7月1日のうるう秒「午前8時59分60秒」を実感するには~将来は廃止の可能性も
「うるう秒」について解説した、電磁波計測研究所時空標準研究室室長の花土ゆう子氏 |
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は10日、今年7月1日に実施される「うるう秒」についての説明会を開催し、その背景を解説するとともに、当日、うるう秒を実感する方法も紹介した。
うるう秒とは、地球の運行(自転・公転)を観測した結果に基づく時系「天文時」と、原子時計に基づく時系「原子時」とのずれを調整するために、1972年以降、数年に1回程度のペースで実施されているもの。今回が25回目になる。直近では2009年1月1日に行われており、3年半ぶりとなる。
具体的には、日本時間7月1日の「午前8時59分60秒」が、うるう秒となる。通常は8時59分59秒の次は9時00分00秒だが、その間に1秒挿入されるかたちだ。
うるう秒が必要になった場合は、協定世界時(UTC)の6月30日(23時59分60秒)または12月31日(23時59分60秒)に実施するのが通例。今回は6月30日に実施されることになったため、9時間の時差がある日本では7月1日の午前8時59分60秒になるわけだ。
●日常生活で使われる「協定世界時」の作られ方
NICTによると、地球の自転は1000分の1秒という小さな単位で見ると“ふらつき”がある。大気の動きや潮汐、マントルの影響などさまざまな要因があると言われているが、その結果、天文時は不規則に変化してしまい、科学技術の高精度化に対応できなくなっているという。また、地球の自転は継続的に減速してきており、1日の長さは100年につき0.001~0.0015秒ずつ長くなっているという。
そこで1967年に、1秒の長さの定義を、それまでの天文学に基づいたものから、原子放射の周波数に基づく量子力学によるものへと改定した。これは、特定の原子が固有で持っている共鳴周波数をカウンターとして用いて時の流れを測る手法だ。現在は、セシウム133のエネルギー状態が遷移する際に放射する電磁波をカウントし、その91億9263万1770回(周期)分を1秒と定めている。
こうした原子時計は世界に約400台あり、それらが刻む時を加重平均して算出されるのが「国際原子時(TAI)」だ。1958年にスタートし、以降“規則正しく”時を刻んでいる。
一方で、原子時ではあるが、我々の日常生活が太陽の動きと深くかかわっていることをふまえたのが、日常的に使われる「協定世界時(UTC)」である。VLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉計)による地球回転の観測結果に基づく天文時「世界時(UT1)」に近似するよう、うるう秒でTAIに調整を施したものだ。UTCは、1秒の長さはTAIと同じだが、1972年以降に挿入してきたうるう秒(合計24秒)や、うるう秒導入以前に行った特別調整(10秒)により、UTCは現時点でTAIから34秒遅れている。
なお、TAIとUTCは、パリにあるBIPM(国際度量衡局)において決定しているが、実際に時計装置が存在するわけではない。前述のように複数の電子時計の平均を計算することで、1カ月後に結果が報告されるバーチャルな時計だという。リアルタイムに時刻を供給できるものではない。
そのため世界各国の時刻標準機関では、UTCと高精度で同期した“リアルタイム時計”を維持しており、それぞれの地域でリアルタイムに時刻を供給できるようにしている。
NICTは、世界で約400台あるうちの18台の原子時計を運用し、日本で使われる「日本標準時(JST)」を作り出している機関だ。原子時計群は東京都小金井市にあるNICTの本部施設にあり、その本館エントランス上部の外壁には、日本標準時を表示する大きなデジタル時計が設置されいる。
JSTは、電波時計などに使われる標準電波(JJY)、インターネットなどを通じたNTP(Network Time Protcol)サービスで広く供給されているほか、主に放送局などの業務用途で使われるアナログ電話回線経由の「テレホンJJY」でも供給されている。
セシウム原子時計(写真提供:情報通信研究機構) | 日本標準時システム(写真提供:情報通信研究機構) |
NICT本部(写真提供:情報通信研究機構) | テレホンJJYシステム(写真提供:情報通信研究機構) |
