インタビュー

いよいよ始まる10Gbps接続の「フレッツ 光クロス」、NTT東日本を直撃!

 NTT東日本とNTT西日本は、上り/下りともに最大約10Gbpsの通信速度を持つインターネット接続サービス「フレッツ 光クロス」の申し込み受付を3月16日から開始し、4月1日から提供する。

 同様の最大10Gbpsのインターネット接続サービスは、「auひかり ホーム10ギガ」や「NURO 光 10Gs」などがすでに提供されているが、圧倒的なシェアを有するフレッツ光が対応することで、10Gbpsの速度を生かせる「10GBASE-T」の有線LANと、最大約4.8Gbpsの「Wi-Fi 6」が、これまで以上に身近な存在となっていくことは間違いない。

 ここでは、そのフレッツ 光クロスのサービスとその内容について、NTT東日本ビジネス開発本部第一部門ネットワークサービス担当担当課長である福島浩平氏、同社ネットワーク事業推進本部設備企画部ネットワーク高度化部門担当課長の粟野恭彦氏と、同じく菊地博樹氏にお話を伺った。

加入者側で10Gbpsの速度を生かせる環境が整った

――まず10Gbpsに対応した「フレッツ 光クロス」を提供するまでの経緯を教えてください。

[福島氏] 10Gbpsのサービスは、すでに他社様からは提供されています。ただ、われわれとしては、まだお客さま側の利用環境が整っていないと感じていました。「フレッツ光」は、そもそもコンシューマーユーザー向けのサービスとして位置付けています。このため、利用環境が整っていない中で提供をしても、広くは使われないとの判断もあり、これまでは、なかなか実際のサービス提供までに至りませんでした。

 ただ、2020年度にはモバイル回線でも5Gのサービスが始まる予定です。一方で2019年には、コンシューマー向けのブロードバンドルーターでも、10GBASE-Tに対応した製品が登場しました。このように、10Gbpsを利用するための環境は整いつつあります。

 さらに、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に対応するスマートフォンも出始めています。iPhoneの最新モデル(編集部注:iPhone 11/Pro/Pro Max)が対応したことで、いよいよ10Gbpsが使える環境が整ってきたわけです。フレッツ光もこのタイミングで、10Gbpsのサービスを提供しようと言うことになりました。

NTT東日本ビジネス開発本部第一部門ネットワークサービス担当担当課長の福島浩平氏

10Gbps化には投資が必要ながら、5G開始や4K動画拡大で普及にメド

――これまでは、広帯域化に対する市場のニーズがあり、それに応えるかたちでサービスを提供されてきたと思いますが、今回も帯域の拡大に対するニーズは強いと感じられているのでしょうか。

[福島氏] そうですね。より広帯域の新たなサービスを提供するとなると、バックヤード側の装置類への投資も必要となるので、市場からの要求がなければ、なかなか新しいサービスを投入するとの判断には至りません。

 その意味では、きちんと加入していただけそうな見極めができたことで、フレッツ 光クロスのサービスを提供できる、というわけです。

――最大でおおむね1Gbpsとなる従来のフレッツ光の各サービスと、今回のフレッツ 光クロスの割合は、今後どのように変化していくと予測していますか。

[福島氏] 当面は、10Gbpsのフレッツ 光クロスが一気に普及するような状況にはならないと考えています。

 現在は、光コラボレーションモデルがフレッツ光回線導入の主流を占めています。フレッツ 光クロスも同様に、モバイル通信事業者などを経由し、モバイル回線とセットでオフロード用の回線として提案されるようなかたちで広まっていくと考えています。

 そうした場合、1Gbpsを上回る速度の5Gが、今後モバイル回線で普及していくことを考え合わせると、上限がおおむね1Gbpsの光回線をモバイル回線とセットで販売するのは厳しいと感じています。なぜなら「自宅で固定回線経由で通信した方が遅い」となってしまうためです。

 そう考えたときに、モバイル回線とセットで販売する際、光回線が10Gbpsの速度であれば「家の外でも内でも高速化します」とお勧めできるようになるので、そうした面からも、徐々に普及が広がっていくのではないかと考えています。

――市場での期待が高まっている5Gと、これに対応したサービスの提供開始が、10Gbpsに対応するフレッツ 光クロス提供のきっかけとなったということでしょうか。

[福島氏] そうですね。加えて2020年は東京オリンピック・パラリンピックもあり、4K映像の配信がそれなりに広がるだろうということも背景にあります。

 10Gbpsの帯域が必要な環境とはどういったものかを考えたとき、高品質の映像を安定して見られるというのは、大きいと考えています。

 お客さまへの訴求に関しても、当面は映像が主軸になると考えています。例えば、家電量販店でテレビといっしょに光回線を販売するなどによって、10Gbpsを世の中のスタンダードにしていければいいですね。

「10G-EPON」光回線規格を採用、提供エリアは「順次拡大」ながら時期は未定

――光ファイバーの規格についてお伺いしたいのですが、10Gbpsのアクセス回線向けとなる「10G-EPON」は2009年に標準化の策定が完了していました。その検証は以前から手掛けられていたのでしょうか。

