イベントレポート
CEATEC 2025
大阪を「日本のツインエンジンの1つに」、CEATEC 2025最終日、吉村府知事が万博の新技術やレガシーを語る
2025年10月21日 06:30
CEATEC 2025の会期最終日となる2025年10月17日、クロージングセッション「万博のレガシーを継承し、大阪・関西から未来を切り拓く」が行われ、大阪府の吉村洋文知事が登壇した。
この日は、自らが代表を務める日本維新の会が、自民党との連立政権を見据えた動きで大きな注目を集めており、朝からテレビ番組への出演などを精力的にこなしていた吉村知事。午後3時から始まったCEATEC 2025の講演およびパネルディスカッションのために、幕張メッセまで駆け付け、午後4時45分までの間、10月13日に閉幕したばかりの大阪・関西万博の総括などを行った。
とくに、CEATECの会場にあわせて、テクノロジーの観点からの成果に時間を割いて説明していたのが印象的だった。吉村知事は、「大阪・関西万博で紹介された技術やアイデアを、一過性のものに留めるのではなく、産業化、実用化していることが大事である」と切り出した。
万博会場内にはプラスのオーラが
講演の冒頭には、「連立政権交渉の大変忙しい時期にお招きいただきありがとうございます」と語り、会場をわかせたあと、「経済を強くすることが、私の想いでもある。日本の政治と経済を強くしていきたい」と述べ、「今日は、大阪・関西万博の話ができることがうれしい。始まる前は、赤字になったらどうするのかと言われ、ひどい人からは、赤字分はお前が払えとも言われた。それならば、黒字になったらもらっていいのかと、ここまで出かかった」とジョークを飛ばしながら、講演をスタートした。
大阪・関西万博は、2025年4月13日~10月13日に、大阪・夢洲を会場に開催。158カ国/地域が参加し、関係者を含め約2902万人が来場して、最大280億円の黒字となり、3兆円の経済効果を生んだと試算されている。
吉村知事は、「表現はしにくいが、万博会場内には、プラスのオーラが流れていた。多くの人が笑顔であり、みんながひとつになって明るくなれるパワースポットのような空気感があった。連帯のようなものを感じた」とし、「大阪・関西万博は、世界の国々が、いのちをテーマに、地球規模の課題を共有し、未来社会を先取りする革新的な技術の数々を公開した。これをレガシーとして継承することが大切である」と語った。
可能性の高い技術の研究開発から製品化まで一貫した支援を
「万博で芽吹いた新技術の実装化、産業化」というテーマでは、「ライフサイエンス・ヘルスケア」「カーボンニュートラル」「新モビリティ」「スタートアップ」という4つの観点から説明した。
「ライフサイエンス・ヘルスケア」では、大阪ヘルスケアパビリオンで、iPS細胞に関する展示を行い、自ら動く心筋シートを公開したこと、カラダ測定ポッドでは、髪や肌、心血管など、7項目45種類の健康データを短時間に測定し、それをもとに25年後の自分と出会うことができる体験を行ったことを紹介し、「山中伸弥教授に、iPS細胞の実物を展示してもらえないかとお願いした。山中教授も1970年の万博で見た技術が、自分が科学者になるもとになったという経験があり、協力してもらった。iPS細胞を見た子どもたちが、インスピレーションを得て、第2の山中教授が生まれることを期待している。iPS細胞は生き物であり、2週間ごとに展開させながら、毎日展示をした」と振り返った。
この領域におけるレガシーとしての継承では、大阪府が、病院や研究機関、スタートアップを集積する中之島クロスを設置。臨床から実装までをワンストップで支援し、再生医療などの産業化を加速する体制を構築していることを示し、「中之島クロスでは、万博期間中に、国際会議も開催しており、今後は、万博のレガシーとして、ライフサイエンス分野のダボス会議のようなものを、毎年、大阪で開催していきたい」と述べた。
「カーボンニュートラル」では、CO2と水素から都市ガスの主原料であるメタンを生成するメタネーションを実現し、万博会場内の迎賓館の厨房と熱供給設備に供給したこと、薄くて、軽くて、曲がるといった特徴を持つペロブスカイト太陽電池を、バスシェルターの屋根に設置して、会場内の夜間電力に使用したり、衣服に取り付けた同電池で発電して、冷却ファンを回したりした事例を紹介。すでに、官民連携によって、e-メタンなどの次世代エネルギーの拠点形成に向けた取り組みを推進していること、2027年度にペロブスカイト太陽電池の量産化拠点を、堺の港湾地区で稼働する予定であることを示したのに加え、民間からの寄付で設立したイノベーション創出基金を活用して、スタートアップ企業などを支援することにも触れた。
