インタビュー

会計ソフト、クラウド化の前・後で何が違う? 「MFクラウド会計」ユーザーのIT弁護士&顧問税理士に聞く

 3月に入り、今年の確定申告期間も後半戦に突入した。個人事業主の中にはすでに申告を終えた人もいれば、これから作業に入る人もいるだろう。個人事業主で確定申告を苦痛に思う人は少なくない。そんな個人事業主にとって気になる存在が、“クラウド型”の会計・確定申告ソフトだ。銀行口座、クレジットカード、電子マネーなどの取引データを自動連動で取り込むことで、申告書作成の作業時間を大幅に短縮することが可能だ。

 とはいえ、昨年の確定申告が“クラウド元年”と呼ばれてからまだ2年目とあって、様子見をしている人も多いことだろう。今回は、実際に会計ソフトをパッケージ型からクラウド型に切り替えた個人事業主の方と、クラウド型会計ソフトの導入を促進している会計事務所の税理士の方に、クラウド化の現状をお聞きする機会を得たので紹介したい。

弁護士の藤井総氏(右)とトリプルグッド税理士法人の原川健氏(左)

 お話をうかがったのは、弁護士の藤井総氏と、トリプルグッド税理士法人(http://www.triplegood.co.jp/)の原川健氏。弁護士と税理士と聞くとお堅い人のインタビューと思われそうだが、藤井氏は「IT弁護士.com」(http://itbengoshi.com)というサイトを運営し、数多くのIT企業の顧問弁護士を担当。国内で急成長しているクラウド型ビジネスチャットツール「ChatWork」の公認エヴァンジェリスト(普及担当)という肩書きも持つ、まさにIT弁護士だ。

 一方、原川氏は、難しそうな話を面白おかしく関西弁で説明される様子が、税理士というよりバリバリの営業マンといった印象。原川氏が籍を置くトリプルグッド税理士法人は関西を拠点とした税理士法人で、80名が在籍。さらに行政書士、司法書士、法律事務所などを含むトリプルグッドグループでは100名ほどの規模になる。全国の会計事務所の9割以上が5名以下の規模なので、同社は大規模な会計事務所と言える。また、「第1回会計事務所甲子園」で1位を獲得。2014年の「働きがいのある会社」ランキングの従業員25~99人部門でも1位にもなっている(ちなみに100~999人部門の1位はグーグル、1000人以上部門の1位は日本マイクロソフトだ)。

会計ソフトのクラウド化を進めるトリプルグッド、顧問先の3分の1が「MFクラウド会計」に移行

――藤井さんがこれまで使っていた会計ソフトについてお聞かせ下さい。

藤井氏:
 もともとはインストール型の会計ソフトを使用していました。その後、2013年に別の会社のクラウド型会計ソフトに乗り換え、さらにトリプルグッド税理士法人との顧問契約にともない、2014年後半からマネーフォワードの「MFクラウド会計」を使用しています。期の途中からの導入だったので、現在はもともと使用していた会計ソフトとMFクラウド会計を並行して使用しており、2015年からはMFクラウド会計に完全移行となります。

 私は弁護士法人横浜パートナー法律事務所に所属していますが、弁護士は一般の企業とは異なり、 独立した弁護士が集まって弁護士事務所を運営する形態が多いです。私は共同経営の形態で横浜パートナー法律事務所に所属し、事務所経費の一定金額を支払っています。事務所が契約する税理士事務所とは別に、私個人が個人事業主としてトリプルグッド税理士法人と税務の顧問契約しているかたちになります。

――トリプルグッド税理士法人の顧問先における会計ソフトの現状はいかがですか。

原川氏:
 クライアントが1400社ほどあり、 2014年の初めからMFクラウド会計に切り換えを進め、現在は約500社がMFクラウド会計になりました。残る900社も順次切り換えを行いますので、近いうちにその割合も増えるものと思います。

 クライアントとしては法人が多く、一部は弊社で入力代行をしますが、多くのクライアントは自計化(=自社で会計ソフトの入力を行うこと)されています。ネットバンキングを使用し、クレジットカード決済が多いクライアントが続々とMFクラウドに移行している状況です。

――トリプルグッド税理士法人がMFクラウド会計を選んだ理由は?

