特別編補足版:近端漏話とカッド構造の密接な関係



 前回の特別企画「つながらない!? ADSL 8Mサービスの現状を探る」にて近端漏話について解説した。この点についてもう少し詳しい解説をしておこう。電話回線のカッド構造を理解すれば、近端漏話がなぜ発生するのかも理解できる。





近くに収容されているとはどういうことか?

幹線ケーブル、支線ケーブルを経て電話局から自宅まで電話回線(銅線2芯)は引き込まれる。この途中のケーブル内で、隣接漏話が起こる

 まず、前回説明した近端漏話についておさらいしておこう。近端漏話とは近くに収容されているISDN回線からの影響をADSL回線が受けてしまうことだ。国内のADSLは、そのほとんどがISDNからの干渉に強いAnnex Cという規格を採用しているが、それでもISDNからの干渉によって速度が低下したり、接続が切れてしまうなどのトラブルが発生する可能性がある。

 問題は、どれくらい近くにISDNが収容されていると干渉を受けるかだ。前回の特別企画では、話をわかりやすくするために「隣の家」という例をあげながら話をすすめたが、実際には隣の家がISDNを導入していても干渉を受けない場合もある(もちろん、自宅にISDNとADSLの両方を導入している場合も同じ)。なぜなら、隣の家のISDN回線が必ずしもADSL回線の近くに収容されているとは限らないからだ。

 そもそも、電話回線はNTTの局から地下を通り、途中の基線点というポイントで地上に配線され、そこから電柱などを経由して各住個に配線される。つまり、実際は途中で何本もの電話回線が1本のケーブルにまとめられて配線されているわけだ。このため、物理的には離れた場所にある家でISDNが導入されていたとしても、このまとめられたケーブル内で配線が隣接すれば、そこから干渉を受けてしまうことになる。





近くのカッドからの影響を受けやすい

 このような仕組みは電話回線のカッド構造を知ると理解できる。具体的には、以下の図版のような構造だ。電話回線は1対の銅線からなるが、これが2組より合わされてカッドと呼ばれる構造をとる。そして、複数のカッドがまとめられてサブユニットやユニットという構造になり、さらに複数のユニットがまとめられて1本のケーブルとなるわけだ。


紙絶縁ケーブル。カッド内では対角の2本が1対となり、2回線分が収容されている。紙絶縁ケーブルでは、カッド50本でユニット、ユニット4本で1本のケーブルとなる

プラスチック絶縁(CCP)ケーブル。通常使用されているプラスチック絶縁ケーブルでは、カッド5本でサブユニット、サブユニット10本でユニット、ユニット4本で1本のケーブルとなる

 問題は、サブユニットやユニット内でのカッドの位置だ。各回線にはADSLやISDNなど各種サービスの回線を収容することができるが、同一内カッド内にADSLとISDNが収容されていたり、隣接したカッド、一つ飛びの位置にあるカッドにISDNが収容されていると、当然のことながら、その漏話の影響を受けやすくなってしまう。つまり、近くに収容されているというのは、このようにISDNとADSLのカッドが物理的に近い場合ということになるわけだ。

 また、ケーブルの絶縁方式によってもこの影響は変わってくる。電話回線のケーブルは紙絶縁のタイプとプラスチック絶縁のケーブルの2種類が存在する。古いタイプとなる紙絶縁のケーブルの場合、プラスチック絶縁に比べて漏話の影響も出やすい。このようにカッド内の位置、そして絶縁方式によってADSLの品質は大きく左右されてしまうわけだ。

 とは言え、どのカッドに自分の回線が収容されているのか、近くにどのような回線が収容されているのかはユーザーは知ることはできない。はっきり言って運の世界だ。このため、各ADSL事業者が回線収容替えのサービスを実施しているわけだ。ADSLの通信状態を調べ、ISDNからの漏話などが原因となれば、別のカッドに収容する回線を変更することで回線品質を向上させることができる。ただし、当然だが、ADSLで速度が出ない原因がすべてISDNの干渉とは限らない(むしろ局からの距離が原因である場合が多いだろう)。必ずしも回線収容替えで品質が向上するとは限らないが、場合によっては試してみる価値はある。


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2002/2/15 11:13


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。