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「電子母子手帳」の標準化を目指し、日本産婦人科医会が委員会設立

 公益社団法人日本産婦人科医会は24日、「電子母子健康手帳標準化委員会」の設立を発表した。新生児の健康管理などを目的に発行されている「母子健康手帳(母子手帳)」を電子化する際のフォーマットを統一し、クラウドなどに体系的に保存することで、転居や天災といった外的要因による検診記録の散逸を防ぐのが狙い。委員会には、医療関係者以外に日本マイクロソフト株式会社やインテル株式会社も参加し、実証実験にあたっての機材提供、アプリ開発などにかかわっていく。

「電子母子健康手帳標準化委員会」設立記者会見に参加した皆さん

 現在、医療機関では電子カルテが普及しており、妊婦や新生児の検診などに役立てられている。しかし、転居などによって受診機関が変わる際には、診療記録の伝達には紙の母子手帳、あるいは“紹介状”に頼っている実情がある。

「電子母子健康手帳標準化委員会」の委員長を務める原量宏(かずひろ)氏

 委員会の委員長を務める原量宏氏(香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授)によると、2011年の東日本大震災では、妊婦が被災時に母子手帳を紛失してしまうケースが多発。加えて、受診する病院が津波による物理的被害を受けてしまった場合など、一切の受診記録がないという事態もあった。

 この状況の中、岩手県では周産期(出産前後の期間)女性の見守りや検診情報共有を目的に、県内全域で「いーはとーぶ」という名称の医療情報ネットワークを構築し、震災前から運用していた。結果、盛岡市内のサーバーに保存されていた診療情報は被害を免れ、安否確認や保健指導などで効果を上げたという。

 いーはとーぶは基本的に妊婦を対象としたシステムだが、母子手帳の電子化・標準化が達成されれば、予防接種スケジュールの正確な把握、取り違え防止など、新生児・乳幼児の健康にも直接役立つと考えられている。

 電子母子手帳のシステムはすでに複数の企業が開発・運用しているが、データ互換性などの懸念がある。このため、委員会では必要最小限のデータフォーマットを策定し、システム間でやりとりしやすくする。具体的には、身長・体重などの数値類、ワクチン摂取情報、罹患記録、発達記録などを盛り込みたいとしている。

東日本大震災発生後、岩手県が妊婦サポートを効率的に行えた背景には、クラウドに保存していた診療情報の存在があった
電子母子手帳のシステム間連携イメージ

 標準化案の策定にあたっては、内閣官房のほか、厚生労働省の母子保健課、総務省の情報流通高度推進室からの賛同もすでに得ているという。

 原氏は「妊婦や赤ちゃんが死亡する確率は世界でも日本が最も低い。その要因が母子手帳であると世界的に注目されている」と説明。母子手帳の国際的な普及に向け、政府やJICA(国際協力機構)も方針を示している。

 ただ、紙の母子手帳を発展途上国で展開する場合、受け渡しや長期保存、妊婦自身の理解不足(重要なものだと思ってもらえず、放置されてしまう)などの課題もあるため、電子化による保存の意義は高いという。原氏は「ワクチンの直接的な提供だけでなく、標準化案をいち早く策定するというかたちの国際援助もあるのでは」と、今後の広がりに期待を寄せていた。

 委員会では、千葉県鴨川市の亀田総合病院と協力して、標準化に向けた実証研究を行う。インテルは自社製CPU内蔵のWindowsタブレット、マイクロソフトはWindows Azureをクラウドサービスとして提供する。

 また両社は、株式会社ミトラが公開中のWindows ストアアプリ「Mamaのーと」の機能向上に向けた協力も行う。Mamaのーとは委員会の実証実験でも使われ、病院側提供の医療情報をアプリ内に取り込んで閲覧したり、ワクチンのバーコードをカメラで読み込んでカルテないし母子手帳に反映させる機能などを実装する予定という。

Windows ストアアプリ「Mamaのーと」
妊婦自身が入力した日記など以外に、医療機関提供の情報も一括閲覧できるようにしている

 なお、標準化案の策定時期目標については、まず半年前後でパラメーター等の仕様作成が可能だろうとしている。ただし、関係する医師会との調整などがその後必要となる。

(森田 秀一)