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「医薬品販売規制は撤回し、国会で議論を」与野党議員らが声明


 医薬品の通販規制に対して、自由民主党と民主党の国会議員有志からなる呼びかけ人による「過剰な医薬品通信販売規制を検証するシンポジウム」が21日、衆議院第二議員会館で開催された。

 シンポジウムには自民党・民主党の国会議員のほか、楽天の三木谷浩史会長兼社長などの業界関係者、医薬専門家、法律学者、消費者などが参加。医薬品の通信販売を規制する厚生労働省令は国民の健康に影響を与えかねないとして、医薬品の通販規制を決めた厚生労働省令の撤回を求める共同声明を採択した。


与野党の議員が超党派で省令に反対

自民党の世耕弘成議員

民主党の鈴木寛議員
 今回のシンポジウムは、自民党所属参議院議員の世耕弘成氏や民主党所属参議院議員の鈴木寛氏らが呼びかけ人となって開催された。

 冒頭の挨拶に立った世耕氏は、「今回の省令には大いに疑義を持っている」と語り、省令の問題点を解説。「薬事法ではネット販売を規定していないにも関わらず、省令レベルでこれを禁止しようとしている。厚生労働省には何度も説明を求めたが、納得できる説明は得られなかった。検討会での議論に期待していたが、結果はとんでもないものになった。省令にはたいへんな憤りを覚えている」と語り、今回のシンポジウムを開催するに至ったと説明した。

 同じく呼びかけ人となった民主党の鈴木氏も、「今回の省令は憲法と民主主義に対する蹂躙だ」と訴え、これまで問題なく行えてきた医薬品のネット販売を規制することは、国民の生存権や営業の自由など基本的人権を侵害するものだと批判。「基本的人権を制限する場合は、最低必要、最小限の規制でなくてはいけない。また、そのバランスは国民的にきちんと議論しなくてはいけないのは憲法の大原則」だとして、こうした重大な規制が国会の場で議論されることなく、省令のみで行われようとしていることは許し難いと語った。

 この問題については、自民党・民主党とも党として統一の見解を打ち出すことができず、「鈴木氏に呼びかけて、超党派で活動することにした」(世耕氏)という。シンポジウムには世耕氏・鈴木氏のほか、自民党の山内康一衆議院議員、民主党の市村浩一郎衆議院議員、田村謙治衆議院議員、鷲尾英一郎参議院議員の計6人が呼びかけに応じて集まった。

 民主党の田村氏は「自民党内にも民主党内にも既得権益を守ろうとする人がいて、ネットに対する偏見もある。このような省令がまかり通ってしまうのは許し難い。国民の生活のために党派を超えて戦っていきたい」とコメント。自民党の山内氏もこの意見に同意し、「政治家として申し訳ない気持ちで一杯。昨今、規制緩和は悪だったという風潮があり、それに霞が関が悪乗りしている」と語った。

 民主党の市村氏は、「このまま施行されれば混乱が起こる。数年前に施行されて大混乱を起こしたPSE法の二の舞だ」として、きちんとした議論のための期間を設け、それまでの間は現状通りネットでの販売を認めるべきだと語った。


障害者からは「省令は人の尊厳を踏みにじるもの」と怒りの声

 6月1日に完全施行される改正薬事法では、一般用医薬品をリスクの高い順に「第1類」「第2類」「第3類」に分類し、それぞれのリスクに応じた販売方法や情報提供の義務などを定めている。厚生労働省では、この改正法に伴う省令を2月6日に公布したが、省令では「医薬品は対面販売が原則である」として、通信販売についてはビタミン剤などの最もリスクが低い「第3類」の販売のみを認め、「第1類」「第2類」の通信販売は認めないとしている。

 この省令に従えば、6月1日からはネット販売を含む通信販売では、風邪薬などの「第2類」医薬品は販売できなくなる。これに対して通販業者や消費者などから反対意見が挙がったことから、舛添要一厚生労働大臣はこの問題についての検討会の設置を指示。検討会はこれまで6回開催されたが議論はまとまらず、厚生労働省では「薬局・店舗のない離島居住者」「改正法施行前に購入した医薬品の継続使用者」に限って2年間通信販売を認めるという経過措置を打ち出した。

 世耕氏は「離島だけ認めるというが、山間僻地はどうするのか。体に障害があったり、容易に外出できない人への対策もない。継続使用についても、同じ人が同じ店で同じ薬を買う場合に限られるという。薬が新しくなったら買えなくなるのか。極めて限定的な経過措置と解釈せざるを得ない」と語り、今回の経過措置は対策としてはまったく不十分なものだと訴えた。

