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ダビ10譲歩は“大人の対応”、権利者側が「消費者重視」アピール


 映像や音楽などの権利者28団体で構成される「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」と「日本芸能実演家団体協議会」に加盟する61団体は24日、地上デジタル放送の新録画ルール「ダビング10」の開始期日確定までの経緯を説明する記者会見を開いた。

 会見では、権利者側が提示した譲歩案によってダビング10の開始期日が決まったことについて、“大人の対応”を取ったことをアピール。その一方で、これまで2度送付した公開質問状に回答しないメーカー側の姿勢について、「自らの主張を繰り返すばかり」と厳しい非難を浴びせた。


権利者とメーカーがそれぞれ示す「消費者重視」を比べてほしい

実演家著作権隣接権センタ(CPRA)運営委員の椎名和夫氏
 ダビング10は当初、6月2日を開始予定日としていたが、私的録音録画補償金制度の問題で権利者側とメーカー側が対立したことで、暗礁に乗り上げていた。ダビング10開始にあたっては「クリエイターへの適正な対価の還元」が前提条件となっていたが、権利者側は、「HDDレコーダーに補償金を課金すべき」と主張。これに反対するメーカー側は、HDDレコーダーへの私的録画は、権利者の経済的損失につながらず、HDDレコーダーへの課金は「消費者に不合理な負担を強いる」と反論するなど、両者の議論は平行線をたどっていた。

 しかし、総務省の情報通信審議会に設けられている「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(デジコン委員会)」の6月19日の会合で、権利者側が「ダビング10と補償金の問題を切り離して、期日を確定する方向でまとめてほしい」と譲歩案を提示。その結果、ダビング10開始に向けて大きく踏み出す形となり、開始日が7月4日に決定した。

 デジコン委員会で譲歩案を提示した実演家著作権隣接権センタ(CPRA)運営委員の椎名和夫氏は会見で、「まさにこれが権利者の見識。これまでメーカーが言ってきた『消費者重視』と、今回我々が示した『消費者重視』のどこが違うか、よく見比べてほしい」と述べ、権利者側の“大人の対応”がダビング10の開始日確定につながったことをアピールした。

 「世間的には、経済産業省と文部科学省が(ブルーレイディスクと同録画機を補償金の課金対象とする)合意をしたことで権利者が譲歩したと思われているかもしれないが、それは本旨ではない」と椎名氏は指摘。デジコン委員会で権利者側は、ブルーレイディスクと同録画機への課金が、ダビング10解決にはつながらないことを明確にした上で、ダビング10開始への譲歩案を提示したと語った。

 その一方で、ダビング10開始への前提条件とされていた「対価の還元」については、何らかの形で確保する姿勢を見せる。「(譲歩案を示した)デジコン委員会では、補償金制度以外の『対価の還元』について検討するための道筋が付いたと理解している。また、渡海文科相が20日の会見で、HDDレコーダーに補償金をかけるとした『文化庁案』を撤回していないとコメントしたが、我々も見捨てられていないと安心した。今後は、文化審議会で仕切り直しの議論をしたい」。


対話を拒否するJEITAの姿勢は「偉大なる将軍様は絶対です」

 今回の会見を開いた権利者89団体は、2007年11月と2008年6月の2回にわたり、電子情報技術産業協会(JEITA)に対して、私的録音録画補償金制度の見直しに関する公開質問状を送付している。HDDレコーダーや携帯音楽プレーヤーを補償金対象機器にすべきでないなどと主張するJEITAに、その根拠を尋ねるためだ。

 しかし椎名氏によれば、これまでに回答は得られていないという。「JEITAは『私的録音録画小委員会で回答します』と言ったものの、いまだに回答はない。今回もまともな回答を得られる保証はない。公開質問状では補償金制度の本質に関わる質問をしているが、JEITAはそれに答えずやみくもに自らの主張を繰り返すばかり。挙げ句の果てには、役所を使って圧力をかけてくる次第。一貫して我を通そうとするメーカーの姿を皆さんはどうご覧になっているかは、非常に興味がある」として、JEITAの対応を辛辣に批判した。

 「『将軍様は偉大です』と繰り返す相手に『将軍様も人間じゃないですか』と語りかけても、『偉大なる将軍様は絶対です』という答えしか返ってこない状況と同じ。意見の対立というよりも、対話を拒否されているようだ。この時点でJEITAは(補償金制度の見直しを議論する)当事者性を失っている。その一方でJEITAは『今後も真摯に議論する』と言うが、それはまさに問答無用という姿勢。そのあたりをよく報道していただければありがたい。これからも権利者側は、皆さんの見ている公開の場で質問の山を重ねていきたいと思っている。」

 なお、ダビング10開始に向け、権利者がHDDレコーダーへの補償金問題をいったん切り離したことについては、「今後補償金の議論を進める中で、権利者は重要なコマを失ってしまったのではないか」という意見も寄せられたという。この点について椎名氏は、「ダビング10に不同意という選択肢もあったが、デジコン委員会でこの問題をクリアする当事者能力を持っていたのは権利者だけだった。常軌を逸した相手とつっぱりつづけても生産的な要素はないと判断したので、あえて逆を行った」と述べ、改めてメーカー側の姿勢を非難した。


ダビング10の遅れはメーカーの責任?

日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏
 椎名氏はさらに、「AV Watch」の6月23日付け記事「『ダビング10』開始日決定も、機器の対応は足並み揃わず」を引き合いに出し、ダビング10に対応するファームウェアアップデート時期をアナウンスしたのは、現時点でソニーだけであると指摘。一部のニュースサイトで「ダビング10が遅れた本当の理由は、メーカーサイドの事情があった」と報じられたことを挙げ、この話が現実味を帯びてきていると語った。「メディアの皆さんは、どのメーカーがどのようにダビング10に対応するかをウォッチングすれば、新たな記事のネタにできるのではないか」。

 会見ではこのほか、日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏が、補償金制度の縮小・廃止を求めるメーカー側の主張について、「コンテンツの創造、保護、活用という知的立国の創造サイクルが崩れ、社会全体が文化的に貧しくなる」と非難。そうなった場合にはメーカー側の責任を追及せざるをえないと語った。

 なお、JEITAが5月30日に発表した公式見解では、デジタル著作権保護(DRM)技術が普及することで、補償金制度の必要性は反比例的に減少するとした上で、「消費者の意見を十分に踏まえ、デジタル技術の進展に伴って補償金制度を縮小・廃止していくことが原則」との考えを示している。

 この点について菅原氏は、「DRM管理には不必要なコストの負担が伴う。ユーザーは私的複製がコントロールされ、課金が走るので面倒くさい。『DRMですべて管理』となれば、ユーザーのすべての好みがどこかにデータとして集約される。先まで考えると、プライバシーへの介入の可能性もある」と問題提起した。


関連情報

URL
  Culture First
  http://www.culturefirst.jp/

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URL
  関連記事:「ダビング10」開始日決定も、機器の対応は足並み揃わず[AV Watch]
  http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20080623/dub10.htm


( 増田 覚 )
2008/06/25 12:11

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