[粟野氏] 10G-EPONの検証は数年前から行っており、サービスの企画部門とすり合わせつつ、いつ提供するかのタイミングを検討していました。

――ニュースリリースでは、通信速度について「上り/下り最大概ね10Gbps」と表現されています。実際のスループットはどの程度になるのでしょうか。

[粟野氏] エラー検知のパケットや暗号化のための制御パケットがあるため、スループットは10数%ほど低下してしまいます。そのため、実効スループットとしては、おおよそ8.5Gbps程度になると思われます。

NTT東日本ビジネスネットワーク事業推進本部設備企画部ネットワーク高度化部門担当課長の粟野恭彦氏

――サービス提供開始時の提供エリアを見ると、東日本では足立区や杉並区、江戸川区、練馬区、世田谷区など、東京23区の一部からとなっていますが、今後、提供エリアはどのよう拡大していくのでしょうか。

[福島氏] 今の時点では、いつまでにこのエリアまで拡大するといった目標は設定していません。当然、サービスを提供したからには多くのお客さまに使っていただきたいですし、そのためにもサービスエリアは拡大したいと考えています。

 ただ、具体的なスケジュールは決まっていないのです。サービスが多くの人に使われれば、エリアは早く拡大していくことになるでしょうし、逆にユーザーが少なければ、なかなかエリアも広がらないというかたちになると思います。

 つまり、当面はサービスの提供状況を見つつ、エリア拡大の検討を進めていくということになります。

――東京23区以外でも、10Gbpsの帯域が使えるフレッツ 光クロスを待ち望んでいるユーザーは多いと思います。

[福島氏] そういった声をたくさんいただきたいですね。フレッツ 光クロスのエリア拡大には相応の投資が必要になるため、やや時間を要するという状況ではありますが、ユーザーからの要望が多ければ、それに応えるべく我々も努力していきたいと考えています。

早期のサービス提供を目指し、当初はIPoE方式のみ、ひかり電話にも非対応

――ISPへの接続方式として、当初はIPoE方式のみとなっています。その理由を教えてください。

[菊地氏] PPPoEとIPoEの両方を一気に提供しようとすると、10Gbps対応サービスの提供開始時期が遅れてしまう見込みでした。このため、より早く世の中にサービスを提供するために、まずはIPoEだけをサポートすることにしたわけです。

 PPPoEに関しても、ISPからの要望に応じて今後対応する予定です。お客さまによっては、IPv4の固定IPアドレスを使いたいといったニーズもあるので、そうした要望に対しても準備を進めていきます。

NTT東日本ネットワーク事業推進本部設備企画部ネットワーク高度化部門担当課長の菊地博樹氏

――ONUとフレッツ 光クロス対応レンタルルーターは具体的にはどのようなものが提供されるのでしょうか。

[福島氏] ONUに関しては、従来のフレッツ 光ネクストの装置とほぼ同等の大きさです。

フレッツ 光クロス対応ONU(左)と、フレッツ 光クロス専用のレンタルルーター(右)

フレッツ 光クロス専用レンタルルーターの背面

 レンタル提供するフレッツ 光クロスの専用ルーターは、WANとLANのインターフェイスの1つ、あわせて2ポートが10GBASE-Tに対応します。LAN側の残り3つのインターフェイスは、1Gbpsまでの対応です。さらに、IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)に対応することも、今回のレンタルルーターの特長となります。

 電話機を接続するためのポートも用意していますが、サービス開始当初は「ひかり電話」には非対応です。先ほどお話したPPPoEと同様に、サービスを早く提供しようと考えた結果、ひかり電話までに対応する用意が間に合いませんでした。ただ、将来的には対応するように予定しています。

――サービスを申し込んだ後の工事は、どのようになるのでしょうか。

[福島氏] 当初は設置先の住宅にお伺いして、電柱などからの光回線の引き込みを含め、回線を全て作り直す形で工事を実施します。引き込み線を流用できる場合も一部にありますが、そうした場合も当初は無派遣工事での開通は行いません。

 また、集合住宅の場合には、内部の装置を入れ替えるようなケースで、オーナーの方やそのほかの住民の方々とのやり取りが発生します。いわゆるマンションタイプについては、そのハードルがクリアできると見極められたタイミングでサービス提供を開始することになるでしょう。

 ただ、マンションによっては、一戸建てと同様に外部から回線を引き込めることがあります。その場合は、一戸建てと同様に申し込んでいただければ、サービスを提供できることもあります。

――最後に、読者に向けてメッセージをいただけますか。

[菊地氏] NTT東日本は、やはり安心や安全を大切に考えています。フレッツ 光クロスにおいても、サービス品質という点を、まずはしっかりとやっていきます。また将来的にも、トラフィック量に合わせてきちんとネットワークを増強していく予定です。ぜひ期待してください。

――本日はありがとうございました。