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時速500kmでハンドオーバー、高速鉄道向け無線LANの新規格を

IEEE 802.11の会議で日本発の提案

森岡仁志氏(ルート福岡情報研究所・主任研究員)
 LTE(Long Term Evolution)やモバイルWiMAXなど、移動体通信における高速化はめざましく、数十Mbpsから100Mbpsまでの実用化は見えている。そんな中、高速鉄道を想定した、時速500kmでもハンドオーバーができる無線LANをベースとした技術の検討が進んでいる。

 モバイルブロードバンド協会(MBA)は17日、「IEEE802.11 Prenaly 報告会」を開催。同協会のメンバーである森岡仁志氏(ルート福岡情報研究所・主任研究員)が、「802.11の鉄道等の大規模公共交通向け広帯域アクセス標準化」と題して報告した。

 IEEE 802.11(無線LAN)に関する規格を策定する会議は、1年に6回、米国の各地で開催される。そのうち3回はIEEE 802のすべてを扱う「IEEE802 Plenary」で、残りの3回はIEEE 802.11に加えて802.15、IEEE 802.20、IEEE 802.21などに限定した「IEEE802.11 Interim」という名称だ。11月にアトランタでIEEE802 Plenaryが開催され、森岡氏はここで高速鉄道向けの無線LANについてプレゼンテーションを行った。

 IEEE 802の規格は、まずWNG SC(Wireless Next Generation Standing Committee)にて概要を発表。参加者の投票により、スタディグループからタスクグループでの議論に移り正式な規格となる。今回の鉄道向けの無線LAN規格は、WNG SCで発表した段階のため、まだ初期の段階だ。

 この高速鉄道向け無線LANは、高速鉄道とインターネットを接続することを目的とした技術。乗客向けのインターネット接続やデジタルサイネージなどのバックボーンとしての利用を想定している。運行管理や安全装置など業務目的での通信は想定しておらず、あくまでも乗客への付加価値サービスとしての利用が前提だ。


高速鉄道向けの3つの条件を満たすには、新たな規格が必要

高速鉄道向け無線LANの概念。同じネットワークに接続されたアクセスポイント間だけではなく、違うネットワークでもハンドオーバーできるのが特徴

IEEE 802.11a/b/g/n、IEEE 802.11i、IEEE 802.11r、高速鉄道向け無線LANの比較。既存の規格では、ネットワーク間のハンドオーバー、セキュリティ、高速なハンドオーバー処理の3つの要件は同時に実現できない

ハンドオーバーのケーススタディ。移動速度は時速500kmでセルは半径200mと想定。100ミリ秒でハンドオーバー処理が終了すると、1000kmの路線には2591のアクセスポイントが必要
 森岡氏は、高速鉄道向け無線LANで必要とされる条件として、ネットワーク間のハンドオーバー、セキュリティ、高速なハンドオーバーの3点を挙げている。無線LAN(IEEE 802.11)にはすでに、物理レイヤーの規格IEEE 802.11a/b/g/n、セキュリティの規格「IEEE 802.11i」、高速ハンドオーバーの規格「IEEE 802.11r」がある。しかし、これらを組み合わせても、3つの条件は満たせない。そのため既存の規格ではく、新しい規格を策定するというわけだ。

 ここで出ている時速500kmでのハンドオーバーだが、世界の高速鉄道の計画に基づいて決めたスペックだという。森岡は「今後20年以内に、世界中で高速鉄道が1万km以上も開発される。特にヨーロッパやアジアで盛ん」と、世界の高速鉄道の計画について説明。具体的には、フランスのTGVは時速360km、上海トランスラピッドが時速430km、日本でのリニアモーターカーは時速500kmでの営業運転が想定されている。

 高速移動通信で要になるのがハンドオーバーだ。無線LANのハンドオーバーは、現在つないでるアクセスポイントと、次につなぐアクセスポイントの両方の電波が送受信できるエリアで処理を終えなければならない。高速でハンドオーバー処理が行えれば、このエリアを小さくでき、結果的にアクセスポイントが少なくて済む。

 森岡氏は、時速500km、セル半径200m、総延長1000kmを条件にした計算結果を示した。ハンドオーバーにかかる時間が100ミリ秒だとアクセスポイントが2591個、500ミリ秒だと3031個、1秒だと3847個必要となる。さらに1.43秒以上かかると、移動速度に対してハンドオーバーが追いつかなくなり「使い物にならない」。

 無線LANの高速ハンドオーバーではIEEE 802.11rが正式な規格が策定されている。しかし、「鉄道は広域にわたるため、ネットワーク間のハンドオーバーに対応しなければならない。ところが、IEEE 802.11rは、ネットワーク間のハンドオーバーには対応していないという欠点がある」としている。

 WiMAXやLTEとの比較だが、コストと帯域では無線LANが勝るとする。「鉄道会社はランニングコストをかけたがらない。自前で回線を持つ方がよいが、それにはモバイルWiMAXやLTEは負担が大きい」としている。

 11月のIEEE802 Plenaryでこの高速鉄道向け無線LANのプレゼンテーションを行ったところ、非公式の投票では約60名の参加者のうち29名が良い反応を示したとしている。さらに、ベルリン工科大学が興味を示しており、次回の会議でプレゼンテーションを行う予定だ。

 森岡氏は2009年1月に開催される次回のIEEE 802.11の会議でも、鉄道向け無線LANに関するプレゼンテーションを行う予定。それに向けて、参加者に質問や意見を聞いたところ「列車にフェムトセルを設置してそのバックボーンに使うという提案はどうか」「リニアモーターカーの磁気は無線LANのノイズにならないのか」「地下鉄のカーブではアクセスポイントが見えなくなるがどうするのか」などが挙がった。


関連情報

URL
  MBA研究会(第4回)開催のお知らせ
  http://www.mobile-broadband.org/j-news/news081201.html

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( 安達崇徳 )
2008/12/19 11:03

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