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医薬品のネット販売規制「まず安全策として業界ルールの検討を」

事業者らが販売継続を求めるフォーラムを開催

 改正薬事法が6月1日に完全施行されることに伴い、省令により医薬品のネット販売が規制されようとしていることに対して、医薬品の通信販売にかかわる業者や団体が主催する「一般用医薬品通信販売継続を求めるフォーラム」が4日、都内で開催された。

 フォーラムは、医薬品ネット販売推進協議会、日本オンラインドラッグ協会、日本通信販売協会、ヤフー、楽天が共同で開催。2月24日に厚生労働省で開催された「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」の第1回会合での議論の模様についての紹介や、業界ルールについての説明が行われ、出席した事業者や消費者からは今回の規制に反対する意見などが挙がった。


楽天・三木谷氏「省令で何を守ろうとしているのか疑問だ」

ヤフーCOOの喜多埜裕明氏

楽天代表取締役会長の三木谷浩史氏
 ヤフーCOOの喜多埜裕明氏は、「2月24日の検討会では冒頭、舛添厚生労働大臣から検討会の趣旨について『すべての国民が平等に医薬品を入手できる環境作りをするのは国の責務であり、国民的議論が必要だ』という説明があった。しかし、実際の検討会では、提案した業界ルール案をきちんと説明する時間ももらえないまま終わってしまった」として、業界ルール案などを多くの人に理解してもらうために、今回のフォーラムを開催したと説明。

 喜多埜氏は検討会について「利便性と安全性のどちらを取るのかといった言われ方もするが、両方とも重要なもの。自宅にいながら、メールや電話で医薬品が買える、配送してもらえるということで、多くの人の健康が守られている。これを具体的に議論すべきだとヤフーも考えており、検討会の場で業界ルール案をきちんと議論していただきたい」と語った。

 楽天代表取締役会長の三木谷浩史氏は、「医薬品のネット販売継続を求める署名は既に72万人以上集まっている。今回のネット販売規制は、法律で決めたことであればまだしも、なぜ省令でこのようなことができてしまうのか」と不満の声を挙げた。これまでの議論についても、「対面販売が重要だと言うが、店内に薬剤師や登録販売者がいれば、売るのはアルバイトでもいいということになる。ネットとどちらが安全なのかという議論は全くされていない。規制の影響範囲の検討もせず、ネットの専門家もいない検討会でこうしたことを決めてきたのはいかがなものか」として、不十分な議論によりネット販売が規制されようとしていると主張した。

 三木谷氏は、医薬品のネット販売規制について「186の町村には薬局が無く、10km圏内に薬局が無い地域も多い。そうした人たちにどう対応するのか」と規制のデメリットを説明。「一方、置き薬や健保で配る薬については例外だと言う。全く整合性がない。購入が難しい人たちに対して、つぎはぎだらけの省令でいったい何を守ろうとしているのか、はなはだ疑問だ」と訴えた。


ケンコーコム・後藤氏「消費者不在で規制を決める検討会であってはならない」

ケンコーコム代表取締役社長の後藤玄利氏
 日本オンラインドラッグ協会理事長でケンコーコム代表取締役社長の後藤玄利氏は、2月24日に開催された検討会に出席した感想として、「検討会は、まさに結論ありきで進めているのではないかと見受けられた」とコメント。検討会の議事進行に対しても、「検討会のメンバー19人のうち、15人は通信販売をぜひ規制したいという従来の検討会のメンバーで、座長も規制推進派。通信販売を継続したいという勢力はわずか4人。サッカーで言えば、(座長を除く)14人対4人で試合をしているようなもの。そうした状況の中で、『皆さん平等に発言を』といった進行のため、我々の発言の機会は非常に限定される」と不満を語った。

 また、第1回の検討会では「医薬品のネット販売を安全に行うための業界ルール案を示し、これで安全が確保できるかについて議論をしてほしいと訴えたが、それよりも前に議論すべきことがあるといった形ではぐらかされてしまった」と説明。今後の検討会については、「インターネットでの販売が無くなると、自分の健康を維持できないといった声が多数寄せられている。そうした声を無視して、消費者不在で規制を決めるような検討会であってはならない」と訴えた。


