インタビュー
「スマホの教育アプリ」がNHKで受賞?
NHKが誇る「日本賞」応募ポイントを訊いてみた
2017年6月7日 11:58
「日本賞」という賞をご存じだろうか?
「日本賞」は、NHKが主催する国際コンクールで、世界各国から寄せられる教育コンテンツを審査している。創設は1965年で、今回が実に44回目。教育番組の制作に携わる方にとって、名誉な目標となっている。
そして、その「日本賞」、近年は映像作品だけでなく、Webサイトやゲーム、アプリ、クロスメディアコンテンツなどを対象とした「クリエイティブ・フロンティア」カテゴリーも実施。スマートフォンアプリでも「教育意図のあるもの」ならば、応募規定の範囲内なのだという。実際、昨年(2016年)の同カテゴリーの最優秀賞はスマートフォンアプリだ。
しかし、「映像作品の賞」としては知名度のある日本賞だが、「Webサイトやゲーム向けの賞」としての知名度はそれほどではなく、応募の幅が限定的なのが悩みだという。そこで今回、「日本賞・クリエイティブ・フロンティアカテゴリー」の意図や、応募のポイント、そして応募者のメリットを聞いてみた。
今年の日本賞の応募締め切りは2017年6月30日。すでにあるコンテンツを応募できる賞なので、応募要項を満たすコンテンツを持っている方は是非一読して挑戦してもらえれば幸いだ。
今回、お話をお伺いしたのは、日本賞事務局長である橋本 典明氏と、2016年の日本賞クリエイティブ・フロンティアカテゴリーのファイナリストとなった「MOZER」制作元のライフイズテックの讃井 康智氏。橋本氏には意義や選考のポイントを、讃井氏には応募の経緯やファイナリストに残ったことで得たものなどを語っていただいた。
【目次】
▼日本賞で「教育コンテンツの発展」と「国際理解の促進」を進めたい
▼秋の本審査では世界各国のファイナリストが来日&懇親会「みんな情熱的ですね」
▼「デジタル作品を“日本賞”の精神で発展させていきたい」
▼スマホアプリも十分「日本賞」の対象に?
▼「目標とする場」になってほしい
日本賞で「教育コンテンツの発展」と「国際理解の促進」を進めたい
――まずは、日本賞がどんな賞なのか、教えてください。
橋本氏:
1965年、前の東京オリンピックのすぐ翌年、「これから教育分野にメディアが貢献していかないと」という中で、NHKの当時の会長が提唱しました。そのころは、エンターテイメントとか、アートとか、そういうコンクールはありましたが、なかなか教育というところまではなかったんですね。まだ教育テレビも黎明期でしたし。
「教育コンテンツの質的な発展」に加えて、「国際理解の促進」を大きな目標としてスタートすることになりました。当初はテレビ番組とラジオ番組が対象でしたが、それが色々な形で変化し、現在のかたちになっています。
――その変化の一部が「クリエイティブ・フロンティア」カテゴリーですね。番組ではなくて、クロスメディア的なものとか、アプリケーションなどが対象ということだと思いますが、なぜこうしたカテゴリーを作られたのでしょうか?。
橋本氏:
初めて「マルチメディア」というものを表彰対象にしよう、となったのが2001年で、当時はWebサイトが中心だったと思いますが、そうしたものに目線を向けていこうと。最初の頃は「放送がまずあって、それに連動したWebサイトがある」といったものが中心でした。その後内容や名前が変わっていき、2014年から、今の「クリエイティブ・フロンティア」になりました。
現在は、幅広い「フロンティア」の賞として位置づけており、Webサイトだけでも、あるいはアプリケーションやゲームでもエントリーしていただける賞としています。ポイントとなるのは、賞の目的である「子どもたちあるいは一般の人たちに何か学んでもらおう」という目的にかなっているかどうか、ということですね。
――このクリエイティブ・フロンティアカテゴリーができたことで、応募へのハードルが下がった感じはありますよね。どういう作品が応募できるのでしょうか。
橋本氏:
デジタル技術を使った作品。映像作品とリンクしたような、いわゆるクロスメディアのものでもかまいません。例えばWebサイト、アプリケーション、ゲーム、それからVRと、新しい技術を使ったものも対象になります。ただ、応募される方は、企業さんや団体さんのみとさせていただいていて、基本的には個人の方はお断りしています。
――去年のクリエイティブ・フロンティアのファイナリストは6作品でしたが、応募総数はどれくらいでしたか?
