡張され、ライバルとなるW01よりも長時間の利用が可能となった(こちらの記事のデータを参考として掲載)。
もちろん、これらの設定をすると通信速度は制限される。以下は、2.4GHz接続の省電力モード、5GHz接続の省電力モード、Bluetooth接続の省電力モードの速度測定結果だ。
省電力モードだけであれば、WAN側が110Mbpsとなり、無線LANも5GHzは433Mbpsのまま、2.4GHzでも72Mbpsとなるだけなので、速度的にもさほど大きな低下はない。体感では、このままでの十分に運用可能だ。
Bluetoothになると、さすがに遅くなり、上り下りともに1Mbpsとなるが、外出先で利用するようなシーンでは、実効速度が1Mbps程度になることはさほど珍しくないため、こちらも「比べれば遅い」程度の体感となる。
220Mbps対応のモバイルルーターを手に入れて、いきなり220Mbpsを捨てるというのは、なかなか勇気のいることだが、実用を考えると省電力モードの常用も現実的と言えそうだ。
もちろん、これらの設定は、前面の画面で簡単に変更できる。このため、出張など長時間の利用が想定される時だけ、モードを切り替えるといった運用も可能だ。こういった柔軟性の高さこそが、WX01の魅力と言えそうだ。
なお、Bluetooth接続については、端末側がPANUプロファイルに対応している必要がある。PCやAndoid、iPadなど、ほとんどの機器が対応しているが、iPhoneだけは対応していないので注意が必要だ。
いろいろなニーズに対応できる
以上、UQコミュニケーションズのモバイルルーター「Speed Wi-Fi NEXT WX01」を実際に試してみたが、単に220Mbpsに対応しただけでなく、省電力の工夫もこの製品を特徴付けている大きなポイントと言える。
220Mbpsの高速な通信を使いたい場合にも対応できたり、なるべく長時間使える通信環境が欲しいという人にも対応できるので、さまざまなニーズに応えることが可能だろう。
今回は連続通信の時間を紹介したが、スマートフォン向けのアプリを使って、こまめに休止させるように使えば、さらに長く使うことも不可能ではない。使い勝手の良さも含め、WiMAX2+向けに限らず、現状のモバイルルーターの中では、かなり完成度の高い製品の1つと言っていいだろう。
これからWiMAX2+の契約を考えている場合はもちろんのこと、既存のモバイルルーターの買い替えを検討している場合も、有力な選択肢の1つと言えそうだ。