漫画や電子書籍の不正コピー発見サービス、米Attributorが日本で本格展開へ
米国の“スキャンレーション”事情は?
新日鉄ソリューションズ株式会社は21日、米Attributorが開発した不正コピー検知システムの日本国内販売に関する説明会を開催した。電子書籍や記事のメタデータをもとに不正コピーを検知し、掲載サイトへの削除依頼送信までを一括受託するサービスだ。また、一橋大学大学院の松井剛准教授(商学研究科)をゲスト講師として招き、日本産漫画が米国でどのように受けいれられているかの現状説明も同時に行われた。
●メタデータを活用して不正コピーを発見、削除勧告も代行
新日鉄ソリューションズの高橋克之氏が不正コピー検知サービスの説明を行った |
新サービスは、米Attributorのシステム「Guardian」がベース。日本に先駆け、北米、ヨーロッパ、南米などでサービスを開始しており、北米では現地の出版上位10社中7社で採用されるなど、すでに実績を積んでいるという。日本では、新日鉄ソリューションズによる独自のサポートを加えた上で提供される。
検知の対象としているコンテンツは、ウェブ上の記事(文章)、電子書籍、漫画、ゲームの4種類。1日あたり数千万ページの単位でクローリングを行い、“サイバーロッカー”などと呼ばれるサイトや、BitTorrentなどに不正コピーがアップロードされていないか自動検出する。
検出には、各コンテンツのタイトルや著者名、ISBNコード、RSSフィードといったメタデータを利用する。検知元となるテキストや画像ファイルを依頼者(出版社や著作権保持者)側で用意する必要がなく、サーバー負荷の高い画像マッチングなども行わないため、ハードウェアへの投資が少なくて済むメリットもある。ただし、ウェブ上の記事の検知についてはフィンガープリント技術を利用する。
サービスの利用イメージ | 不正コピー検知対象ファイルについては、バッジを表示する取り組みも |
監視開始後は、依頼者側で何かしらの作業を行う必要は基本的にない。定期的な報告は行われるが、進ちょく確認用のウェブ管理画面(サイト)といった概念は基本的になく、メタデータの提供さえ済めば、契約した期間・内容に沿ってAttributor側で監視し、不正コピー公開サイトへのデータ削除勧告なども代行してもらえる。
新日鉄ソリューションズ側の担当者である高橋克之氏は「不正コピーの公開が疑われるサイトのランキング化までは完全に自動化されている。これらのサイトをAttributorの社内スタッフが目視で確認し、本当に削除依頼を送るのか最終的に判断する」と説明。自動化されたシステムによるサイト収集と、人力を組み合わせることで、より効率的な対応が可能だと強調する。
Attributor全体では1カ月あたり5万件程度の削除勧告を出している。勧告を受けて実際に削除される割合は95%を超えているとし、実効性も高いという。高橋氏は「Attributorは、不正利用の多いサイトから見ると非常にやっかいな存在となっているため、一部サイトからはあらかじめ強制削除用のAPIも割り当てられている」と補足。メールなどによる間接的な対応に加え、直接的な削除権限を保有しているケースがあることもAttributorの強みだとした。
AttributorのCOOを務めるMatt Robinson氏は、米国からビデオ通話を通じて説明会に参加。パスワード設定済みサイトへの対応策など、説明会の聴講者からの具体的な質問に応じた。まとめの挨拶では「Attributorのサービスが日本の皆さんのお役に立てれば」と述べている。
ユーザー側でほとんど作業が発生しないのも特徴 | AttributorのCOOであるMatt Robinson氏はビデオ通話で説明会に参加 |
●米国の漫画市場は2007年がピーク、今後の行方は?