橋本氏:
クリエイティブ・フロンティアカテゴリーとしては50弱というところです。ただ、アプリケーションやWebサイトのカテゴリーでは知名度が低く、「こういうものを応募いただけていたら……」と思うことも多かったので、是非皆さんには、チャンスを狙ってほしいと思います。
――審査員はどのような方々なのでしょうか?
橋本氏:
去年は世界12の国と地域から集まってもらいました。基本的には公共放送に携わる方や、教育番組や教育系のメディア、それから映画を作っていた人なんかもいらっしゃいます。何人かは、本当にデジタル系の技術に詳しい方もいらっしゃいますね。例えばBBCの中で専門的にデジタル技術を開発されてきた方にも入っていただいています。
――日本賞を受賞すると、どういったメリットがあるのでしょうか?
橋本氏:
「企業/団体さん向けの賞」としては、高額の賞金ではありません(注:日本賞グランプリで5,000ドル/カテゴリー優秀賞で2,000ドル)が、皆様に「それ以上のメリット」を得ていただけるように努力しています。
1つは専門家の中で評価されるということで、日本賞の権威というのは、今は小さくないと思います。教育系メディアの人たちの中では、日本賞は評価のある賞になっていると思いますし、それ以上に世界中からいろんなトップクラスの人たちが集まってくる。
クリエイティブ・フロンティアカテゴリのファイナリスト(一次審査通過者)の方々は、秋の審査期間に、NHKにご招待してプレゼンテーションをしていただくのですが、海外からの方も多く、ある種のイベントとして楽しんでいただけるとか、ネットワークを作っていただけるという面白さもあると思います。
また、日本賞自体を60分のドキュメンタリーとして番組にしています。受賞されれば、そうした番組で紹介される、というのもメリットかと思います。放送は、会期の後の11月と、12月31日の大晦日の2回で、後者は受賞作品だけをまとめたものになります。
秋の本審査では世界各地のファイナリストが来日&懇親会「みんな情熱的ですね」
――それでは今度はエントリーされた方、ということで、讃井さんにお話をお伺いします。昨年、日本賞のクリエイティブ・フロンティアカテゴリーに応募され、ファイナリストに残られたそうですが、まず、どんな作品を応募されたのでしょうか。
讃井氏:
私たちが昨年応募したのは、プログラミングを学ぶ中学生・高校生をメインの対象としたWebサービス「MOZER」です。ただプログラミングが学べるだけでなく、楽しみながら学べて、それでいて、初めてプログラミングを学ぶ子でも、つまずくことなく学んでいける、そういったことを大切にしたサービスです。
私たちの認識としては、プログラミング学習サービスって「映像を見たりドリル的に問題を解いていく、割と大人向けのサービス」と、「小学生やそれ以下のお子さん向けで、楽しくインタラクティブに学べる子供向け」の両極端で、日本はもとより、世界的に見ても、中高生を対象にしたインタラクティブかつ、わかりやすく学んでいけるサービスは少ないんじゃないかなと。
ちなみに、サービスインしたところ、中高生はもちろんのこと、大学生や社会人の方にも使っていただいており、特に「今までは心折れていた………」みたいな方が、「MOZERは本当に楽しくて最後までやれた」とか「これだったら初めての人にもお勧め」というような感想をあげてくださって、すごく嬉しかったですね。
――日本賞に応募されたのはどうしてでしょうか。
讃井氏:
大きな理由は、これが世界的な賞だからですね。日本で開催されている「世界的な賞」というのはとても少ないので、これはチャンスだなと。私たちとしては、MOZERを世界に対して発信していきたい、知ってほしいという思いをかねてから持っていたので。
もう一つは、「今、NHKさんがデジタル分野の教育にも力を入れている」ことを知っていたからですね。また、私自身、NHKさんが過去放送していた「デジタル・スタジアム」という番組を見ていたり、最近では「テクネ」という作品を見て育ってきたので、考えとか理念には共感できるものが多いとも思っていまして。
――実際に応募する際にハードルになったことはありますか?例えば、英文資料をつけなければいけないとか決められてますが……。
讃井氏:
特にそういったことは感じなかったですね。応募には英語の資料が必要なので、英語が得意な社員に作ってもらいましたが、ほぼその社員1人が、短期間でまとめてくれました。
――それで、応募されてから1次審査に通ってファイナリストに残られたわけですが、その流れはどのようになっているのですか? 基本的に、応募したら1次審査の結果が出るまでは待っているという感じですか?
