第207回:外出先からのテレビ視聴に加えて録画やWOLも可能
H.264採用で高画質化も図ったオネスト「MY-IPTV Anywhere」
オネスト・テクノロジーから、自宅のテレビを外出先から視聴可能な「MY-IPTV Anywhere」が発売された。PCにインストールして利用するソフトウェアタイプの製品だが、高い画質と豊富な機能が特徴の製品だ。その実力を検証してみよう。
●ソフトウェアタイプでは最高峰の実力
「外出先から自宅のテレビを見たいんだけど……」。もし、筆者がほかの人からこんなアドバイスを求められたとしたら、現状であれば、おそらくソニーのロケーションフリーを勧めるかもしれない。しかし、その相手がPCの利用に精通していたとしたら、これからはロケーションフリーに加えて、新たな選択肢を追加するだろう。それが今回紹介するオネスト・テクノロジーの「MY-IPTV Anywhere」だ。
ネオスト・テクノロジーの「MY-IPTV Anywhere」。PCにインストールすることで外出先からテレビを視聴することができるサーバーとプレーヤー製品 |
「MY-IPTV Anywhere」は、PCにインストールして利用するソフトウェアで、PCに搭載されたテレビチューナーカードの映像をインターネット経由で配信するサーバーソフトウェアと、その映像を外出先から視聴するためのクライアントソフトウェアから構成される製品だ。同様の製品としては、以前に本コラムで紹介したイニシアの「Clipstream Live」などがあるが、「MY-IPTV Anywhere」はサーバー、クライアントともに専用のソフトウェアを利用する形態となっている。
正直なところ、この手の製品の中でもソフトウェアタイプの製品は個人的にはあまり好みではなかった。なぜなら、外出先から利用するためだけに、常にPCを起動しておくことが効率的ではないと感じていたからだ。しかし、今回の「MY-IPTV Anywhere」は、そんなソフトウェアタイプの欠点を補ってあまりある十分な魅力を備えている。
●市販のテレビチューナーカードで利用可能
「MY-IPTV Anywhere」の魅力を紹介する前に、その利用方法を簡単に紹介しておこう。まず、「MY-IPTV Anywhere」は、現状ソフトウェアのみの提供となるため(9月にパッケージ版が登場予定)、PC側にテレビチューナーカードが必要になる。
同社のホームページに掲載されている動作条件によると、テレビチューナーの条件は、ソフトウェアエンコードタイプのアナログテレビチューナー(PCIまたはUSB 2.0接続のもの)となっているが、筆者がテストした限りではハードウェアエンコードタイプの製品でも利用可能だった(SKnet「Monster TV PH-RM」を利用)。動作確認情報などが掲載されていないため、実際にどのカードで動作するかはわからないが、一般的なテレビチューナーカードであれば利用できるのではないだろうか。
テレビ放送の受信にはPCに装着されたテレビチューナーを利用する。筆者宅で試してみたところSKnetの「Monster TV PH-RM」での動作を確認できた | チャンネルの設定も問題なく可能。通常のアンテナ受信に加えて、CATV受信設定に対応するほか、ビデオ入力もソースとして指定できる |
PCの用意ができればあとはインストールと設定だが、設定は若干手間がかかる。まず、外出先から自宅にアクセスする際のアドレスを特定するため、ダイナミックDNSの設定が必要になる。これは、ネオスト・テクノロジー社が用意した中間サーバーを無料で利用できるのだが、利用にはサーバー側への登録が必要となっている。このため具体的にはブラウザを利用してユーザー登録を行なう必要がある。
続いてはルータの設定だ。9月に発売予定のパッケージ版ではUPnPによる自動設定に対応する予定となっているが、現在のバージョンではこの機能が実装されていない。このため手動でポートフォワードの設定をしなければならない。MY-IPTV Anywhereが利用するポートは9401-9402(TCP/UDPとも)となっているので、ルータでこれらのポートを通過させる設定をしておく必要がある。このあたりは、利用するルータごとに設定方法が異なるので注意が必要だろう(LAN上で利用するだけであればポートフォワードの設定は不要)。
