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「Google X」統括のアストロ・テラー氏、都市の未来像について講演

グーグルと三菱地所がシンポジウム

 グーグル株式会社と三菱地所株式会社が11日、シンポジウム「2030年の都市の未来像を語る」を都内で開催した。同シンポジウムでは、Googleで自動運転車などの新規事業を開発中の研究機関「Google X(Google X Lab)」を統括しているアストロ・テラー氏が基調講演を行った。

アストロ・テラー氏

 Google Xの統括者であり、同組織において“ムーンショット(アポロ計画の月面着陸に匹敵するほどの壮大な挑戦や課題)号艦長”という肩書も持つテラー氏。機械学習を用いた投資マネジメントや、ウェアラブルデバイスを利用した身体モニタリングを行なうビジネスなどを起業するなど、科学者や発明家、起業家などの側面に加えて、小説や脚本の執筆を行なうなど、多彩な活動を展開している。

 テラー氏は基調講演にて、「Google Xの活動について、『どれだけ先を考えればいいのか』という質問をよく聞かれますが、私は5年から10年くらいが適切な範囲だと考えています。なぜ15年先を考えてはいけないのかというと、テクノロジーは急激に変化し続けているため、プロジェクトの期間が長すぎると、その間に特定のテクノロジーに縛られて、問題解決に至るアプローチがそれだけになってしまう危険性があるからです。ある程度、技術が進歩していくのを見てから、そのあとに始めたほうが大きな成果が出ます」と語った。

 その上で、Google Xの活動で大事にしていることとして、「何か世界を良くしたいと考える場合は10%ではなく、10倍良くしようと考えるべき」という。

 「理由は2つあります。1つめの理由は、同じくらいのコストをかけるなら、そこから得られる利益の割合はできるだけ高くした方がいいからです。小さな改善を行いながら少しずつ最適化していくよりも、それまで基本としていた前提を打ち破ることで10倍の改善を目標に頑張れば、たとえ実際に達成できなくても3~4倍は達成できるでしょう。もし10%を目標にしたら、『5%できればいいほうだね』となってしまいます。」

 さらに、もう1つ重要なこととして、「できるだけ現実の世界に出て行って試すこと」を挙げた。

 「学習して早く改善するには、実際に経験することです。オフィスの中で頭をかきながら『世の中はこうだろう』と想像するだけでは無理があります。Google Xが行っている活動で言えば、5~6年前は、自動運転車や空飛ぶ風力発電機、スマートコンタクトレンズのベータテストなどは無理だと思われていました。ところが我々は、すでにこれらを世の中に出して試しています。そして大いに失敗することによって、そこから学べるわけです。学びを活かして、さらに改善する、これを繰り返していくことが大事です。」

 テラー氏は、都市についても「テストをして失敗し、そこからフィードバックを得る」というサイクルを行なうべきだと語った。

 「都市の将来を完全に予測できる人はいません。専門家がある程度の予測を行なうことはできますが、絶対とは言えない。それを考える唯一の方法は、試してみることです。失敗はできるだけ早期に起こったほうがコストがかからないので、『失敗してもいいのだ』という環境を作ることが大事です。また、テストを行ったときに、問題を早く見つけた人に報酬を与えることも必要です。さらに、建物の中を簡単に変えられるようにしたり、道路の幅や信号の位置を変えることで人の流れを変えたりと、都市に柔軟性を持たせることも大事です。」

アストロ・テラー氏(左)と隈研吾氏(右)

 このほか、シンポジウムで特別講演を行った建築家で東京大学教授の隈研吾氏との対談でも、テラー氏は「実際に試して失敗すること」の大切さについて言及した。

 「失敗には、良い失敗と悪い失敗の2種類があります。かなりの金額を使ってから起こる失敗が悪い失敗です。創造性を持ち、予防策としてたくさんの“良い”失敗をできるだけ早く経験することが大事で、そのために、例えば建築ならプロセスの早い段階で仮想現実の技術を使ってシミュレーションを行なうなど、IT技術を活用することが大事です。」

 さらに、IT技術の活用については、「テクノロジーをスマートにするシステムはすでに存在しているので、ユーザーインターフェイスの部分が大事になります。技術をどのようにコントロールしたらいいのか、今の状況をどのように理解するかといった要素が遅れていて、足を引っ張っている状況です。問題は技術自体ではありません」と語った。

 また、“将来の都市”というテーマについては、「我々は今後、デジタルの生活にますます没頭することになりますが、だからといって物理的な生活がなくなるわけではありません。だからこそ、デジタルでの体験をいかにシームレスな形でエレガントに都市の構成要素につなげるかが課題となります。都市の中にはもっといろいろなものを取り込んでいく必要があります」と語った。

(片岡 義明)