讃井氏:
そうですね。1次審査をしていただいて、9月にファイナリストのお知らせをいただき、本審査での会場プレゼンテーションの準備をしました。
橋本氏:
9月1日にファイナリストの発表をするのですが、そのタイミングでご連絡して、そこから、プレゼンなどの準備を1月半ほどの間にやっていただくイメージです。そういう相談も個別にさせていただいています。
――最後のプレゼンなんですが、その準備は大変でしたか?
讃井氏:
分量的な大変さというのは、あまりなかったのですが、やはり英語のプレゼンですし、時間が限られている中で、研ぎ澄ましたメッセージを出していかなきゃいけないということで、準備は入念に行いました。
大変さもありましたが、それよりもまず、権威のある賞でファイナリストに選ばれたことが、すごくうれしかったですね。
ほかのファイナリストの作品も本当に素晴らしいもの揃いで、かつ、さまざまな国から選ばれていたので、そういった、世界のすごいプロダクトと一緒に最後の審査を戦えるということになったことに、わくわくしました。
――MOZERはファイナリストに残りましたが、結果として受賞には至りませんでしたが、正直なところ、応募したメリットはいかがでしたか?
讃井氏:
私自身にとっては、世界の素晴らしいライバルたちと出会えていろんな刺激をもらったり、その後も繋がりを持てていることが、一番良いことでしたね。
様々な視点の「教育」に強い信念を持って取り組んでいる仲間がいること、そして彼らは美しく、面白い体験ができる作品を作っている、ということが刺激になりました。
また、「日本賞に出て、ファイナリストに選ばれた」ということは、サービスのブランドを上げることには確実に繋がりました。やはりNHKさんの、しかも教育コンテンツの伝統ある賞のファイナリストに選ばれた、ということは、保護者の方や学校関係者から見ても安心できるブランド作りにつながったと思います。
――ファイナリストにはどんな方がいらっしゃいました?
讃井氏:
みんな本当に個性豊かで、話していて面白かったです。その後も、Facebookで繋がっていたりするのですが、みんな先進的で情熱的ですね。
自分が関わっているイシューに対して強い思いを持っている方ばかりで、それぞれの国でのフロントランナーとしてやっているので、「そういう方が自分の国で何を見ているか」というのはものすごく面白い、伝わってくるものがありました。
また、それぞれの専門が違うので、例えばアメリカのファイナリストからは「あなたの国では進化論についてどういうことをやっているのか?」とか聞かれたり、私からすれば逆に、「ラトビアのプログラミング教育ってどうなの?」って訊くと、「ラトビアだとまだこういうことはやっていないから、絶対にこれは楽しいと思う」と言ってもらえたりすると。
その国のフロントランナーが知らないとか、ないって言ってくれるということは、「このサービスはラトビアでも行けるかも」と自信につながりました。
あとは、そういうベンチャー精神みたいなのを持ってそれぞれの国で仕事をしているので、お互いを応援しあうというか、エールを送り合うようなことで、すごく勇気付けられましたね。
橋本氏:
(NHK主催の)懇親会の後、みんなで飲みに行ったりしていたんでしょ(笑)?
讃井氏:
そうです(笑)。懇親会の後に、渋谷の狭いバーみたいなところで。海外の方は日本のそういう場所がお好きみたいで、実際にお連れして、一緒に飲みましたね。
橋本氏:
通常、日本の人がファイナリストになることもそんなに多くないので、一昨年も外国の人たちばかりだったから僕らがご案内するくらいだったんですけれど、去年は讃井さんがいてくださったから、いろいろご案内されたということをうかがいました。
讃井氏:
終わったあと、まさに渋谷のハロウィーンの日でしたけど、その人を避けて。新宿のゴールデン街みたいな狭いお店でみんなで肩を寄せ合いつつ、いろんな話をしました。
橋本氏:
京都まで行く人もけっこういらっしゃったり。遊びにみんなで行って帰ったりとか。
讃井氏:
あと、代々木公園でPokemon GOしてるって人もいました。NHKの近くなので行ってきたよと。あとは日本のお土産を買いに表参道のキディランドに行ったりとかしていました。
――国内の応募者でもファイナリストになれば、東京に招待されるんですよね?。規定上はご招待みたいな形で書かれていたと思います。
橋本氏:
福岡とか札幌とか、東京から離れたところでも、サービスやアプリの開発が盛んなので、そういうところの人たちにも参加して欲しいですね。本当にこのときだけは「世界の教育コンテンツが東京にある」という感じになるので、ぜひ来ていただけると面白いと思います。
――それは色々と面白そうですね。ちなみに、飲みに行ったときの刺激って、具体的にはどういうものがあるものなんでしょうか?
