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「一太郎」2014年版の名は“徹”、美文書にこだわる頑固一徹職人的ワープロ

IVSで異体字に対応、紙の質感印刷も

 株式会社ジャストシステムは3日、同社開発による日本語ワープロソフトの新バージョン「一太郎2014 徹」を発表した。2014年2月7日に発売する。Windows 8.1/8/7/Vista/XPに対応しており、希望小売価格は2万円(税別)。

 一太郎では2011年版より、西暦によるバージョン番号に加え、製品コンセプトを示す漢字1文字を名称に付けている。2011年版では「新たなる創生」を示す“創”、2012年版では「日本語ドキュメントの伝統的様式の継承、未来のあり方を示す」とのコンセプトから“承”、2013年版では文書表現を「幽玄の境地」へ導くという意味で“玄”だった。

 今回の2014年版で採用した“徹(てつ)”には、“徹底する”“頑固一徹”といった言葉にもあるように、最後まで物事をやり通すという意味を込めた。ここ3年間の一太郎のバージョンアップでは、UIの一新やさまざまなウェブサービスとの連携、電子書籍フォーマットEPUB 3.0への対応、書き手の感性を刺激するインスピレーション機能「感太」の搭載など、新しい取り組みが続いていたが、「一太郎2014 徹」では、一太郎が本来持っている機能をブラッシュアップし、徹底的に磨き上げたという。「こだわりを持ち、作品の細部まで感覚を研ぎ澄ませて作り上げる一徹な職人のように、文字としての適切さや、見やすく美しい体裁、印刷した文書の質感に至るまで、徹底したこだわりの表現を可能にする」。

 3日に開催された記者発表会では、こうしたこだわりから「一太郎2014 徹」で強化された4つのポイントを、ジャストシステムの大野統己氏(コンシューマ事業部企画部)が説明した。

株式会社ジャストシステムの大野統己氏(コンシューマ事業部企画部)

 まず1つめは、「文字・漢字表現を究める」ために、文字を自由に扱える環境を目指すというもの。現行バージョンの「一太郎2013 玄」では、標準インストール状態で扱える最大文字種が約1万3000字だったが、「一太郎2014 徹」では約5万8000字に拡大する。異体字を指定するための標準規格「IVS(Ideographic Variation Sequence)」に対応するとともに、戸籍統一文字や住基統一文字など人名・地名で使われる文字を表現できるフォント「IPAmj明朝」を収録することで実現している。

 異体字は「一太郎2014 徹」の文字パレットや、同梱される日本語入力ソフト「ATOK 2014」から行える(いずれもIVSによる異体字の入力・表示は、Windows 7以降で対応)。また、IVS対応により異体字を文字コードのみで表現できるようになったため、「Word 2013」などのIVS対応アプリケーション間でのコピー&ペーストでも字形が保たれるとしている。

「IPAmj明朝」の異体字の例。渡辺の「なべ」と斉藤の「さい」

 2つめは「スタイルを究める」というコンセプトだ。文書の用途や用紙サイズ、向きから選択していくだけで、文字サイズや字間・行間、段組、余白処理などが最適化されたレイアウトが設定される「きまるスタイル」機能により、一般個人の文書執筆者でもプロのような誌面スタイルで印刷できるとしている。誌面スタイルとしては約380種類を収録しており、例えば「A6文庫本」は、小説やエッセイに適しており、ノンブル(ページ番号)や柱も所定の位置に入る。

 表現力を高めた罫線表の作成機能も搭載した。「一覧表」「連番表」「月間予定表」など約350点のサンプルから選び、見出し行列や合計行の有無、行数・列数を設定するだけで罫線表が完成する。

「きまるスタイル」設定画面
罫線表の作成機能(一覧表)
罫線表の作成機能(月間予定表)

 3つめは、最終成果物だけでなく、安全・効率的な創作活動を支援するという意味で「創作行程を究める」というコンセプトだ。具体的には、バックアップ機能を強化し、複数世代のバックアップを保管できるようにした。いくつ前のバックアップまで保存するか回数を指定できるほか、任意の時点のバックアップまで戻ることも可能だ。ハードディスクのクラッシュなどトラブル対策だけでなく、文書の版管理にも利用できるとしている。

 4つめは、「個人電子書籍制作環境のデファクトスタンダート」に向けた取り組みだ。すでに一太郎で制作した電子書籍コンテンツが出てきているとしており、そうした創作現場からの声を受け、電子書籍作成機能を強化した。コンテンツリフロー型EPUBでは奥付のEPUB形式出力、固定レイアウト型EPUBでは目次設定への対応などがある。また、一太郎で作成した本の表紙を別画像として保存できるようになったほか、Kindle(mobi)形式保存時に「中間EPUBファイル」を別ファイルとして出力できるようにした。