医薬品のネット販売事業者が進める安全対策

水虫薬を製造・販売している大源製薬は、ネット経由での販売が約7割。ネット購入者のうち約6割が女性だという。「水虫や痔の薬など女性は店頭で買いにくい」との消費者の意見もあった
 続いて、現在医薬品のネット販売を行っている事業者から、安全面での取り組みが紹介された。水虫薬を製造・販売している大源製薬は、「現在、約7割がネット経由での販売となっており、規制は死活問題。ネットでの購入者の約6割は女性で、規制により購入できなくなるのかという問い合わせを多数受けている」と説明。販売に際しては、「薬剤師による購入前・購入後の問い合わせに対応し、発送時にも必ず薬剤師が確認するなど、可能な限り安全面に配慮して運営している」として、「薬には副作用の問題があるので、なんらかの規制は必要だが、ネットで買えなくなることによるデメリットを考えてほしい」と訴えた。

 東京・葛飾のミサワ薬局は、「店舗販売の補完的な役割としてネット販売をしているが、店頭販売とネット販売における安全性はさほど変わらない」と説明。販売する商品の選定についても薬剤師が判断し、ネット販売での安全性が担保できない商品については扱わないといった対応を取っているとした。また、通常では製品のパッケージを開けなければ見られない説明書などについても、ネット販売のページには掲載しているため、こうした点ではネット販売の方が優れていると説明。「ネット上の販売では、各事業者や薬剤師のモラルが大きな部分を占めている」として、安全・安心に医薬品を提供することを念頭に販売を行っていると語った。

 ケンコーコムの倉重達一郎氏は、同社の薬剤師が実施している「事前アンケート」と「大量購入防止策」の2つの安全対策を説明した。ケンコーコムでは医薬品の購入時には必ずユーザーがアンケートに回答する必要があり、各医薬品ごとに「アレルギー症状がある人には販売しない」といった仕組みを設けていると説明。また、医薬品の大量購入防止策としては、医薬品のリスクに応じて販売個数を制限しており、複数回に分けて注文された場合にも自動的に名寄せされ、購入希望者に確認するシステムになっているとした。

 ヤフーの別所直哉氏は、ショッピングモール事業者としての取り組みを紹介した。ヤフーでは、東京都の薬事関係部署と連絡を取り合っており、医薬品や健康食品に関する安全情報を速やかに入手できる体制を整えていると説明。これまで医薬品についての情報は無かったが、健康食品については2008年には21回、50商品についての情報提供があり、これらの情報を販売業者に対して通知するといった対応を行ってきたと語った。


安全策を義務付ける「業界ルール」で、検討会にも理解を求めていきたい

 これらの取り組みの紹介を受けて、ケンコーコムの後藤氏は検討会に提出した「業界ルール案」を説明した。業界ルール案は、医薬品のネット販売の安全策を、明確化された業務手順としてまとめたもので、業界全体の自主ルールとして取り組むべき安全策を示している。

 後藤氏は、「ネット販売については、正直なところ不安を持たれているお客様はいる」として、それらの不安や問題に業界としてどのように取り組むかを示すものだと説明。「違法販売サイトや個人輸入サイトと正規の販売店をどう区別するのか」という不安に対しては、医薬品のネット販売に届出制を導入し、サイト上で届出済みであることを確認できるようにすること、薬事法に基づいて店舗で義務付けられている表示はサイトにもわかりやすく掲示することなどを対策として挙げている。

 医薬品の情報提供については、各医薬品の外包または添付文書に基づいた情報の記載をサイト上で義務付けることとしている。このほかルールとして、販売時には必ず禁忌事項などの確認を行って使用者の情報や状態を把握すること、購入者に対してメール、電話、FAXなど適切な方法により専門家が相談に答えられる体制を整えること、販売の可否は最終的に専門家が判断すること、ルールで定めた個数以上の販売はできない仕組みを設けること、発送時には相談窓口の連絡先と対応時間を明記した用紙を同梱することなどを義務付けている。

