「Your Cloud, Your Way.」~Pogoplug Mobileを発売したクラウドエンジンズ社に聞く

~クラウドエンジンズ社CEO プッターマン氏インタビュー

 2011年2月にソフトバンクBBと組んで日本版Pogoplugの販売を開始してからちょうど1年。米クラウドエンジンズ社は、2012年1月31日に筐体をコンパクトにしたPogoplug Mobileと、Pogoplugのクラウドサービスを発表した。

 2011年9月にはパソコンのストレージをPogoplug化するPogoplugソフトウェアの日本語版をリリースしており、パーソナルストレージPogoplugサービスを利用するハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービスの3つが揃ったことになる。クラウドエンジンズ社CEO ダニエル・プッターマン氏に今回のPogoplug製品およびサービスの戦略を聞いた。(聞き手:清水理史)

80%高速化したPogoplug Mobile

クラウドエンジンズCEO ダニエル・プッターマン氏

――新しいハードウェアで、80%高速化されているということですが、これはどの部分が高速化されているんでしょうか。

 ユーザーからみて、一番感じていただけるのはスループットです。データアクセスのリードライトが高速になったと感じていただけると思います。性能向上に関しては、LAN環境が一番感じていただけると思います。

――クラウドサービスは、ハードウェア(Pogoplug Mobile)を持っているユーザーとクラウドのみ利用しているユーザーで、できることには違いはないんですか

 全部同じです。クラウド版の無償ユーザーも、ビデオ・ストリーミングも含め、すべての機能が利用できます。

 また、いまはたとえばiPhone向けのトランスコーディングはパソコン側で行っているわけですが、近々トランスコーディングもクラウド上で行うことができるようにしていきます。ただし、トランスコーディングについては有償提供の予定なので、それについても、クラウド上でやるのか、あるいは自分のパソコン側でやるのかをユーザー側で選択できます。

 ただ、ハードウェア(Pogoplug Mobile)を持っているメリットとしては、自宅にいてLAN上のパソコンを使っている時には、非常に高速に転送できるということがあります。


――ローカルのHDDとクラウド、どちらにも保存できるわけですが、ユーザー側で混乱はないでしょうか。

 Pogoplug Mobileに接続したストレージと、クラウドサービスのどちらにも保存できるわけですが、どちらを使うかはユーザーによるということになります。あとは、はじめて触れた時に、どっちから入ったかということでも違うと思うんですね。

 最初に無償のクラウドサービスを利用して、有償サービスは米国では最大1TBまでなんですが、ハードウェア(Pogoplug Mobile)を買えば、さらに2TB、3TBといった容量も利用できます。逆に、先にハードウェア(Pogoplug Mobile)を購入して、バックアップをクラウド上にファイルを置きたいというユーザーもいるでしょう。

 ハイブリッド・クラウドを同じユーザーインターフェイスで提供可能にするのは技術ですが、コンシューマーに対するメッセージとしては「Your Cloud, Your Way.」、つまり「あなたのクラウドはあなたのやり方で」と言っています。

 日本でもPogoplug Mobileの発表と同時にPogoplugのサイトを一新し、最大5GBまで無償で利用できるPogoplugのクラウドサービスの提供を開始しました。リニューアルしたサイトのトップページには、ファイルを自宅のHDD内に保存するか、あるいはクラウド上に置くかはユーザーが選べる、ということを示す意味で、クラウドサービスとPogoplug Mobileの2つの入り口を表示しています。


Pogoplugのトップページ。無料で5GBまでPogoplugクラウドサービスが利用できる。機能は有料版とまったく同一だ「Softbank SELECTION」の製品紹介ページ。Softbank SELECTIONのほか、ヨドバシカメラやビックカメラなどの量販店でも販売中


日本でのリリースから1年、ユーザーの反応やクラウド提供の背景

――日本でのPogoplugリリースから1年経ちましたが、現状のユーザーの反応などは

 使い方については、大別して2つの使われ方があります。電子メール、Facebookなどでインスタントシェアリングする使い方です。もう1つはそれと逆で、プライベートな形で何かを共有したい――具体的には、医療機関などでX線の画像をシェアするといった使い方です。

 どちらの用途でも、ウェブブラウザーだけでなく、モバイル機器でも同様にデータを扱いたいという要望が多かったんです。そのほかに、中小企業でオフィスの中にデータを持っている方が安全だと考えるユーザー層も増えています。

 一方、米国ではPogoplug Cloudの無償版が多くの方に利用されています。まず無償のPogoplug Cloudを利用して、次に今回日本でも発売したPogoplug Mobileなどのデバイスを購入するというユーザーが増えています。

 デバイスを実際に持っている方々は、インスタントシェアリングをより多く利用されています。共有された動画を、共有した相手が見ると、動画にリンクがはってあって、あなたもすぐに同じことができますよ、ということが書かれているんです。それを見た人は自分でもすぐに試してみることができる。そういったバイラルな形でもユーザーが急速に増えています。

 

2月に日本で発売されたPogoplug。米国版は米国サーバー、日本版は日本国内のサーバーを利用するため、並行輸入製品でなく国内向け製品がおすすめだVectorのPogoplugソフトウェア販売ページ

――クラウドサービス提供を決めたのはいつ頃なのでしょうか。

 技術的には4年前から計画にあったんですね。ただ、ストレージデバイスをNATを越えて共有するPogoplugと、クラウドサービスと、その両方を一度に出して市場の理解を得るのは難しかった。そこで、まずPogoplugを出して、次にそれと差別化したサービスとして、クラウドでオンラインストレージを提供しましたが、構想としてはクラウドは最初からありました。

