第463回:バッテリー駆動で使えるポータブル無線ストレージ Kingston Technology「Wi-Drive」


 Kingston Technologyから、バッテリーで動作するポータブル無線ストレージ「Wi-Drive」が発売された。iPhone/iPad/iPod Touch向けの製品となっているが、HTTPやSMBでのアクセスも可能なうえ、無線LANのブリッジとしてインターネット接続にも利用できる製品だ。その実力を検証してみた。

モバイルにもローカル環境を

 もちろん、iPhoneの外部ストレージとしても優秀だが、この製品は、PCでの利用も含めたもっと汎用的なポータブルサーバーとして使っても面白い。

 Kingston Technologyから発売された「Wi-Drive」を実際に使ってみて、そう実感した。

 スマートフォンやタブレット、ノートPCなど、外出先で利用する端末と通信環境、そしてこれらの端末から利用するクラウドサービスの充実によって、場所を選ばずにデジタルデータを扱えるようになってきたが、だいぶ近づきつつあるとは言え、それでもまだローカル環境並の大容量と通信速度は実現できていない。

 これを補完する存在となるのが、この「Wi-Drive」だ。製品としては、16GB、もしくは32GBの容量を持つ外部ストレージとなっているが、バッテリー駆動で動作するうえ、無線LANアクセスポイント機能を搭載することで、外出先でもスマートフォンなどの端末から利用できる製品となっている。

Kingston Technologyの無線ポータブルストレージ「Wi-Drive」

 基本的には、iPhone/iPad/iPod TouchなどのiOS搭載機からの利用が想定されており、音楽や映像など、本体メモリに収まりきらないデータを保管しておくための外部ストレージとして活用することができるようになっている。

 言わば、モバイル版のNASと言ったところで、モバイルの世界にPC周辺機器やLANの概念を持ち込んだユニークな製品となっている。

持ち運びに便利なコンパクトなサイズ

 では、実際に製品を見ていこう。今回、筆者が購入したのは、32GBのメモリを搭載した「Wi-Drive WID/32GB(販売価格1万4800円)」だ。同機能の16GBモデル(9800円)もラインナップするが、今回はより大容量のモデルを選択した。

 見た目はコンパクトで、サイズは幅121.5×奥行61.8×高さ9.8mmとなっており、バンパーを装着したiPhone 4とほぼ同サイズ。重量はWebで公開されているスペックで公開されていないが実測してみたところ約86gだった。持ち運ぶのに全く苦にならないサイズだ。

正面側面

 本体はブラックを基調に、側面にシルバーのアクセントが加えられたシンプルなデザインとなっているが、表面に意外に大きくKingston Technology社のロゴマークが配されている。iPhone向けとして考えるなら、もう少し、ロゴのサイズを抑えるか目立たないようにした方がよかったかもしれない印象だ。

 インターフェイスは、上部に充電およびPC接続用のminiUSBポートが搭載されており、側面に電源ボタン、電源ボタンの下、表面側にインターネット接続、および無線LAN接続のインジケーターが用意されている。

サイズ的にはバンパーを付けたiPhone4とほぼ同じ側面に電源ボタン、その表面側に無線LANとインターネット接続のインジケーター、さらにロゴの下あたりにストレージアクセス時のインジケーターがある

 メモリカードなどのスロットは用意されず、内蔵の32GB(16GB)のメモリのみを利用できる仕様となっている。また、バッテリー容量は公開されていないが、連続で最大4時間の使用が可能とされており、実際にテスト(iPhoneでWi-Drive内の音楽を連続再生)してみたところ4時間19分の連続稼働を確認できた。

 個人的には外部スロットを用意して欲しかったうえ、もう少し長時間の利用もできて欲しいし、動作中の温度ももう少し押さえてほしかった印象はあるが、価格やサイズを考えると、製品としてのバランス的には悪くない印象だ。

Wi-Driveに無線LAN接続してアプリでアクセス

 実際の使い方を見てみよう。まずは、iPhoneにアプリをダウンロードする。AppStoreで「Wi-Drive」と検索すると無料のアプリが表示されるので、これをダウンロードしてインストールしておく。

 続いて、データを準備する。Wi-Driveは、USBでPCに接続することでマスストレージとして認識されるようになっている。標準では設定関連のHTMLファイルしか保存されていないので、PCからフォルダを作成したり、ファイルをコピーしておく。

 なお、参考までにUSB接続時のCrystalDiskMark3.0.1の結果を乗せておく。シーケンシャルアクセスは悪くないが、ランダムライトが遅い印象だ。大量のファイルの書き込みなどには若干時間がかかるだろう。

USB接続時のCrystalDiskMarkの結果。ランダムライトが遅い印象

 ここまでの準備ができたら、Wi-Driveに無線LANで接続する。標準では、SSID「Wi-Drive」、暗号化なしに設定されているので、本体側面の電源ボタンを押し、無線LANのインジケーターが青く点滅し始めたことを確認して、iPhoneから接続する。

