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近視眼的な流通促進はダメ、ACCS久保田氏が「ネット法」に異論


ACCS専務理事の久保田裕氏

契約スキームとDRM整備でコンテンツ流通促進を実現させたいという
 権利者団体など31団体で構成されるデジタル時代の著作権協議会(CCD)が14日に開催したシンポジウムで、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の専務理事である久保田裕氏が、「ネット法」への異論を唱えた。久保田氏は、CCDの権利問題研究会の主査を務めている。

 ネット法は、2007年1月に発足した民間の研究団体「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」が3月に発表した政策提言。デジタルコンテンツのインターネット流通に限って著作権者らの権利を制限し、日本におけるデジタルコンテンツの流通を促進するというのが狙いだ。

 例えば過去のテレビ番組をインターネット配信するには、原作者や出演者などから公衆送信権、複製権、著作者人格権、実演家人格権などについて許諾をとる必要があるが、ネット法では、これらの権利を映画制作会社や放送事業者などの「ネット権者」に集約。原権利者は、ネット上の流通について権利行使できなくなるかわりに、ネット権者に対して報酬請求権を持つことになる。

 このネット法について久保田氏は、著作権を許諾権から報酬請求権に“弱体化”させてコンテンツ流通を促進するのではなく、まずは権利者や事業者、ユーザー間の契約スキームを整理した上で、デジタル著作権保護(DRM)技術を活用したコンテンツ流通を図るべきと主張。具体的には、コンテンツ自体にDRMを施すことで違法コピーを抑止し、正規なコンテンツ流通を実現することが1つの方策であると訴えた。

 「テレビの二次利用では、著作権だけでなく肖像権の問題もあり、例えば報道番組を再利用する場合には憲法上の人権に関わることもある。こうした実態を検討せずに、近視眼的に『流通促進、流通促進』と言って、イメージだけで著作権制度を悪者にしていないか。制度を変えれば『夢の流通』が実現するというのは疑問がある。まずは基本的な権利処理問題を解決してビジネスモデルを考えるべき。それがダメで、なおかつ法制度が足かせになっているならば著作権法改正をすればいい。」


Winny開発者逮捕に至る経緯は「包丁理論」ではない

 このほか久保田氏は著作権侵害の実態として、ACCSや日本レコード協会などが実施したファイル交換ソフトの利用実態調査を紹介。それによれば、インターネット利用者のうちファイル交換ソフトを使っている人は、2006年度の3.5%から2007年度には9.6%に急増したという。また、2007年度に「Winny」で流通したファイルのうち51.4%と半数以上が何らかの著作物で、うち92.5%は著作権者の許諾がないものだったとしている。

 さらに、Winny開発者の金子勇氏が逮捕された理由について、画期的なソフトを開発したから逮捕されたという論調があると指摘。これを「間違った評価」と語る久保田氏によれば、金子氏は「Winny1」シリーズを開発、それが著作権侵害を蔓延させている状況にありながら「Winny2」を作り、さらにバージョンアップして配布したとしているが、警察はこれら一連の流れを慎重に判断した上で摘発に踏み切ったと説明した。

 久保田氏は、「包丁を作れば殺人幇助罪になるという『包丁理論』があるが、Winny開発者の刑事手続きのアプローチは非常に慎重だった。(金子氏が著作権法違反幇助にあたるとして有罪判決を受けたことから)『著作権法は新しい技術の足かせになる』という論調もあるが、そこは冷静に摘発までの流れに至る事実を知ってもらいたい」と呼びかけた。

 また、ファイル交換ソフトのアップロード行為者に対する取り締りに関しては、該当ユーザーが意図的にアップロードしているかどうかを判断することが困難であると説明。とはいえ、Winnyに対する啓発を進めることで、アップロード行為者が「知らなかった」と言い逃れすることを防ぎ、刑事手続きを実行できるのではないかと話した。


関連情報

URL
  デジタル時代の著作権協議会
  http://www.ccd.gr.jp/

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( 増田 覚 )
2008/04/15 14:22

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