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ソフトバンクBB孫社長、光ファイバ開放義務撤廃へ正式に反対を表明


ソフトバンクBBの孫正義代表取締役社長兼CEO
 ソフトバンクBBは21日、「ブロードバンドサービスの公正な競争環境の実現に向けて」と題した記者会見を開催した。会見ではソフトバンクBBの孫正義代表取締役社長兼CEOが、NTT東西光ファイバ開放義務の必要性について訴えた。

 孫社長ははじめに、「最近は光ファイバの開放義務撤廃に関していろいろなところで耳にするが、ソフトバンクとして正式に反対の主張を申し上げたい」と会見の趣旨を説明。「今日現在では光ファイバでなければ見られないものはないが、テクノロジーの進化によって数年後に光ファイバ中心の時代が来るのは当然のこと。まさにこれから光を普及させていこうというときに、(光ファイバの開放義務撤廃という)市場ルールを変更されては、世界に自慢できる日本のブロードバンドが逆噴射してNTT独占に戻り、料金が高止まってサービスの選択肢もなくなってしまう」と、光ファイバ開放義務の重要性を訴えた。

 続いて孫社長は光ファイバの開放義務が開始された経緯を説明。2002年12月に電気通信審議会が「光ファイバの需要が顕在化」「接続請求が拒否されるなど円滑な接続が実現していない」「今後高速サービスを提供するための基幹的位置付けを持つ不可欠設備である光ファイバ設備が適正条件で提供されない状況が生じている」と答申したことを受け、2001年4月に電気通信事業法施行規則と接続料規則が改正。現在の光ファイバ開放義務に至っているとした。


「開放義務がなくなればNTT独占に逆戻り」と危惧 光ファイバ開放義務化の経緯

NTTの開放義務撤廃理由を「1つ1つ具体的に反論」

ソフトバンクBBがとりまとめたNTTの主張一覧
 孫社長によれば、NTTがこれまで各方面で述べている光ファイバ開放義務撤廃の理由は「ボトルネック性、規制の対称性」「投資インセンティブ・リスク負担」「提供価格の問題」「米国におけるルール変更」の4点だという。孫社長はこれら4点の意見を一覧で示した上で、「1つ1つ具体的に反論していく」と持論を展開した。

 「ボトルネック性、規制の対称性」におけるNTTの主張は「NTT以外にも光ファイバの提供事業者が存在するためボトルネック設備ではない」「管路・電柱は開放しており、どの事業者も公平に利用できる」というもの。これに対して孫社長は「旧電電公社時代の電電債や施設設置負担金といった国民負担を利用し、電話回線のメンテナンスのたびに都合のいいところを光ファイバに置き換えている」と言及。「光ファイバの投下資本は国民が投入したものであり、いってみれば道路のようなもの」とした上で、「メタルから光ファイバへの切り替えは長期メンテナンスを含めたコスト削減であり、民営化後も独占状態にある電話基本料などの収益を基礎として光ファイバを敷設している」と指摘。「NTT東西の光ファイバ芯線シェアは65.7%もあり、国民の負担で独占状態なのは変わっていない」と語った。

 また、管路・電柱の開放についても「条件や手続きが閉鎖されていて実態は開放にほど遠い」とコメント。電柱の添架ポジションについても「半分以上はNTTが独占していて、残ったポジションをCATV、音楽放送といった他のジャンルの事業者も含めて争っている状態」と説明。申請手続きについても「電柱1本1本の申請が必要で、全国約2,500万本の電柱に対して2,500万枚の書類が必要。申請が通らなければネットワークが遮断されてしまうような状況で事業計画を立てろというほうが無理がある」とした。