 後藤氏は、こうした対策をしっかりと実施していくことで、ネットでも安全に医薬品は販売できるとして、「検討会ではしきりに対面販売が必要と言われているが、対面販売は手段であって目的ではない。しっかりと安全性を確保できる業界ルールを示していくことで、理解を求めていきたい」と語った。


販売には届出制を導入し、実在性を確認できるようにする 実店舗で掲示が義務付けられている項目は、サイトにも掲示する

各医薬品について情報の記載を義務付ける 使用者に対して問診を行い、禁忌事項などを確認する

メールや電話、FAXなどで専門家が質問に回答できる体制を整える 販売可否の判断は最終的に専門家が行う

各医薬品ごとに数量制限を設け、制限以上の購入はできなくする 同一顧客の複数回の注文は集計して、制限値を超える販売はしない

消費者からは「顔が見えないからこそ相談できることもある」との声も

 この業界ルール案について、フォーラムに出席した販売事業者からは「業界のルール案については全面的に賛成したい。販売者にとっても消費者にとっても、これを元に行政の指導に従って、安全を確保した販売ができればすばらしいと思っている」「ネット販売では顔が見えないと言われるが、実店舗の販売では聞けないような顧客の声を聞くことができる。メールでの問い合わせ相談は非常に多く、返事を書くので深夜になることもしばしば。こうした取り組みをしている店舗があることを理解していただきたい」といった賛同の意見が発表された。

 また、フォーラムに出席した消費者からの意見としては、「顔が見えないからこそ相談できることもある。一番の当事者である消費者の意見を無視して改正しようというのが、非常に腹立たしい」「店舗とネット、どちらがいいということではなく、消費者が選択する幅を狭めないでほしい」といった声が挙がった。

 弁護士の関葉子氏は、「インターネットで安全性を確保しうる手段は多々存在するにもかかわらず、それを検討することなく規制するのは、憲法第22条の『営業の自由』に対する過度の規制ではないかと考える」と説明。「こうした重大な規制は、国民の代表である国会議員が集まる、国会の場で決定されなければならない。それを省令に丸投げの形で、こうした規制がされることには大きな問題があると考える」と語った。

 日本通信販売協会副会長でファンケル会長の宮島和美氏は、「我々の会社は医薬品を売っているわけではないが、通販を30年やってきており、いかにお客様と密にコミュニケーションをとるかということがもっとも重要と考えている。情報提供をしなければいけない薬があるというのはわかるし、今回の薬事法改正は制度としてはいいと思うが、分類の仕方には問題があると思う」と語った。


パブコメの公開などを求める質問状を厚生労働省に提出

 楽天の三木谷氏はフォーラム終了後、「こういう形で当事者の意見を聞くことができ、医薬品の通信販売は既にライフラインになっていると感じた。検討会では、時間切れに持ち込もうという姿勢も感じられたが、我々の意見を集約して届けていきたい」と語った。また、今回の業界ルールが認められた場合には、楽天の側から店舗をチェックするとともに、違反業者については当局に報告していくなどの対策を行っていくと説明。業界ルールに沿った形での販売システムの変更なども、6月の改正法施行までには間に合うと語った。

 ケンコーコムの後藤氏は、医薬品のネット販売に関する制度については、2004年11月から複数回に渡って厚生労働省に制度の見直しを申し入れていたと説明。その都度、厚生労働省からは、厚生科学審議会の検討部会で審議すると回答を受けていたが、今回の検討会では「そうした働きかけは、これまでネット販売事業者の側からは行われてこなかった」といった趣旨の委員の発言があったとして、事実関係を問いただす公開質問状を厚生労働省に提出することを明らかにした。また併せて、省令の改正に対して寄せられたパブリックコメントに関する質問状も提出し、個別のパブリックコメントに対する厚生労働省の回答と、パブリックコメント全体の公開を求めていくと語った。


関連情報

URL
  日本オンラインドラッグ協会
  http://www.online-drug.jp/

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( 三柳英樹 )
2009/03/04 19:54

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