第13回:イー・アクセスの新ファームウェアを試す
5月8日、イー・アクセスの8Mbps用ADSLモデムの新ファームウェアが公開された。AMラジオの影響を中心としたノイズ耐性の向上、通信速度に関する性能改善、そして新しい技術である「GapNAT」への対応が図られている。早速、テストしてみたので、その効果をレポートしていこう。
●環境によって異なる新ファームウェアの効果
今回、イー・アクセスから公開された新ファームウェアの最大の特徴は、安定性の強化と言える。主にAMラジオなどに対するノイズ耐性の強化が図られており、現状、速度の低下、回線の切断などに効果があるとされている。同社では、過去にも何度かADSLモデムのファームウェアをアップデートしてきたが、今回の新ファームウェアは、これらの対策の集大成と言えるほど、大きな変更となっているようだ。
住友電気工業製のTE4121C。今回のファームウェアのアップデートで安定性の向上、GapNATへの対応などが図られている |
このため、今回の新ファームウェアには非常に期待していた。本連載でも何度か触れてきたが、筆者の環境では3回線あるADSLのうち、運悪くイー・アクセスの回線だけにトラブルが頻発する状況となっている。現状は、ほぼ1日中、回線の接続と切断が繰り返されており、まれにリンクアップしても64kbpsなど冗談のような速度しか出ないことが多い。今回の新ファームウェアによって、少しでもこの状況が改善されればと非常に期待していたわけだ。
しかし、結論から言うと筆者の環境に対しては新ファームウェアの効果はなかった。TE4121Cのファームウェアを新バージョンの1.11にアップデートして接続してみたが、状況は以前とまったく変わらず、現在も回線の切断が繰り返されている。筆者のように回線自体の品質が極端に悪いケースまでは対応できないのだろう。
ちなみに、インターネット上のイー・アクセスのユーザーサイトなどを眺めていると、速度が向上するなどの効果が見られたという報告もされており、その効果は環境次第だと言える。今回の新ファームウェアでは、ADSLモデムが回線の速度を決定する際のトレーニングのロジックも変更されているようなので、この効果が現れたのだろう。このため、現状、速度や安定性に問題がないユーザーでも試してみる価値はあると言える。新ファームウェアの改善項目と自分の回線環境が運良く合えば、その効果も期待できるはずだ。
●Windows Messengerにも対応
また、今回の新ファームウェアでは、長い間課題とされていたWindows Messengerへの対応も図られている。といっても他社の製品などで行なわれているようなUPnPでの対応ではなく、「Windows Messenger ALG」、「GapNAT」という二通りの方法での対応となる。
「Windows Messenger ALG(Application Level Gateway)」は、独自方式でWindows Messengerに対応している他社製のルータとほぼ同じ方法だ。残念ながら詳しい仕組みまでは公開されていないが、通常のNATルータモードで動作させながら対応できているので、恐らくパケットの中身をチェックしてアドレスを書き換えるという方式だろう。試しにテストしてみたところ、何の問題もなくWindows Messengerのビデオチャットが利用できた(他の機能もフィルタリングの設定などを適切に行なうことで利用可能)。
通常のNATルータモードでもWindows Messengerを利用可能。画面下にある「Windows Messengerを使用する」にチェックを付けることで、Windows Messenger ALGが有効になる |
一方、「GapNAT(Global Adderess Proxy NAT)」は、住友電気工業の新技術で、これまでになかった新しい方式となる。簡単に説明すると、LAN上のPCにグローバルIPアドレスを割り当てるという方式になる。通常のNATルータモードでは、ルータのWANポートにグローバルIPアドレスが割り当てられ、LAN上のPCにはプライベートIPアドレスが割り当てられる。これをNATによってアドレス変換するのだが、GapNATではプロバイダーから割り当てられたグローバルIPアドレスをLAN上のPCにも割り当ててしまう。つまり、ルータのWANポートとLAN上のPCの両方に割り当てられたグローバルIPアドレスを利用してしまうわけだ。
ルータに「user」アカウントでログオンすることにより、GapNATの設定が可能。PCに装着されているNICのMACアドレスを指定しておけば、常に同じPCにグローバルIPアドレスを割り当てることができる |
どのようなグローバルIPアドレスが割り当てられるかは、GapNAT情報で参照することができる |
正直、「そうきたかぁ」という印象だ。力業とも言える方法だが、これならWindows Messengerに限らず、ネットワークゲームなど、グローバルIPアドレスが必要なアプリケーションはすべて動作させることができる。似たような方式として一般的なルータで採用されているDMZがあるが、DMZは外部からグローバルIPアドレスを割り当てたように見えるにすぎないうえ、クライアントにはプライベートアドレスが割り当てられている。しかし、GapNATでは、実際にクライアントにグローバルIPアドレスが割り当てられるうえ、フィルタリングなどの機能を利用できる点が大きく異なる。このため、DMZやポートフォワードよりも柔軟な動作が可能となり、LANのPCをサーバーとして公開したい場合などにも応用できる。
実際、TE4121CをGapNATモードにして利用してみたが、クライアントのIPアドレスを確認すると、きちんとグローバルIPアドレスが割り当てられていた。ちなみに、グローバルIPアドレスが割り当てられるPCは、何も設定しないとLAN上で最初に起動したPCとなるが、設定画面にMACアドレスを指定しておけば特定のPCに割り当てることもできる。もちろん、Windows Messengerも問題なく利用できた。
Windows XPでIPアドレスを確認したところ、正常にグローバルIPアドレスが割り当てられることを確認できた。これなら、どのようなアプリケーションであっても正常に利用することができる |
ただし、GapNATを利用すると、LAN側の使い勝手が多少悪くなる。グローバルIPアドレスが割り当てられたPC以外は、通常のプライベートIPアドレスが割り当てられるため、LAN上のPCのアドレス空間が異なるという状況になってしまうからだ。TE4121Cでは、この問題を回避するために、「グローバルIPアドレス-プライベートIPアドレス」間のルーティングが可能となっており、実際、PINGなどを実行しても問題なく通信できるが、ルータを越えられないブロードキャストなどに頼る通信はこの限りではない。このため、たとえばマイコンピュータにお互いのPCが表示されないなどの状況が発生してしまう。「\\192.168.1.2\共有名」というようにIPアドレスで通信相手を指定すれば、ファイル共有なども可能だが、これではやはり使い勝手が悪い。
こう考えると、GapNATは、どうしてもルータを越えられないアプリケーションを使う場合、もしくはLAN内にサーバーを構築して外部からの接続を受け付けるときの手段として利用すべきだと言える。Windows Messengerを使いたいだけなら、前述した「NATルータ+Windows Messenger ALG」でも可能なので、通常はこちらを使った方がいいだろう。
●とにかく試してみるべき
このように、今回、イー・アクセスから公開された新ファームウェアは、非常に多機能なものとなっている。実際に安定性や速度が向上するかどうかは環境によるが、とりあえず試してみる価値はあると言える。
なお、これは余談だが、TE4121Cと同等の製品がNTT-MEから「MN7310」として販売されており、こちらも同様の改善がなされたファームウェアが公開されているのだが、こちらのサイトからダウンロードできるマニュアルの方が「Windows Messenger ALG」や「GapNAT」の設定方法などがより詳細に記載されている。イー・アクセスからダウンロードできるマニュアルは、あまりにも簡易なので、こちらを参考にしてみるのもよいだろう。
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2002/5/14 11:14
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