讃井氏:
真面目な面で非常に面白かったのは、特に教育コンテンツに関していうと、各国で「何が問題になっているか」が全然違うということですね。
私たちは、作品を見て「どれもすごく美しいな」とか「面白いな」と思うんですけれど、そういったものが「教育コンテンツ」として出てくる背景には、文化的な違いとか、歴史的ないろんな問題意識みたいなものがあって。
例えばラトビアの方であれば、ロシア(当時のソ連)との複雑な関係といったような「歴史的な記憶が今の世代から失われている」ことに対して、あえて美術という切り口で、しかも、オンラインで見せることに問題意識を持って取り組んでいました。
また、アメリカでの進化論のサービスであれば、宗教的な断絶の中、進化論が否定されていることに対して、サイエンティフィックな立場での問題意識が作品の背景にありました。
教育サービスをやっている者として、「教育というものは、各国の文化的な背景の中、それぞれ問題になっているものが違う」ということを知ることができたのは、とても勉強になりました。
――そういうインプットは、その後のお仕事にフィードバックされたりしているのでしょうか?
讃井氏:
サービスづくりに関連して思ったことは大きく2つですね。1つは、今回のファイナリストたちの作品は、内容だけでなく、ビジュアルでも目を引く作品が非常に多かったことです。学ぶ人のモチベーションを引き出すという意味でサービスの作り方自体もそうですし、プロモーションやサービスの伝え方という面でも非常に考えさせられました。
もう1つは、ストーリーの大切さですね。これはMOZERでも大事にしていることですが、人を惹き付けるストーリーがあれば、ストーリーの中に学ぶ側が没入してモチベーション高く学んでいけるということを、改めて再認識させられました。私たちのプロダクトの中でも、ストーリーや、ストーリーの中に入ることでできる体験をもっと大切にしていこう、と再認識させられました。
ちなみに今、MOZERには英語版もあって、アメリカのとある学区で導入を検討いただいているのですが、これも日本賞での経験が役立った部分ですね。海外の教育関係者、そして、子供たちにも通用する作品だという自信が持てたからです。
「デジタル作品を“日本賞”の精神で発展させていきたい」
――今度はまた、橋本様にお伺いします。そもそもとして、なぜ「クリエイティブ・フロンティアカテゴリー」の応募を増やしたいのでしょうか?
橋本氏:
実はセサミストリートもかつてグランプリをお贈りしたことがあるのですが、コンテンツの世界では、BBCなり、ドイツのZDFなり、世界中の放送関係者が「教育」をやってきたし、そういう人のための場所として日本賞も50年間ずっとやってきました。その結果、テレビの世界の人達には認知してもらっているのですが、デジタルコンテンツの制作者の皆さんには残念ながらまだまだそれほど届いていない。それは僕らの力不足なんですけれども、なんとかしてそれを知ってもらって、本当にいい土俵として使ってもらえるようにしたい、といったところでしょうか。
――そういう意味では、どういう作品が「賞として求めている作品」なんでしょうか? 一口に「教育」と言っても、その捉え方は広いですよね。
橋本氏:
広いですね。だから、我々が子供の頃に学校でみんなで見ていた、(Eテレでやっているような)「理科」や「社会」などの教科番組はもちろんですが、それだけではなく、もっと広くて「何か学んでほしい」とか「何か伝えたい」とかいうような、すごく豊かさのある世界なのかなとは思います。
――では、審査基準について順にお伺いします。まず、全部門共通の審査基準として、「個人の成長に資するための長期的な展望と教育的な意図をもっているか」とあります。これについて、少し説明をいただけないでしょうか。
橋本氏:
これは「教育とは何なのか、学ぶというのはどういうことなのか」という視点の基準と考えていただければと思います。
「このコンテンツを見たときに、明日あなたの振る舞いが変わるかどうか?」というような。
具体的にいうと、プログラミングを少し教わった後、「自分で何かを作ってみよう」と思ったり、あるいは気候変動の話を聞いたら「エアコンの温度を少しセーブしよう」と思うこともそうだと思います。ものによっては小さな変化かもしれないけど、自分の振る舞いが変わるということは、何か学んだかな、成長したかなという。
大きなことでなくてもいいかもしれないし、「ちょっと背中を押すようなこと」でもいいかもしれない。小さな子供だったら、何か元気付けてあげるようなことでもいいかもしれない。ただ、やっぱり「基準」として書くとなると、あまり個別のことも書けないから、わりと大きなこととして書かざるを得ないんですよね。
――コンテンツ部門の審査基準、1つ目の「教育目標の設定と達成:対象者の学習意欲を高める教育目標、または社会や時代状況の必然性に照らして適切な教育目標が設定され、それらの目標が個人の行動や態度の変容に結びつき、十分達成されるものになっているか」というのはいかがでしょうか?
