フリービットは9日、事業戦略説明会を開催し、2008年度中にリリース開始予定の新製品のブランド「ServersMan(サーバーズマン)」を発表した。ソニーの「ウォークマン」が音楽を外に持ち出したように、iPhoneなどをインターネットサーバーにして持ち歩けるようにするものだという。フリービットの石田宏樹代表取締役社長によれば、元ソニー会長で、現在はフリービットの社外取締役も務める出井伸之氏とも相談して決めた名称だとしている。
● 利益率の高いユビキタス化事業の拡大に重点
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フリービットの石田宏樹代表取締役社長。事業戦略会の模様は、「ServersMan」のデモを含め、同社サイトにおいて動画で公開している
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石田社長は、同社の2010年4月期までの事業戦略である「SiLK VISION 2010 Ver.2.0」のこれまでの成果について、DTIなどのISPを買収することでブロードバンドサービスのユーザーを増やすとともに、それらのISPのサービス構造を見直すことで順調に利益を伸ばしてきたと説明。その上で、同戦略の今後の重点施策として「ユビキタス化事業の拡大」を掲げた。
ユビキタス化事業としては、1)IP電話などのメッセージング領域、2)VPN領域、3)アドテクノロジー領域(通話報酬型広告領域)、4)ホームセキュリティなどのモノ・コントロール領域――の4つを成長領域として挙げている。石田社長によれば、ユビキタス化事業はISP事業に比べて利益率が非常に高く、売り上げがほぼ利益になる分野だという。
しかし、DTIではさまざまなユビキタスサービスを提供しているものの、利用者は4%(約15000人)しかいないという。「ISPを買収して利益を出すという構造はほぼ完成している。今度は買収で増やしたユーザーをどうやってユビキタスサービスに誘導し、ARPUを上げていくのかがポイントになる」。
そこでフリービットでは、「Ubic Frontier!」という戦略を展開していくことにした。従来はDTIというブランドに頼ってユビキタスサービスの利用増を見込んでいたが、販路を拡大する。まずは無料でユビキタスサービスを提供してユーザーを獲得し、さらに一定以上の機能を必要とするユーザーに対して有料サービスの「Ubicプラン」に誘導する。
これらの成長領域に対しては「Simple.コンセプトで、徹底した『分かりやすさ』『使いやすさ』『ワクワク感』を提供していく」としており、そのために同社が新たに投入するのが「ServersMan」だ。
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「Ubic Frontier!」戦略
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「Ubic Frontier!」のビジネスモデル例
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● iPhoneなど6つのプラットフォームで「ServersMan」を提供
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新たな製品ブランド「ServersMan」のロゴ
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「ServersMan」は、フリービットが開発したVPNプラットフォーム「Emotion Link」を使ったコンシューマー向け製品の統一ブランドになる。同社では従来、Emotion Linkなどの技術名を製品の名称に用いてきたが、「これからは、何ができるのかということを、1つのブランド名でシンプルに表現する」。
すなわち、ServersManとは「すべての機器をサーバーにする」製品だ。石田社長は、iPhoneやWindows Mobile、Androidなど、携帯電話のOSが高機能になり、WiMAXなどの高速ネットワークと組み合わされると、常時接続・常時通電の「ほとんどサーバーと同じ機能を持ってくる」と指摘。しかも、多くの人が世界中で持ち歩く、世界で最も数が多いネットワークデバイスだとする。
「これにEmotion LinkとIPv6を入れたら、どんなことが可能になるかだろうか? ウォークマンは世界中に音楽を持ち出した。我々はシンプルな機器1台で誰でもサーバーを持ち歩けるようにし、世界中からアクセスが可能になる世界を展開していく。」
具体的な機能はまだ明らかにしなかったが、ServersManのアプリケーションソフトをスマートフォンなどにインストールするだけで、「ブラウザとは全く違うインターネットの世界を展開する」という。プレゼンテーションのスライドでは6つのロゴが紹介され、6つのプラットフォームで展開することが示された。そのうち3つはWindows、Mac、iPhoneと明記されていたが、残りの3つはまだ伏せられていた。とはいえ、ロゴに使っているモチーフからは、Androidなどが含まれるものと思われる。
フリービットでは現在、Emotion Linkをあらゆる機器で動作させるため、プログラムをすべてC言語で書き直しているという。これにより、1つのソースコードからコンパイルを変えるだけであらゆる機器に展開できるようになる。ユビキタスサービスの利用拡大のためには多彩な流通経路を持つことが重要になるため、同一製品をさまざまなデバイスで同時に展開していく準備を進めているとした。
● iPhone内の動画ファイルをストリーミング配信可能
石田社長は、「ブラウザの世界はリアルタイム性がない。Googleにあるものは数日前、最短でも数時間前の情報。『ストリートビュー』も非常に便利だが、今の情報ではない」と指摘した上で、「iPhoneのような機器に直接アクセスできると、リアルタイム性がポイントになる。Emotion LinkとIPv6を使って、いかにシンプルにリアルタイムな状況を作れるかお見せしたい」として、「ServersMan」のコンセプトを示す3つのデモを行った。