一橋大学大学院准教授の松井剛氏 |
新サービスの概要説明に先立って、一橋大学大学院准教授の松井剛氏からは「米国における日本産マンガ市場の発展および今後の課題」と題した講演が行われた。日本の漫画は“クールジャパン”の代表例として捉えられ、その人気ゆえに不正コピーも多いと日本国内では語られるが、それが果たして本当なのかを検証した。
松井氏によると、クールジャパンという言葉の発祥となったのは、ある米国人ジャーナリストが執筆した2002年の記事。経済指標であるGNP(Gross National Product)やGDP(Gross Domestic Product)をもじって、日本においては“GNC”つまり“GROSS NATIONAL COOL”が重要だとし、その実例としてハローキティなどのキャラクターや日本発祥の建築デザインの素晴らしさを解説。これが後に日本語訳され、官公庁などで急速に注目されだしたのだという。
この記事の誕生した背景には、1980年代後半から始まった日本産漫画の米国向け出版が、一定の規模に成長したことがある。具体的には1987年、Viz Mediaが本格的な出版をスタート。日本と米国では漫画を読み進める際の方向(右綴じ・左綴じ)が異なるため、反転印刷でこれを修正したり、白黒ページをあえてカラー化、32ページ程度のパンフレット型に判型を変えるなど、現地の“アメコミ”に合わせた調整を加えた。
作品としても「AKIRA」「アップルシード」など、精緻な描写の作品が積極的に出版された。これには、アメコミの主要ファン層が男児、ないし成人男性であり、リアルな絵柄を好むとの判断が出版社側にあったとされる。
この状況が変わったのは、Mixx Entertainment(のちにTOKYOPOPへ改名)が「美少女戦士セーラームーン」の漫画を米国に持ち込み、“motion-less picture entertainment”と称して差別化を図ったことが大きいという。現地では“コミック=男性”というイメージが強かったが、これを女児や子供層にも拡大することに成功した。Mixx Entertainmentはさらにその後、判型や綴じ方向はそのままで翻訳だけを行った作品を“Authentic(本物) MANGA”として販売。低コスト・低価格販売を実現し、コミック専門店以外の一般書店でも漫画を買える体制を創出した。
米国における漫画市場の規模。2007年をピークに、その後は下降している |
しかし、日本産漫画の米国市場規模は2007年をピークに縮小している。2008年のリーマンショックなどの影響も考えられるが、結果的にその後、最大手出版社であるViz Mediaの大規模リストラ、TOKYOPOPの漫画出版撤退発表、漫画の取り扱いに積極的だった書店「ボーダーズ」の経営破綻も表面化。クールジャパンを取り巻く状況は非常に厳しいと松井氏は指摘する。
松井氏は、日本産漫画を米国で展開するための課題として、文化的摩擦を挙げる。「原子爆弾の恐ろしさを訴える『はだしのゲン』という漫画があるが、(戦争描写ではなく)ドメスティックバイオレンスが多すぎるという観点でかつて問題視された」と例示。頑固親父が子供を殴るといった描写は日本では少なからずあるが、米国では完全に犯罪となるため、こういった配慮は少なからず必要だという。
この対応として、業界では作品のレーティング(年齢制限)や、その事由の表記などを強化。一方、女性の下着が見える部分をロゴで隠すといったより積極的な修正も行っているが、これについては作品性を変えてしまう懸念があり、熱心な漫画ファンから「作品を汚した」と批判される事例も発生。注意が必要としている。
“スキャンレーション”は大きな問題に |
また、日本で出版された漫画をいち早く入手し、無断で電子化(スキャン)・翻訳(トランスレーション)してネット公開する“スキャンレーション”も大きな問題となっている。この作業はチーム単位で行われるのが通例で、さらには「米国でなかなか出版されない漫画をいち早く届けてくれる、コミュニティに対する貢献者」と英雄的に扱う傾向すらあるという。
松井氏は「不正な形とはいえスキャンレーションにこれだけ需要がある以上、日本の漫画文化が商業面で受けいれられる余地は十分にあるのではないか」と指摘。米国市場の将来を楽観視することなく、また過度に悲観的になることなく冷静に分析し、新たなビジネスモデルを考えていくことが重要だとしている。
関連情報
(森田 秀一)
2011/4/22 06:00
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