インタビュー

現代流「ディスプレイの選び方」を聞いてみた、トレンドは2画面、ノートPC、大型化

~ディスプレイ環境の変化に乗り遅れないために~

マウスコンピューター マーケティング本部製品部黒川治氏

 もしなければPCとして成り立たない不可欠なハードウェアといえば、ディスプレイだろう。47年という息の長いiiyamaブランドを展開するマウスコンピューターによれば、特に外付けディスプレイの重要性は、デスクトップPCかモバイルPCかに関わらず、ビジネスシーンで近年ますます高まっているという。

 ここ数年の同社の出荷データを分析すると、ディスプレイの平均インチ数は確実に拡大傾向にあり、PC 1台に対して2台以上のディスプレイを導入するユーザーも増えているのだそう。

 ビジネスにおいてディスプレイの重要性が高まっているのはなぜなのか。そして業務や目的によって実際にどんなディスプレイを選ぶのがベストなのか。iiyamaブランドを担当する同社マーケティング本部製品部黒川治氏に話を伺った。

今や「ノートPCにも液晶ディスプレイ追加」の時代増え続ける情報に対応するために……

 ブラウン管全盛の時代から、製品としての品質や高画質に愚直にこだわり続けてきたマウスコンピューターのiiyamaブランド。

 現在は主に日本と欧州という2つの市場で展開しており、特に欧州は日本を上回る出荷台数を誇るという。

 日本と欧州両方への輸送やコストの都合上、生産こそ海外の製造委託先が中心になっているものの、開発・品質管理部門は長野県・飯山市に置き、品質においてキーパーツとなるコンデンサーなどは日本製のものを使い続けている。

 30項目に及ぶきめ細かな試験と、高温室での長時間稼働による耐久性の検証などを通じ、1台1台のクオリティにばらつきが生じないよう専用の測定器で検査してから出荷しているのも特徴だ。

マウスコンピューターはiiyamaブランドでディスプレイを製造・販売している

 ディスプレイ製造の老舗であるiiyamaブランドにとって、ビジネス上の大きな転換点は1997年からの液晶ディスプレイへの移行の時期と言える。しかしここ10年ほどは、また新たなビジネスの変化にも直面してきているようだ。

 黒川氏によると、それは通信インフラの整備が急速に進んだことが要因。「インフラが高速化したことでユーザーが受け取る情報量が膨大なものになってきました。その膨大な情報を処理するための装置として、液晶ディスプレイの重要性が増しているのです」と話す。

 大量の情報を素早く、効率的に処理するには、それに見合ったディスプレイ性能が必要になる。具体的には、情報を表示する面積、画面サイズをできるだけ大きくすることで、情報を認識しやすくなり、処理できる情報量を増やすことができる。

 いわばデスクトップPCの「付属品」のイメージが強かったディスプレイだが、近年では情報の処理量を増やすための「表示拡張機器」として、デスクトップPCにとってもモバイルPCにとっても重要な周辺機器として捉えられるようになってきたのだ。

 こうした潮流は世界的なものだが、黒川氏によると「働き方改革」が叫ばれている日本は特にその傾向が強いのだとか。

 出荷するディスプレイの画面サイズは年々拡大し、欧州はもちろんのこと、日本はそれに輪をかける形で拡大ペースが上がっている。2019年時点で日本におけるディスプレイサイズのメインストリームは23~23.8インチに達し、今も伸び続けているという。

 1画面でより多くの情報を、より見やすく表示するための画面サイズ拡大の動き。その一方で、1台の画面サイズを抑えつつ、それを2台設置するマルチディスプレイ化を選択するユーザーも増えている。

 この場合は1画面のときよりもやや広い設置スペースが必要になるものの、業務内容や扱う情報によってはより高い生産性に寄与することになる。

マウスコンピューターではほとんどの従業員が2画面構成。フリーアドレスのエリアでもそれは変わらない

「画面を拡大した時に重要なのは調整機能」昇降、スイーベル、チルト、ピボットという4つの調整機構に対応

 このようなビジネス環境の変化、市場ニーズの変化に合わせ、マウスコンピューターでは製品ラインアップにおけるインチ構成を最適化させながら、それと同時に製品そのものの改善にも取り組んできた。

 「画面を拡大したとき、もしくは2台以上に増やしたとき、どうすればユーザーがより使いやすくなるかにフォーカスしてきました」と黒川氏は語る。

 その改善の1つがディスプレイを支えるスタンド。同社は以前から、昇降(高さ)、スイーベル(左右の向き)、チルト(上下の傾き)、ピボット(回転)という4つの調整機構をもった多機能スタンドをラインナップしてきた。

 それに加えて2019年には、多くのモデルで台座となるスタンドベースを小型化し、オーバル形状からスクエア形状へとデザインを変更。これによってフットプリント(設置面積)の縮小、デッドスペースの減少を図ってデスクを広く利用できるようにした。

