「RubyWorld Conference 2010」で三木谷社長講演~楽天グループの成長と戦略

「日本語で1時間もしゃべったのは久しぶり」


楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏。7月の海外戦略以来、公の場では英語で話すことが多くなったが、今回は日本語での講演となった。「日本語で1時間もしゃべったのは久しぶり」

 島根県松江市で開催されたRubyのカンファレンス「RubyWorld Conference 2010」の2日目。楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は基調講演「楽天グループの成長と戦略」にて、「これまで大きくアピールしてこなかったが、楽天は自社開発にこだわるテクノロジーの会社」として、Rubyと手を組んだ理由を説明した。

 楽天は、長期的な視点で技術を研究する楽天技術研究所を設立。分散処理や大規模システム開発の手法を確立するため、2007年6月にまつもとゆきひろ氏をフェローに招いてRubyの開発に参加するようになった。今回の三木谷氏による基調講演は、このような縁があり実現したものだ。

楽天の強みは、エコシステム、ソーシャルメディア化、パーソナライズ

 楽天は、最近、海外への進出を発表した。三木谷氏は、日本での成功を踏まえた世界戦略として、「エコシステム」「ソーシャルメディア化」「パーソナライズ」の3つを挙げている。

 楽天グループは、創業以来、サービスの立ち上げや買収により、ネットショッピングを筆頭に、旅行、銀行、証券、クレジットカード、電子マネー、ポータルサイトなど多様なサービスを展開している。これで形成している経済圏が楽天の「エコシステム」だ。

 「インターネット企業でこれだけのサービスを提供しているのは、世界で楽天だけ」とするほど。楽天市場や楽天トラベルの料金を楽天カードで決済して、ポイントが貯まり、それが次の買い物で使えるなど「複数のサービスが絡まり合って独特の世界を作っている」という。

楽天グループの拡大。最近では電子マネーの「Edy」を扱うビットワレットを買収したこれら楽天グループにより構築された楽天経済圏「エコシステム」の進化。楽天の会員データベースを中心に情報やお金が回っている

 その結果、「株式を公開した2000年は売上げが30億円程度だったが、2009年は約3,000億円に伸びた。欧米のコピーではなくて、自分たちが考えたシステムで伸びたことに自信がある」という。

 三木谷氏が“自分たちが考えたシステム”としたのは、「Amazon.comやeBayは、商品を中心に構築されている。しかし楽天は出店者を中心としたインターネット商店街であり、商品街ではない」ということからだという。「楽天は、各店長が自分でメルマガやブログを書いて情報を発信して店舗の色が出て自然にファンが増えるという仕組みを構築した。これによりネットショッピングが、究極の対面販売となっている」とアピールした。

 「楽天市場でよく売れている卵があるが、この店舗には作っている人のストーリーが描かれている。小さなストーリーでもたくさん集めると出店者の力がつき、夢が持てるようになる。出店者が夢を持てるビジネスモデルを作れるかが重要。このような出店者の力は、地域の力にもつながる。いまは、都市部の店舗よりも、地方の成長率の方が高い。海外でも、都市部と地方の差に苦しんでいる国はいっぱいある。楽天は、海外に進出しても地方を元気にしていくお手伝いをしていきたい」と意欲を見せた。

 多くの店舗が出店している楽天市場だが、三木谷氏は商品を探して買うまでの行動として3つのパターンがあるとしている。ユーザが商品を検索して指名買いする「一人称マーケティング」、メールマガジンなどで販売店に勧められて買う「二人称マーケット」、購入者のレビューを見て購入する「三人称マーケティング」がそれだ。

 特に三人称マーケティングは、ブログやSNS、Twitterなどソーシャルメディアを使っており「伝搬力が強いマーケティング手法」として注目している。さらに「楽天には5000万件のレビューがある」と自信を見せる。

 各ユーザーに合った商品を勧めるパーソラナイズ化も楽天にとって大きな武器だ。パーソラナイズ化には、ユーザがクリックした商品などを分析しておすすめする「リターゲティング」、会員の属性情報に基づいた「ページパーソラナイズ」、過去の購入履歴などからコンテンツを出し分ける「レコメンデーション」の3つがある。

 「これらパーソラナイズをすればするほど、分散処理をどうやって行うかが問題になってくる。ばらばらのデータをどうやって集計するかが課題」とした。

分散処理と大規模システムの開発で楽天とまつもと氏の思惑が一致

 このように、エコシステム、ソーシャルメディア化、パーソラナイズを実現するシステムを構築するには、大量のデータを高速に処理する仕組みが必要となる。その答えの1つがRubyの採用だ。楽天技術研究所では、Rubyを用いた分散フレームワーク「fairy」と、大量のデータを高速に処理するアーキテクチャ「ROMA」の開発を進めている。

 「楽天はRubyで大量のデータを分散技術がしたい、まつもとさんはRubyでも大規模システムが構築できるようにしたいという思惑が一致した」ということで、楽天技術研究所とまつもと氏が手を組んだ。

 三木谷氏は、「楽天のシステムは1996年に開発を初めて1997年5月にサービスを開始した。このシステムは、Webブラウザ上で店舗が作れて、受注などもすべて管理できるという当時としては画期的なサービスだったと思う」と振り返った。「楽天は自社開発にこだわるテクノロジーの会社」というのは、創業以来続いているということだ。

 このように楽天がこれまで蓄積したノウハウをRubyで形にして海外に進出。「2020年をめどに、6か国で展開している事業を27か国に広げ、海外での取扱額を全体の70%程度に増やす」との目標を掲げた。

楽天の海外進出の目標。27か国で展開し、海外での取扱額を全体の70%にまで高める

 三木谷氏は最後に、「現在、日本のGPDは世界の8%~9%を占めているが、2050年には世界の3%に縮小するとの予測がある。多く見積もって5%だとしても、95%の経済は日本の外にある。日本からどんどん世界に出て行くトレンドを作っていきましょう」と参加者に呼びかけて締めくくった。


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(安達 崇徳)

2010/9/8 11:30