「新モビリティ」では、大阪・関西万博の期間中に、空飛ぶクルマのデモフライトを行ったことを報告。「空飛ぶクルマは、空の移動革命になる」とした上で、大阪府と大阪市が、JALグループのSoracleと連携することを発表しており、2026年に実証運航を開始し、2027年に商用運航を開始する予定であること、Osaka MetroとSky Driveとの連携では、2028年に大阪城に隣接する森之宮エリアで、空から観光を楽しむサービスを開始する予定であることを示した。
また、自動運転バスについては、万博会場内での走行と、舞洲の駐車場までの一般道路の走行を行ったことを報告し、「大型EVバスが、一般道路を自動運転で走行したのは日本で初めてのことであった」と述べた。公共交通が不足している地域(南河内地域)において、自動運転バスを導入する計画であり、2026年春には、乗客を乗せた実証実験を開始し、運転手を必要としないレベル4での実用化を図るという。
そして、「スタートアップ」では、大阪ヘルスケアパビリオンにおいて、スマホでできる眼科診療、レーザー核融合発電、AIを活用した船舶自律運航技術など、432社の中小企業やスタートアップ企業が新たな技術や製品を発信。「可能性を持ったスタートアップ企業が数多く参加した。これらは、日本を牽引するイノベーションになる。スタートアップのエコシステムを作り、これを支えていきたい」としたほか、万博の開催にあわせて、日本最大級のスタートアップイベント「Global Startup EXPO 2025」を開催し、今後も継続的に開催を続ける考えも示した。
吉村知事は、「最新技術の実装化、産業化を推進するための仕組みづくり、体制を検討している。経済界や地元自治体、国などで構成するトップマネジメントの会議を設置し、可能性の高い技術について重点プロジェクトとして選定し、研究開発から製品化まで、一気通貫で支援する」と述べた。
大阪を首都機能をバックアップできるツインエンジンの1つに
最後に、「イノベーションを生み出すまちづくり」についても説明した。
大阪は、梅田と難波を結ぶ南北の軸が中心となって発展してきたが、万博会場となったベイエリアと、大阪城エリアを結ぶ東西の軸を、イノベーションが生まれる街づくりに活用。さらに、JR大阪駅北側の「うめきた2期」の開発において、ターミナル駅直結では世界最大級の都市公園を開設するなど、みどりとイノベーションの融合拠点として新たな価値を創出する取り組みを説明した。「すべてをビルにすれば瞬間的にはお金になる。だが、世界最大級の公園を作ったほうが、100年後、200年後には都市の価値があがるという信念のもとに決断した。維新や橋下、吉村は嫌いだが、この街づくりは認めるといわれることが多い」と語った。
大阪・関西万博の会場となった夢洲については、統合型リゾート(IR)を中心とした街づくりを進め、2030年に開業予定。1兆5000億円の民間投資により、10兆円の経済効果を見込んでいる。「カジノだけでなく、ショーの開催や国際会議の開催、展示場、シアターなども併設する。万博のレガシーを継承した街づくりを進めることになる」とした。
さらに、大阪城東部地区では、大阪公立大学を中心とした「知の拠点」を形成し、2028年には街開きを行い、Osaka Metroの新駅の開業、アリーナの整備、空飛ぶクルマや自動運転バスの拠点設置も予定しているという。
吉村知事は、「万博のレガシーを継承し、大阪を世界に伍する都市に飛躍させ、副首都・大阪を実現したい。日本は、東京に頼り過ぎた一本足打法になっている。大阪が日本のツインエンジンのひとつとなり、非常時には首都機能をバックアップすることができるようにしたい。証券取引所でも、NHKでも大阪にバックアップ機能がある。政府だけがそれをできていない。将来的には、東京、大阪以外の地域も成長し、複数のエンジンで、日本の成長を牽引する国の形をつくりたい」と語った。
吉村知事の講演のあとに行われたパネルディスカッションでは、大阪市高速電気軌道の代表取締役社長である河井英明氏が、大阪・関西万博期間中の自動運転バスの運行による成果について説明したほか、大阪商工会議所の副会頭である廣瀬恭子氏は、大阪ヘルスケアバピリオンでのリボーンチャレンジにおいて、中小企業やスタートアップ企業が数多くの展示を行ったこと、2025年日本国際博覧会協会持続可能性局長の永見靖氏は、大阪・関西万博が果たした産業発展や技術発展の役割について言及。BIPROGY事業開発本部事業推進三部長の三宅裕昭氏は、カラダ測定ポッドの取り組みについて説明した。
パネルディスカッションにも参加した大阪府の吉村洋文知事は、「大阪・関西万博を通じて、世界のみなさんとつながり、日本には、素晴らしい技術があり、素晴らしい挑戦者がいることを知ることができた。挑戦することが評価される社会にしていきたい」と語った。