原川氏:
 MFクラウド会計を開発・提供しているマネーフォワード社のスタンスです。企業には企業の、会計事務所には会計事務所の要望があります。それらの要望を取り入れて最終的に企業の会計サポートをしていこうという姿勢が、マネーフォワード社には強く感じられました。我々が出す要望も反映されるので助かっています。

 この1年、正直かなりの要望を出して機能に反映してもらいました。また、それが恐ろしく速い。すでにMFクラウド会計の利便性は相当なものです。我々の立場も理解していただいて要望を聞いていただけるので、非常に助かっています。

会計ソフトをクラウド型にすべき理由とは?

――藤井さんが会計ソフトをクラウド型に切り替えた理由は何だったのでしょうか。

藤井氏:
 会計ソフトを使って問題を感じたのが、インストール型のソフトは事務所のPCにインストールすると出先や自宅のPCで会計業務ができなかったことです。

――クラウド型会計ソフトへ移行することに違和感や抵抗感はありませんでしたか。

藤井氏:
 もともとIT好きなので直感的に使えるようになりました。むしろ、特定のPCに縛られないクラウドのメリットを感じました。

原川氏:
 世の中に会計ソフトは数多くあり、慣れてしまうと本当に使いやすいのかどうか分からないと思います。時代のクラウド化が進んでいる中、経営の効率化や利便性を追求するならMFクラウド会計がいいと思いますので、違和感や抵抗感はないですね。

――藤井さんは以前は自力で申告し、今回初めて税理士に依頼するかたちですね。

藤井氏:
 失礼な言い方ですが、これまで税理士の先生方の仕事は、事務所に来てこちらの記帳をチェックするついでに世間話をするくらいにしか思っていませんでした。ですから、自分で記帳して確定申告をすれば済むと思っていました。今回、トリプルグッド税理士法人の仕事ぶりを見て、これならよいアドバイスがいただけると思ってお願いすることにしました。

原川氏:
 今のお話は会計事務所の実態かもしれないですね。我々の業界は入力代行の費用と税務管理の費用が主な収入源となっていますので、顧問先の社長に会うのは、会うこと自体が目的であり、会って何かをするという発想があまりないかもしれません。私も大学を出て最初の会計事務所に勤め始めた時は雑談しかしてませんでした。というより、経理のことは分かりますが、経営のことは分からなかったんですよね。顧問先としては、税務申告が毎年あるし、節税もしたいし、税務調査も怖いので、会計事務所に毎月、顧問料を払っているところが多いのではないでしょうか。

 そこにMFクラウド会計のような自動連動できる会計ソフトが登場したので、業界としては大きな転換期になったと思います。我々は、会計事務所がもっと経営者を支えることをやらなければならないと考えていたので、大きなチャンスだと考えています。

――トリプルグッド税理士法人が顧問先の会計ソフトのクラウド化を広めようと思ったきっかけは?

原川氏:
 弊社は「中小企業の100年経営で、日本を元気に!」をミッションとして経営しています。フィロソフィー(哲学)は「売り手よし×買い手よし×世間よし」の「三方よし」としています。「トリプルグッド」の社名の由来はここから来ています。時代がクラウド化し、経営の効率化や改善に活用できるものが目の前にあるのに「それを使わない理由はないでしょ」という組織なので、積極的にクラウド型会計ソフトを導入しています。

 藤井先生はIT化の最先端を行っていますし、みなさんが同じくらい使いこなしてくれると問題ないのですが、中小企業の中には顧問料を毎月払っているのに会計が進んでいない企業も多いんですよ。

 実際、数字が苦手な社長も多いんです。しかし、そういった社長の会社こそ、クラウド化のメリットは大きい。「経営の効率化のためネットバンキングを利用して下さい」と言って口座を開設してもらい、銀行の次は、クレジットカード決済を勧めます。そうすると、(クラウド型会計ソフトに日々、自動で入出金・決済データが取り込めるようになり)会社の業績が常に把握できるようになります。会社をよくしたいと思うなら、社長が数字にある程度強くならないといけない――そういう方向に「一緒にやって行きましょう」と提案する際の強力な武器に、MFクラウド会計はなっています。経理の方がしっかりされている会社においても、クラウド化による自動連動によって空いた時間を他の業務に使ってもらった方が有効だと考えています。