まず、1つめは「Personal Broadcast」として、iPhoneの中に保存してある約100MBのMPEG4動画ファイルをインターネット経由で他のPCから視聴するデモを行った。iPhoneには、PCや家電を簡単かつセキュアにサーバーにする「SemantiqNode」がインストールされており、IPv6アドレスが割り当てられている。また、iPhoneには独自ドメイン名のURLでアクセスできるため、これを通常のiPhoneの通信回線に接続すれば、サーバーとして公開された状態になるという。
石田社長は、YouTubeも確かに1つの「Personal Broadcast」だが、ServersManが異なるのは「自分のポケットからブロードキャストが可能になること」と説明する。iPhoneの中にあるファイルを別の場所のサーバーにアップロードすることなく、100MBという大容量ファイルをリアルタイムで公開できるとした。ブロードキャストのほか、携帯電話同士でP2Pでのファイル転送にも活用できるという。
「携帯電話はこれまでビューワーだったが、Emotion LinkとIPv6を使うことによって本当のサーバーになる。学生でも携帯電話を1台持っていれば、その中にすべてのデータやコンテンツを入れておくことで、Webサーバーを公開できる。携帯電話で個人のデータセンターを開設できるため、新興国も含めてビジネスの裾野が広がる。」
さらに石田社長は、新型のP2P産業や新型の放送産業のほか、USBメモリが不要になり、NASの機能も備えることから、新型のメモリ市場が生まれる可能性も示した。
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「SemantiqNode」がインストールされたiPhoneには、IPv6アドレスが割り当てられている
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「SemantiqNode」がインストールiPhoneには、独自ドメイン名のURLでアクセスできる
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「Personal Broadcast」の概要
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石田社長が持っているiPhone内にある動画ファイルを、PCのブラウザで再生
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● インターネットがユビキタスに向かうのは必然
2つめは「Mash UP 家電サービス」だ。「ココセコム」のようなセキュリティサービスを想定した今回のデモでは、iPhoneのGPS情報をリアルタイムで取得し、それをGoogle マップ上にポインティングするとともに、周辺の様子をストリートビューで確認するというものだった。遠隔地のPCのブラウザからiPhoneを操作し、例えば子供が危険な地域にいたら警告音を鳴らしたり、iPhone内のアプリケーションを起動することも可能だという。iPhoneのカメラで撮影した現在地周辺の写真を読み込み、ストリートビューのように表示するデモも行った。
「ココセコムのようなサービスを自分の好きなインターフェイスで作り出せる。DVDレコーダやHDDレコーダを動かすこともできる。家電はメーカーが作るものだったが、公開されているさまざまなネットワークサービスをマッシュアップして日曜大工で家電を作れるようになる。」
3つめは、Emotion LinkとIPv6を使って感動までもリンクさせるという「Real Time sensing on the net」だ。石田社長は、これからITで重要になるのは“Sensing”と“Actuation”と言われていることを紹介。センサーで取得した情報を別の場所に伝送して何か動作をさせるということをITと結び付けることで、「自分が肩を叩いた情報を地球の裏側に送ることができたら、もっとハートフルになってくるかもしれない」と指摘する。
デモでは、iPhoneに搭載されている加速度センサーからの情報をIPを通じて伝達し、別のiPhoneのバイブレーション機能を作動させるというものだった。「これが2秒も3秒もかかっていたら、感動はリンクしない。Webやブラウザではない機能を使うことで、IPv6を使ってリアルタイムに伝達できる」と述べ、石田社長がiPhoneを強く振ると、もう一方のiPhoneが0.13秒後に振動する様子を披露した。「地球の裏側に持って行っても使える。ブロードキャストを使えば、1万台の機器を同時に振動させることも可能だ」。
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「Mash UP 家電サービス」のデモでは、事業戦略説明会の場で撮影した写真をリアルタイムにGoogle マップにマッシュアップ表示
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「Real Time sensing on the net」の概要
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石田社長は「ユビキタスという産業はまだ存在していないが、ユビキタスに行くというのは、インターネットを使っている人ならわかる1つの必然性。かつて(パソコン通信から)インターネットに移行するのは、技術者から見て必然性があった。ユビキタスに行く、IPv6に行く、さまざまなネットワークが使えるような状況になっていく、パソコンがビューワーから1つのノードに変わっていく――これらは社会の必然。その部分を我々の成長事業として成し遂げていくことが、メイドインジャパンそしてメイドインアジアの企業の重要なミッションだと思っている」と意気込みを示した。
関連情報
■URL
フリービット
http://www.freebit.com/
2009年4月期 中間業績発表及び事業戦略説明会
http://www.freebit.com/ir/movie/2008-12-09_FLV/index.html
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( 永沢 茂 )
2008/12/10 15:00
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