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インタビュー

定額制オンライン動画サービスの黒船「Hulu」日本代表バディ・マリーニ氏に聞く


「世界のプレミアムコンテンツを、いつでも、どこでも、好きな方法で楽しむことを可能にする」というミッションを掲げ、2007年に米国で創業した「Hulu」(フール−)。米国でのHuluは、広告が表示される無料サービスと、広告があるものの特定の回線やメーカーに縛られず、テレビ、ゲーム機、セットトップボックス、スマートフォン、タブレットなどの対応デバイスで視聴できる有料サービスを用意。映画やテレビ番組がいつでも見放題で、人気を集めているサービスだ。

 2011年9月からは日本でもサービスを開始。月額1480円で海外ドラマや映画が見放題になるとして、当初から話題となった。現在では、20社以上のコンテンツホルダーのもと、725本以上の映画、5000話を超えるテレビ番組の視聴が可能となっている。国内のコンテンツホルダーとも多数提携しており、アニメをはじめとした国産コンテンツも大幅に増加、さらに4月からは料金を980円に値下げするなど、ますます目が離せない存在となってきた。

 そこで、初の海外マーケットとして日本を選んだ理由や、コンテンツ事情などについて、日本代表に就任されたばかりのバディ・マリーニ氏に伺った。

Huluとは宝の箱

フール―ジャパンの代表を務めるバディ・マリーニ氏

――日本代表ご就任おめでとうございます。まずは、マリーニさんの経歴などをご紹介いただけますでしょうか。

 ありがとうございます。私はハーフなんですが、日本生まれで日本育ちなんです。大学から米国に渡り、エンターテインメント業界に入って、ウィリアム・モリス・エージェンシーのエージェント・トレイニーや、ユニバーサル・ピクチャーズのクリエイティブ・エグゼクティブ、米国インターナショナル・デジタル・アーティストの代表取締役社長、香港イレジスタブル・フィルム・マネージメントのマネージングディレクターを務めてきました。10年ほど前に日本に戻りまして、エイベックス・グループ・ホールディングスを経て、今年の4月に、Hulu日本法人の代表に就任しました。

――Huluでは「いつでも、どこでも、好きな方法で」というのをスローガンにしていますが、マリーニさんが就任されたことで、日本法人の方針に変化はあるのでしょうか。

 基本的には変わりません。エンターテインメントファンに、オンライン動画サービスを提供すること、特に豊富なプレミアムコンテンツの提供ですとか、いろんなデバイスで展開すること、いいユーザー体験を提供するという方針は全く変わっていないです。

――「Hulu」という社名の由来を教えていただけますか。

 「Hulu」には、中国語でいくつかの意味があります。1つは「ひょうたん」。古代、中国でひょうたんは“大切なものをいれる入れ物”として使われていたそうです。また、インタラクティブに記録することという意味もあるようです。実は、Hulu立ち上げの初期段階から、技術面において、中国系の方々が関わっていたんですね。

 ですから、社名を検討しはじめたとき、中国語の「Hulu」が出てきたわけですが、音として、弊社が築こうとしているスピリットを、うまく捉えていると思いました。英語では意味を持たない言葉ですが、プレミアムコンテンツを所有している会社として、とてもこの意味に魅力を感じたので、それに基づいてブランドを作っていくことになりました。


Hulu初の海外マーケットとして日本を選んだ理由

――米国でサービスを開始して、初めての海外進出が日本とのことですが、最初に日本を選ばれた理由は。

 いくつか理由があるんですが、やはり、まずニーズがあると感じたことです。見る時間がない、わざわざレンタルするのが面倒とか、せっかくレンタルショップにいっても、見たいコンテンツが借りられなかったとか、そういう状況にフラストレーションを感じている方がいる。Huluは、いつでも、どこでも、好きな方法でプレミアムコンテンツを見られますから、そういうニーズに応えるには日本はベストな市場だと思いました。

 また、日本にはプレミアムコンテンツが豊富という意味でも魅力的でしたし、すでにインフラも整っていて、ゲーム機、タブレット、スマートフォン、パソコン、いずれの環境も充実している。いろんな要素を考えた結果、日本が第一歩にふさわしいのではないかと決断しました。

Hulu PC版トップページ
http://www.hulu.jp/

――会員数は非公開とのことですが、日本でサービスを展開されてからの手応えはいかがですか。当初描いていたイメージ通りの結果が得られていますか。

 はい。会員数は非公開なので申し上げられないのですが、日々会員数は伸びていますし、視聴者からのフィードバックも非常に良くて、我々は結果に満足しています。

――米国の場合は、無料サービスと、有料サービスを提供されていますが、米国では、どちらの会員が多いのでしょうか。

 米国では、無料サービスは月間3800万人のユニークユーザーがおり、有料サービスは200万人強ですね。これも刻々と増えている状況です。

――日本国内でも動画配信サービスはすでにありますから、コンテンツホルダーとの契約や、ユーザー獲得で結構苦戦されるのかと思ったら、かなりすんなり受け入れられている印象があって、正直驚きました。すでにテレビ東京のアニメも見られるようになってますし、コンテンツホルダーをどのように口説いたのか気になります(笑)。