外出先から自宅のサーバーソフトに接続するには2つの設定が必要。ひとつは同社の中間サーバーへの登録、そしてもうひとつはルータ側でのポートフォワードの設定だ。ポートフォワードでは、9401-9402(TCP/UDP)をローカルのPCに転送する設定を行なう |
以上の設定が完了すれば、外出先から自宅のPCのテレビを視聴可能になる。サーバー側でソフトウェアを起動した状態で、クライアント側でプレーヤーを起動し、ユーザーIDとパスワードを利用してログオンすれば自宅のチューナーの映像がプレーヤーに表示される。
設定完了後、サーバーソフトウェアからログオンすると映像の配信が開始され、クライアントから接続可能となる |
●H.264採用で低ビットレートでもクリアな画質
さて、肝心の画質だが、これは非常に高いクオリティだと感じた。MY-IPTV Anywhereでは、映像のファイル形式にH.264(MPEG-4 AVC)を採用し、暗号化されたデータをP2Pで伝送するという仕組みを採用している。この手の製品では、MPEG-4やWMVがフォーマットとして採用されることが多く、同社によると個人向け製品でH.264を採用したのは初ということだが、わざわざH.264を採用したのもうなずける画質だ。
標準では画質設定がAutoになっており、回線速度に応じて最適なビットレートが選択されるが、筆者宅で2本の光ファイバを利用して、WAN経由でのテストをしてみたところ、クライアントに無線LANを利用した場合でコンスタントに600kbps前後のビットレートで映像を再生できた。ロケーションフリーなどの他社製品では、このクラスのビットレートは低画質~中画質に相当し、画質が荒くてブロックノイズも目立ってしまうところだが、MY-IPTV Anywhereでは非常にクリアで、ノイズもほどんどないスムーズな映像が再生された。
標準サイズ(左)の画面とウィンドウを約800×600程度まで拡大した場合の画面(右)。拡大した場合、標準サイズに比べると若干細部が甘くなるが、H.264のおかげで500kbpsもあれば十分な画質が確保できる |
MY-IPTV Anywhereでは、最大で900kbpsまでビットレートを設定することができるが、実質的には500kbps前後のビットレートで十分実用的な画質で映像を楽しめる。この帯域であれば、自宅側が上りの速度が遅いADSLでも何とか確保でき、混雑した公衆無線LANなどのように実質1Mbps前後の速度しか出ないようなケースでも十分対応できるはずだ。
なお、映像のサイズはビットレートにかかわらず320×240固定となっているが、クライアントソフトのサイズを変更することで映像を拡大表示することもできる。さすがに1,024×768などのフルスクリーン表示すると細部が甘い印象の画質になるが、VGAクラスであれば画質の荒さもあまり目立たない。
さらに、ビットレートが低いおかげでバッファの時間が短くて済むからだと思われるが、チャンネルの切り替えが非常にスピーディなのも特徴だ。他製品の場合、チャンネルを切り替えてから一瞬遅れて画面が切り替わるが、本製品ではほぼ瞬時にチャンネルが切り替わる。しかも、クライアントソフトには「Surf」という機能が搭載されており、この機能を利用すると、ほんの数秒で受信可能な全チャンネルのサムネイルが表示され、そこから見たいチャンネルを選ぶことができる。このあたりの利便性も非常に高いのが印象的だ。
受信可能なチャンネルのサムネイルを見ながら見たいチャンネルを選べる「Surf」機能。チャンネルの切り替えも素早いため、ザッピングしながらの視聴に適している |
正直、これまで外出先から自宅のテレビ映像を視聴する製品では、画質面で妥協せざるを得ないケースが多かったが、この製品は帯域があまり確保できない場合でも比較的高いクオリティの画質を実現できるようになっている。画質面で考えれば、現在、もっとも高い実力を持っていると言っても過言ではないだろう。
●外出先からの録画やWOLによる電源制御も可能
このように、画質面で非常に高い性能を持った「MY-IPTV Anywhere」だが、機能的に見ても他の製品にはない特徴を備えている。