橋本氏:これは、「教育的な狙い目がはっきりと設定されているかどうか」という話ですね。
例えば、ロールプレイングゲームみたいなものでもいいけど、教育の意図がわりとしっかりしていることが大事というか。「学びに生かしたい」という、志みたいなところが作品で表現できているかどうか、というイメージでしょうか。
――続く2つ目「内容・構成:対象者の学習、あるいは学習に準ずる教育的な活動が効果的となるよう、内容や構成が工夫されているか」と、3つ目「表現・演出:作品の表現や演出方法に、斬新さ、創造性、芸術性、メディアの特性を活かした新しいアイディア等が認められるとともに、対象者の興味を引き起こす工夫が施されているか」はどうでしょうか?
橋本氏:
この2つ目は、要するに「ストーリーがしっかりしているか」ということですね。たぶんテレビ番組が一番関係すると思いますが、構成とかストーリーがしっかり作られているか。
そして3つ目は、表現とか演出に、斬新さとか創造性があるかということで、これはまぁ、わかりやすいんじゃないかと思います。
――4つ目が、クリエイティブ・フロンティアカテゴリー専用の審査基準ですね。「特性・有用性:クリエイティブ・フロンティアカテゴリーでは、上記に加えて、デジタルメディアならではの特性を活かし、主体的に学ぶ意欲を高めるとともに、フォーマット、構造、デザインなどが対象者に配慮して、使いやすく作られているか」となっています。これが特に重要だと思いますが、いかがでしょうか?
橋本氏:
クリエイティブ・フロンティアカテゴリーに関しては、それぞれの作品にメディアの特性が活かされているかが求められます。インタラクティブというか、「誰がやっても同じストーリーをただ見ているだけ」ではなく、何かをすることや、選ぶことで話の展開が変わったり、1人1人違う感じになる、といった、映像作品でできなかったことができるようになるわけです。そうした魅力を生かせるかどうかだと思います。
スマホアプリも十分「日本賞」の対象に?
――「いろいろな作品を」とお伺いしたので、ここからは例を挙げてお伺いさせてください。例えば、スマホのアプリって、小学校低学年や、場合によってはもっと小さい子供も触ってますよね。「数、形を覚えよう」みたいなものから始まって、「ピタゴラ装置」みたいなものをつくれるアプリとか、もっとシンプルな電卓的な知育アプリとか。
橋本氏:
そうですね、基本的にはそういうものは全部対象になると考えてもらえればと思います。去年の受賞作もスマホアプリですし。
基準としては、何らかの形で学びのチャンスになるとか、考えるきっかけを与えるということがあるのであれば、そのことによって子供が何かを発見してくれるかもしれない、そういう考え方をしたいですね。たとえば「ピタゴラ装置」的なものでいえば、物理の法則とか、子供たちがそういうものの動きだとか、そういうことに親しむためのものだということであれば、それは面白いと思います。
――別の考え方をすると、学習塾が開発した学習アプリなどがありますが、こういうのはいかがでしょうか。
橋本氏:
もちろんありですね。「教育」なわけですし。
そして、評価に関しては、審査員がいろいろ考えることになると思います。例えば「20段までの九九」を覚えられるようなソフトがあったとして、我々は「そのことがどのくらいの価値を持ってくるか?」ということについて、審査する中で評価をつけていくのかな、と思います。自分で言った内容ですが、どういう判断が示されるのか、難しいことは難しいですね。
――なるほど……、そのほかだと、いわゆるサンドボックスゲームを「教育向け」として注目する向きもあるようですが、いかがでしょうか?
橋本氏:
「場があるだけ」といったものだと、難しいような気がしますが、「教育という観点でその場をどう使うか」というのがサポートされるような視点があるのであれば、賞の趣旨にあうように思います。
あと、作品によっては、「一般的に誰でも使えるか?」というところで、引っかかってくることもあるかもしれません。ちなみに、コンテンツの無料、有料については「有料だからダメ」ということはないですね。
――では、ちょっと突飛な例として「戦国武将が出てくるシミュレーションゲーム」とかはいかがでしょうか?