会計業務をクラウドで自動化することで、経営者の意識を財務へ向けることが可能に

――藤井さんはクラウド化で会計業務が変わりましたか。

藤井氏:
 以前の会計ソフトは、期末に確定申告をするための試練という感じでした。ノートに1月から順番に領収書を貼って、それを見ながらテンキーで泣きそうになりながら入力していました。入力ミスもあるので見直しも必要で、つらい作業でした。2月に入ってあわてて入力を始めていたので、期末試験を一夜漬けで乗り切るような気分でした。

 現在は「MFクラウド請求書」も使用していますので、請求書を発行すればMFクラウド会計と連携して、前月の請求分が入金されたかを簡単に確認できます。従来はネットバンキングの入金と請求書を照らし合わせる必要があったのですが、今は画面を見れば一目で分かります。クレジットカード払いの経費も自動連動するので、MFクラウド会計にアクセスすれば、日々、入出金データが見られます。現在は頻繁に確認するようになりました。

原川氏:
 従来の会計ソフトの場合は経理向き・会計事務所向きの画面でしたが、MFクラウド会計は売り上げ、経費、現預金残高がパッと出てくるので、経営者の方も取っつきやすくなっています。売り上げがどうなっているか、現預金残高が増えているのか減っているのかがすぐに分かるので、財務に興味を持ってもらえます。

――トリプルグッド税理士法人の顧問先は、クラウド化で変わりましたか。

原川氏:
 劇的に変わりました。従来の会計ソフトであれば、通帳を開いて日付、勘定科目、金額、摘要欄の入力でやっと1つの取引が完了しますが、MFクラウド会計であれば自動連動しますので、日付、内容、金額を取り込み、 例えば「A社の入金は売り上げ」と学習機能で指定しておけば、翌月から何もしなくてよくなります。しかも毎日データを取り込んできます。生産効率も上がりますし、入力ミスもなくなります。銀行取引だけでなくクレジットカード、電子マネー、さらに「Airレジ」のような外部のレジアプリなどとの連携も進んでいますから、うまく活用すると何もしなくてよくなります。現金取引をクレジットカードや電子マネーに切り替えれば切り替えるほど会計業務の効率化が図れますね。

 飲食業、美容院、工場などの中小企業の社長は、調理をしたり、工作機械を動かしたりと現業もやりつつ社長業もされている方が多いんです。以前は数字に興味が持てなかった社長もMFクラウド会計なら適時に業績が把握できますし、入金されたか気になる取引先の振り込みが銀行に行かなくても確認できます。まさに日次決算が可能になった感じで、経営者の方に財務に意識を向けていただきやすくなりました。会計事務所に入力を任せて1月の数字が2月の終わりに分かるということでは生きた判断ができない。これがMFクラウド会計なら常に業績が把握できます。戦略的な財務に近いイメージになりました。

――そもそも、クラウド化以前はどのような感じだったのでしょうか。

原川氏:
 自計化ならば、とにかく入力していただかないと会社の数字が把握できません。MFクラウド会計を取り入れる前は、顧問先の社長に「入力いただいてますか?」と電話をすることが頻繁にありました。社長も忙しいので、「決算の時でええやんけ」と言われることもありました。「ちゃんと入力して業績を把握しないと適切な判断ができないですよ」「分かった。でも忙しいねん。ごめんな、またやっとく」……1カ月してから再度電話しても入力されておらず、さすがに決算が近付くとやっと税金のことが気になって「どれくらい利益あるんやろ」「ですから社長、前から言うてますやんか……」という会話が多かった。

 今は自動連動なので、入力していなくても業績はこちらで把握できます。その結果、電話で会話する内容も変わり、「預金が増えて売り上げも上がってますよね」となります。我々も、より経営支援に向けたサービスにシフトできるようになりました。

気になるセキュリティ面、インストール型よりクラウドの方が安全?