 シンポジウムに参加した消費者からは、省令が施行されるとどのように困るかについての発表が行われ、特に障害者にとっては切実な問題であるという意見が挙がった。

 広島市視覚障害者福祉協会情報システム部長の志摩哲郎は、視覚障害者の立場から意見を発表。「視覚障害者は物を買いに行くことが困難で、店に行っても何が売っているのかを把握できない。PCやネットがあることで、自分で情報を確認して薬も買える。ヘルパーや知人に頼ることなく、プライバシーも守れて自立もできる。今回の省令はそういう人の尊厳を踏みにじるもの」と訴えた。

 大学職員の岡野圭氏は、「私は筋肉の難病で歩くことができず、車では移動できるが、店舗に行くにはネットよりも数十倍の時間をかけなければならない。ネットのおかげで障害者の生活レベルは向上した。今回の省令は、昔に戻れと言われている気分だ」と主張。「この規制がかかれば、薬は海外の通販サイトから手に入れる方を選ぶ。薬のために1日かけるよりも、時間はもっと他のことに使いたい」と訴えた。


専門家からも疑問の声、省令撤回を求める共同声明を採択

 シンポジウムに参加した専門家・有識者からも、省令に対する疑問や批判の声が相次いだ。

 中央大学法科大学院教授の安念潤司氏は、法律学者の立場から「今回の省令は、憲法22条の職業選択の自由から導かれる営業の自由に違反していると考える」と主張。「少なくとも、ネット販売は対面販売に比べてリスクが高いということを証明しなければいけないし、ネット販売には多くのメリットがある。規制するとデメリットがメリットを上回り、しかもリスクが特段大きくなるものでもない」として、省令は憲法違反の可能性が高いとした。

 慶應義塾大学総合政策学部教授の国領二郎氏は、「省令の中の対面原則が、安全・安心の御旗の下で、既得権保護になってしまっている。対面で本人に説明するのが原則だというならまだわかるが、代理人でも構わないという。論理が破綻している」とコメント。「対面原則はただの言い訳に過ぎないのではないかと思わざるを得ない」と訴えた。

 前宮城県知事で厚生省の元官僚でもある浅野史郎氏は、「薬の問題は、薬そのものの問題であって、売り方や買い方の問題ではない。規制は消費者を守るものだが、消費者が規制しないでくれと言っている。役人は理屈で生きているが、この問題はどう考えても理屈に合わない」と発言。「薬のネット販売をしているのも薬剤師であり、既得権益を守ろうとしているというのも疑問だ」として、「与野党ともこの問題についてまとまらなかったのはなぜなのか、どのような圧力があるのか」と議員に質問した。

 これに対して世耕氏は「見えざる圧力がある」と回答。楽天の三木谷氏も「選挙が近いのでなかなか動けないんだよ、という議員が多くいた」とコメントした。

 国際医療福祉大学大学院長の開原成允氏は、「医療の分野でも、遠隔医療で同じような議論があった。医師法でも、診察は対面で行うものだと解釈されていたが、テレビ会議システムを使って診察できるようになった。対面と同じだけの情報は得られないかもしれないが、患者の利益とのバランスで認めていいということになった。その当時は厚生省も柔軟で、新しいことを取り入れようとしていた。今回はまったく逆行している」と語り、今回の議論は理解できないとした。

 国際医薬戦略研究所代表で前厚生労働省健康局長の西山正徳氏は、「今日は一介護者として来た」と語り、自身が妻の介護をしている立場から外出が困難な人などへの配慮を求めた。「代理人でも買えるというが、それでは対面販売の原則とは何なのか」と省令への疑問を投げかけ、「欧米諸国、アジア諸国でもネット販売はできるのに、なぜ日本だけが逆戻りするのか。英国のように不法なネット販売は規制し、一般的良識的国民に対してはネット販売を許可する姿勢になぜなれないのだろうか」と訴えた。

 シンポジウムの最後には、医薬品の通信販売規制に反対する緊急共同声明を採択。声明では厚生労働省に対して、省令を撤回して国会の場で改めて議論を行うべきだと主張。また、そもそも医薬品の通信販売は認められるべきだが、施行まで時間が限られていることもあるとして、現行の販売が継続できるような措置を取ることを求めている。


関連情報

URL
  厚生労働省
  http://www.mhlw.go.jp/

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( 三柳英樹 )
2009/05/22 13:53

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