JEPA、EPUB成果報告会~コミック、雑誌、教科書など実利用の可能性や課題


日本電子出版協会(JEPA)会長 下川和男氏

 日本電子出版協会(JEPA)は22日、EPUB成果報告会を行った。EPUB3はXMLベースで、CSSやJavascriptなどのウェブと共通の技術を用いて、それらのコンテンツをzipで圧縮し書誌データなどを付加してパッケージ化した規格であるとの概要説明や、これまでの開発の経緯などがJEPA下川和男会長や国際大学GLOCOMフェローの村田 真氏から、セミナー冒頭に駆け足で紹介された。EPUB3は、5月に正式に仕様制定される予定だ。

 今回はJEPAによるEPUBセミナーも3回目となり、コミック、雑誌、新聞、教科書、社内ドキュメントなど様々なコンテンツで、コンテンツのサンプルやデモなどを具体的に提示しながら、EPUB3を用いた場合どのようなことができるのか、また問題点は何かなどがセミナーで説明された。

 なお、EPUB成果報告会の資料は、すべてepubcafeで公開されている。興味のある方、当日足を運べなかった方は参照されるとよいだろう。


マンガでは、CSSを切り替えるだけで言語を切り替え

文字組版やフォントの問題に長年取り組んできた小形克宏氏

 マンガについては、本誌「新常用漢字表(仮)」連載でもおなじみのフリーライター小形克宏氏が解説を担当。日本では、すでにデジタルマンガは身近な存在となっているが、ユーザーがスキャンしたデータがzipでやりとりされている海賊版も多い。EPUB3ではDRMもかけられるので、EPUB3が普及すれば、かつてiTunesが海賊音楽を駆逐したようなことができるのではないかと述べた。

 小形氏は、マンガ配信に必要な要素、メタデータやナビゲーション、見開き対応、DRMを比較すると、縦書きに対応できないEPUB2ではマンガを扱うことは難しく、またすべてに対応可能なXMDFは特定プラットフォームの専用フォーマットでありフリーではないことなど、それぞれの特徴を上げた。EPUB3は、前述の条件を満たし、フリーかつオープンな、初めての電子書籍フォーマットとなる。

EPUB3における機能拡張EPUB3で可能になったマンガ表現

 続いて、EPUB3を採用したコミックの可能性をデモを交えて紹介。EPU3で吹き出しの文章を縦組みで入れたものを見せ、ルビを含め、ほぼ違和感がないことを示した。

 CSSの指定を書き換えることで吹き出しのセリフを英語・日本語で切り替えるデモも披露。また、CSSの条件指定により、ウィンドウサイズの幅を狭くすると、携帯電話のコンテンツのようにひとコマずつの表示に切り替えるデモも行った。条件によってスタイルシートを切り替えることができるので、言語の切り替えなど機能的なものだけではなく、ストーリーとからめた演出も考えられるだろうとした。

 また、Text2Speechを用いて、吹き出しのセリフを読み上げる機能を持たせるデモも披露された。音声のほか、動画コンテンツを入れることもできるとした。

 小形氏は、「これまでプロプライエタリな規格でしかできなかった縦書きやルビ、見開きなどの機能が、フリーでオープンな規格で可能になることが重要だと考えている」として、EPUB3の意義を指摘した。

CSSで、英語と日本語を切り替えられるウィンドウサイズの幅(表示幅)が狭ければひとコマずつの表示に切り替えるなど、条件によって、CSSを切り替えることができる

 

雑誌、新聞、電子教科書――EPUB3の可能性と現状

 雑誌については、EPUB3フォーマットで雑誌を発行しているimpress R&Dの福浦一広氏が解説。EPUB3で制作するのは、iPadなどへの配信プラットフォームが利用できるなど非常にメリットが大きいとした。

 そのうえで、現状の問題点として、リフロー型での広告をどうするかについてはまだこれといったソリューションもないため、今後考えていかなくてはならないと指摘。また、iPadやiPhone、ソニーReaderなどEPUB対応タブレットや電子書籍端末、スマートフォンではきれいに表示されるが、パソコンのプラットフォームで良いビューワーがないのが悩みだと述べた。また、EPUBは基本的には書籍を想定したフォーマットのため、章、節、項といった概念しかないので、相互にとくに関連性を持たない流し読み的なコンテンツが目次などで作りにくいという問題もあると指摘した。

 教科書のデジタル化については、イースト株式会社の柳 明生氏が解説。EPUB3を使って作成したサンプルを示しながら、教科書なのですべてモノルビ(漢字1文字ごとに読み仮名を振るルビ)を使い、注記を入れた。注記については、現在の紙の教科書では1ページごとに注記1、注記2……とナンバリングしているが、リフロー型のEPUBフォーマットではページネーションができないため、注記の番号は通し番号で付けていると説明した。

 また、1月の時点では実装していなかった縦中横(縦書きの文の中に半角文字を横並びの状態で組み込む機能)も現在は実装しているという。

 現場の先生からは、「一斉指導をする際に、120ページを開いてくださいといった指導をしているが、そういう場合EPUBではどうするか」、「教科書の文章を使って穴埋め問題を作ることはよくあるが、そうしたことはどのくらい手軽にできるのか」、「章ごとに販売したり分冊する場合、EPUBではどのように実現可能か」「学習効果測定は可能か」などの質問や要望が上がっているという。

教科書のサンプル。注記番号、ルビ、図版の挿入注記の丸付き数字やモノルビ

 

行末が揃っていないのがわかる。現状積み残している、唯一の大きい課題だという。正式版リリースよりは早く実装できる見込み右上の「1909年」が縦中横で組版されている。

 


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(工藤 ひろえ)

2011/3/24 14:10