ボトルネック性への反論 電柱はすでに大半をNTTが独占との指摘

提供価格が採算割れとの意見に「むしろ値下げできるのでは」

光ファイバの貸し出し料金と原価の関係
 「投資インセンティブ・リスク負担」については、「予測需要が大幅に乖離した場合には光ファイバ接続料を見直すという総務省の言葉もあり、そもそも投資リスクは存在しない」と指摘。「思ったよりお客が取れなければ値上げしていいという保証されたポジションで事業できるなら私がしたいくらいだ」とコメントした上で、「投資に対してインセンティブが必要というのは他の産業で通じるだろうか。自動車産業で言えば、メーカーは高速道路を独占しなければ自動車が開発できないのか」と厳しい意見を披露した。また、「光ファイバの敷設は投資というよりメタルの置き換えコストであり、それすらも投資インセンティブが働かなければやりたくないというのならば、光ファイバ整備会社を分離独立する方法もある」との意見も示した。

 提供価格が採算割れしているという意見には、「現在の価格は7年間の平均コストであり、途中までは原価が価格を上回るのは当然のことで、いわば偽った表現だ」と指摘。NTTが中期経営戦略の中で、「2010年までに光アクセスを組み合わせた次世代ネットワークを3,000万ユーザーに提供する」との目標を掲げた点も踏まえ「3,000万もあれば当初よりボリューム効果も出るのでむしろ値下げできるのではないか。3,000万ユーザーを想定した価格へ早期に値下げして欲しい」との要望も示した。

 米国では光ファイバの開放義務が撤廃されているとの意見には「米国と日本では状況が異なる」と一蹴。「ブロードバンドのシェア60%をCATVが占める米国において、電話会社はサービスも人事も異なる本当の意味での分割がされており、むしろ弱者の立場にある。また、米国の90%の家庭にはCATVブロードバンド回線が引き込まれており、ユーザー自由に加入できる環境にある。このような状況ではじめて8%程度の開放義務が撤廃されている」と米国の事例を紹介した上で、「日本はNTTが芯線の圧倒的大半を占有しており、会社は分割されながらも人事や資本、ブランドを共有している」と指摘。「異なった競争状態を利用してミスリードしていくことは許せない行為だ」と熱弁を振るった。


場合によっては光ファイバ整備会社の設立という案も 提供価格は「7年間の平均コストであり、原価が価格を上回るのは当然」

開放義務は「永遠に課すわけではない」

光ファイバ開放義務撤廃における日米比較
 開放義務撤廃そのものについては、「永遠に課すというわけではなく、NTT以外の事業者がNTTと同じ状態で光ファイバを利用できるようになれば、その時点で考えることは可能」とコメント。ただし、実際に開放義務を撤廃する議論を始めるには「NTT再編論議をやり直すことも必要。分割したNTT東西どちらも同じフレッツのブランドを使い、役員も入れ替わっているような見せかけの分割ではなく、真の分割という根本論議とセットで考えるなら議論の余地はある」とした。

 他の光ファイバ通信事業者については「USENはマンションの引き込みにNTTのダークファイバを利用しており、自ら光ファイバの芯線を敷設することはギブアップした状態」とコメント。電力系通信事業者についても「これもおかしなもので、電力を独占して得た利益で光ファイバ事業を行ない、いくら赤字を出してもびくともしない」とした上で、「どちらにしても我々の選択肢としては事実上使えない」と語った。

 孫社長は光ファイバ芯線と光ファイバによる通信サービスの関係を自動車に例えて説明。「道路に相当するのが芯線、自動車に相当するのが光ファイバによるブロードバンドサービスで、トヨタのような自動車メーカーは第一種通信事業者のようなもの」と説明したのち、「芯線は国民負担で作ったものであるのだから、フェアに開放してほしい」との要望を示した。

 現状では光ファイバ開放義務撤廃に関する動きは起きていないが、「NTTの和田社長が決算や記者会見の場で繰り返し発言しており、元NTT社員である国会議員を通じた活動や総務省への働きかけも行なっているようだと耳にしている(孫社長)」。「光ファイバ開放義務撤廃が実現することは想像だにしたくない」との気持ちを述べた上で、「万が一にも変更する可能性があるならば、それは密室で決めてほしくない。当然のことながら、開かれた場所で透明性のある議論を行ないたい」と語った。



( 甲斐祐樹 )
2004/12/21 21:26

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