 あとはiPhoneでアプリを起動するだけだ。これで自動的にネットワーク上のWi-Driveが発見されるので、タップして選択すれば、Wi-Driveのメモリに保存されているデータにアクセスできるようになる。

iPhone用のアプリからアクセスすることでストレージ内のファイルにアクセス可能iPadでは専用のUIを利用可能。ドキュメントの閲覧などが便利

 初期リリースから早くもアプリのバージョンが上がった関係もあり、使い勝手としてはかなり良好だ。たとえば、音楽再生については、バックグラウンドでの再生やシャッフルなどにもしっかりと対応している。残念ながらプレイリストに対応していないのだが、音楽ファイルをフォルダごとに管理しておけば、iPhone経由でWi-Driveの音楽を再生することが手軽にできる。

 個人的にはiPhone本体の音楽データをすべてWi-Driveに移行して使っても実用性は十分という印象だ。国内では、iCloudの音楽サービスが使えないこともあり、本体メモリから音楽を逃がす手段としては、良い選択肢という印象だ。

音楽はバックグラウンドでの再生にも対応。本体に入りきらない音楽データをWi-Driveに入れて通勤、通学時などに楽しむこともできる

 動画に関しても、iPhoneで再生可能なフォーマットのものであれば、非常にスムーズに再生することができるうえ、PDFなどの文書を保存して開くことも可能だ。

 また、最新バージョンのアプリでは、ローカル領域(iPhone本体メモリ上の専用領域)との間のファイルのコピー、およびメールでのファイルの送信にも新たに対応した。これにより、たとえば外出先で他人のWi-Driveからファイルをダウンロードし、自宅に持ち帰ってオフラインの状態でローカルでファイルを見直したり、それをメールで送ることが可能となった。

 初期版のアプリはビューワ的なイメージが強かったが、現状は読み書きの両方が可能なクライアントアプリに格上げされた印象だ。

無線ブリッジでインターネット接続

 このように手軽に使えるWi-Driveだが、このままだと少々使い勝手が悪い。そこで、いくつか設定を変更しておくことをおすすめする。

 まずは、無線LANの設定だ。標準では暗号化なしに設定されているが、外出先で使うことを考えると、暗号化なしという選択は考えられない。後述するように、Wi-Driveには、iPhoneからだけでなく、PCからもアクセスできるので、必ず暗号化を設定しておくことをおすすめする。

設定画面。iPhoneのアプリからはもちろんのこと、PCからもアクセスできる無線LANは標準では暗号化が設定されていない。必ず設定しておくこと

 iPhoneのアプリを利用して設定することもできるし、PCからWi-Driveのアクセスポイントに接続後、ブラウザで「http://192.168.200.254」にアクセスし、「Config」フォルダにアクセスすると、設定画面を表示できる。ここから設定を変更しておこう。

 続いて、インターネット接続の設定をする。前述したように、Wi-Driveは無線ブリッジ機能を搭載しており、iPhoneやPCからの接続を受け付けるアクセスポイントとして動作すると同時に、家庭や企業などで稼働中の無線LANアクセスポイントに接続することができる。

 これにより、iPhoneなどのWi-Driveに接続した端末から、Wi-Drive経由で自宅などの無線LANに接続し、インターネットを利用できるわけだ。

無線ブリッジ機能を使って既存のアクセスポイントに接続。これでWi-Driveに接続した端末からインターネット接続が可能になる

 この機能を有効にしないと、Wi-Driveに接続先を変更した瞬間からインターネット接続ができなくなるため、接続先を切り替えるなどの手間が発生してしまう。外出先で使うときでも、モバイルルーターや公衆無線LAN(Web認証で接続可能)を接続先に指定しておくと、Wi-Driveへのアクセスとインターネット接続が両立できるため便利だ。

 ただし、この機能には1つ注意点がある。インターネット接続側に指定するアクセスポイントは、WEPか暗号化なしに限られる点だ。WPA/WPA2の接続先を指定することもできるのだが、指定すると端末からインターネットに接続できなくなってしまう。不具合なのか仕様なのかはわからないが、ここは改善して欲しいポイントだ(Wi-Driveのアクセスポイント機能側はWPA/WPA2でかまわない)。

 なお、ブリッジ接続時の通信速度は、以下のような結果となった(1Gbpsのauひかりに接続されている無線LANルーターにWi-Driveをブリッジ接続して計測)。Wi-Driveの無線LANは、IEEE802.11n/gに対応しており、最大150Mbpsで接続されるようになっているが、処理性能の影響だろうか、パフォーマンス的には若干物足りない印象だ。あくまでもモバイル環境での利用を想定したものと割り切る必要がありそうだ。

 また、Wi-Drive接続時は、ブラウザでの動作も若干タイムラグが発生するようになる。ページにアクセスしてから表示されるまで、ほんの一瞬、間が空くような印象だ。快適さという点でも、若干の制限があることは覚悟しておくべきだろう。

