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脳情報通信で「こころ」の伝達を可能に、大阪大とNICTが共同研究


大阪大学の鷲田清一総長(右)とNICTの宮原秀夫理事長(左)
 国立大学法人大阪大学と独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は7日、脳情報通信分野における融合研究プロジェクトの基本協定を締結した。脳のメカニズムの研究をベースに、人の「こころ」を伝達する技術や、脳のメカニズムを応用した次世代の情報通信ネットワーク技術の実現を目指す。同日、大阪大学の鷲田清一総長とNICTの宮原秀夫理事長により、協定書の調印式が行われた。

 プロジェクトの背景には、計測技術が急速に進歩していることがある。プロジェクトではまず、脳内の神経活動や化学物質代謝を直接計測できる基盤技術の開発に取りかかる。具体的には、大阪大学吹田キャンパスに、7テスラの磁場密度を持つfMRI(Functional Magnetic Resonance Imaging)を導入。脳を傷付けることなく高精度で計測できる、世界最高水準の非侵襲計測技術を開発し、2011~2012年をめどに本格的に融合研究をスタートする予定だ。

 なお、医療で使われるMRIは1.5~3テスラ。7テスラというレベルの人用のMRIは世界に30台、国内には今のところ1台しかないが、空間分解能が格段に上がるという。

 基盤技術として高度な脳計測技術が確立すれば、例えば、頭の中で「あ」「い」「う」「え」「お」……と考えた時に、それぞれ脳のどの部分が活動するかをマッピングできるようになる。これにより、頭の中で考えた言葉(内語)を言葉に出さずとも情報端末機器に出力できる「内語タイプライター」の可能性が生まれる。さらには、目で見ている情景を脳の活動をもとに再現したり、頭の中でイメージしているだけでディスプレイに出力できる「心象イメージイラストレーター」といった新しいインターフェイスも期待される。

 一方、現在の情報端末機器では、画像や映像、音声などのように、表現形式に制約があり、伝えたくても伝えきれないもどかしさがあると指摘する。脳の活動と伝えたい情報の相互関係を計測・分析・把握することで、アイデアやイメージ、感動、感情など、さまざまな心の状態を伝達できる情報技術の実現を目指す。

 このほか、脳の機能に学んだ新世代のネットワーク理論も融合研究のテーマとして掲げている。人間の脳は、大脳皮質だけでも約140億個の神経細胞があり、それらが数十兆個のシナプスで結合されている非常に複雑なネットワークシステムだが、消費されるエネルギーはごくわずか。それが、膨大な数の神経細胞を有する複雑な組織体である人体を、さまざまな環境下で制御しているという。

 この複雑システムを解析することで、急増する現代の情報通信トラフィックにも対応でき、拡張性や自立性、環境適応性、自己修復性などに優れ、しかも低エネルギー消費のネットワーク技術の開発に寄与できると見ている。

 これらの研究開発により、「『いつでも、どこでも、誰にでも、こころも』伝える新たな情報通信パラダイムの創出を目指す」としている。


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URL
  ニュースリリース
  http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/h20/090105/090105.html

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( 永沢 茂 )
2009/01/07 18:59

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