 コンテンツホルダーには、我々のコンテンツホルダーに対しての思いですとか、長期的なビジネスとして考えているという思いの強さ、新しい市場を拡大して、コンテンツホルダーたちにもちゃんと利益をマネタイズできる形を作っていくということを、常にお話ししながらパートナーシップを作ってきました。去年ローンチしたときには、6社のコンテンツパートナーがいましたが、今では20社以上のコンテンツホルダーを抱えております。実際、コンテンツもローンチ当初と比べて3倍に増やしてますし、今後さらに増やしていきたいと思ってます。

――米国の無料サービスを日本でも提供しようという予定はありますか。

 今のところないです。日本のニーズを考えたときに、広告は出さないでいこうと決めました。それが視聴者にとってもベストではないかと考えてスタートを切っております。


月額980円への値下げの効果

月額980円への値下げで、より利用しやすくなった。「ユーザーが相当のバリューを感じていただいているのを実感しています」(マリーニ氏)

――最近、月額1480円から980円に値下げをされました。数字的な変化はありましたか。

 数字に関してはコメントできないんですが、ユーザーからは非常にいい反応を得ています。実際、会員数を増やすにあたって一番いい価格設定だと思っていますし、月980円で見放題という価格設定は、ユーザーの方に相当のバリューを感じていただいているのを実感しています。

――最近、NTTドコモやKDDIの新製品発表会があり、スマホ向け動画サービスが発表されました。これらはHuluよりさらに安いわけですが(ドコモは525円、auは590円)、そのあたりについてはどうお考えでしょうか。

 我々のサービスは、コンテンツのバリエーションだけでなく、パソコン、スマートフォン、タブレット、テレビという4つのスクリーンに対応しています。しかも、いずれかで見ていたコンテンツを、そのまま違うデバイスで続けて視聴できる。デバイスが変わっても、シームレスに楽しめるというメリットがあります。その中で、さらに国内外のプレミアムコンテンツが増え続けているという状況です。コンテンツホルダー側にも、きちんと利益を残していきたいですし、いろいろな意味で、月額980円で見放題というのは適切な価格だと考えています。

――あまり安くすると、コンテンツホルダー側のメリットが減って、提供を渋られるかもしれないという危惧はありますか。

 コンテンツホルダーを大事にしたいという思いですね。Huluの株主には、ウォルトディズニー・カンパニーや、ニューズコーポレーション、NBCユニバーサルといった米国の大手コンテンツホルダーが名を連ねています。彼らのコンテンツホルダーとしての価値観や思いを常に考えなくてはいけないスタンスにいるので、日本でサービスを展開するときにも、Huluの株主企業だけでなく、やはりコンテンツホルダーのことも考えながらサービスを展開していかなければいけないと思っているんです。

――これまでの配信サービスのほとんどは、特定プラットフォーム向け、特定回線専用というパターンだったので、ユーザー視点で考えるととてもありがたいですよね。

 ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいですね!

PC向けサービスは、Windows、Mac、Linux OSに対応 テレビ、ゲーム機、テレビ用ストリーミングプレーヤーなどに対応。Wiiにも対応を予定している モバイル機は、iPhone/iPad/iPod touch、Android スマートフォン/タブレットに対応


日本のユーザーは、モバイル比率が高い

――複数プラットフォームに対応していますが、ユーザーが閲覧するデバイスで一番多いのは何でしょうか。

 いろいろあるんですが、米国ではどちらかというとリビングルーム周辺デバイスが多かったりしますが、日本はモバイルが多いですね。パソコンも結構ありますが。

――モバイルの比率が多いというのが日本の特徴なんですね。新しい対応デバイスを出すときは、すべて御社で確認するんですか。

 もちろんそうです。新たなデバイスになると、性能が全然違ったりするので、スムーズに視聴できるよう開発しなければいけません。今、ロサンゼルスやシアトルなどに、100人以上のシステムエンジニアや、30人以上のデザイナーなどを抱え、開発自体、自社で対応しています。任天堂のWiiへの対応を予定していますが、新しいデバイスへの対応が決まると、ハードウェアメーカーと協力しながら、Huluで再生ソフトウェアを開発します。

――デバイスごとにスクリーンのサイズも違うので、当然字幕の見え方も変わってきますよね。これはどう対応されているのでしょうか。

 字幕は自社でつけることもありますし、場合によってコンテンツホルダー側から字幕をいただくこともあります。コンテンツホルダー側からご提供いただいた場合も、モバイルだとちょっと見づらいから作り直さないといけないというときは社内で対応します。

