10代のネット利用を追う
高校生がSNSをどう使っているのか? 本人たちが先生たちに解説してくれる講座、神奈川県教育委員会が開催
利用実態を把握できずにいる教職員に理解を促す
(2015/5/5 10:00)
SNSを使って児童・生徒がネットいじめや犯罪などに巻き込まれるトラブルが増えている。しかし、学校の教職員はSNSについて知らず、児童・生徒の利用実態を把握できずにいる。この事態を打開するため、神奈川県教育委員会の主催で「高校生によるSNS講座」が3月下旬に開かれた。SNSに詳しい高校生が講師役を務め、教職員に理解を促そうという趣旨だ。
当日は公立・私立の高等学校・中等教育学校・中学校・小学校・特別支援学校の教職員数十名が受講者として参加。県内の公立・私立高校の生徒からなる情報議会委員(2、3年生を中心に全24名で構成。当日の参加者は22名)が講座を進行した。
この講座はもともと、公益社団法人日本青年会議所関東地区神奈川ブロック協議会主催による「かながわハイスクール議会2014」で提言されたものが実現したかたちだ。かながわハイスクール議会2014では、参加生徒が8つの委員会(福祉・政治・食文化・復興・情報化社会・基地駐屯地・日本人の心・地域活性)に分かれ、それぞれのテーマについて3日間議論。最終日に、本来は県議会議員しか入ることができない神奈川県議会の本会議場で県知事に対し、県政に対する質問や政策提言を行った。
「SNSはツールではなくて居場所」
高校生によるSNS講座の第1部では、まず初めに主要SNSについて説明があった。「かつてはmixiだったが、mixiに代わってLINE、Twitter、Facebookが主要なSNSとなった」。それぞれの違いについては「LINEは匿名性が低く閉鎖的なコミュニティであり、Twitterは情報の即時性が高く開放的なコミュニティであり、Facebookは実名が推奨されており信頼性が高い」と説明。
高校生のSNSの使い方は、ストレスの発散場所、友人・知人とのコミュニケーションの場、距離にかかわらず互いの状況を確認できる手段、情報発信・受信手段などだ。ところが、「SNSはサービスによって向き不向きは異なるのに、高校生は内輪でのやり取りが多く、どのSNSでもほぼ同じ使い方をしている。本来の使い方と違う」と高校生自ら指摘する。具体的な例として、合唱祭で個人の顔が写っている写真をSNSに上げてしまっている例を紹介。「無断で載せたら他の人に見られてしまう。顔が分かる写真をアップしてはいけないのでは」。
続いて、委員が用意したSNSに関するFAQが続く。「なぜ常にSNSを手放さないのか?」という問に対しては、「話が切り上げにくいから」「実際のコミュニケーションの延長線上にあるから(仲間意識)」「いつもつながって情報を得ていたいから」という。さらに「SNSは高校生によってツールではなく居場所のようなもの」と説明を添えた。
「対話ではなく、なぜSNSを使うのか?」という問に対しては、「状況を気軽に発信できるから」「SNS依存だから」「仲間はずれになる恐怖や不安があるから」との回答。さらに「なぜオープンな場で個人的な会話をする?」という問に対しては、「全世界に公開されている実感がないから」「現実のコミュニケーションとの区別があいまいになっているから」と説明する。
そこで委員の高校生の1人が、「情報リテラシーとモラルが必要と言われてもよく分からない。犯罪に巻き込まれると言われても、便利な道具なのに犯罪なんてと思ってしまう」と本音を覗かせた。別の高校生は、「SNSは友人関係をやっていくため、同じ情報を共有するために必要。やめたいけれどやめられないもの。危険だと思っても直接的なコミュニケーションをとってしまう存在」と、SNSへの複雑な立場を説明した。
Twitterの利用率、高校生100%、教職員20%
次に、主なSNSの分類が紹介された。それによると、交流系はFacebook、Twitterであり、コミュニケーション系はLINE、写真共有系はInstagram、動画共有系はYouTubeとなる。