Wi-Drive経由でインターネットに接続したときの速度。回線には1Gbpsのauひかり、インターネット側の無線LANルーターにはNECアクセステクニカのAterm WR8600Nを使用

AndroidはOpera Mobileを使えばOK

 このようにiPhone/iPad(HD版UI利用可能)/iPod Touchからはアプリを利用してアクセスすることができるWi-Driveだが、残念ながらPCやAndroid向けのアプリは現状では提供されていない。

 しかしながら、公式にはサポートされていないものの、HTTPやSMBを利用してアクセスすることが可能だ。

 たとえば、PCからの場合、Wi-Driveのアクセスポイントに接続後、エクスプローラーで「\\192.168.200.254」にアクセスすれば、通常のNASと同様に共有フォルダにアクセスすることができる。初回のアクセスに30秒ほどかかるのが難点だが、一旦、アクセスできてしまえばワイヤレスで快適にPCからファイルをコピーすることが可能だ。

 また、ブラウザを利用して「http://192.168.253.200」にアクセスすれば、Wi-Drive上のフォルダにアクセスできる。ここからファイルを表示したり、ダウンロードすることが可能だ。

PCからも共有フォルダにアクセス可能。IPアドレスを指定してアクセスすればOK

 このため、たとえば会議の席などで、Wi-Driveに資料一式を保存した状態でテーブルの上に設置しておき、接続先の情報をメンバーに公開すれば、ここから資料をダウンロードしてもらったり、逆に各々が持参した資料を保存して、全員に公開するといった使い方ができる。

 個人的に、ポータブルサーバーのメリットは、ここにあると考える。従来のサーバーは決まったメンバーが決まった使い方をするためのものだが、ポータブルサーバーは、場所、メンバー、用途をその時々で変えられる存在と言える。

 最近では、クラウドサービスを使って、不特定多数のメンバーが共同作業をすることも珍しくないが、このもっとクローズドな環境を提供できるのがポータブルサーバーというわけだ。

 ただし、PCやiOS以外の環境では若干の制限がある。PCと同様にブラウザでアクセスすればよさそうだが、残念ながらAndroid 2.xやWindows Phone 7.5標準のブラウザからアクセスするとページがうまく表示できない。

AndroidやWindows Phone標準のブラウザではアクセス不可

 このため、他のアプリを利用する必要がある。たとえば、Androidの場合であればOpera Mobileを利用することでWi-Driveにアクセスし、ファイルをダウンロードできることが確認できた。

 前述したように、会議などのテンポラリサーバーとして考えると、より幅広いプラットフォームをサポートしてくれることが望ましい。理想はiOSのようなアプリが提供されることだが、せめて標準のブラウザでも問題なく動作するようにしてくれるとありがたいところだ。

同時接続数制限の解除を期待したい

 このようにiOSだけでなく、PCからもストレージとして使えるWi-Driveだが、本格的なポータブルサーバーとして使うには、このほかにも課題がある。

 最大のボトルネックは同時接続数の制限だ。Wi-Driveでは無線LANで同時に接続可能な端末が3台に限られており、実際に3台以上の端末は接続できない。DHCPで配布されるIPアドレスに制限があるようで、3台目以降にはIPアドレスが割り当てられない。

 無線ストレージとして使うなら、十分な台数だが、ポータブルサーバー的に使うのであれば、最低でも5台、できれば10台程度までは接続できるようにしてほしいところだ。波フォーマンスが低下することなどを承知の上で、この制限を解除できる設定などを用意して欲しいところだ。

 また、ハードウェア的には、microSDを装着できるようにしてほしいところだ。できれば2スロット用意し、1つは固定ストレージ用、もう1つは外出先などでのデータ取り込みようとして使えるようになるとうれしいところだ。

 さらに、可能かどうかはわからないが、複数のSSIDを用意し、それぞれのSSIDに対して個別のストレージ領域を割りあてられるようになるとより便利だ。こうすれば、機器ごとの使い分けもできそうだし、何より複数の関係者とそれぞれ個別にデータを共有できるようになる。こうなれば、ポータブルサーバーとしての実用性が格段にアップする。

 セキュリティを考えて、データを暗号化したり、ボタンやリモートからの設定でデータを消去できるような機能などもあれば完璧だ。

 以上、Kingston TechnologyのWi-Driveを実際に使ってみたが、ざっと考えただけでも、機能に対するニーズが次々に思いつくなど、非常に発展性が期待できるジャンルの製品と言える。筆者のように、いろいろな場所、いろいろな取引先と打ち合わせをするような仕事には、一台あると便利な製品と言える。

 ぜひNASベンダーやモバイルルーターベンダーが参入し、製品のバリエーションが増えてくれることを期待したいところだ。


関連情報

2011/10/25 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。