第7回:UPnP対応ルータで半分だけ解決されるMessenger問題
一部のメーカーから、ようやくUPnP(Universal Plug & Play、ネットワーク上のデバイス認識と設定を自動的に行なう機能)対応ルータが登場し始めた。国内ではハイウエスト・ブレインネットの「PBRW002」、海外ではLinksysの「BEFSR」シリーズがそうだ。これらUPnP対応ルータによって、はたしてWindows Messengerは使えるようになるのだろうか?
●Windows Messengerの救世主として期待されるUPnP
右上にUPnPのマークがあるLinksys BEFSR41W |
すでにいろいろなメディアでレポートされているように、ルータを経由した環境では、ビデオチャットなど、Windows Messegerの一部の機能が利用できないという問題がある。これは、Windows Messegerが利用するSIP(Session Initiation Protocol、IETFが定めたリアルタイム通信の制御を行なうプロトコル)が、セッションを開始する際にPCに割り当てられているプライベートIPアドレスをプロトコルのデータ部分に埋め込んで通信するために発生する問題だ。
通常のネットワークアプリケーションのように、送信元のアドレスがプロトコルのヘッダ部分に埋め込まれるのであれば、ルータのNATで問題なく変換できる。しかし、データ部分にアドレスを埋め込まれた場合、ルータのNATではアドレスを変換できない。これにより、実際の通信時にグローバルIPアドレスではなく、プライベートIPアドレスが相手に通知されてしまい、要求を受け取った相手側が通信相手を特定できなかったわけだ。
Linksys BEFSR41Wの設定画面にはUPnPを有効にするチェックボックスがある |
そこで、期待されているのがUPnPだ。UPnPに対応したルータでは、NAT Traversalという機能が利用可能となっており、ルータのWANポートに割り当てられたグローバルIPアドレスをクライアント側で知ることができる。これにより、Windows MessengerはPCに割り当てられたプライベートIPアドレスではなく、ルータのWANポートに割り当てられたグローバルIPアドレスをデータ内に埋め込んで通信することが可能となり、ビデオチャットなどの機能も問題なく使えるようになるというわけだ。つまり、現状ルータ経由でWindows Messengerのすべての機能を利用するには、このようなUPnP対応ルータを利用するしか方法はないことになる。
そこで今回は、ようやく登場したUPnP対応のルータのうち、Linksysの製品を利用して、実際にWindows Messengerが使えるかどうかをテストしてみた。ちなみに、国内でもUPnP対応のルータとしてハイウエスト・ブレインネットの「PBRW002」が登場しているが、この製品についてメーカーに問い合わせてみたところ、UPnP対応はしているがWindows Messengerの動作は確認していないという回答だったため、ここではLinksysの製品のみをテストした。
●Linksys BEFSR41WのUPnP機能を試す
今回、テストに利用したのはLinksysの「BEFSR41W」というルータだ。4ポートのハブに加え、PCカードスロットを内蔵しており、ここに無線LANカードを装着することによって無線ルータとしても利用可能な製品となっている。
Linksys BEFSR41W(正面) | 背面にはWANポートとLANポート×4が並ぶ |
ちなみに、このBEFSR41Wは、海外でのみ販売されているモデルとなるが、無線機能以外は、国内でも入手可能な「BEFSR41」とほぼ同機能のルータとなる。このため、米国のLinksysのサイト(http://www.linksys.com/)から、最新版のファームウェアをダウンロードしてアップデートすることで、「BEFSR41」や「BEFSR11」もUPnP対応にすることが可能となっている。海外版のファームウェアのため、表示は英語となるが、それでも問題ないというのであれば、これらを利用する手もあるだろう。
それでは、実際にテストしてみよう。今回のテスト環境は以下の通りだ。片方の回線にはフレッツ・ADSLを利用し、ここにBEFSR41Wを接続。もう片方は、イー・アクセスの回線を利用し、ブリッジモードに変換したADSLモデム(住友電工製TE4121C)をPCに直接接続してテストしてみた。
イー・アクセスとフレッツ・ADSLの2本の回線を利用し、フレッツ・ADSL側にBEFSR41Wを設置。ADSLモデムを直結したイー・アクセス側のPCとWindows Messengerを利用してみた |