彼らが主に情報を収集・発信する手段はTwitterだ。主に、好きなマンガや趣味などの最新情報を収集するためや、有名人の最新情報を得るため、楽しかったことの共有などに使っているという。
「先生方の中でTwitterを使っている人、手を挙げてください」と、1人の高校生が声を張り上げる。使っている教職員はわずか2割程度だ。高校生に同じ質問が投げかけられると、委員の22名全員が手を挙げた。「高校生にとってTwitterは日常生活の一部」という。
「なぜTwitterでオープンな会話をするの?」という問に対しては、「楽しかったことや情報をみんなで共有したいから」と説明。「個人情報は大丈夫なの?」という問に対しては、「人によって対策に差がある」という答が返ってきた。ちなみに、発表者の高校生は、本名登録の表アカウントと匿名登録の裏アカウントを使い分けているそうだ。
「LINEのQRコードは更新できるので、相手が悪用できなくて安心」
では、高校生は具体的にどのようにSNSを使い分けているのか。3名の高校生が登場し、自分の使い方について解説した。
1人目は女子高生だ。彼女はTwitterでは気になる商業イベントについて情報収集し、参加するためにフォロー/リプライをする。参加者同士で連絡先交換をする際には、ダイレクトメッセージでLINEのQRコードを送る。未成年はID交換ができないので、QRコードを使っているのだ。LINEではイベントの詳細、待ち合わせ場所などを決めている。QRコードを交換するリスクについて彼女は、「QRコードは新しいものに更新できるので、相手が悪用できないから安心」と説明。さらに安全を意識して、Twitterではあまり個人をさらさず、LINEは信頼できる人とのみやりとりするというスタンスを語った。
次は男子高生。彼は、顔を合わせている限られた人とのみLINEを利用し、顔を合わせたことのない人とはTwitterを利用している。Twitterは表アカウントと裏アカウントを使い分けており、表アカウントでは相手によって敬語を使って話すが、裏アカウントでは対等に話しているという。
3人目は女子高生だ。バンドをやっているという彼女はメンバー募集に苦労しており、掲示板で募集をかけている。連絡をくれた人とのやりとりは、掲示板のメッセージ機能を利用する。そのうち、話が進んだところでLINE ID交換となる。掲示板のメッセージは削除ができるので、LINE ID交換後はメッセージは消して個人情報を守っているそうだ。LINEでは、自己紹介をしたり曲を決めたり、具体的な細かいことをやりとりするという。
SNSで知り合った人と会う際の注意点
SNSの楽しさを高校生の口から語るとどうなるのだろう? 彼らが言うには「SNSの楽しさは画像の共有・会話にある」という。例えばSNSにパンケーキの写真を載せていた子には「おいしかった? どこで食べたの?」とリアルの場で話をふくらませることができる。
「人とつながる際に、相手と離れていたり時間がずれていてもコミュニケーションがとれ、顔を合わせると話しづらいことも言える点が魅力」という。同じ価値観の人とつながれるのも大きなメリットだ。
連絡が途絶えていた友達とSNSで再会してつながることもある。ある女子高生は、引っ越し後も手紙でやり取りをしていた友だちがいた。途中で手紙が途絶えてしまったが、高校生になってからSNSで再会したという。「小学校6年生の時の友達の9割とつながって同窓会の企画を話している」と語る。
SNSを使いこなしている彼らだが、ひやりとするようなことはあるのだろうか。主にTwitterを使っているという男子高生が、Twitterでの実体験を述べた。あるライブチケットに落選してしまい、Twitterで愚痴を言っていたところ、Twitterでフォローしていたユーザーが「2枚あるから同行しないか」と誘ってきたという。チケットの転売行為は禁止されているため、彼はそのユーザーに同行することにした。事前に自分の服装の特徴を伝えて待ち合わせ場所で会った。実は、彼の通う学校では「SNSで知り合った人と会ってはいけない」という規則があることを告白。しかし彼は、「規則は破っているものの、安全のために自分なりの決めごとがある」という。
