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Viber買収の先にあるのは、世界のスマホ電話番号が楽天会員ID化する世界?
コンテンツ、ゲーム、アプリでの送金サービスも視野に
(2014/2/18 19:22)
2月14日に突如、無料通話/メッセージングアプリ「Viber」の買収を発表した楽天株式会社。同日行われた戦略発表会で同社代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、新たなグローバル戦略としてコードネーム「Project Eagle」を発表。Viber Media Ltd.共同創業者兼CEOのTalmon Marco氏とのトークセッションや、その後の決算説明会の質疑応答などを通じて、買収の狙いや楽天グループの既存事業とのシナジーについて説明した。
2月14日、楽天グループの会員が一気に3億人増加して5億人に
Viber買収の発表は唐突だった。戦略発表会の案内には具体的な内容は示されておらず、来場者への配布資料もないまま三木谷氏のプレゼンテーションがスタート。スクリーンに「Project Eagle」の名称、あるいは同プロジェクトにちなんだワシの写真が映し出された後、三木谷氏は本題に入った。
「楽天はユニークなビジネスモデルを踏襲しながらグローバル化を進めてきた。しかし今後は活動を加速し、マーケットプレイスを拡大していくことを念頭に全く新しい戦略を紹介する。これにより、全く新しい次元へと我々は台頭することになる」として提示したのが、楽天グループ会員の推移グラフだ。基本的に右肩上がりのグラフなのだが、2月14日時点でそれがほぼ垂直に立ち上がっている。
楽天グループ会員は2013年末時点で、EC事業における日本の楽天会員9000万人、海外のEC事業の6000万人、さらに電子書籍事業のKoboで1800万人、動画サイトのVikiの月間利用者数2800万人を合計すると約2億人に上る。グラフは、その楽天グループ会員が1日で2億人から5億人に拡大することを示しており、三木谷氏の口から「今日、新たに3億人のユニークユーザーを楽天グループの会員数に追加することになった。我々はこの度、世界でも最も急ピッチで拡大を遂げているメッセージングサービスのViberの買収を決めた」ということが明らかにされた。
三木谷氏は、世界中で人気を博しているLINEをはじめとしたメッセージングサービスについて、ソーシャルゲームやスタンプなどによるマネタイゼーションの大きな潜在性を秘めていると指摘。買収先としてはLINE、カカオトーク、WhatsAppなども有力候補だったというが、その中でViberは電話番号をIDとして用いる点や音声にも強いとうことで「競合とはひと味違っており、飛び抜けていた」という。前述の競合事業者とは一切話し合いは行わず、Viberに絞って半年ほど前から話し合いを開始。当初は戦略的提携や少数株主としての出資なども検討したが、最終的に全株式を取得することにした。
メールアドレスではなく、電話番号が楽天会員IDに
楽天がメッセージングサービスのViberを保有することでまず考えられるのは、消費者とのコミュニケーションプラットフォームとしての活用だ。三木谷氏は、チャットや音声によってその場でインタラクティブにコミュニケーションできることが、これからはすべてのインターネットサービスにとって重要になり、特にオンラインショッピングでは重視されると説明。それも、PCの前に座っていなくとも、消費者も店舗側もどこからでもコミュニケーションできなくてはならないという。Viberを活用することで、楽天はこうしたメッセージング機能をEC事業と密接に結合させることが可能になるとした。
とはいえ、これだけなら従来メールを使っていたコミュニケーションツールにチャットや音声が加わるに過ぎない。三木谷氏がViberの買収を決めた理由として第一に挙げるのは「楽天経済圏の拡大に寄与すること」だ。
楽天会員IDを含め、これまでのインターネットサービスのIDといえば、メールアドレスを使う方法が一般的だ。一方、Viberは電話番号の登録だけで利用を開始できるサービスであり、その3億人のユーザーを楽天会員IDに統合するには、改めてメールアドレスを登録してもらわなければならない。それができなければ、世界に3億人の登録ユーザー(月間アクティブユーザーは1億500万人)がおり、1日あたり55万人のペースで増加しているというViberのユーザーベースがシナジーを生み出すかどうか疑問だろう。
実際、こうした事情もあって三木谷氏はViberの買収を迷っていたという。しかし、「今後、スマートフォンの時代になって来ると、スマートフォンの電話番号がメールアドレスの代わりにIDになってもいいのではないか」と考えるようになり、従来のメールアドレス+パスワードではなく、電話番号+パスワードでViberユーザーを楽天会員ID化することが可能だということにふと気付いたという。「よくよく考えれば、Viberの3億人の会員を楽天の会員にするのは、極めて簡単ではないかと今は思っている」と語った。
Viberを足がかりに新興市場へ、コンテンツやゲーム、送金サービスも
Viberユーザーのスマートフォン電話番号を楽天会員IDにすることができれば、Viberが楽天のコンテンツ事業およびEC市場の有力な流通チャネルに位置付けられるという。
三木谷氏によると、楽天経済圏をグローバルに拡大するにあたっては、規模の小さい新興市場への参入がネックであり、実際、流通インフラが整っていないことで困難を極めることもあったという。
一方、Viberはすでに世界中に3億人の登録ユーザーがおり、それは日本や米国、アジアに限らない。2013年12月8日時点の地域別内訳は、アジアが31.2%を占めて最多だが、次いで多いのが西欧の24.1%だ。以下、中東の12.3%、中南米の9.8%、東欧の8.7%、北米の8.3%、アフリカの5.6%となっている。
Viberを足がかりにすることで世界のより小さな新興市場に対しても参入できるようになると三木谷氏は説明。国によっては、“Digital First戦略”により、まずデジタルコンテンツ事業を展開し、その後、EC事業を立ち上げることになるとした。「楽天グループ会員が着々と増えるだけでなく、デジタルコンテンツ事業という観点からも、世界中の5億人あまりのユーザーにリーチできる。VikiやWuaki、Koboなども含めてさまざまなサービス展開が可能となる」。
ゲームプラットフォームにも着手する予定だとしており、今後、ソーシャルゲームなども強化していくという。
ゲームについてはViber Mediaとしても注力していきたい分野のようで、Marco氏も言及。Viberのサービスは現在、コミュニケーションの側面がメインとなっているが、今後はゲームプラットフォームとしても展開し、その足がかりを楽天とともに構築していきたいと語った。
さら三木谷氏は、将来的には金融事業にも対応し、例えばViberアプリを使って送金を行うことも想定していると説明。Viberの買収により「今までとは全く違う方向性の戦略を今後は進めていくことになる」と繰り返した。
将来的には「楽天でんわ」との統合も検討
楽天による買収決定を受けてMarco氏は、日本市場向けのプロモーションキャンペーンとして、Viberから一般回線の電話に発信できるサービス「Viber Out」について、固定電話向けの通話を無料で行えるようにすることを発表。あわせて携帯電話へも1分10円という通話料金を示し、「みなさんが通常払っている電話料金の75%割引になるのではないか」とアピールした。
一方、スマートフォンからの音声通話サービスとしては、すでに楽天グループにも「楽天でんわ」という低料金のアプリがある。三木谷氏によると、Viberの音声通話はクオリティが非常に高く、「普通の電話よりもクオリティがいい時が多い」。特にデータ通信回線の帯域が細い環境でもクオリティを維持できることが新興市場おける強みになるというが、パケット通信によるVoIP電話ということで「断線する時がないわけではない」という。そうした場合は、パケット通信ではなく電話回線を使用する方式の楽天でんわで接続するなど、「将来的には統合を考えていくということになると思う」としたが、「当面はそれぞれ別々に運営していく」としている。