テスト結果は以下の表の通りだ。期待通り、ビデオチャットなどの機能を何の問題もなく利用できた。唯一、片方向だけリモートアシスタンスがうまく動作しなかったが、これはリモートアシスタンスがファイルに自分のプライベートIPアドレスを埋め込むという、さらに特殊な通信方式を利用するためUPnPでも対応できなかったと考えられる。これ以外の機能については、何の問題もなく利用できた。
UPnPルーター →ADSLモデム直結 | ADSLモデム直結 →UPnPルーター | |
ファイル転送 | ○ | ○ |
ホワイトボード | ○ | ○ |
ビデオチャット | ○ | ○ |
リモートアシスタンス | ×(※1) | ○ |
※1「リモートホスト名が解決できませんでした」というエラーメッセージが表示され通信不可能 | ||
UPnPルータの内側からリモートアシスタンスを要求した場合のみうまく動作しなかったが、他の機能は問題なく利用できた。 |
●複数セッションも問題なく利用可能
このようにUPnP対応のルータを利用すれば、問題なくWindows Messengerが利用できる。しかし、これだけでは、あまりにもあっけないので、複数のセッションを開始したときでも問題なく通信できるかもテストしてみた。先のテスト環境のうち、BEFSR41Wの内側にもう一台クライアントを追加し、ISDNでダイヤルアップ接続したPCに対してWindows Messengerのビデオチャットを要求してみたわけだ。
BEFSR41Wに2台のクライアントを接続。それぞれのPCから別のPCに対してビデオチャットを要求。複数セッションで利用した場合でも問題がないかをテストしてみた |
結論から言えば、この場合も問題なくビデオチャットの利用が可能だった。すでに別のPCでポートが占有されている場合でも、UPnPによって別のポートが選ばれ、問題なくデータの伝送が可能なようだ。これは大きなメリットと言えるだろう。
すでに本連載でもレポートした通り、エレコムのルータ「LD-WBBR4」などでは、UPnP以外の方法でWindows Messengerに対応している。しかし、このような対策では、Windows Messengerを利用するPCをDMZに設定しなければならないため、事実上、1台のPCでしかビデオチャットを利用できない。その点、UPnP対応ルータであれば、このような問題も発生しないわけだ。さすがにWindows Messenger対応の本命として注目されているだけのことはある。
●PC to Phoneへは未対応
さて、ここでもうひとつ気になるのは、2月14日にようやくサービスが開始された「PC to Phone」への対応だろう。Windows Messengerから、一般の電話機に電話をかけることが可能となるというサービスだけに、その注目度は高い。
そこで早速、BEFSR41W経由でPC to Phoneを利用しようとしたが、残念ながらこれには未対応だった。ルータ経由でサインアップしようとしたり、サインアップ後に実際に電話をかけようとすると、サーバー側でルータ経由であると判断されてしまい、サインアップができなかったり、電話をかけるためのボタンなどがグレーアウトして利用できなかった。
ADSLモデムを直接PCに接続した場合やNEC Aterm WBR75Hの「PPPoEブリッジ」(ルータをパススルーしてクライアントのPPPoEクライアントから接続できる機能)などを利用した場合は問題なくPC to Phoneを利用できただけに非常に残念だ。ただし、ルータ経由での利用は近日中に何らかの対応がなされるようだ。実際、ルータ経由でアクセスすると、画面に近日中にルータ経由でも利用可能にするというメッセージが表示される。具体的にどのような対策がなされれるのかは不明だが、この問題が解決するのも時間の問題だろう。
このように、LinksysのBEFSRシリーズは、現段階で唯一、Windows Messengerが利用できるルータとして高く評価できる製品だ。しかし、注目のPC to Phoneが使えない点、英語でしかもわかりにくいインターフェイス利用しなければならない点、国内で入手できるBEFSR41が実売で15800円前後と価格が高い点などと欠点もいくつか存在する。今すぐにWindows Messengerを使いたいというのであれば話は別だが、他社製ルータのUPnP対応を待ち、それらの製品と比較検討してから購入しても遅くはないと言えるだろう。
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2002/2/19 11:28
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