以下は、彼が考えるSNSで人と会う時の注意点だ。彼は「絶対にこれを守れば安全というわけではなく危険もあると思う」と断りを付け、4カ条を公開した。
・本名は使わない
・写真を撮らない、撮らせない
・必要以上の情報を明かさない
・自分の情報は会う人のみに伝える
ただし、高校生が全員、上記のようなことを守れているわけではない。実際、「友人間で許可なく顔写真を載せたり、TwitterにLINE IDを載せるような危険な場面を見かけることもある」という。
高校生にとってSNSとは
そもそも、先生がSNSを利用していないことで何が困るのだろうか。彼らが言うには、「SNSの用語が伝わらないので相談できない」という。試しに「RT、DM、TL、ファボ、リプライ、鍵アカ、裏アカ」という単語を挙げ、「このSNS用語を説明までできるほど分かる先生はいるか」と聞いたところ、1名しか手が挙がらなかった。
彼らは、先生にどんな相談に乗ってもらいたいのだろうか。それは、「友人とのトラブル」だ。彼らにとってはSNSも現実世界の1つであり、SNSのトラブルはリアルなトラブルなのだ。
最後に「高校生にとってSNSとは?」という問が掲げられた。全24名の情報議会委員で考えた結果は、「人とつながることができる生活に欠かせない道具」というものだった。「困った時に一番身近な大人である先生に頼れるようになりたい」と彼らはまとめた。
話題に入れないのは寂しい、楽しいことを共有したい……SNSを浸透させた気持ち
第2部では、初めにアイスブレイクがあった。所属と名前を言い、次々と3回質問に答えるというものだ。高校生たちは、質問に間髪おかずに答えを返してくる。その後、先生たちも同じことをやってみた。やりとり終了後、「生徒の方が返しが早かったのでは。これはSNSのテンポと似ている」と彼らは言う。
続けて、先生たちにLINEを体験してもらおうという趣旨のワークショップがスタートした。9つほどのテーブルごとにiPadがあり、テーブルごとに「○○さん」というハンドルネームが割り振られている。同じテーブルの先生たちは「○○さん」となって順番にトークを入力していく。先生には「1人1回以上入力しよう」という課題目標が与えられた。
割り振られたテーマは、「みんなで遊びに行くことになった。お花見かイチゴ狩りかどちらがいいか決めよう」というもの。便利な使い方として、ノート機能や「花見がいい人はスタンプして」といったアンケートの取り方も紹介された。
話し合いが進む中、途中で「これから××さんを退会させます」という宣言の後、1つのグループが退会させられるという展開に。退会させた側はまだトークが続いているが、退会させられた側はその時点でトークが見えなくなったことが全体に示された。
退会させられたグループの先生方に感想を聞いたところ、「仲間はずれはひどい。もう遊ばないぞと思った」「何とかして連絡を取ってやり返したい」「実際にはずされたら嫌だな。もう1回連絡して入れてもらおうかな」「体育館裏に呼び出してぼこぼこにしてやろうか」という感想が返ってきた。最終的には退会させられていたグループも再招待し、決まったことを伝え、ワークショップは終了した。
終了後、「退会中にあったことは読めなくて寂しい。同じことは高校生も感じている。携帯電話やスマホを持っていないと話題に入れなくて寂しい。後でメールで『花見に決まったよ』と言われるのは寂しい」と、退会劇の意図の説明があった。「みんな、楽しそうに話している場に混ざりたいし、友達と話したい、楽しいことを共有したいと思う。だからSNSは浸透したのではないか」と彼らはまとめた。
高校生でも個人情報へのスタンスはさまざま
次に、「Twitterでのやりとりをイメージしやすくするために劇化した」という寸劇が始まった。登場人物はA~Eという高校生5人。A~Cは友だち同士の男子高生。Aは公開アカウントで本名で個人情報を気にせずツイートし、Bは個人情報を心配して非公開で利用、Cはその中間という設定だ。D、Eは女子高生で、DはA~Cの共通の友人で、EはDとだけ面識がある。ある時、A、B、Cの3人は連れだってボーリングに遊びに行くことになる。
