月額940円のお手軽プランも登場! 「お名前.com VPS(KVM)」を試す

~物理サーバーに近い操作で、技術者にとって使いやすい本格的なVPS

 「お名前.com レンタルサーバー VPS(KVM)」は、GMOインターネット株式会社が2012年3月に開始した仮想専用サーバー(VPS)サービスだ。名前のとおり、KVMによる完全仮想化技術が使われていて、あたかも実際のサーバー機を専有してセットアップする感覚で利用できる。

 最も安価なコースは、この8月から提供開始された月額940円のプランで、メモリが1GB、CPUが仮想2コア、ディスクが100GB。最上位プランは、メモリが16GB、CPUが仮想10コア、ディスクが1TBのコース(月額1万5880円)と専用サーバーレンタルに匹敵する性能クラスまで、幅広いプランが用意されている。今回は、お名前.com VPSの試用アカウントを編集部から借りたので、以下で使用感などをレポートしよう。

お名前.com レンタルサーバー VPS(KVM)


物理サーバー感覚の延長で工夫されたコントロールパネル

 いきなり失礼な言い方かもしれないが、「想像していたよりも本格的なVPSサービス」というのが、筆者が使ってみた感想だ。仮想的なサーバーマシンとしてコアの機能に集中し、サーバーについて習熟度の高いユーザーにとって使いやすいサービスに仕上げているという意味だ。

 タイプとしては、ほぼ素に近いOS環境が用意され、それを自分でセットアップしていく、自由度の高いもの。管理などの操作も物理サーバーの操作に近いもので、あくまでその延長の上に工夫された機能が追加されている。Unix系サーバーの管理に慣れた人には、このようなタイプがしっくり来るだろう。

 デフォルトのOSは、CentOS 6.2の64bit版。OSは自在に再インストールでき、ほかにCentOS 6.2の32bit版、Debian 6.0、Fedora 16、Fedora 17、FreeBSD 9.0、Ubuntu 11.10、Ubuntu 12.04 LTS、Scientific Linux 6.2、Arch Linux 2011.08.19、CentOS 5.7、CentOS 5.8について、それぞれ64bit版と32bit版のISOイメージファイルが用意されている。また、自分でISOイメージファイルをアップロードできるようにもなっている。

 ウェブ上のコントロールパネルにログインすると、画面左のメニューに「サーバーリスト」の項目がある。ここをクリックすると、サーバー一覧を表示できる。一覧形式になっているように、複数のVPSを契約したときにも1つの画面でまとめて管理できるのが特徴だ。

コントロールパネルにログインしたところ管理するサーバーの一覧。複数のVPSを契約したときにも一つの画面から管理できる

 一覧から最初にサーバーを指定すると、OSの初期セットアップになる。ここでrootパスワードを指定すると、あとは設定なしでOSがインストールされる。

 ちょっと変わっているのが、ここでSSHの公開鍵認証のための鍵を指定することだ。これにより、指定した公開鍵がrootアカウントのSSHログインの公開鍵として設定される。この鍵は、コントロールパネル左側のメニューから「SSH Key Pair」を選んで表示される画面で管理でき、鍵ペアを生成したり、秘密鍵をダウンロードしたりできる。

最初にサーバーを選ぶと、初期セットアップになる。rootのパスワードとSSH鍵を指定するssh用の鍵ペアを管理する画面。鍵ペアの生成もできる

 各サーバーの管理画面のトップとしては、コンソール画面が表示される。これはKVMのVNCによるリモートデスクトップ機能によるもので、起動メッセージなども表示される。また、同じ画面の下にある「シリアルコンソール」ボタンをクリックすると、ブラウザの別ウィンドウが開き、コピー&ペーストも使えるシリアルコンソールが開く。

 操作の中心にコンソールを置くというのも物理サーバーっぽさを感じさせる。コンソールの左に、IPアドレスやDNSサーバーなど、サーバー設定に必要な情報が並ぶのも、ニクい工夫だ。また、コンソールの上のドロップダウンリストでISOイメージファイルを選んで「挿入」をクリックすると、その仮想マシンの光学ドライブにそのイメージのディスクが挿入されているのと同じような動作になる。なお、VNCのコンソールにはnoVNC、シリアルコンソールにはAnytermというオープンソースのソフトが使われている。

 このサーバーごとの管理画面は、タブ状のインターフェイスにより、リソース情報、OS再インストール、VM設定、DNS逆引き設定、メモと表示を切り換えられる。

各サーバーの管理画面のトップとして、VNCのコンソールが表示されるシリアルコンソールも利用できる
リソース情報。CPUやネットワーク、ディスクI/Oのグラフが表示されるOS再インストールの画面。さまざまなOSを選べる
DNS逆引き設定の画面メモの画面。サーバーごとの覚え書きを書いておける