●8時59分60秒やらないシステムも、100秒かけて0.01秒ずつ調整
うるう秒では、JSTを供給する各種サービスにおいてうるう秒に対応した信号が送信される。例えばNTPでは、うるう秒の予告情報として、NTPパケットの中のLI(Leap Indicator)ビットが6月30日から立ち、うるう秒実施後の7月1日9時に解除される。
なお、NTPに関するRFCが昨年6月に改訂され、LIビットを立てる予告期間が当日(1日)から当月(1カ月)へと変更されたが、NICTでは、古いRFCに準拠したソフトがまだ使用されているとの判断で、今回は6月30日にLIビットを立てることにした。
一方、うるう秒をどのように処理・表示するかは、受信側のシステムにより異なる。8時59分60秒の1秒をそのままポンと挿入する場合もあれば、直前の100秒をそれぞれ0.01秒ずつ長くして調整するシステムもある。
例えば、NICT本館のJSTを表示するデジタル時計では、この象徴的な8時59分60秒を表示することになる。また、NTTの117電話時報サービスでは100秒かけて調整する方式だが、ひかり電話では9時ちょうどの「ポーン」音が2回鳴るかたちだ。
●うるう秒を実感する方法とは
1秒ということで通常は全く意識できないうるう秒だが、ポーン音2回のように実感できる方法もある。NICTでは、うるう秒を実感する方法として以下のようなものを紹介している。
1)NICTの日本標準時などの報道を見る。
2)電波時計をそのままにしておくと、9時前は合っているが、9時以降、次の受信が行われるまで1秒ずれる。1秒ずれたことを確認して、再度受信すれば、1秒のずれが分かる。
3)NTPで9時以前に正確な時刻にしておく。9時以降、時刻が1秒ずれたことを確認した後、NTPで時刻合わせを行い、正確な時刻になったことを確認することで、1秒ずれたことが分かる。
4)NICTのウェブサイトによる時刻お知らせ(ただし、回線の状況によっては1秒以上ずれたり、つながりにくくなることがあるため注意)。
5)NICT本館のデジタル時計表示。
6)「おおたかどや山標準電波送信所」のある福島県田村市都路町・双葉郡川内村にある時計モニュメントの表示。
●IT社会ではうるう秒の弊害も、日本は廃止を支持するスタンス
うるう秒により想定される社会的な影響としては、電気通信事業者における通信時間・料金管理システムや、放送局の番組管理システム、タイムビジネスなどに及ぶ。IT・ネットワーク機器の増加により、システムの対応作業が膨大になり始めてきているという。特に電子文書の正確な時刻認証が求められるタイムビジネスでは、ずれを回避するため、前回のうるう秒の際には半日にわたってサービスを運用停止する措置をとったところもあったという(ただし、1月1日だっために大きな影響はなかった模様)。また、1秒刻みで価格が変動する為替・株式やインターネット取引など、1秒のずれが重要性を増している面もある。
ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)では1999年以降、うるう秒の廃止について議論がなされており、日本は基本的に廃止を支持している。NICTによると、日本はタイムビジネスが世界の中でも進んでいる国だということもあり、うるう秒が電子化社会に大きな阻害になるとのスタンスだ。
仮に廃止となれば、原子時と天文時がどんどんずれていくことになる。しかし、TAIがスタートした1958年以降の50年あまりで、ずれは合計34秒だ。今後の自転速度のふらつきを正確には予測できないとしながらも、NICTによれば、500年かかって30分ずれるかどうかといったレベルだという。これは日常ではあまり影響はなく、逆にうるう秒が現在のIT社会に及ぼす影響や整合性の問題のほうが大きいというのが、廃止派の主張だ。
今年1月に開催されたITUの無線通信総会では、うるう秒の廃止に関する改訂決議案が提出されたが、意見が分かれ、継続審議となった。当面はうるう秒による調整が行われることになるが、2015年の世界無線通信会議において最終決定される見込みとなっている。仮に廃止との結論であれば、うるう秒は2021年に廃止される見込みだ。
関連情報
(永沢 茂)
2012/5/11 06:00
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