 また、すべてのデータがいずれクラウド上に置かれるだろうという人もいれば、それとはまったく逆に、クラウドは非常に危険なものだという人もいます。そうした2つの正反対の意見がある中で、われわれとしては、ユーザーが選択できるということが大切だと思います。ですからPogoplug Mobileでは、内容によって、自宅内のストレージに保存することもできるし、クラウド上に保存することもできます。この2つを選択できて、しかもユーザーインターフェイスとしては同じように扱えるということが重要だと考えています。


ハード、ソフト、サービスの3つが揃ったいま、今後の展開は

「いろいろなものがPogoplug化できる」と言うプッターマン氏

――今後はクラウドの課金モデルに移行されるのかとも思ったのですが、ハードも継続していくのでしょうか。

 そうですね、両方ともやっていきます。ハードウェアとしても良い製品なので売上げは伸びています。今年の夏までには、日本でも小売店舗数を増やし、大半は米国ではありますが日米合わせて1万店舗以上に拡大する見込みです。ハードウェアビジネスとしても拡大しています。

 Pogoplug.comもユーザーから大きな支持を得ているので、今後さらにユーザーに喜んでいただけるような製品やサービスを増やしていきたいと考えています。

――今回でハードとソフトとサービスの3つが揃ったわけですが、今後のビジョンについてお聞かせください。

 新しい製品についてお話すると、会社に戻って叱られてしまうので(笑)、ヒントだけお話します。どのようなものでもPogoplug化するということは可能だと思うんです。ストレージをどこに置くのかというのは、柔軟な考え方ができると思います。まずはパソコンが中心になりますが、今後は携帯デバイスの内蔵ストレージもどんどん大容量化していくでしょう。どこに置くのか、またどこからでもアクセスできるようにするにはどうしたらいいのか、といった考え方になりますね。

――今後、テレビのような家電につながってくれることを期待しているのですが。

 たとえば、テレビとPogoplugをつなげるといったことはやりやすいんですね。でも、たとえば携帯電話を通じてテレビに内蔵したHDDに保存したコンテンツを観るという話になるとハードルが上がります。これは両方ともニーズとしてあると思うんですね。

――以前はBIZという法人向け製品がありましたが、法人向け製品の戦略について教えてください。

 Pogoplug BIZという法人向けの製品を数量限定で提供していたんですが、限定数量が売り切れたんですね。非常に好評で、ただ中小企業向けですともう少し機能強化してほしいというご意見もいただきました。ですから、中小企業向けに何らかの形でサービスをやろうと思ってはいます。

インスタントシェアリングのデモ。ファイルを指定してURLを生成し、見せたい相手にURLをメールするだけ。左ペインを見ると、クラウドもハード(Pogoplug Mobile)もまったく同じ操作で使えることがわかるメールを受け取った相手が見る動画閲覧画面。ページの右上に「Get your own Pogoplug Cloud 5GB Free!」と表示されている。米国では、こうしたリンクからPogoplugを利用するユーザーが急増中だという


他社との提携戦略とPogoplugブランド戦略

――バッファローからPogoplug機能内蔵のNASが出ましたが、他社との提携戦略について教えてください。

 考え方としては、われわれの製品ラインを拡張することができるブランドの方々とビジネスをやっていきたいと思っています。

 今回のPogoplug Mobileについては、ソフトバンク社と一緒にやらせていただいていますが、マス・マーケット向けで、安価で、ユーザーフレンドリーで、モバイルという点でも親和性があるということで、われわれのメインストリームのお客様向けの製品になります。

 ご質問にあったバッファローのNAS製品「LinkStation Cloud Edition」については、NASというよりテクノロジー寄りの製品になりますから、テクノロジーに関心のあるユーザー向けの製品としてはバッファローとやっていくという形になります。

 ただし、バッファローはNASをより簡単に使える製品にしたいと考えています。米国では「Consumerization of IT(ITのコンシューマ化)」というコンセプトが広がっています。バッファロー社とコ・ブランディングできて良かったと思うのは、NASというテクノロジー製品ではあるのですが、よりコンシューマーフレンドリーな製品を展開していきたいという考えでわれわれは一致しています。

 今後他のブランドとの提携などについてはまだわかりませんが、われわれの製品ラインを広げていけるような企業、またわれわれのビジネスと競合しないところと提携したいと考えています。また、われわれは非常に小さな会社ではあるんですが、自分たちの企業ブランドを守ること、ブランド評価といったものも考えてやっていきたいと思っています。

Pogoplug Mobileは「SOFTBANK Selection」の店舗で販売する。ソフトバンクBBがPogoplugの国内サーバーと販売を担当Pogoplug機能を搭載したバッファローのNAS製品「LinkStation Cloud Edition」

――ブランドといえば、ロゴマークが最初のマゼンタからブルーになりましたね。

 実は、両方まだ使っています。パッケージの中でマゼンタもまだ使っています。ロゴが一番大事で、色を変えることでリフレッシュさせる、ちょっと違うイメージにしてみるといったことをしています。もちろん今でもマゼンタが好きなんですけれども、だいぶ認知度も上がってきたので、より広いユーザー層に訴求するために、色のバリエーションを増やしたということです。気がついていただいてありがとうございます。(笑)

――ありがとうございました。



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(工藤 ひろえ)

2012/2/6 06:00