イベントレポート

Interop Tokyo 2016

「日本発の世界に通用するIoTプラットフォームへ」ソラコム玉川憲社長が戦略を語る

株式会社ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏

 幕張メッセで6月8日から10日まで開催されている「Interop Tokyo 2016」。8日午前の基調講演では、株式会社ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏が登壇し、「ソラコムに聞く、同社の戦略と世界を変えるビジョン」と題した講演を行った。同社は、IoTプラットフォーム「SORACOM」および同プラットフォーム上で展開するIoT向けMVNOサービス「SORACOM Air」を2015年9月より提供している。なお、玉川氏はAmazon出身で、2年前の「Interop Tokyo 2014」では、Amazon Web Services(AWS)担当者として「モノと人をクラウドがつなげる」という基調講演を行っていた。

モノ向けに特化した低料金・従量制の通信サービス

 玉川氏はまず、「モノからデータを取り、保存して、分析・活用する上で、あらかじめ共通機能が用意されているクラウドを使えば、差別化要素となる機能を迅速に作れる」として、IoTにおいてクラウドが重要であると指摘。「モノとクラウドがインターネットでつながるという世界観が今後、進行していくのは間違いない」とした。

 一方、セキュリティやインターネット接続、端末管理といった面で「IoTはまだまだ課題を抱えている」と玉川氏。ソラコムでは、このうちインターネット接続に着目。有線LANは場所の制約があり、無線LANはセキュリティに難があることから、IoTにはモバイル通信が適しているが、モノ向けに特化したモバイル通信サービスがなかったため、SORACOM Airを提供することにしたという。

 SORACOM Airは、SIMカードを提供し、それを機器に挿すことで通信できるMVNOサービスとなり、IoTの課題であるセキュリティや端末管理の機能を標準で組み込んでいるのが特徴。ウェブ上で複数SIMの回線管理ができ、使用開始・停止や速度変更を操作したり、データ使用量を確認することなどができる。玉川氏は「APIを提供しているため(ユーザー自身が作成した)プログラムによって、SIMの管理を自動化できる」とフレキシブルさを強調する。

 玉川氏は、SORACOM Airの狙いについて、「AWSなどのクラウドの登場により、高額なサーバーを購入する時代からクラウドを使う時代に変わった。失敗したときのコストが下がったことで、恐れずにチャレンジできるようになり、イノベーションが可能になった」とし、「ソラコムでは、IoT事業者の通信に関するハードルを下げることで、(クラウドと同じように)失敗のコストを下げ、イノベーションを促進したい」と語った。

 なお、SORACOM Airは、一般的なL2接続のMVNOサービスとは異なり、キャリアからの専用線をAWSに接続し、クラウド上にコアネットワークを実装しているのが特徴となる。玉川氏は「日本初、世界初のクラウド上に作ったバーチャルキャリアであり、初期投資を抑えたことで、できるだけ安く提供することが可能になった」とする。

ソラコムが提供するIoT向けMNVOサービス「SORACOM Air」
インターネット接続はIoTにおける課題の1つ
「SORACOM Air」は、AWSのクラウド上で実装しているのが特徴

 SORACOM Airの初期費用は560円で、料金は使った分だけを支払う従量課金制。決済端末やデジタルサイネージでは1台あたり月額400円以下の運用も可能であり、提供開始半年で2000社以上に利用されているという。

低料金・従量制の料金体系
SORACOM Airの利用料金例
SORACOM Airのユーザーは2000社以上

 同社では、ユーザーからのフィードバックに基づいて、新機能や新サービスを提供していくことを戦略の1つとする。SORACOM Air以外には、通信を暗号化する「SORACOM Beam」、AWS上の閉域網とSORACOMをインターネットを介さず直接接続する「SORACOM Canal」、専用線接続サービスの「SORACOM Direct」など、通信に付随するサービスも提供。なお、サービス名の頭文字がアルファベット順になっていることについては、「偶然」(玉川氏)だとする。

 また、玉川氏は、製造業や流通業などのグローバルに展開している企業からは、日本以外でもSORACOMと同じ仕組みを使いたいという要望が出ているとし、世界展開へ向けて5月に資金調達を行ったと語った。SORACOMは、クラウド上にソフトウェアで実装しているため、海外のキャリアと提携することで、初期投資を抑えて世界展開することが可能だとする。

 そのほか、同社ではデバイス、インテグレーション、ソリューションという3種類のパートナープログラムを展開。玉川氏は「互いにWin-Winとなるパートナーシップを築くことで、エコシステムを拡大したい」とした。

通信を暗号化するデータ転送支援サービス「SORACOM Beam」
AWS上の閉域網とSORACOMを直接接続する「SORACOM Canal」
頭文字がアルファベット順となっているSORACOM各サービス
低料金、フレキシビリティ、イノベーション、エコシステムの拡大がソラコムの戦略

さくらインターネット田中社長とソラコム玉川社長が対談

 講演の後半では、さくらインターネット株式会社代表取締役社長の田中邦裕氏が登壇し、ソラコムの玉川氏と対談を行った。田中氏は、2年前のInteropで玉川氏がAWS担当者として基調講演を行ったことに触れ、そのころにSORACOMのようなサービスを提供することを考えていたのかと質問。すると玉川氏は「こんなサービスがあったらいいなというアイデアはあったが、こういう状況になるとは考えていなかった」と回答。田中氏は「アイデアしかなかったサービスが2年間でここまで来た。今日聴いている方には、このスピード感を感じてもらいたい」と語った。

さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏(写真左)とソラコム玉川氏

 また、最後にソラコムの今後のビジョンを聞かれた玉川氏は、「日本発のグローバルに通用する共通基盤を作っていきたい。日本はモノづくりは得意だが、インターネットテクノロジーを取り込むのが苦手。インターネットテクノロジーをすぐに使える環境をSORACOMで提供することで、日本企業にIoTで躍動してもらいたい」と述べ、講演を締めくくった。