 なお、技術イベントでの発表資料によると、内部のインフラにはIaaS基盤ソフト「OpenStack」が使われており、コントロールパネルでの操作もOpenStackのAPIを経由して実行されているという。

コントロールパネルの画面左にあるメニューから、操作履歴を表示できる


素に近い形で提供されるサーバーOS、Virtioの有効無効の切り替えも

 メモリ1GBプランのサーバーにログインしてみると、確かに1GBのメモリと2つのCPUコア、100GBのディスクが見える。100GBのディスクは、通常の領域として20GBが用意され、/dataディレクトリに80GBがマウントされる形となっている。なお、スワップ領域は2GBのパーティションとして用意されている。

 サーバーソフト類も、sshサーバーやメールサーバー(ローカル転送のみ)程度が動いている、ほぼ最小限のインストール状態で、特別なソフトが動いていたりはしない。ここから、ウェブサーバーなど必要なソフトを自分でセットアップしていけばよい。

 OSのファイアウォール機能であるiptablesは、デフォルトでは外部からsshでの接続のみが許可されている。ウェブサーバーなどを公開するには自分でiptablesを設定するようになっている。

 なお、初期設定で公開鍵が設定されるといっても、sshサーバー自体の初期状態ではパスワード認証が許可されている。一般ユーザーの追加やユーザーの公開鍵の設定、sshサーバーの設定変更などは、通常どおりに自分で行う。

 OSまわりの特徴として、デフォルトでディスクやネットワークのドライバとして「Virtioドライバ」が使われる点がある。通常、完全仮想化した環境では、仮想サーバーのアクセスするディスクやネットワークなどのデバイスを仮想化ソフトウェアがエミュレートするため、オーバーヘッドが生じる。そこでかわりに、仮想サーバーに専用ドライバをインストールし、仮想化ソフトウェアと直接やりとりするようにする仕組みが「Virtio」だ。

 このVirtioを利用するかどうかも、仮想マシンが停止しているときであれば、コントロールパネルの「VM設定」タブから変更できる。Virtioが有効なときには仮想サーバーから見たディスクデバイス名は「/dev/vda1」のように、無効なときには「/dev/sda1」のようになる。なお、OSのマウント設定ではディスクのUUIDという固有IDを元に指定しているため、デバイス名が変わっても問題はない。

 試しに、ディスクI/Oのベンチマークソフト「Bonnie++」で、Virtioの有効なときと無効なときのデータを取ってみた。連続のブロック書き込みで116167KB/sec(Virtio有効)と83869KB/sec(Virtio無効)、連続のブロック読み出しで5017588KB/secと4824810KB/sec。VPSのため、ほかのユーザーなど動作環境に数字が左右されるが、いずれもVirtioの有効なときのほうが高性能を示した。

仮想サーバーのVM設定。ここから、Virtioの有効・無効などを変更できる


仮想サーバーでAndroid 4.0を動かしてみる

 最後に、ISOイメージファイルをアップロードして、仮想サーバーで動かしてみた。ここでは実験として、Androidを試した。x86アーキテクチャ向けのAndroid 4.0をAndroid-x86プロジェクトが公開しているので、ISOイメージファイルをダウンロードして使った。

 ISOイメージファイルのアップロードには、SFTPプロトコルを使う。コンソール画面の下に、アップロード用の接続先のホスト名とユーザー名が表示されている。このホストに、sftpコマンド(MacやLinuxなど)や、その他のSFTP対応のアプリケーションから、root用のsshログインと同じ公開鍵認証用の鍵でログインする。あとはimagesディレクトリにISOファイルをアップロードすれば、OS再インストール画面で、OSの選択肢に自分の用意したOSが現れる。これを選ぶと、仮想サーバーにインストールできる。

SFTPでアップロードしたISOイメージが、OS再インストールの選択肢に表示される仮想サーバーでAndroid 4.0が動いた


現場の技術者が使いやすいサービス

 以上のように、「お名前.com レンタルサーバー VPS(KVM)」を試してみたが、サーバー自身に付加機能が加わっていない、物理環境に近い素のサーバーが提供されるところは、Unix系のサーバーに慣れたユーザーにとって使いやすい。しかも、リモートコンソールや、OSの再インストール、初期設定、ISOイメージのアップロード、それにともなうVirtioの設定など、細かい部分もサーバー管理に慣れたユーザーにしっくり来るように作られているのが印象的だ。

 完全仮想化のVPSサービスが各社から登場している中で、月額940円のメモリ1GBプランが追加されたことで、お試し用、教育・学習用などライトな用途にも、気軽に利用できるようになった。サーバー技術者寄りのユーザーにとって魅力的な選択肢が増えたといえるだろう。



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(高橋 正和)

2012/8/29 06:00