――コンテンツは、字幕の見やすさも含めて、全部チェックするんですね。

 そうです。当然コンテンツホルダーからも高いクオリティで納品していただくんですが、視聴者に一番いいクオリティで見ていただくというのが我々のミッションなので、チェックは非常に厳しくやっており、必要な場合は字幕も我々のほうで入れて提供しています。

 たとえば、画面が大きいリビングルームのテレビでは、一番いいHD画質で提供する。回線があまりよくないモバイル環境なら自動的に気にならない程度に画質を落としてスムーズに再生できるよう、視聴環境の回線速度や再生環境に合わせて自動的に調整します。各デバイスと回線速度で最適化しながら、テレビで途中まで見たコンテンツを、シームレスに、今度はモバイルで見られるように開発しています。

――Android端末ですと、アプリはすでにあってインストールできますが、実際に動く機種はまだ限られていますね。これ以上のスペックが必要だよ、というボーダーラインはあるんですか。

 古いフィーチャーフォンの対応はさすがに難しいですが、特にボーダーラインは設けていません。Android端末もさまざまなスペックがあるうえ、各メーカーが独自のカスタマイズをしているため、まだ対応していないものもありますが、対応デバイスは今後増やしていきます。対応済みの端末は弊社のウェブサイトに公開しているので、ぜひチェックしていただきたいです。


米国では日本のアニメが人気。国内コンテンツがグローバル市場を得る可能性も

――日本映画や、テレビ東京のドラマやアニメなど国内コンテンツもかなり増えましたね。

 海外ドラマの視聴率も高いし、海外映画の視聴率も高いんですが、日本のドラマや映画もやっぱりすごい人気なんですよ。ですから、日本のドラマ、映画、アニメコンテンツなど、日本のプレミアムコンテンツを常にもっともっと増やそうという思いはありますね。

 実は、米国版Huluでの視聴率のトップ5に、日本のアニメ「NARUTO」や「遊戯王」が入ったりするんです。日本のコンテンツのバリューというのは、米国でも非常に実感しています。

――それはすごいですね! 子供が見ているのではなくて、日本のアニメが好きな人たちが見てるということなんでしょうか。

 いろんな視聴者がいると思っています。けっこう視聴率は高いですよ。それはやはり、米国では日本のアニメを見たくても、簡単に見られないからですね。でもHuluにアクセスすれば見られるというわけです。日本でも、日本のコンシューマーが簡単に見られない、たとえばDVDタイトルとして販売されていないコンテンツなどもどんどん出していきたいと考えています。

米国版Huluトップページ
http://www.hulu.com/
米国版Huluは広告モデルで、日米のサービスは独自に運営されている

――日本で配信しているコンテンツは、米国でも提供されているんでしょうか。たとえば、日本のHuluで見られるテレビ東京のコンテンツは米国でも見られるんでしょうか。

 提供しているサービスは日米では異なりますので、契約に基づいて別々に扱っています。日本のコンテンツを米国でも出したいと思ったら、「海外でも視聴可能にしたいと思っていますがどうですか」とお話させていただいています。ちなみに、米国と日本のHuluはビジネスモデルが異なるそれぞれ独立したサービスになります。日本のHuluのアカウントで、米国のHuluにログインすることはできません。

――コンテンツホルダーから見ると、グローバルに配信できるプラットフォームとして、Huluはかなりメリットがあるサービスだといえそうですね。

 我々もそう信じていただきたいですね。あんなに豊富なコンテンツがある米国で、トップ5に日本のアニメが入るということに私も驚いたんですが、それだけニーズがあるということを表しているわけですから。


今後のサービスについて

――今後の活動についてはいかがでしょうか。

 6月1日より、弊社とパートナーシップを締結したウエスタンデジタル社から、Hulu対応のメディアプレーヤー「WD TV Live」が発売になります。無線LAN対応なので、HDMI経由でテレビに接続すると、720pの高画質でHuluのプレミアムコンテンツを楽しんでいただけます(プレーヤー自体は1080pにも対応)。また、年内にはWiiにもローンチする予定になっています。

6月1日に発売されたウエスタンデジタルのHulu対応メディアプレーヤー「WD TV Live」

――自社でオリジナルコンテンツを作ることは考えていらっしゃいますか。

 今は考えていません。コストがかかるということではなく、視聴者に、いつでもどこでも好きな形でエンターテインメントを楽しませたいというミッションだけでも、やることはたくさんあるからです。そこでできるだけいいサービスを提供することを考えていきたいです。

――日本の次に、どこに進出するかすでに決まっていますか。

 まだ決まってはいないんですが、我々のゴールとしてはグローバルなプレーヤーになることですから、いつも新しい展開は考えています。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。


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(すずまり)

2012/6/4 06:00