 このほかにも、書体を見ながらフォントを探せる「フォント・飾りパレット」、タイトル文字にさまざまな効果を付けられる「POP文字作成ツール」の強化、“薄もや”“ジオラマ”など14種類の効果で写真の色合いやコントラストを調整できる「写真フィルター」、上質紙や和紙の質感を紙の背景として印刷できる「紙の質感印刷」機能、章の見出しをページ中央に配置した中扉や、奥付を簡単に作成できるようにするなど、機能の追加・強化を実施。「こだわりの創作活動を支援する」としている。

「フォント・飾りパレット」で書体を系統ごとに絞り込める
「POP文字作成ツール」のテクスチャ設定画面
「写真フィルター」設定画面
「紙の質感印刷」レザー風・淡水色
「紙の質感印刷」卯の花色
「紙の質感印刷」書籍用紙・クリーム
「紙の質感印刷」草木染め・灰白

 「一太郎2014 徹」に加えて、グラフィックソフト「花子2014」、メールソフト「Shuriken 2014」、音声読み上げソフト「詠太4」、10書体の「字游工房フォント」、「新明解国語辞典」などの電子辞書3点を同梱した上位版「一太郎2014 徹 プレミアム」、さらにフォトレタッチソフト「Zoner Photo Studio 15 HOME J」、表計算ソフト「JUST Calc」、プレゼンテーションソフト「JUST Slide」および「一太郎マウス型スキャナ」を同梱した最上位版「一太郎2014 徹 スーパープレミアム」もラインナップする。

 希望小売価格は「一太郎2014 徹 プレミアム」が2万5000円(税別)、「一太郎2014 徹 スーパープレミアム」が3万3000円(税別)。

 なお、「花子2014」については9800円(税別)、「Shuriken 2014」については4800円(税別)で単体販売も行う。

音声読み上げソフト「詠太4」は、「一太郎2014 徹」で作成した文書やメールソフト「Shuriken 2014」、ウェブブラウザー「Internet Explorer 11」に対応する。音声データベースに約5200語の語彙を追加したほか、声の高低を調整できるようにした
上位版「一太郎2014 徹 プレミアム」に同梱される「字游工房フォント」10書体
「一太郎2014 徹」では、和文フォントとかなフォントを設定可能。漢字部分はそのまま使い、かな部分を入れ替えることで文章の印象を変えるという、商業書籍で用いられる文字組のテクニックを利用できるとしている
左が「游明朝体」のみ。右は、かな部分を「五号かな」に入れ替えたことで柔らかい印象に
「游教科書体」は、筆順が見た目で分かる(上)。数字・欧文の部分は、教科書標準の丸ゴシックタイプに(中)。単位記号はイタリック体(下)
グラフィックソフト「花子2014」では、一太郎との連携を強化
「花子2014」における教育分野向けの機能強化
メールソフト「Shuriken 2014」。メール一覧で、差出人を強調表示するUIを追加
「Shuriken 2014」では、「一太郎2014 徹」と連携して送信メールの文章校正が可能
フォトレタッチソフト「Zoner Photo Studio 15 HOME J」では、写真画像の管理機能を強化。未整理の膨大な写真も自動分類するという
「一太郎マウス型スキャナ」は、キングジム製マウス型スキャナがベース。一太郎のブランドカラーである赤のオリジナルカラーとし、ロゴが入る
スキャンしたい部分をマウスでなぞるだけでPCに取り込める。最大A4サイズまでスキャンできる
取り込んだ画像の編集画面
取り込んだ画像内のテキストをOCR認識して取り込むことも可能
「一太郎2014 徹」シリーズのラインナップと構成

 大野氏は、単純な文書であれば一太郎を使わずともWordやその他のワープロソフトで作ることができるが、「どれだけ文章にこだわりをもって作れるかということが、一太郎のもともと持っている存在価値」と説明。その点、新バージョンの「一太郎2014 徹」は「ユーザーのまさに求めているであろうこだわりの部分を体現できたバージョン。これまでの一太郎の中でも特に手応えを持ってお届けできる商品」とアピールする。また、「ワープロの分野だけでなく電子書籍の分野においても、こだわりを持って文書を作りたいというシーンは増えている。一太郎の活躍していく場はこれからますます増えていくだろう」と期待を示した。

(永沢 茂)