A「横浜のラウンドワン行ってくる」
Dは、ツイートを見て「楽しそう!」と反応した後、
D「ふぁぼ!」
とツイートをお気に入りに入れる。
C「ボーリングなう」
この時、Aは、AとCの顔が分かる写真を撮ってTwitterに投稿するが、Bはかたくなに顔を写すことは拒否する。
Dは、AとCの2人が写った写真を見て、「楽しそう。この2人イケメン」とリツイートする。
D「RT」
それを見たEは、面識がなかった2人の顔を知ることになる。
E「へー、この人がAさん、Cさんか」
やりとりの後、「Cさんは一見、個人情報に気を付けているようだが、間接的に個人情報が漏れている。高校生もスタンスはさまざま」と解説があった。
先生には「SNSについて知って、相談に乗ってほしい」「普段言えない本音が言えた」
各テーブルでの高校生への質問タイムでは、先生たちから具体的な疑問が投げかけられ、高校生からの回答に対して熱心に質問する姿が見られた。
最後に委員長の高校生からまとめの言葉があった。「先生方にSNSに興味を持ってほしい。興味を持って使ってもらえれば理解してもらえる。SNSについて知って、相談に乗ってほしい」と今回の講座の趣旨を語り、「一緒にSNSの楽しい使い方について考えてほしい。高校生が思う楽しさと先生の考えは違うけれど、話し合っていきたい」とした。
受講した先生方に感想を聞いてみた。ある先生は、「自分は携帯電話も持っていない。パソコンがあるのでFacebookは分かるという程度。講座は高校生が立ち上げて提供してくれているので、参加して意見を言うことは、2回目以降に講座が開かれた時に役に立つと考えた。受講者としてできることがあると思って参加した」と言う。
「生徒が使っているので、彼らの考えを知りたかった。自分はSNSを使っていない。理解が深まったので帰って役立てたい」「そうやってSNSを使い分けているんだなと分かった。彼らは中毒にならないように使えているが、そうではない人もいる。どうすればいいのかを一緒に考えていきたい。勉強になる」などと、全体に好評だった。
委員を務めた高校生たちにも話を聞いてみた。参加した理由は「SNSについて意見する場がなかったので意見したかったから」という彼ら。講座の準備のために全部で6回集まり、普段はLINE、Twitterなどを使ったり、Google ドライブでファイル共有して準備を進めてきたという。連日21時から0時ごろまでSkype会議で話し合い、時には深夜1時まで続くこともあったそうだ。
「グループが分裂したり方向性がばらばらでまとまらず、残り2回になってやっと内容が決まった」という。中でも苦労したのは表現方法だ。「伝える工夫ができていない」と教育センターの職員にダメ出しされながら、何度も練り直した。
本番を終えてみての感想は、「先生に『高校生の生の声が聞けてうれしい』と言われてうれしかった。もっと先生たちに興味を持ってほしい。SNSを知らない先生は、知らないからやめろと言う。まずは分かろうとしてほしい」「厳しい先生も共感してくれる先生もいて、さまざまな意見があるんだなと思った」「先生が楽しそうにしれくれて、ディスカッションの時間にいろいろな疑問について知ることができてよかった」など、全体に充実感にあふれていた。
ある高校生はこのように語っている。「先生とは意見がぶつかってしまう。普段は言えない本音が言えて、気持ちが解消できた。先生はネットに名前は出すべきじゃないというけど、僕は出した方が出会えるし、人間関係が広がるからいいと思う。対等に言えたのがよかった」。
高校生が講師役になるというのはとても面白い試みだ。先生に理解してもらうという目的意識を持つことで、自分たちの使い方を改めて振り返り、問題点や危険性、メリットやデメリットについて考え直す良い機会になっていたようだ。
頭ごなしに「禁止」と否定するのは簡単だ。しかしそうではなく、このような互いの本音をぶつけ合う機会を持つことで、理解できるようになる。彼らの行動原理を理解しなければ、本当の意味でのアドバイスは難しい。「高校生によるSNS講座」には、子供の行動に悩んだときの大きなヒントが詰まっていると感じた。