昇降、スイーベル、チルト、ピボットという4つの調整機構をもつ
スタンドベースは従来より小型化、スクエア化

 また、ディスプレイを購入して初めて設置するにあたり、輸送時は別体になっているスタンドベースの取り付けが必要だが、この過程を変更、設置作業を大幅に効率化できたという。

 具体的な作業時間はおよそ3分の1に短縮され、個人ユーザーが購入したときはもちろん、法人における大量導入のケースでも大きな省力化につながった。

 マルチディスプレイ環境に向けた取り組みとしては、「ウルトラスリムパネル」の採用やその流れを汲む「3辺フレームレスフラットデザイン」が大きなポイントだ。上側と左右両サイドのベゼル幅を極限まで細くし、2台を横に並べたときに境目を目立たなくしている。

 また、従来はディスプレイ面から手前側に飛び出すように段差のあったベゼルだが、これもディスプレイ面とツライチにすることで、すっきりした見た目とマルチディスプレイ時の違和感の減少に貢献している。

「ウルトラスリムパネル」で、マルチディスプレイ時でも境目が目立たなくなった

 最近ではオフィス内の座席をフリーアドレス化したり、サテライトオフィスやコワーキングスペースなどからリモートで仕事するなど、デスクスペースにそれほど余裕のない場所でPCを使うシチュエーションも増えてきている。

 スタンドの小型化や高機能化、さらには狭額縁化によって設置しやすくなったiiyamaのディスプレイなら、こうした場所にモバイルPCを持ち込む場合でも生産性高く仕事できるようになるだろう。

「用途別・最適なディスプレイの選び方」を聞いてみた

 では、実際のところどういった業務・用途に、どんなディスプレイが向いているのだろうか。

 黒川氏は、基本的な考え方として「モバイルPCに外部ディスプレイを1台追加するなら、物理的に設置可能なスペースの範囲内で可能な限り大きいものを選んでほしいですね。今あるディスプレイの置き換えなら、それよりわずかでもインチ数の大きいディスプレイを選ぶのがおすすめです」と提案する。

 たとえば現在21インチ前後のディスプレイを使用しているなら、24インチあたりにアップグレードするのがベスト、とのこと。

 ただし当然ながら、仕事の内容によっても選ぶべきディスプレイは変わってくる。それも考慮したうえでiiyamaのディスプレイのラインアップに当てはめると、以下のようなパターンが考えられるとした。

モバイルPCに、2枚目のディスプレイを追加したい

 iiyamaとしてベーシックなものは23.8インチの製品。これは同社のメインストリームでもあり、モバイルPCと一緒に使用するときに最もフィットしやすいサイズだという。

 モバイルPCの小さな画面では扱いにくい情報も、それよりはるかに大きい23.8インチならぐっとコンテンツが拡大され、1画面内でより多くの情報をより正確に把握できる。

大きめの27インチにすることでさらに視認性が向上する(右は24インチ)

 さらなる見やすさを追求したいなら、23.8インチから1~2段階大きい27インチを導入するのもアリ。

 オフィスの受付や事務機器用のディスプレイとしては、現在は19.5~21.5インチあたりが中心だが、リーズナブルな価格ながらも大画面の24インチに置き換える例も増えているとのことだ。

マルチディスプレイで効率よく仕事したい

 マルチディスプレイに最適なモデルとしてマウスコンピューターが提案しているのが21.5インチのモデル。

 2台設置しても占有スペースの拡大は限定的で、3辺フレームレスフラットデザインなら画面をまたがって表示するような場合でも違和感は少ない。さらに広大なデスクトップが必要なら23.8インチのモデルもおすすめだが、設置スペースはどうしても大きくなるので要注意だ。

21.5インチのディスプレイをマルチディスプレイで使用

 これらの製品には、4つの調整機構がある多機能スタンドと、チルトのみが可能な固定スタンドのバージョンがある。

 前者の多機能スタンドなら、ピボット機能で縦置きにするのもおすすめ。Webブラウザーだけでなく、SlackやChatworkなどのビジネス向けチャットツールのように、縦スクロールを多用するアプリケーションで有効活用できる。

 調整機構によってユーザー1人1人の体格や姿勢に合わせてディスプレイの位置を細かく変えられるのもメリットだ。フリーアドレスのような環境だと、椅子やデスク側で調整できる範囲にも限界がある。

 「人の目線には無理なく見られる一定のポジションがあり、そこから外れると疲労につながってしまいます」と黒川氏。健康や生産性向上のためにも「ディスプレイ側(のスタンド)できちんと調整できることが大事」という。

省スペースを追求したい(PC+ディスプレイで)

 デスク上に余裕がないケースでは、ディスプレイを小さくすることを考えがち。でも、反対にPC本体を小さくしてディスプレイをできるだけ大きくするという手もある。こうすることで省スペースを実現しながら業務効率を無理なく高められるはずだ。