橋本氏:
そうですね。「子供に歴史に目を向けさせることが目的なんです」といった面があるかどうか、みたいなところと、教育的なゴールが設定されているかどうかということ、でしょうか。
最初はそうでなくとも、後発的に教育現場で使われていったりとか、「実はそれも狙っていたんです」みたいな話もあったりするかと思います。
――こんどは、違ったかたちとして、例えばVRのような新技術や、ロボットのような「モノ」を組み合わせるものはどうでしょうか?
橋本氏:
VRや、何か仕掛けが必要なものは教育分野でも増えてきていますよね。
ただ、VRについては、確認環境の問題もあるので、今のところは相談していただく、ということにしています。
審査を丁寧にやりたいので、そこをどうするか、というのが現実的に問題だと思っています。ただ、「普通の映像があって、それに加えてVRも」という作品が過去に最終候補作になったこともあります。
また、ロボットについては、ルールとして「オーディオビジュアル」というのがあるので、その範囲が含まれていれば、ということになるかと思います。
「目標とする場」になってほしい
――ところで、過去の受賞作をみると、やはりかなりすごい作品が並んでいるように感じます。正直なところ、「応募してもファイナリストにも残らないと思うので、ちょっとやめておこう」という方々って、一定数いらっしゃると思うんですが、そのあたりはどうなんでしょうか。
橋本氏:
そういった面もあるとは思いますが、正直なところ、審査員の方は、いろいろな考えを持っている方がいらっしゃるので、評価がどんなふうにされるのかはわからない面もあったりします。
讃井氏:
私たちの時と審査基準が変わらないのであれば、コンテンツ部門共通の審査基準のうち、この3つ目と4つ目(編注:表現の斬新さや「デジタルメディアを活かして」の部分)関する要素が入っているかが重要だと思います。多分にメッセージ性があるとか、原点になっているイシューがあることだと思うんですよ。やっぱりEdTechのものって、無色透明なことも多いじゃないですか。でも、「こういうことを伝えたい」「この問題を解決したい」という思いが、日本賞では大事にされているのではと思っています。
ちなみに、私としては、ベンチャー企業ならこういう賞にどんどん応募したほうがいいと思っています。それは、自分達のサービスをいろんな人に知ってもらうことができ、その上、お墨付きをいただくことまでできる、それは教育サービスを展開していく上で大事な「信頼」につながることです。ですから、たとえ賞に選ばれなくても、1つの目標の場としてまずは出してみるのがいいんじゃないかな、と。
例えば、デジタルアート系クリエイターの登竜門としては、文化庁のメディア芸術祭とかがあって、目標としている人は結構いると思います、それと同じように、日本賞のクリエイティブ・フロンティアカテゴリーが、そういった教育コンテンツを制作している人達の目標の場となってほしいという思いもあります。
橋本氏:
ちなみに、エントリーしてもらったら、ファイナリストになってもならなくても、いろんなイベントに参加していただくことはできます。ワークショップや上映会があったりとか、平日夜にパーティーをやったりとか、そういうイベントに参加していただけます。
――ワークショップってどんなものがあったんですか?
橋本氏:
去年は、番組制作のほうのワークショップでしたが、セサミストリートの元プロデューサーが来て、子供番組のためのキャラクター作り、世界各地の地域文化を活かしたキャラクター作りというテーマでお話いただきました。
――それは、応募された人にはそういうのがありますという案内が送られるのですか?
橋本氏:
はい。案内しますね。だからぜひ来てほしいし、参加するだけでも意味がある、というかたちにしていきたいなと。
――では、そろそろまとめに入ります。コンテンツ制作者に対してのメッセージをいただければと思います。
橋本氏:
教育コンテンツの制作は、デジタルとかそうでないとか関係なしに、ある種の未来を作っていくような、子供たちを育てて、それはこれから未来をつくっていけるんだっていう、すごく魅力的な、夢を描ける仕事だと思っています。
今この日本賞を担当していて、そういう未来を作っていくことに関われるというのが、すごく楽しいし魅力だと感じています。
あと、本当にいろんな人と出会えるとか、いろんな人といろんなイベントに参加できるという、楽しい部分というか、そういう魅力っていうのは、ファイナリストになれなくても、味わっていただけるところだと思いますので、是非、皆さん応募していただければと思っています。
みなさま、よろしくお願いいたします。
――ありがとうございました。
※この記事はNHKによるスポンサードコンテンツです。