総務省は1日、「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」の第3回を開催した。会にはNTTやKDDI、ソフトバンクやボーダフォンといった通信事業の代表者が出席、IP化に対応した競争ルールの観点から議論を行なった。
● NTTは「光ファイバのシェアが下がり、コスト回収も困難」
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NTTの和田紀夫代表取締役社長
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最初のプレゼンテーションを務めたNTTの和田紀夫代表取締役社長は、国内の通信事業における競争の現状について言及。ブロードバンドの普及率や市場の競争状況は世界各国でも日本が最も進んでおり、FTTHに関しては純増数がADSLを上回ると同時に月額料金も値下げが進んでいるとした。
そうした競争状況の中で、FTTHにおけるNTTのシェアは全国平均で57%で、東京および関西では50%を下回る状況だと指摘。また、光ファイバや電柱の保有量は電力系事業者はNTT東西に匹敵または上回っており、光ファイバのコストに関しても予測したコストと実績コストに大幅な乖離が生じており、料金算定期間内の適正なコスト回収が困難な状況にあるという。
こうした状況を踏まえ、和田氏は「設備構築事業者に対して設備投資のフェアリターンが確保できる仕組みが必要」と要求。今後は大量のIPトラフィックが必要とされるコンテンツ配信やP2P通信に備え、これらサービスを提供する上位レイヤー事業者とネットワーク事業者の間の費用分担を整理する必要があるとした。
● KDDIはNTTグループの持株体制廃止やアクセス部門の分離を求める
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KDDIの小野寺正代表取締役社長兼会長
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これに対してKDDIの小野寺正代表取締役社長兼会長は、「営業収益で見れば、NTT東日本だけでKDDIやソフトバンク、日本テレコムといった他通信事業者の合計を上回るほど大きい」とNTTグループの独占力の大きさを指摘。NTT再編に関しても「グループ間での競争が機能していない」「再編後も統一ブランドを継続している」「グループ一体の共有人事」といった点に加え、中期経営戦略に関しても「各グループは独立した経営判断を行ない、持株会社は各社の独立性を最大限配慮するとしていたはずが、グループ全体の中期経営戦略を持株で策定していること自体が問題だ」と厳しく批判した。
こうした問題の解決案として小野寺氏が挙げたのが、持株会社体制の廃止やアクセス部門の分離といったNTTグループの完全資本分離。アクセス部門に関しては「KDDIとして応分の出資をしてもいい。IP化によってさらにボトルネック性が強まる分野だけに、NTTから分離して民間で進めるべき」との考えを披露し、「現実には法改正などが必要で時間もかかるため、NTT再編の趣旨を明確に実行するためのファイアウォールと監視体制が重要だ」とした。
● 「光が高いというのは幻想にすぎない」とソフトバンク孫社長
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ソフトバンクの孫正義代表取締役社長
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ソフトバンクの孫正義代表取締役社長も、NTTのアクセス部門分離に賛成。「光ファイバが儲からないというのであれば我々やKDDIも参加して、民間の資本努力で進めていくべき」と述べた。また、「2010年までに3,000万ユーザーを次世代ネットワークへ」との目標を掲げたNTTの中期経営戦略についても問題視し、「3,000万回線はどの地域に敷設されるか、といえば東名阪などが中心となり、郊外や山間部などは後回しになるだろう。その結果として日本国内で更なるデジタルデバイドを生んでしまう」と指摘。「そうではなく、我々は全国6,000万のメタル回線をすべて光ファイバに置き換えるべきだと考えている」と発言した。
公聴会で最も話題を集めたのは、光ファイバのコストに関する孫氏の発言。孫氏は「6,000万のメタル回線をすべて光に置き換えるのに6兆円」という独自の試算を踏まえ、「20年経過時に元本、金利が完済できる回線単価水準は光ファイバ1回線につき月額690円で済む」との考えを披露。「NTTの中期経営戦略では光ファイバ3,000万回線の費用を2兆と試算しており、6,000万回線で6兆は現実的な数字」と補足した上で、「材料費も今ではメタルよりも光ファイバが安価になっている。月額1,300円のコストがかかるメタルよりも690円で済む光ファイバは大きなメリットだ」と主張。「光が高いというのは幻想にすぎない。NTTができないというのなら民間でやってみせる」との意気込みを示した。
● 「儲からない光よりもモバイルを考えるべき」とイー・アクセス千本氏
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イー・アクセスの千本倖生代表取締役会長兼CEO
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イー・アクセスの千本倖生代表取締役会長兼CEOも、NTTの市場支配力やグループ経営について意見を表明。グループ間での人事交流に加えて、NTT系のISP「ぷらら」「OCN」などがNTT系のサービスのみと取り引きし、イー・アクセスからの提案が一切受け付けられないという事例を挙げ、「圧倒的な市場支配力を持ちながら、極めて閉鎖的な排他的取引が行なわれている」と指摘した。
こうした市場支配力の強大さにより、「NTT民営化20年から国際競争力が上がったのはADSLだけ。移動体も固定通信もすべて国際競争力が低下している」と千本氏はコメント。ADSLに関しては規制緩和により新規事業者も参入可能になり、国際競争力が向上したとの考えを示した上で、「NTT東西とNTTドコモによる次世代ネットワークの構築は禁止し、ネットワークのオープン化やルールの明確化が必要だ」と訴えた。
一方で光ファイバに関しては「世界の動きを見ていると、光をやっているのは日本だけ。こんなに儲からない事業が国家的な戦略として正しいのか」とコメント。「最近は孫さんも光論者になっていて意見が変わっているようだ」としながらも、「アクセスで考えるなら光ファイバよりもWiMAXのようなモバイルを考えるべき」と主張した。
● 技術開発の主導は通信事業者ではなくメーカーに
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懇談会の模様
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技術開発も公聴会の大きな論点の1つとなった。NTTの和田氏は「まっすぐにしか使えなかった光ファイバが曲げてもねじっても損失がなくなるなど、技術開発には情熱を注いできた」と発言すると、ソフトバンクの孫氏は「ファイバの材料を提供している会社はNTT以外にも多く存在しており、ファイバの開発はそこが担当すればいいこと。それをNTTが圧倒的な購買力でネットワークを構築されたのではかなわない」と反論。「NTTの情熱はわかるが、それはアクセス回線を分離した会社でも損なわれることなく実現できるのでは」との考えを示した。
また、携帯電話事業においても和田氏が「日本独自仕様の第2世代は大反省すべきで、ドコモしか通用しない規格だったが、第3世代ではヨーロッパと同じW-CDMAを採用しており、この点では貢献していけるのではないか」とコメントすると、イー・アクセスの千本氏が「第3世代でも日本の端末メーカーの国際競争力は地におちている。ドコモのW-CDMAはかなり凝った仕様になっていて、海外メーカーが参入できない代わりに国内メーカーも海外へ行けない。NTTはもっと標準化を考えた研究開発をすべき」と意見を示した。
KDDIの小野寺氏は、「重要なのは技術開発の研究主体は誰なのか、を考えること」とコメント。「海外の事例では、ほとんどの場合メーカーが技術開発を担当しており、オペレーターが開発するのはサービスレイヤーの部分」と指摘し、「日本の技術力、メーカーの力をつけるためには、技術開発はオペレーターがすべきではない。技術開発の観点を考えるべきだ」とした。
関連情報
■URL
総務省
http://www.soumu.go.jp/
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( 甲斐祐樹 )
2006/02/01 17:41
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