 小型デスクトップパソコン「MousePro M」シリーズには専用のブラケットが付属し、これを使って固定スタンド型のディスプレイの背面にPC本体を装着できる。ほとんどディスプレイの設置スペースだけでデスクトップPCを使えるわけだ。なお、多機能スタンドに対応する別売ブラケットも利用可能となっている。

MousePro Mを背面に装着したProLite E2483HS-3
「会議室用」「電子掲示板用」として、ディスプレイを使いたい

 「会議室用」は、少人数の会議では31.5インチモデルが有用で、多機能スタンド装備なら、スイーベル機能で左右に画面を振れるので認識もしやすい。

会議室やサイネージ用途に向いた31.5インチのディスプレイ

 一方、マウスコンピューターでは2019年1月から新たにデジタルサイネージ市場にも参入を果たした。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおけるデジタルサイネージの需要を意識したものだが、このサイネージ向けの高輝度・高コントラストな大画面ディスプレイは、オフィスの会議室に設置するのにも適している。

 ある企業ではサイネージ用のディスプレイを従業員の目につきやすい場所に電子掲示板として設置することで、情報の共有やコミュニケーションの促進に役立った例もあるという。

 DisplayPortのデイジーチェーン接続にも対応したモデルでは、4台を格子状に並べることで巨大なサイネージになる。大企業であればオフィスの受付スペースなどに設置するのに向いているだろう。

ゲームでハイパフォーマンスを求めたい

 ビジネスユースからは離れるが、iiyamaではゲーミング向けのハイパフォーマンスなディスプレイを「G-MASTER」シリーズとして展開している。

 1つは24.5インチ、フルHD解像度のモデルで、ゲーマーにとっては「全体を把握しながらキャラクターを動かせる一番いいサイズ感」とのこと。27インチのWQHD(2560×1440ドット)解像度のものもあり、いずれも144Hzという高リフレッシュレートと1msの高速応答が特徴だ。

DTPや高精細な写真、4K動画などを快適に編集したい

 デザイナーやクリエイターのように高精細なグラフィックを扱うケースでは、そのデータを丸ごと1画面内に表示可能なディスプレイを使いたいところ。

 A3サイズの印刷物のデザイン、RAW画像データのレタッチ、4K動画の編集といった用途だと、フルHD解像度ではどうしても不足してしまう。

 このような用途では、WUXGA(1920×1200ドット)やWQHD(2560×1440ドット)、あるいは4K(3840×2160ドット)の解像度をもつディスプレイがおすすめだ。

iiyamaのディスプレイはどう強化されるのか?「わかりやすいUSB Type-C対応」をPCとセットで提案していきたい

 以上のように老舗メーカーとして多様なモデルをラインアップしているiiyamaブランドだが、ディスプレイ業界はライバル企業も多く、その競争は激しい。他社がいち早く製品化していながら、iiyamaがキャッチアップできていないように見える技術もあるように見える。

 たとえばiiyamaがまだリリースしていない製品の1つとして、USB Type-C接続のディスプレイが挙げられるだろう。

 USB Type-C対応のディスプレイでは、PCと1本のケーブルで接続するだけで、映像の外部出力、データ転送(USBハブ機能)、モバイルPCへの給電、オーディオ出力やLANポートの利用などを同時に実現できるのがメリットだ。

 ところが黒川氏によると、実際の(他社の)PCやディスプレイ製品の中には「映像出力しかできないもの、データ転送しかできないもの、といったように、機種によってできること・できないことがバラバラ。USB Type-Cが本来目指していた“ケーブル1本で何でもできる”という世界が実現できていないと感じる」とのことで、ユーザーの混乱につながっている場合があるという。

既存のPCやディスプレイ製品は、USB Type-Cへの対応がまちまちだと語る黒川氏

 こうした状況は、PCメーカーでもあるマウスコンピューターとしては反対にチャンスになると考えているという。「PCとディスプレイが1本のケーブルでつながり、USB Type-Cが可能な仕様の多くを実現できるようにすれば、ユーザーに対して価値のある提案ができるのではないか。PCとのセットで提案することで、わかりやすさも訴求できるならば検討していきたい」と黒川氏。「USB Type-C本来の利便性」の実現した製品も考えているという。

 ゲーミングモデルについても、より高いリフレッシュレートの製品について検討を進めているが、「新しい技術は、それがユーザーにとって本当にメリットがあるのかを見極めることが一番重要なんです」と黒川氏。

 拙速に新技術を披露するより、多くのユーザーが満足できる、iiyamaならではの品質と信頼性を兼ね備えた製品にすることが第一、と続ける同氏。

 半世紀近く、日本を代表するPCディスプレイメーカーであり続けているのは、そんなこだわりのモノ作りにあるのかもしれない。