――クラウド型であっても全データを自動連動で取り込めるわけではないと思いますが、そのあたりはどうですか。

原川氏:
 個人事業主はほぼ100%自動連動されています。法人の場合は自動連動できない銀行口座もありますが、それらの口座でもネットバンキングのCSVデータの取り込みを行えば、連動しているのとほぼ同様の効果がありますし、近いうちに自動連動されますので心配ないですね。ネットバンキングを利用していない法人は手入力をするしかありませんが、クレジットカードや電子マネーだけでも自動連動すれば入力作業は格段に減ります。

――藤井さんは、自動取り込みできない領収書はどれくらいありますか。

藤井氏:
 枚数としては、毎日、何かしらの領収書(現金取引)は発生しており、年間で数百枚になると思います。現在は、現金払いの領収書はトリプルグッド税理士法人に入力代行までお願いしているので、自分では入力はしていません。

――銀行によって、ネットバンキングサービスとクラウド型会計ソフトとの相性がありますよね?

原川氏:
 金融機関によっては自動連動できないところあるので、自動連動できるところから自動連動しています。自動連動できないところでもCSVの取り込みができるのでそれほど時間はかかりません。できる範囲で最大限自動化をすれば生産効率は上がりますし、近いうちに自動連動されるので心配はしていないです。クライアントにも「すべての口座を自動連動してくれ」とは言いません。銀行口座の事情を聞いて、できるところから自動連動しています。

藤井氏:
 私は以前から、ネットバンキングもクレジットカードのオンラインサービスも使用していたので、会計ソフトを使用し始めたころは「データがあるのになんで手入力しているんだ」と思っていました。ですので、クラウド型に切り替えた時はスッキリしました。ネットバンキングで若干手数料がかかっても、作業が減ることを考えると、法人も個人事業主も導入した方がよいと思います。

――メガバンクと地方銀行を比較すると、どちらがクラウド型会計ソフト向きでしょうか。

原川氏:
 近い将来においてはどの金融機関も自動連動されるので、どちらの銀行がということでもないですね。各企業の状況に応じて銀行を選択するとよいと思います。

――クレジットカード会社の差はありますか。

原川氏:
 クレジットカードについての大きな差はないと思います。

――クラウド型会計ソフトはクラウドにデータを預けるという仕組みですが、せキュリティ面についてはどう考えていますか。

原川氏:
 我々は特に業法も厳しいですし、企業の機密情報を扱うのでセキュリティには神経を使っています。MFクラウド会計を使用するにあたっても、会計事務所としてセキュリティ面の確認は行っています。情報漏えいの70%以上がUSBメモリ、次にPCの紛失、メールの誤送信と聞いていますので、クラウドの方が安全だと考えています。

藤井氏:
 データ漏えいに関しては、事務所のPCが盗難されるリスクや自分でPCを紛失するリスクを考えると、クラウドの方が安全だという考えもできます。データ紛失に関しても、自分でUSBメモリやNASにバックアップを取ると、それだけデータ漏えいのリスクも高くなるので、その点でもクラウドの方が安心だと考えられます。

――最後に、クラウド型会計ソフトの様子見をしている読者に向けて、クラウド化をお勧めしたい業種など、アドバイスをお願いします。

原川氏:
 MFクラウド会計は全業種で活用できる思います。数字が苦手な社長も業績が気にならないわけではなく、(会計業務の)優先順位が下がっているだけだと思います。日次の数字が分かると、数字が苦手な社長にも経営のアドバイスができます。もちろん、もともと数字に強い社長にもお勧めです。業種や社長のタイプにかかわらず、MFクラウド会計は活用できると実感しています。

 実際、MFクラウド会計を導入した経営者の方々が喜んでいます。経営者は、自社が儲かっているか、キャッシュに問題がないのかなど常い把握したいのですが、今まではそれをする時間が取れなかった。MFクラウド会計を活用して会計業務の効率化を図り、翌日には会社の業績を把握できる日時決算が組める。近い将来にはスマートフォンでも確認できるようになります。日時決算や入手金管理も含め、自社の業績を手元ですべて把握できる時代がすぐそこにまで来ています。忙しい経営者にとってもクラウド化の効果は非常に大きいと思います。

――ありがとうございました。

奥川浩彦@ アイピーアール