まず、特徴的なのは録画が可能という点だ。MY-IPTV Anywhereのクライアントソフトには、「REC」というボタンが供えられており、このボタンを押すと現在視聴中の映像がサーバーPCに録画されるようになっている(MPEG-1形式)。以前、本コラムで紹介したClipstream Liveなどでも視聴した映像のバッファをアーカイブとして視聴することができたが、MY-IPTV Anywhereの場合、ユーザーが明示的に録画を指示できるのが特徴となる(このほかDVD作成もリモートから可能)。
クライアントのRECボタンを押すと、視聴中の映像を自宅のサーバーPCに録画することができる。録画した映像はMPEG-1形式で保存される |
とはいえ、この機能は、現状ではあまり実用的とは言えない。なぜなら、録画された映像はサーバーPCに保存されるだけで、クライアントからは視聴できないからだ。しかし、これも現状のバージョンでの話であり、9月に発売予定のパッケージ版では、録画した番組をサーバーからクライアントにダウンロード可能になるほか、予約録画機能も搭載する予定となっている。ここまでできるようになれば、外出先から録画した番組も自由に見られるようになり、非常に便利になりそうだ。
このほか、個人的に非常に気に入ったのはWakeup On LAN(WOL)に対応している点だ。MY-IPTV Anywhereは、クライアントからリモートでサーバーをスタンバイ状態にしたり、WOLの機能を利用してリモートからサーバーPCを復帰させることができるようになっている。これは、LAN上ではもちろんのこと、WANからも利用可能だ。
外出先からサーバーPCをスタンバイにしたり、WOLでリモートから復帰させることも可能。これで自宅のPCを常にONにしておく必要がなくなった |
実際、筆者宅でテストしてみたところ、WAN経由でクライアントからサーバーをスタンバイさせることができ、再びスタンバイからサーバーを復帰させることも可能だった。ただし、残念なことに、PC自体をスタンバイから復帰させることはできたのだが、本来、PCの復帰後に自動的に起動するはずのMY-IPTV Anywhereのサーバーソフトウェアがうまく起動せず、最終的にクライアントからテレビを視聴することができなかった。
このあたりは、利用するPCの環境(BIOSやデバイスの対応)に大きく左右されるので、必ずしもうまくいくとは限らないが、冒頭で紹介したように外出先から利用するために常にPCを起動しておかなければならないソフトウェアタイプの製品の弱点をうまく補う画期的な機能と言える。
●体験版でも十分に実用的
以上、ネオスト・テクノロジーの「MY-IPTV Anywhere」を検証してみたが、画質やチャンネル切り替えの早さ、録画機能、WOLなど、本製品ではユーザーが実際に使う上で、どのようなシーンで不満を覚えるのかがよく研究されており、それに対する解決策が明確に提示されている点が好印象で、こういったメーカーの姿勢は非常に高く評価したいところだ。実際の購入は、やはりUPnP対応、録画ダウンロード、予約録画機能などが実装された9月のパッケージ版(もしくは相当のバージョン)を待つことをお勧めするが、ソフトウェアタイプの製品としては、現状でもトップレベルの実力と言えるだろう。
なお、同社のホームページから「MY-IPTV Anyewhere」の体験版をダウンロードして利用することが可能だが、この体験版が製品版に匹敵する多機能さで、制限されるのは録画機能とDVD作成機能のみで、テレビの視聴に関しては、テロップの挿入や時間制限などの機能制限は一切なしで利用できる。
個人的には、ロケーションフリーのように、赤外線リモコンによる外部機器の制御までできるようになってくれるのが理想だが、PCのテレビチューナーを活用したいというユーザーなどは、間違いなくおすすめしたい製品と言える。市販のチューナーで利用できる可能性も高いので、とりあえず体験版をダウンロードして使ってみると良いだろう。
関連情報
2006/8/8 11:04
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